デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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上京してる設定です。


西島櫂編

 

 最初の夢はプロのスイマーだった

 

 泳ぐのが好きだから

 

 でも好きなものでも

 

 限界は感じてた

 

 どんなに練習しても

 

 どんなに好きでも

 

 補欠にすらなれなかったから

 

 そんなあたしの前に

 

 バカみたいに同じことを言う

 

 変な魔法使いが現れたんだ

 

 ―――――――――

 

「う〜ん、今日は楽しかったな〜!」

「そう思ってもらえたなら、連れて行った甲斐があるよ」

「えへへ、今日はホントにありがとな、プロデューサー♡」

 

 あたし、西島櫂。アイドルをしてる。そんなあたしは今、このあたしをスカウトして専属プロデューサーにまでなってくれた人が運転する車の助手席に座ってる。

 

 仕事をしてきたって訳じゃなくて、今日は二人で久々のオフだったから水族館デートに行ってきた帰りなんだ♡

 

 何気なくデートって言ったけど、あたしとプロデューサーはデートする仲……つまり恋人同士。それは丁度今から1か月前からで、告白はあたしから♡

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 あたしがプロデューサーに恋をしたのは、あたしがプロデューサーにスカウトされてアイドルになったばかりの頃。

 その頃のあたしはスイマーになりたいって夢があったけど、その厳しい現実を突き付けられて凹んでた。

 このままの気持ちでアイドルになっても、まるでその現実から逃げてるみたいで、真剣にあたしをアイドルにしようとしてくれてるプロデューサーに申し訳なくて……どうしたらいいか分からなかった。

 

 だから思ってるままをあたしはプロデューサーにぶつけた。

 

 そうしたらプロデューサーは『プールで泳ごう』なんて提案してきた。最初は意味が分からなかった……けど、一緒にプールで泳いでるうちにあたしは笑ってた。

 そんなあたしにプロデューサーは―――

 

『その笑顔が俺の心を掴んで離さないんだ』

 

 ―――って言ってきた。

 

 プロデューサーのその言葉はあたしの胸にスッと入ってきたんだ。

 泳ぐのが好きだから、あたしは水泳をやってきた。なのにタイムのことばかり気になってて、水泳を楽しんでなかった。

 だからプロデューサーの言葉で分かったんだ。楽しんでやろうって。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 そりゃあ、あたしがアイドルになるって決めた時に、一部の人たちから『現実から逃げた』とか言われたよ。

 確かにそうかもしれない。でも今では水泳と同じくらいアイドルの仕事が好きだし、楽しんでる。水泳は今でも趣味の1つとして楽しんでるし、あたしにはそれが合ってたんだ。

 

 それを気付かせてくれたのがプロデューサーだし、あたしに新しい道を教えてくれたのもプロデューサー。

 だからあたしはプロデューサーのことが好きになったの♡

 

 まあアイドルとそのプロデューサーだから、表立っては恋人らしく過ごせないけどね。今だって事務所には内緒にしてるし……。

 でも同じ事務所のアイドル仲間には応援されてるんだ。どういう訳かあたしがプロデューサーのこと好きなのバレてて、告白する勇気をくれたのもそんなみんなの後押しがあったお陰なんだよね。

 

「プロデューサー、このあとはどうするの〜?♡」

「俺の部屋に連れてく」

「うわ〜、プロデューサーわっる〜い♡」

「彼女を自分の部屋に連れ込んで何が悪い」

「へへへ、まあ確かにね〜♡」

 

 告白して良かった♡ 今日のデートだってアイドル仲間のみんなから色んなアドバイスしてもらって実現したから、みんなのためにお土産のお菓子も結構買ってきたんだ♪

 

 ただ、プロデューサーのマンションの部屋に行くのは恋人になってからは初めて……それってそういうことだって思っていいんだよね? ヤバい、そう思うとちょっと緊張してきた……♡

 

 ―――――――――

 

「どうぞ、上がって」

「お、お邪魔しま〜す……」

 

 プロデューサーの部屋は意外と片付いてる。2DKで1つは寝室でもう1つは仕事部屋って感じ。リビングがないから狭く感じるけど、このちょっと狭い感じの空間はあたしは結構好きだったりする。だってプロデューサーの近くにいれる気がするから♡

 

「あ、シャー君だ!」

 

 ダイニングに置いてある丸テーブルの横にシャー君がいた。シャー君はあたしがプロデューサーにプレゼントしたシャチのでっかいぬいぐるみで、シャー君って名前はプロデューサーが付けたんだ。因みにあたしの借りてるアパートの部屋にはこれの桜色のイルカバージョンのぬいぐるみ『いーちゃん』がいるよ。プロデューサーからのお返しのプレゼントで名前はあたしが決めた。部屋ではいつも抱っこしてるんだ♡

 

「あ〜、シャー君ね。今日は櫂を部屋に招くつもりだったから、朝に寝室からこっちに移動しておいたんだ」

「ふ〜ん♡」

「なんだ、その含んだような顔は?」

「だってさ〜、普段のシャー君は寝室にいるんだろ〜? それってつまり〜、プロデューサーは毎晩寝る時にシャー君と寝てるってことじゃん? そう思うと可愛いな〜って思って〜♪」

「そりゃあ、一緒に寝るだろ。ぬいぐるみ以前に安眠グッズなんだから」

「またまた照れちゃって〜、あたしからのプレゼントだからでしょ〜?♡」

 

 全く、プロデューサーは強面の見た目と違って可愛い性格だなぁ♡ 素直にあたしから貰ったのが嬉しいからって言えばいいのに♡

 

「まあ彼女からの贈り物ってこともある、うん」

「でへへへ〜♡」

「……まあいい。それより飲み物何がいい?」

「お茶なら何でもいいよ〜♡」

「おう」

 

 えへへ、無駄に顔がにやけちゃうなぁ♡ 恋人なんて作る余裕もなかったし興味もなかったけど、実際に出来ると色々と楽しくて仕方ないや♡

 

 シャー君を抱っこしたまま無駄にダイニングでゴロゴロ転がってると、ふと目に止まったものがあった。

 プロデューサーの仕事部屋の方にダイニングの明かりが反射してキラキラしたもの。あたしはそれが気になって、飲み物を持ってきてくれたプロデューサーに訊いてみると、プロデューサーは「あぁ、あれか」って見せてくれた。

 

「…………貝殻の瓶詰め?」

 

 それは透明の瓶に色んな貝殻が詰まったもの。プロデューサーにしては小洒落てると思った。こういうのわざわざ買う性格の人じゃないから。

 

「プロデューサー、これ誰かからのプレゼント?」

「は?」

「え、だってプロデューサーってこういうの買わないでしょ?」

 

 するとプロデューサーはなんでか肩をすくめて小さくため息を吐いた。

 あたしはそうする理由が分からなくて首を傾げてると、

 

「この貝殻、全部櫂に貰ったやつなんだがな」

 

 って言ってきた。でもその声はなんかいつも以上に優しくて、おまけに頭も撫でてくれてた。

 

「あ、そっか……えへへ、取っといてくれてたんだ……えへへへ♡」

「そりゃあ、彼女からの贈り物だからな」

「照れるぅ♡」

「めちゃくちゃにやけてるけどな」

「自覚してるから言うな〜♡」

 

 あたしは水泳やってたからアイドルになっても水泳が絡んだ仕事が多い。競泳水着の宣伝ポスターとかスポーツドリンクのCMで競泳水着着るとか……。でも競泳ばかりじゃなくて、それこそ水着姿のグラビア撮影とかもよくやる。んで、あたしはその撮影場所が海とかだったらプロデューサーに毎回キレイな貝殻を拾って、あげてたんだ。

 特にこれといった理由はないけど、なんかキレイな貝殻見つけたから「あ、これプロデューサーにあげよ♡」って感じで……。猫が飼い主にプレゼント持ってきてあげるみたいな?

 そのあとプロデューサーにあげた貝殻はあたしの中でキレイさっぱり忘れてるから、まさかこんな風に大切に残しておいてくれてて、それがもうめちゃくちゃ嬉しくて……なんかもうプロデューサー好き〜!って気持ちが凄い。ホント。

 

「そんなにゴロゴロしてるとお茶被るぞ」

「だって幸せなんだも〜ん♡」

「にしたって限度があるだろ。シャー君も抱えたままだし……」

「あ、ごめん。寂しかった?」

「いや抱えてくれてる分には構わない。ぬいぐるみ抱えてる櫂はいつもとギャップがあって可愛いから」

「っ!?♡」

 

 今あたしの心臓がギュンってした! ギュンって! キュンなんて生易しいぐらいギュンギュンした! プロデューサーはあたしのことをより堕とそうとしてるよ、絶対に!

 まあそんなことされなくてもとことん堕ちてるんだけどね! プロデューサーのことで毎日頭いっぱいだから!

 

「プロデューサーちゅき〜♡」

「なんだ、その気の抜けた言い方……」

「プロデューサーから可愛いって言われて、気ぃ抜けてるんだも〜ん♡」

「……そうか、相変わらず可愛いな」

「へへへ、ありがと〜♡」

 

 可愛いなんて言われたらくすぐったい♡ でもプロデューサーにそう思ってもらえるのは凄く嬉しい♡

 

 あたしはプロデューサーと触れ合いたくなったから、シャー君を抱えたままプロデューサーの足にもぞもぞと移動した。

 プロデューサーはいつも床とかに座る時はあぐら掻いて座ってるから、どっちかの太ももに頭を乗せると丁度いいんだよな♡

 

「今度は甘えるのか?」

「うん、よしよしってして♡」

「よしよし」

 

 なでなでって子ども扱いされてる感じが前はあったけど、今は結構……いや、かなり気に入ってる♡ 大好きなプロデューサーがしてくれるからかな?♡

 

「ふみゅ〜♡」

「なんて声出してんだよ」

「気持ちいいからさ〜♡」

「前に耳掻きした時もよだれ垂らして寝てたもんな」

「あ、あれは忘れてって言ったでしょ!?」

「あれはあれで可愛かったから無理だ」

「プ〜ロ〜デュ〜サ〜!」

 

 あれ本気で恥ずかしかったんだから忘れてよ!

 

「もう、プロデューサー……いいの、あたしの機嫌をこれ以上斜めにして?」

「? どういうことだ?」

「だから……今日はそういうつもりで自分の部屋にあたしを連れてきたんじゃないの? しかもデートした日に……」

「え、あ〜……おう、あわよくば、な」

「ならあたしをその気にしないと……許さないよ?」

「攻める側に来たな」

「ふふん♪」

 

 意地悪するならあたしだって意地悪するからね♡

 でもあたしプロデューサーには弱いからな〜、すぐに機嫌直しちゃうよ♡

 

「どうするの、プロデューサー?♡」

「なんとか挽回するさ。今から手料理ご馳走してやるから」

「え、マジで!?」

「おう」

「……食べられるの?」

「食べられない物がいいならそれを作る」

「あ〜ん、ごめんごめん! 食べられるのがいい〜!」

「はは、分かった分かった。うんと腕によりをかけてやるよ」

「やった♡」

「彼女にしか食べさせない俺の手料理だからな」

「っ……うん♡」

 

 そしてプロデューサーが作ってくれたのはカツ丼だった。彼女にカツ丼ご馳走するって変わってるかもしれない……でもあたしたちらしくていいと思う♡

 それから一緒にシャワー浴びて、そのあとは……プロデューサーの胸の中で朝を迎えちゃった♡―――

 

 西島櫂⦿完




西島櫂編終わりです!

スポーツ女子の中に見える隠しきれない乙女な部分っていいですよね?←

お粗末様でした☆

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