デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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久川凪編

 

 アイドルになったのは

 

 はじめは妹が心配だったから

 

 でも今では

 

 妹を心配するより

 

 私事の心配の方が多いです

 

 それでもどうしてか

 

 あの魔法使いがいると

 

 気持ちが穏やかになるのです

 

 これはきっと

 

 運命の人だから、ですよね?

 

 ―――――――――

 

 わーお。凪の名前は久川凪です。双子姉妹の姉です。これでも一応アイドルやってます。姉妹で。

 それで凪はいつものように自分の専属Pを驚かせようと、事務所内のPの個人オフィスの掃除用具入れ的なところに隠れてタイミングを待っていたんですが―――

 

「なーちゃんのプロデューサー! 今日こそはっきりさせてもらうわよ! これ以上、なーちゃんをからかわないで!」

「え?」

 

 ―――Pの後ろからはーちゃんも入ってきたかと思ったら、突然の修羅場となりました。わーお。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 凪とPはアイドル界でご法度とされている秘密恋愛をしています。年齢差も15あります。

 でも好きになってしまったのだから、誰もこの凪を止められません。凪はこう見えて一途なんで。

 

 恋人になるのに凪は凄く努力しました。

 はーちゃんには流石に相談し難かったから、事務所の先輩アイドルで仲良くしてくれてるフレちゃんさんとか悠貴ちゃんに相談して、押せ押せでアピールして、今の関係になりました。

 

 なので凪は毎日がより幸せです。はーちゃんとアイドル出来て、将来の旦那様もゲット出来て、何も言うことありません。

 

 それに世間に内緒で交際を続けている凪たちが結婚すると、エモい。わーお。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 しかしはーちゃんはどうしたのでしょう?

 いつもは『なーはほんっと自分のプロデューサー好きだね〜』って呆れるか、イジってくるのに。

 

「颯ちゃん、それはどういう―――」

「―――なーはね! プロデューサーからの電話とかメールが来る度に心底嬉しそうな顔しちゃってるんだよ!?」

「そ、そうなの―――」

「―――電話したあとなんて、いつも『お願い!シンデレラ』口ずさんでて、スキップまでしてるんだからね!?」

「…………」

「とにかく幸せそうっていうか……花びらブワッて感じで! 事務所に着くかなり前からめっちゃそわそわしだすし、プロデューサーの前ではいつものなーワールド全開だろうけど、素直になったらプロデューサーとイチャイチャしか出来なくなるからっていつもいたずらしてるんだからねっ!」

「………………」

「そんななーをこれ以上からかって、良心が痛まないワケっ!?」

 

 はーちゃん……めっっっっっちゃハズいのでやめろくださいっ。

 なんの話してるんですか、はーちゃんっ。そもそも凪とPはラブラブですよ。そういう仲なんですよ。前に伝えましたよね? なのにどうして凪がPにからかわれてる体になってるんです?

 とういうかほんっとハズいので暫くここを出られません。暑いんですけど。汗ばむ陽気じゃないのに汗ばんでるんですけど。

 

「あのさ、颯ちゃん」

「何よ?」

「聞いてないの?」

「何を?」

「だからその……俺たちがそういう関係だって」

「聞いたわよ?」

「なら―――」

「―――『私はPと将来結婚して、アイドルを寿引退するエモいアイドルになる』って」

「………………ほ?」

 

 言いました。確かに私、はーちゃんにPと付き合った初日にそう報告しました。だってそのまま言うと絶対にからかってきてたもん! それが分かってたからハッキリとは言えなかったんだもん!

 

「ねぇ、なーのプロデューサー。なーはあんなんだけど、ホントにあなたのこと好きなんだよ? なのに心にもないこと言って、ぬか喜びさせるようなことしないでよ」

「…………」

「私が言いたいのはそれだけ。じゃあ、私は自分のレッスンあるから行くわ。ホントに気をつけてよね!」

 

 はーちゃんはそう言い残してオフィスを去りました。

 残されたPは顔が凪からは見えませんが、きっとポカン顔してると思います。

 だから余計に用具入れから出られる状況じゃないです。でもこのまま帰る訳にも行きません。凪はレッスンこそはありませんが、Pと次のお仕事の話があるので……それにはーちゃんがいるなら凪もいるってことですからね。

 

「…………説明をしてもらうぞ、凪」

 

 わーお、見事にバレてーら。

 

 素直に用具入れから出て、Pが振り向く前に凪はその背中に抱きつきました。今の凪の顔はきっと赤くて変なので、こんな顔見られたくないんです。

 

「話は聞いてたよな?」

「……はい」

「ちゃんと妹に伝わってなかったな」

「……はい」

「そんなに俺のこと好きなんだな」

「……はいぃ〜♡」

 

 それはそうでしょう。好きでもない人と、しかもかなり年の差があるのに付き合おうなんて思いません。Pだから凪はこんなに好きで、付き合いたいと思ってアピールしまくったんですから。

 

「姉の凪からちゃんとハッキリと伝えてくれよ? 俺から言ったらまた変に捉えそうだから」

「でも……」

「恥ずかしい?」

「うん……」

「普段あれだけフリーダムナギーなのに、そういうところは乙女だな」

「人をモビル〇ーツみたいに言わないでください。この馬鹿野郎」

「そこまでは言ってない。そしてそのセリフは違う。ジャスティスのパイロットのセリフだ」

「うぅ〜……」

「まあ身内に話す……しかも生まれた時から一緒の姉妹に言うのはまた別の恥ずかしさがあるのかもな」

 

 Pはそう言うと、ゆっくりと凪の両手を外してこちらへ向き直しました。

 凪は恥ずかしくて俯いたまま。でもPはそんな凪を抱きしめてくれました。

 

「恥ずかしいなら、俺も一緒にいる。だから俺たちのことを凪の一番の理解者に正しく伝えよう」

「はい♡」

「世間じゃいけない関係だが、颯は応援してくれるはずだ。現に事務所で俺たちのことを知ってるアイドルたちも応援してくれてるだろ」

「うん」

「よし。ならこの話は一旦おしまいな」

「うんっ♡」

 

 Pはホントに不思議。いや、ホントに魔法使いみたい。

 さっきまで恥ずかしくて仕方なかったのに、Pの言葉でこんなにリラックス出来てるんだもん。

 

「はぁ……P、好き♡ 好き好き好き好き好き〜♡」

「ははは、そんなに想ってもらえると嬉しいよ。俺も凪のこと好きだぞ」

「わーお、私声に出てました?」

「めっちゃ出てたな。心の声だだ漏れ」

「……はずかちぃ」

 

 せっかく治まってたのに、また顔が熱くなってきてしまいました。

 なのにPはこちらを見て優しく微笑むだけ。もう、なんですかその顔は。胸がときめくんですけど。

 

「ま、とりあえず仕事の話に移ろう」

「……了解です」

 

 ―――――――――

 

「―――という仕事なんだが、どうだ?」

「どうだ、と言われましても……」

 

 お仕事の話は理解出来ました。難しくもありませんし、出来るとは思います。

 ですが―――

 

「14歳にウェディングドレスのモデルって早過ぎません?」

 

 ―――そうです。これです。

 

 いや別に女の子なら一度は憧れるかと思いますよ。凪は白無垢派ですけど。いや、式で両方着るってのもありですね。

 まあとにかく、早いと思うのですよ。

 

「確かに早いな。でもそれは依頼してきた方も分かってる。言い方は悪いが、スタイルに自信のない人に向けて『どんな方でも素敵になれますよ』ってのを宣伝したいそうだ」

「……まあ、確かに凪ははーちゃんと比べたら貧相ですしね。でもPが愛してくれるのでスタイルは全く気にしてません」

「いや、凪の個人的意見じゃなくて向こうのそういう意図で凪にモデルやってほしいってことだよ」

「Pも着てくれますか?」

「いや、流石に俺がウェディングドレスとかヤバいだろ」

「そこで天然かまさないでください。撮影当日は凪の隣でタキシード着てくれますかってことです」

「花嫁のみだからそれはない」

「むぅ」

 

 既成事実確保のチャンスが。

 まあそれは追々でいいでしょう。Pと凪が破局なんてことはないので。

 

「で、どうだ? やるか?」

「やります。やってPにプレッシャーを与えます。早く求婚したくなるようにしてやります」

「トップアイドルになるまでは求婚はしないぞ」

「わーお」

 

 逆にプレッシャーをかけられました。頑張って早くトップアイドルにならないと。Pが凪の美味しい時期を逃してしまいます。そんなことはさせられません。美味しい時期にこれでもかと味わってもらって、凪無しじゃ生きられない体にしないと。

 

「じゃあ、話はやる方向で進めるな」

「はい」

「撮影で着る予定のドレスの写真が送られてあるけど、見るか?」

「その時の楽しみにとっときます。それよりタキシードが見たいので、仕事の話が終わりなら早速検索してもいいですか?」

「ああ、構わんよ」

「ならはーちゃんが来るまでここに居座りますね」

「どーぞどーぞ」

「♡」

 

 ―――

 

 それから凪はオフィスの一人用ソファーに座ってスマホでタキシードを検索してました。

 黒いのもPは似合うと思うけど、結婚式なら白いタキシード姿のPも見たいなぁ。というか、好きな人のそういう姿ってどれも新鮮で、どんな服装を見ても「……ちゅき♡」ってなっちゃいそう。

 

「何ニヤニヤしてんの、なー?」

 

「っ……はーちゃん、いつの間に?」

 

 いつの間にかはーちゃんのレッスンが終わっていたご様子。Pは苦笑いしてますが、そんなPをはーちゃんは睨んでます。

 もう言うしかないですね。

 

「はーちゃん」

「? 何、なー?」

「凪、Pと結婚します」

「…………またからかわれたの?」

「違います。本気で言ってます。凪はPとそれだけねんねんごろにゃーんな関係なのです」

「………………」

 

 あれ、はーちゃん固まっちゃいました。

 

「え、あの……それはガチで?」

「はい」

 

 凪が頷いて見せると、Pも「真剣に考えてる」って言ってくれました。

 

「…………ドッキリ企画とかじゃなくて? カメラどっかについてない?」

「凪たちまだそんなバラエティ企画に出れるまでアイドルとして売れてませんよ」

「えぇ……」

「その……恥ずかしくて、ハッキリと言えなかったの。ごめんね。でもホントにPとはラブラブだから」

「はぁ〜……次からは分かるように言ってよね。いつもの冗談かと思ってちゃんとおめでとうって言えなかったじゃん」

「ごめん」

「いいよ、別に。なーが幸せならそれで」

「はーちゃん……」

「プロデューサーに変なことしちゃ駄目だよ?」

「……うん」

「目を逸らすなっ」

 

 だってもう手遅れってレベルで毎日しちゃってるもん。今更いたずらしないなんて無理だよ、はーちゃん。

 

「いたずらはされるが、その後のお仕置きキスが凪のお気に入りでな。それに俺はもう慣れたよ」

 

 わーお。Pに凪たちのイチャあまエピソードを暴露されちゃいました。恥ずかしい。

 

「なー……案外乙女チックなんだね」

「言わないで……」

「うん。まあプロデューサーと仲良くね」

「うん」

「じゃあ、先に帰るわ。なーはPに送ってもらって☆ お母さんには適当に言っとくから☆」

「え」

「そゆことだからプロデューサー、なーのことお願いね☆ お疲れ様ー!」

 

 はーちゃんはそう言って消えました。でもそんなあとで二人きりにされても困ります。

 

「とりあえず、飯でも食いに行く?」

「…………オムライスを所望する♡」

「はいよ」

「♡」

 

 こうしてはーちゃんの誤解は無事に解け、凪たちの愛はより深まりました。

 早くトップアイドルになって、寿引退するぞ、おー♡―――

 

 久川凪⦿完




久川凪編終わりです!

不思議ちゃんな彼女でも、恋をしたらこうなるかなと。

お粗末様でした☆

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