デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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設定盛ってます。ご了承ください。


向井拓海編

 

 喧嘩しか取り柄がなかった

 

 そんな人間を

 

 アイドルにしやがった

 

 馬鹿がいやがる

 

 でもさ

 

 不思議なもんで

 

 アイドルってのは

 

 悪いもんじゃねぇ

 

 喧嘩してなくても

 

 本気でみんなタイマン張ってる

 

 だからこの喧嘩を買ったんだ

 

 ―――――――――

 

「拓海〜、考え直せよ〜。オレとお前の仲じゃねぇか」

「近寄んなっ! アタシはお前の女になった覚えもねぇし、てめぇみてぇなセコいやつがアタシの男だなんて願い下げだっ!」

「んなつれねぇこというなよ〜。オレ、一途だぜ? それに下の奴らには手荒なこたぁさせてねぇだろ?」

「だからなんだってんだよっ! アタシはこれからレッスンがあんだからさっさと散れっ! んでもうアタシの前に二度とその面出すなっ!」

「アイドルの彼女だなんてオレマジで運がいいよなぁ。マジで拓海のこと大切にするわ」

 

 ちっ、本気でこいつ話通じねぇ。

 今、アタシは地元でも不良しか近寄らねぇ廃病院にいる。

 こいつっつうのは中学ん時にアタシにワンパンで伸されたどこぞのグループのリーダーなんだが、それ以来アタシのツレ気取りで迷惑してたんだ。

 だからアイドルやんのに邪魔だからわざわざ直談判しに来てやったってのにこれだ。

 ちっとも話が通じねぇ!

 

「オレたち付き合ってもう長いだろ? そろそろ次のステップに入ろうじゃねぇか」

「ステップも何も、アタシはお前のことは眼中にねぇよ! 話が通じねぇならもうアタシは行くからな! 次アタシの目の前に来たら―――」

「―――来たらなんだよ、おぉん?」

 

 ちっ、ますますクズ野郎だな。アタシの周りにいた手下がもろ臨戦態勢に入りやがった。

 

「アイドルなんだから大人しくしとけよ、拓海〜。事務所クビになるぞ? そうなっても別の事務所でアイドルすればいいし、オレが変わらわず愛してやるから」

「この―――」

 

 クズが!ってヤツの顔面に一発食らわせようとした瞬間だった。

 

「―――はい、そういう訳でレッスンは欠席しますので、よろしくお願いします」

 

 アタシの専属プロデューサーが何食わぬ顔でいつも通りに、しかもご丁寧に電話しながら入って来やがった。相変わらずのグレーのスーツ姿で。

 

「では失礼します……。はぁ、拓海……遅刻だ。レッスンよりも男を侍らせる方が大事なのか?」

 

 普通に会話してきたー! おいおいおいおい、本気でこの状況分かってんのか!?

 というか、プロデューサーも相変わらずだなぁ。

 

 アタシは思わずいつも通り過ぎるプロデューサーを見て笑っちまった。

 まあ、聞きたいことは色々あるが、ここはプロデューサーに任せればいいだろ。

 

「んだ、てめぇ! 何勝手に俺らのアジトに土足で入って来てんだ!?」

 

「おや失礼。こんな寂れた廃墟に家主がいるとは思いもしなかったもので。お若いのに家主とはご立派ですなぁ。あと土足が気に食わないなら玄関らしき場所に靴箱とスリッパでも設置したらどうでしょう? それが普通かと思いますが?」

 

「何訳のわからねーことほざいてんだ! つかてめぇ誰なんだよ!」

 

「これは失礼。私はそこの拓海の専属プロデューサーです。彼女が約束の時間に現れないので彼女の靴底に付けてあるGPSを頼りにここに来ました」

 

 淡々と語るプロデューサーにアホは口をパクパクさせるだけ。ていうか、プロデューサーがめっちゃ怒ってる。やべぇ、ぜってぇ説教コースじゃねぇか。

 

「それで、君たちは拓海の何なのでしょう? お友達には見えませんが?」

 

「拓海はオレの女だ! こいつらはオレの仲間だ!」

 

「なるほど、今の若い子らはそうやって恋人をもてなすのか。私の若い頃とは随分違う」

 

「んなのてめぇに関係ねぇだろ! 今回は拓海のプロデューサーってんで見逃してやるから、分かったら失せろ!」

 

「それは出来ませんよ。彼女はこれから打ち合わせがある。君たちは暇だろうが、彼女は暇ではない。こちらで引き取らせてもらうよ」

 

「こいつ……!」

 

「諸君らの調べは既についている。もちろんここにいない面子も全員な。随分とみみっちい犯罪ばかり起こしているみたいだ。恐喝、万引き、暴行……まあ婦女暴行等なのど重罪を犯していない点についてはまだ救いがある」

 

 プロデューサーの言葉に男共はたじろいだ。プロデューサー何調べてんだよ……。

 

「もう既に廃墟の周りには警察隊がいる」

 

「なっ、てめぇ!」

 

「アイドルの拉致監禁だ。しかも現行犯。逮捕するにはもってこいだろ。君たちは日頃から大嫌いな警察官たちのノルマ稼ぎという役割を担える。非行少年たちにとってはまたとない社会貢献じゃないか?」

 

 そしてプロデューサーは一歩一歩とリーダーのヤツに近づいて、タバコを優雅にふかしながら笑って告げる。

 

「若いならやり直すチャンスはいくらでもある。刑務所でその身を綺麗にしたら、私のとこに来なさい。うちの事務所で近々男性アイドルグループを作る予定なんだ。君たちに人生をやり直したい気持ちがあれば私は必ずその手を掴み、引き上げてやろう」

 

 プロデューサーのその言葉を最後に警察が乗り込んで来て、みんな連行されていった。

 

 ―――――――――

 

 事情聴取を受けたアタシとプロデューサー。事情聴取と言っても形式的なヤツだったし、プロデューサーの方は寧ろ警察に感謝されてた。

 あいつらがどうなろうとアタシの知ったこっちゃねぇが、プロデューサーのお人好しには相変わらず呆れたぜ。

 だってあいつら、最後はプロデューサーのことめっちゃ見つめてたからな。ぜってぇ(頼りにしに)来るぞあいつら。

 

「さて、一度事務所に戻って今警察とした話と同じことを説明しに行くぞ」

「……分かった」

「ったく、心配かけさせやがって、少しは大人しくしてろよ、じゃじゃ馬シンデレラ」

「う、うっせー!」

 

 ―――――――――

 

 それからプロデューサーと事務所に戻って上の人らに説明した。幸いお咎めは何もなかったし、ニュースとかにもならずに済んだ。

 まあ全部プロデューサーが根回ししたっぽい。本気でこいつを敵に回したらやべぇ。

 

 んで、アタシは家に帰るよう言われて、プロデューサーが送ってくように言われた。

 

 ―――

 

 家に着くと普段は仕事でいない両親が揃ってて、めっちゃ怒られた。

 前までのアタシだったら"ウザい"ってだけで済ませてただろうけど、プロデューサーのお陰で心配だから叱ってくれてるって理解出来たから素直に謝ったし、心の中で感謝した。

 

 それでアタシは―――

 

「あぁ、拓海。本当に心配したんだぞ?」

 

 ―――自室でプロデューサーに抱きしめられてる。

 

 捕まったアイツは本気でどうでもいいけど、アタシはプロデューサーと付き合ってる。秘密でな。

 ただ両親にはプロデューサーと話して認めてもらってる。両親としてはプロデューサーくらいしっかりした大人が恋人なら安心して任せられるらしい。まあアタシらの年の差(17歳差)には驚かれたけど、年の差なんて関係ねぇよ。

 

 付き合う理由は単純だけど、アタシが惚れたんだ。

 今まで誰からも相手にされなくて、来たとしても喧嘩か下心のあるヤツばっかだった。

 なのにプロデューサーは変わってて、アタシをアイドルにしたり、さっきみたいにお姫様扱いしてくるんだよ。アタシのマブダチらに会った時も変な顔しないで接してくれるし、寧ろ『これからも拓海と友達でいてやってくれ』なんて頭下げる。

 こんなアタシを普通の人と同じように接してくれる人なんていなかった。だから惚れたんだ。

 

 ただ、アタシが迂闊にもプロデューサーに『前から変な男に付きまとわれて迷惑してるんだ』なんて愚痴をこぼしちまったもんだから、今回の件に至ったんだ。

 プロデューサーから聞いた話だと、プロデューサーが持ってるパイプやら何やら総動員してあいつのグループの悪事を調べ上げたらしい。んでアタシがあいつのとこに直談判するのも読まれてて、知らない間にGPS付けて監視してたっぽい。本気で趣味悪ぃ。過保護ってレベルじゃねぇぞ。

 

「わ、悪かったよ……勝手に行動して」

「備えておいて良かった。もしあの男が拓海に触れようとしたら、安全に社会的に抹殺しないといけなかったからな」

「触れようとしただけでかよ」

「それだけ拓海を大切にしてるんだよ、俺は」

「っ……そ、その割にはアタシに変な衣装着せるのが好きだよな、お前」

「色んな拓海を全国に知らしめないと。こんなに可愛いんだからな」

「う、るせぇ、よ……♡」

 

 くっ、悔しいっ、こんなので喜んでる自分がいやがる!

 

「でも大丈夫。恋人としての拓海は俺だけだ。俺は嫉妬に駆られたりしない」

「いや、別にそういう心配はしてねぇ」

「そうか。俺の愛が伝わってるのは嬉しい」

「勝手に言ってろ……ばーか♡」

 

 馬鹿って言ったらプロデューサーに回されてる両腕の力が強くなった。

 強くなったと思った途端、アタシの目の前は真っ暗になって、唇に何か柔らかい感触が伝わってきた。

 キスってやつだ。ムードもへったくれもねぇ、唐突なキス。

 でも惚れた弱みなのもあって、アタシはプロデューサーからならいつされてもどこでされても喜んじまう。それだけプロデューサーの女になれた幸せってのが、アタシをやわにさせちまったみてぇだ。

 

「っはぁ、はぁ……あ、相変わらず、いきなり、しやがってぇ……♡」

「大切な人を守れたことを実感したくてな」

「なら、もう少し、長くしたら、どうなんだよ?♡」

「愛してるよ、拓海……っ」

「んむぅっ♡」

 

 さっきまでのがキスじゃないみたいに感じるくらい、プロデューサーから今されてるキスは激しい。

 思わずプロデューサーの肩を掴んでるアタシの手に力が入るが、すぐにその力もキスのせいで消えてく。

 

「あっ、ねぇ、待って……んっ♡ 待って、お願……んんっ♡」

 

 激しくて息が苦しいのに、プロデューサーは待ってくれねぇ。まるでアタシの全部を支配してるみたい。そんなの前は腹立ってたのに、今じゃプロデューサーに支配されてるのか堪らなく幸せに感じてる。

 

「はぁはぁ、も、無理……♡」

 

 立ってらんねぇ。アタシの腰がガクッと下がると、すかさずプロデューサーが抱きしめて支えてくれた。

 

「本当に拓海はキスに弱いな」

「……お前だからだ♡」

「嬉しい限りだね」

「あ、アタシのファーストキスを奪ったんだから、浮気したらコロスかんなっ♡」

「それ何度目だよ。そう何度も言わなくても浮気なんてしない。こんなに可愛い彼女がいるんだ、他の女なんて目に入らないよ」

「〜っ♡」

「これからもたくさん俺が幸せにするからね、拓海」

 

 今以上に幸せにされたらどうなるんだよ。アタシ生きてられる気がしねぇんだけど。

 

「さ、魔法の時間はもうお終いだ。俺は仕事に戻るけど、いつでも俺を頼ってくれ。何を差し置いてでも俺は必ず拓海の元に行くから」

「かっこつけんじゃねぇよ♡」

「彼女の前なんだからかっこつけさせてくれよ」

「〜っ♡」

 

 ゾクゾクする。やっぱアタシ、もう前のアタシには戻れねぇみてぇだ。

 

「GPSっての? 付けたままでいいから♡」

「もう外してもいいんだぞ?」

「お前に……プロデューサーに守ってて、ほしいから♡」

「可愛いな、拓海は」

「か、彼女だからなっ♡」

 

 これからもアタシはプロデューサーがいないと生きていけねぇだろう。だからぜってぇ離さねぇし、離れねぇ。とりあえず母ちゃんに頼んで料理でも教えてもらうか。いずれはアタシが作ってやりてぇしな♡―――

 

 向井拓海⦿完




向井拓海編終わりです!

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お粗末様でした☆

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