あたしはパンが大好き
ふわふわでカリカリでサクサクで
ひとつひとつに夢が詰まってる
そんなあたしに
パンと同じくらいの夢を
与えてくれる人に出会いました
―――――――――
「みちる……正座」
「フゴフゴ……ごくん……はい」
あたし、大原みちるは事務所のあたし専属プロデューサー専用の個室にいます。
そして今はそのプロデューサーの命令により、目の前で正座をするはめになってます。
どうしてかと言いますと―――
「どうしてファンから貰ったパンをその日の内に全部食べたんだ?」
―――パンを食べてしまったからです。
ただ、パンを食べたと言ってもそれだけでプロデューサーはここまで怒ったりしません。
では、何故ここまで怒っているのかというと―――
「みちるがパンを好きなのは知ってるが……貰った60個を食べ切るなんてどうかしてるぞ」
―――食べてしまった量に問題がありました。
今日は小さなライブハウスでお仕事だったんですけど、そこでファンの人たちからたくさんの差し入れ(パン)を頂きました。
寧ろ来てくれたファンの数(57人)より頂いたパンの数の方が多いです。
あたしもプロデューサーのお陰でそこそこアイドルとしても有名になってきたんですが、そのライブハウスはあたしが初めてライブを行った思い出のライブハウスなので、初心を忘れないために定期的にそこではライブをしているんです。
あたしが有名になったのもあって、あたしに会いに来てくれるファンの数も今では多くなって、それに伴うように差し入れで頂けるパンの数も増えたんですよ。
しかもファンの人たちだけでなく、ライブハウスの人たちからも頂けるのでつい舞い上がってしまいまして……。
「違いますよ、プロデューサー。63個ですよ」
「どっちでも一緒だ! ともかく今日はもうパンはダメだからな! 残り香だけで我慢しろ!」
「そんな殺生な!」
「いくら太り難い体質といえど、炭水化物の取り過ぎは身体に毒だ」
「お、美味しいからって毒になるとは――」
「――なるんだよ、この場合!」
うぐっ……今回は本気で怒ってますね。
プロデューサーである以上、あたしの健康管理も考えなくてはいけない立場だからここまで怒ってるんでしょうけど……そもそもパンがあたしに『食べて食べて♡』って言ってるからいけないんですからね!?
「また同じことをしたら、今後どんな仕事でも『むやみにパンを与えないでください』って書いたプレートを首から下げてもらうからな」
「そ、それは……」
嫌だ……まるで公園にいる鳩みたいな扱いになるじゃないですか。ただでさえアイツらはあたしのパンを狙う天敵だというのに、アイツらと同格になるのは避けなくては!
「…………分かりました」
「よろしい。肝に銘じておくように」
「はい……」
しかし困りました。今日はもうパン禁止令が発令されたというのに、既にあたしのお腹の虫がパンを求め始めています。
ぐぅ……
「マジかよ……」
「えへへ……」
鳴ってしまったものは隠せなくないので、とりあえず笑って誤魔化す作戦に入ります。
でもこれも仕方ないんですよ? もう今日はパンを食べてはいけないと言われると、余計に身体がパンを欲するんですから。
「そこにパンが入ってた
「はい……スンスン……むはぁ、いい匂い♪ これだけで食パン3斤はイケます!」
「パンの匂いをおかずにパンを食うってどんだけだよ……まあ今に始まったことではないけど」
「スンスン……スンスン……フゴフゴ」
「匂いを嗅ぐだけでは飽き足らず、エアーパンまで食い始めやがった」
プロデューサーは呆れてます。でも仕方ないんです。これがあたしなのですから。
でも―――
「…………プロデューサー」
―――エアーでは満たされません。
「んだよ、もう限界なのか?」
プロデューサーの言葉にあたしはただただ頷きを返します。
するとプロデューサーはおもむろにスーツの上着を脱ぎ、ワイシャツの袖を捲りました。
「ほれ」
そしてあたしの目の前に自分の腕を差し出すように持ってきたんです。
なのであたしはプロデューサーの腕を―――
「あぐあぐ♡」
―――甘噛みました。
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――――――
―――
あたしがプロデューサーの腕を噛むようになったのは、デビュー前にあたしがプロデューサーに言われてパン禁をしなくてはいけなかった時のことです。
空腹は最高の調味料とよく言いますが、あたしにとってはパンを食べないことで、パンを食べた時の幸福感が最高の笑顔になるとプロデューサーが宣材写真を撮るために取った作戦だったんです。
それは想像を絶するもので、次第にあたしはプロデューサーの腕がフランスパンや大きなコッペパンに見えて、知らず知らずのうちにかじってしまいました。
プロデューサーも最初こそはかなり狼狽えてましたが、あたしのためならってことで噛むことを許してくれたんです。
―――
――――――
―――――――――
そういった経緯であたしのパンを食べられないことで起きる禁断症状は、今となってはプロデューサーの腕で解消されるんです。
その大きな理由は―――
「……俺も何だかんだ言ってみちるには甘いよなぁ……惚れた弱みってやつか」
「ぷはっ……あたしは大満足ですよ♡」
「そうかい……」
「はい! えへへ♡」
―――プロデューサーがあたしの恋人だからです!♡
事務所の人たちには内緒にしてるんですが、プロデューサーとあたしはお付き合いしています。
普通のキッカケではないんですが、あたしはプロデューサーのことが好きだから彼の腕をかじることによってパン欲が落ち着き、プロデューサーもそんなあたしが可愛くて好きになってくれたみたいですね。
人生どう転ぶか分からないものですよ、本当。
あたし自身がパン以外興味ないと思ってました。
でもプロデューサーだけだったんです。あたしのパンへのこだわりというか、愛を嫌な顔せずに理解してくれたのは。
親も学校の友達もあたしのパン好きには呆れ果てているのに、プロデューサーだけは「みちるはパンを食べてると本当に幸せそうだな」っていつも微笑んでくれてたんです。
だからあたしのパン欲がプロデューサーで緩和出来るようになったのでしょう……多分。
でも、本当にプロデューサーのことは大好きです。寧ろパンと同格にいますからね♡
「はむはむ……あぐっ……ちゅぱっ♡」
「落ち着いたか?」
「はい♡ ご馳走さまでした♡」
「なら良かったよ」
プロデューサーはまた微笑んでくれますが、落ち着いたあたしに至っては罪悪感が襲ってきます。
だってあたしのせいでプロデューサーの腕はあたしの歯型や吸った痕がくっきり残ってるんですもん。
「プロデューサー、ごめんなさい……」
「? あぁ、歯型のことか? 別にどうってことないさ。腕を出さなければ他人に見られる場所じゃないしな」
「でも……」
「こうすることでみちるは落ち着くんだろ? ならそれでいい。俺はどんなみちるも好きだから」
「プロデューサー……♡」
本気でそう言ってくれるから、あたしはその度にまたプロデューサーのことが好きになります。
だって普通なら嫌われてるはずなのに、プロデューサーは全然そんな感じを見せませんから♡
「それにあとで俺もみちるのこと食べるから、おあいこさ」
「っ…………物好きなプロデューサーですね♡」
「お互い様だろ」
「あたしたちらしいですね♡」
こうして笑い合い、あたしはプロデューサーの残りのお仕事が終わるまで大人しくソファーでパンの残り香を嗅ぎながら待ってました。
―――――――――
プロデューサーのお仕事も終わって、二人して事務所をあとにして向かった先……そこはプロデューサーが住んでるマンションの部屋でした。
今日はライブも成功したし、あたしの両親は夫婦旅行で明後日まで帰って来ない。
だから今夜はプロデューサーのお部屋にお泊まりして、あたしをご馳走するんです♡
バレたら年齢的にヤバイかもですが、あたしが望んでることでもありますし、お部屋に入るまでもあたしがアイドルだってバレないようにしてるから大丈夫です! それにちゃんと私服ですし!
ぶっちゃけちゃうと、バレたらバレたでどこかでプロデューサーとほそぼそとパンを焼きながら幸せに暮らすので問題もありません♡
「ん……ぁあっ……プロデューサーっ♡ まだ玄関ですよ……やぁん♡」
「こんな美味しそうなのリビングまで待てないよ」
「んあぁぁっ、そんなとこ吸っちゃ……あぁぁぁっ♡」
プロデューサー相変わらずお腹を空かせたケダモノです♡
玄関に入るなりあたしのほっぺをこんなにも貪るんですから♡
「いつもいつも美味そうなほっぺしやがって!」
「プロデューサー……あっ……くらいですよ、んぅ、そんなこと思ってるの……んひぃ♡」
「食べてる時とかすごく可愛くて、見てるとこっちまで幸せになるんだからな!」
「えへへ、嬉しいです♡」
「………………」
あれ? プロデューサー止まっちゃいました。
……あぁ、これはお仕事してる時の顔ですね。
何かいい企画でも思いついたんでしょう。
「プロデューサー?」
「今度みちるがただひたすらパンを食べてる映像を収録したDVDやBr出すか」
「へ?」
「だってみちるが食べてるの見てると癒やされるしさ、そう思うの俺だけじゃないと思うんだよ……何より可愛いし」
また可愛いって……嬉しいですけど、そんなに真顔で言われると照れちゃいますよぉ♡
「みちるもパンを食べられて幸せ、俺もそんかみちるを見れて幸せ……最高じゃね?」
「そうですね♡」
「よし、なら明日早速企画書を作って提出しよう!」
「はい……でもその前に、今はあたしを食べてください♡」
「……勿論だ!」
「きゃあ♡」
こうしてその夜、あたしはプロデューサーに色んなところを食べられて、あたしからもプロデューサーの色んなところを食べました♡
そして後日、『みちるがパンを食べるだけ』というDVDとかBrディスクを発売したところ、かなりの人気を博して週間売上ランキングで1位を取りました!―――
大原みちる*完
大原みちる編終わりです!
パンと同じくらいプロデューサーが好き……それはもう誇っていいと思うんです!
お粗末様でした☆