デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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若林智香編

 

 アタシは人を応援するのが好き

 

 されるのももちろん好き

 

 なんか支え合ってるって感じが

 

 たまらないの

 

 それまでチアリーダーとして

 

 応援することの方が多かったけど

 

 今はアイドルとして

 

 応援される方が多いかな

 

 でもやっぱり応援するのが好き

 

 だって魔法使いさんの応援は

 

 アタシの使命だから!

 

 ―――――――――

 

「プロデューサーさ〜ん、本当にこんな感じでいいの〜?」

「……問題ない。その調子であと4個書いてな。失敗しても代わりは用意してある」

「ふぇ〜ん、野球ボールにサインなんて難し過ぎるよ〜!」

「ほれほれ、泣き言言ってたらいつまで経っても終わらないぞ。ハリハリー」

「プロデューサーさんのイジワル〜!」

 

 アタシの名前は若林智香。アイドルをやってて、これでもそれなりに有名なんだよ?

 今もアタシをここまで応援してくれて、支えてくれた専属プロデューサーさんに事務所のオフィスでイジワルされてるけど、このお仕事は嬉しいから頑張る。お仕事って言っても、今日は学校がお休みで午前中にレッスンがあっただけで、これはお仕事の準備って感じだけどね。

 

 今アタシがやってるのは野球ボールに自分のサインを書いてるの。

 これは今度、アタシがプロ野球の開幕セレモニーの中で始球式に出させてもらう時に、当日来てくれた人の中から抽選で5名にお渡しするサインボールなの。

 ただその始球式はアタシだけじゃなくて、会場が東京だから東京の同じ系列の事務所のアイドルの子たちも2人加えてやるよ。

 アタシと姫川友紀ちゃんと日野茜ちゃんからなる『チアフルボンバーズ』でやる始球式なんだー! まだ先のことだけどすっごく楽しみにしてるの!

 

 そ、それに〜、前の日からプロデューサーさんと現地に行くから〜、一晩は同じホテルでお泊まりなんだ〜。

 

 プロデューサーさんとアタシは事務所には秘密でお付き合いしてるの。

 アタシがプロデューサーさんのことが好き過ぎて、何度も何度も告白して、やっと受け止めてくれたの! 本当に頑張ったんだから!

 どうしてそんなにプロデューサーさんのことが好きになったのかというと、アタシに呆れないでずっと応援してくれたから。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 アタシが初めてアイドルに興味を持ったのは、野球の始球式でマウンドに立ったアイドルを見てから。

 アイドルなのに、チアをしてたアタシも驚くくらいのダンスパフォーマンスを(始球式のあとで)見せてくれた。それで始球式での暴投もその時とのギャップがあって、とっても応援しちゃった。

 スタジアム中がそのアイドルを応援して、その子も来てくれたみんなに頑張って応えてた。

 

 だからすぐに県内のアイドル事務所を探して、片っ端から電話を掛けた。

 でもどこもアタシみたいなやる気だけしかない子を採用してくる事務所はなくて……。

 

 それで最後が今いる事務所だった。

 ここの事務所は東京が本拠地のアイドル事務所で、かなりの大手。だから一番無理だと思ってた。

 なのにプロデューサーさんが面接してくれたの。

 

 結局、アタシはやる気しかアピール出来なかったけど、プロデューサーさんはちょっと呆れ顔をしながらも採用してくれた。

 前に採用してくれた理由を訊いてみたけど―――

 

『やる気だけしかない子をアイドルにしてみるのも面白そうだったから』

 

 ―――って言ってた。

 

 それはプロデューサーさんの気まぐれだったのかもしれない。

 でも気まぐれだったとしても、今のアタシがある。

 それに気まぐれでも真剣にアタシと向き合ってくれる人だもん。好きになっちゃうよ。アタシ、アイドルやってるけど、ただの女の子だもん。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 アイドルとプロデューサーだから今の関係は隠してるけど、プロデューサーさんは付き合うって決めてからは、空いた時間を見つけてはアタシをお食事に連れて行ってくれたり、お忍びでショッピングに連れて行っくれたり、何かとデートに誘ってくれる。

 それについこの前、プロデューサーさんにアタシ……本当の意味で彼女さんにしてもらっちゃったし♡

 

 だから毎日が幸せなの! それに友紀ちゃんも自分の担当プロデューサーさんと付き合ってるんだって! 茜ちゃんは今恋煩いって感じがお話を聞いててキュンキュンする! 早くみんなに会いたいな♪

 

「んぁ、間違えちゃった……」

「はいどんまーい。次いこ次ー」

「あの……この失敗しちゃったやつってどうするの? もしかして捨てる?」

「捨てねぇよ、もったいねー。同僚の親戚に草野球やってるやつがいるから、その人に譲るんだよ。もちろんサインは洗い落したあとな」

「なるほど……でも油性なのに綺麗に落ちるの?」

「綺麗に落ちるなら失敗しても綺麗に落として書き直しさせるだろ?」

「あ、そっか……」

「大丈夫か、現役高校生」

「べ、勉強は大丈夫だもん!」

 

 プロデューサーさんにいっぱい教えてもらってるから、実はアイドルやる前より成績は上がったんだからね!

 

「でもちょっと抜けてるとこがあるから心配だよ、俺は」

「う〜……」

「まあ、大きな借金こさえるとか、詐欺にあうとかしなきゃいいけどな。抜けてるとこも愛嬌だと思ってる」

「なんか嬉しくない〜」

「褒めてはいないからな。まあ社会人になれば色々勉強するし、俺もその時は教えてやるよ。これでも13年、先に生きてるからな」

「っ……お願いしまーす♡」

 

 えへへ、そんな風に言われたらにやけちゃうや。だってアタシが高校を卒業しても、一緒にいてくれるってことだもん。そんなの嬉しいに決まってる。

 

「にやけてないでさっさと書けー。いつまで経っても終わらないぞー。早く終わったら次東京行く時の買い物連れってってやれなくなるぞー」

「あっ、そうだった! 頑張る! だからプロデューサーさんは応援して!」

「ふぁいおーふぁいおー、とーもーかー。ふー」

「そんな棒読みだと、力抜けちゃうんだけど!?」

「俺はチアリーダーじゃないから」

「もう、イジワルー!♡」

 

 でも結局、アタシはプロデューサーさんのことが大好きなんだよね。棒読みでもなんだかんだプロデューサーさんらしくて、やる気湧いちゃってるし。

 

 ―――――――――

 

 あれからミスは何度かしちゃったけど、午後の3時過ぎには終わった! だからこれからプロデューサーさんとショッピングデート!

 

 事務所をあとにして、プロデューサーさんの運転で大型ショッピングモールに来た。お休みだけあって人も多い。でもアタシの地元じゃないから知り合いはいないはず。それに髪も下ろしてるし、伊達メガネかけてるし!

 

「ポニテじゃない智香って新鮮で可愛く見えるな」

「普段は可愛くないってこと?」

「普段はおバカ要素が多くてな〜」

「むぅ、ホントにイジワルさんなんだからぁ」

「愛はあるぞ?」

「それは……身に沁みてます……♡」

 

 ふざけて頭をぺしぺししてくる時とかワシャワシャしてくる時とか、なんか愛犬を構ってる飼い主さんっぽいんだよね。手つきが優しいっていうか、されててホッとするの。アタシが惚れてるからそう感じてるだけなのかもしれないけど、その時のプロデューサーさんの笑顔は本物だって思ってる。アタシ以外であんな笑顔見せないから。

 

「ほれ、それで何を買うんだ?」

「えっと……メモ帳に書いて……あった。おまんじゅうとレアケーキとショーパン」

「どれも買う理由はなんだ?」

「お菓子はユニットのみんなへのお土産で、ショーパンはプロ……〇〇さんとのデートで履きたいから……〇〇さん、スカートよりショーパン好きだよね? 前に衣装でショーパン履いてたらスカートの時より褒めてくれたもんね?」

「……な、なぜしょれを……」

「好きな人のことだもん♡」

 

 だから勝負服を買うの! 東京なんて綺麗で可愛い子が溢れ返ってる場所だもん! アタシに釘付けになってもらわなきゃ!

 

「ちゃんと〇〇さん好みの買いたいから、しっかり意見聞かせてよね!♡」

「分かった」

 

 ―――

 

 それでアタシは早速レディースファッションのお店にプロデューサーさんの手を引いてやってきた。お土産はすぐには無くならないから、先にこっちに来たの。

 

「これとかどうかな?」

「……もろにパンツなんですが、それは」

「でもこういうの好きだよね?」

「……否定はしない。でもそんなの履いて出歩かれるのはちょっとなぁ」

「そっかぁ。じゃあ〇〇さんの前だけで履く用に買うね?♡」

「…………奢ろう」

「わぁ、ありがと♡」

「こちらこそ」

 

 そういうつもりはなかったんだけど、素直にお言葉に甘えちゃお。遠慮するとプロデューサーさんが気にしちゃうから。

 

「じゃあ……こっちは? レザーでいつもより大人っぽい感じの」

「……いい」

 

 おぉ、凄い見てる。

 

「じゃあ、試着してみるね♡」

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

「……どうかな?♡」

「おぉ、なんとふつくしい……」

「ほ、本当に?♡」

「あぁ、引き締まった太もも、そして白い肌に黒いレザーショートパンツのコントラスト……最高だ」

「じゃあこれ買うね♡」

「……奢ろう」

「えー、これはアタシが自分で……」

「楽しむのは俺だ。奢らせてくれ」

「分かったよぉ……でも、もう奢るのは無しだからね?」

「分かった」

 

 結局、ショーパンはどっちも奢ってもらっちゃった。店員さんに『優しい彼氏さんですね♪』って言われたけど、奢ってもらうのはやっぱり複雑な気分。好きな人ならなおさら対等な関係でいたいもん、アタシ。

 

 ―――

 

「ここはアタシが出すからね!」

「はいはい。じゃあお言葉に甘えて、俺コーヒーセット」

「はーい……って一番安い! もっと高いやつにしてよ!」

「晩飯前にガツンとしたモノ食えねーよ。ただでさえ最近は揚げ物食うだけで胸焼けしてるってのに」

「……なんかごめんね?」

「別にいいよ」

 

 全部のショッピングを済ませたアタシたちはフードコートで休憩中。ここのお金はアタシが出すんだけど、プロデューサーさんってば一番安いやつしか頼んでくれなかった。プロデューサーさんは気にしてないけど、アタシは気にするよー。どうしよう。

 

「〇〇さん、何かアタシにしてほしいこととかない?」

「なんだ急に?」

「だってアタシ何もお返し出来てない……」

「智香はそういうの気にするよな。本当にいい女だ」

「そ、そんなこと……♡」

「俺はさ、ずっと仕事ばっかだったから、こんな甘酸っぱい思い出を好きな子と作れただけで何もいらねーんだよ」

「ふぇ……♡」

「だからこのままで十分過ぎるんだよ」

 

 アタシ、またプロデューサーさんのこと好きになっちゃった。お仕事ばっかりとか言うのに、どうしてそんなにカッコイイこと言えちゃうの。ずるいよ。

 

 だから次の東京デートではうんとメロメロにしちゃうんだから!

 ファイトー、アタシー!―――

 

 若林智香⦿完




若林智香編終わりです!

何事にも真っ直ぐな智香っちなので、こんな感じにしました!

お粗末様でした☆

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