デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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事務所には交際していることを明かしている設定です。

名前は聖と書いて(せい)と読ませます。


青木聖編(ベテラントレーナー)

 

 アイドルを育てる

 

 それが私の仕事だ

 

 新人のアイドルたちを

 

 私や姉妹たちの手で

 

 一人前にするのだから

 

 誇れる仕事だ

 

 そんな仕事一筋だったのに

 

 最近では

 

 腑抜けている気がする

 

 ―――――――――

 

「聖、時間の方は大丈夫なのか?」

 

「え、ああ、まだ大丈夫」

 

「〇〇プロデューサーさんに迷惑掛けてはいけませんよ?」

 

「わ、分かってる」

 

「お姉ちゃん、今日とっても綺麗だよ!」

 

「あ、ありがとう……」

 

 姉と妹たちは私へそれぞれ声を掛けてくる。

 私は上京して姉の住むマンションに居候させてもらい、また妹たちも私と同じく居候だ(家賃等は姉妹で払ってるー慶に関しては学生なのもあって減額しているー)。姉も元からそうなると踏んで広い部屋を契約したそうだが、こういう時は一人暮らしの方が良かったと思う。

 

 これから私は、同じ事務所で働くプロデューサーとデートに行くんだ。こ、これでも人生初だから、色々とテンパってる。

 すぐ下の妹に着ていく服を選んでもらって、一番下の妹にはメイクを教えてもらった。姉には彼女としての立ち振る舞いを教えてもらい、呆れられたりはしない……はず。

 

 ―――

 

 待ち合わせは私が住んでるマンション近くにある公園の噴水広場。

 休日ではないが、日和がいいので小さな子ども連れの母親たちが多く訪れている。

 

 待ち合わせの時間とピッタリに彼は現れた。

 普段スーツ姿の彼がカジュアルな服装をしていると、本当にプライベートの時間なのだと思えて胸が高鳴る。

 

「おはよう、聖」

「お、おはよう……」

「今日の服装、聖らしくていいね。今日のためにわざわざオシャレしてくれてありがとう」

「きょ、今日のためじゃなくて、きき、キミのためだっ」

「ならなおさら、ありがとうだよ」

「きゅう……♡」

 

 彼と私は同い年。しかし仕事柄なのか彼の方が大人っぽく見える。お互い仕事でよく顔を合わせていて、同い年だと分かってからは二人で飲みに行ったりするようになって、ついこの前いつものように飲みに行ったら告白をされて今に至る。

 恋愛経験0の私は初めてのことに焦った。でも嬉しかった。だから今も浮かれてる。

 彼に笑顔を向けられただけで、胸が苦しくなって……言葉が出てこないんだ。

 

「じゃあ、行こうか」

「あ、あぁ……」

 

 そう言って歩き出す彼。

 私はふとそこで姉の言葉を思い出した。

 

『恋人同士なら手ぐらい繋げ。それが出来なきゃ彼氏の腕に抱きつけ』

 

 どっちも難易度高いよ。手汗ヤバくなりそうだし、彼の腕関節キメそう。そんなことになったら嫌われるの確実じゃないか!

 うぅ、でも手は繋ぎたい……実は恋人繋ぎとか憧れてたんだ。

 

「な、なあ……」

「? どうした?」

「て、ててっててって〜……」

「? 何か道具でも出すの?」

 

 んあぁぁぁぁっ、恥ずかし過ぎるっ!

 というかテンパり過ぎて意味不明な言葉になっちゃったじゃないかぁぁぁぁっ!

 

 私がこんなに恥ずかしい思いをしてるってのに、彼はポカン顔だ。

 そりゃあそうだ。彼なんて日々アイドルの子たちと一緒だし、小さなアイドルの子たちとは手ぐらい余裕で繋いでいるんだからなっ!

 でも私はそんな経験ないんだよ! すみませんね、デイトレードが趣味のつまらない女で!

 

「? あぁ、手を繋ぎたいってこと?」

「な、なんで……?」

「だって俺の上着の袖引っ張ってるから……違った?」

「…………違わない」

「ごめんごめん。本当は俺から手を繋ぐことも出来たんだけど、どんな反応してくれるのか気になって」

「趣味悪いぞ……」

「そうか? 女の趣味はいい方だと自負してるぞ?」

「…………ばか」

 

 そんなこと言われたら嬉しいに決まってる。本当に彼の掌でいいように転がされてる気分だ。でも悪くない。

 

「でも今日の聖は本当に綺麗だ。いつもはジャージ姿しか見てないから新鮮だよ」

「い、妹に選んでもらったんだ」

「妹さんにはいいお土産を買おう」

「そうか……ふふっ」

 

 妹が選んだ服は茶色い薄手のダウンジャケットと黒いデニムパンツ。インナーは白いカットソーのロングTシャツで靴はいつもの黒いスニーカーだ。バックもいつものワンサイズリュック。

 ジャージが基本の私にとって、今の自分はいつもの自分じゃない。メイクもしてるしな。

 でもとても簡単なことでこうも彼が喜んでくれるなら、次もそうしたいと思う。

 駄目だな。今日のデートが始まったばかりなのに、既に次のデートのことを考えている。気が早過ぎだぞ、私。

 

「次のデートはスカート姿の聖も見たいなぁ」

「…………スカート?」

「うん。聖は綺麗だから何を着ても似合うと思う」

「またキミはそうやって……♡」

「いいじゃん。彼氏のリクエストに応えてくれたっていいだろ?」

「き、キミがそこまで言うなら……次の機会にな……♡」

「やった♪ ならデート中に着てほしいスカート選んでプレゼントするよ!」

「そ、そこまでしなくても……」

「気にしなくていいって。それになんか俺色に染めるみたいでいい気分だし」

「…………ばか♡」

 

 本当、ばかだ。でもそれで嬉しくなっている私は大バカ者だろう。

 

 ―――――――――

 

 私たちが手を繋いで(恋人繋ぎ。ここ重要)やってきたのは動物園だ。

 私の住んでるマンションから近いというのもあるが、彼が動物好きだからな。自分の担当しているアイドルにライオンやアライグマをモチーフにした衣装を着せた時は驚いたが……。

 でもそれくらい好きなのだから、動物園にしようと提案した時もとても楽しみにしてくれていたからな。それだけで私も楽しみになってしまった。

 

「来たぞ、初の動物園デート」

「いちいち言うな……恥ずかしい」

「それくらい嬉しいからな!」

「キミらしいよ……ふふっ♡」

 

 早速中に入った私たち。

 私は動物はそこまで好きではないが、嫌いでもない。犬猫を見たら可愛いと和む程度だ。

 だから彼が行きたい場所に行き、私はその都度彼の反応を眺めたいと思っている。

 

 そして彼に手を引かれて最初にやってきたのは―――

 

「最高……」

「良かったな♡」

 

 ―――ハシビロコウがいる所だった。

 なんでもつぶらな瞳が可愛くて永遠と見ていられるそうだ。

 私からすれば目を輝かせているキミの方が可愛くて永遠と見ていられる。

 

「………………」

 

 うっとりと眺める彼の横顔。可愛い。

 そう思って私が見つめていると―――

 

「ちゅっ♡」

「……聖?」

 

 ―――つい、勝手に体が動いて彼の無防備な頬にキスしていた。

 我に返った私は自分のしでかしたことに自分で驚愕し、恥ずかしさのあまりその場にしゃがみ込んだ。

 

 幸い平日ということで私たちの周りに人目はなかった。しかし私は我に返った瞬間にバッチリとハシビロコウと目が合ったんだ。あの目は『何してんだ、キミたち』という目だった(個人的感想)。何をしているんだ私はぁぁぁぁっ!

 

「聖?」

「何も言うな……」

「でも……」

「何も言うなっ!」

「大声出すなよ。動物が驚く」

「ぐっ、すまん」

「とりあえず、落ち着ける場所に移ろう」

 

 私は早速彼に手を引かれて、ベンチのある場所まで誘導された。

 

 ―――

 

「………………」

「………………」

 

 ベンチに腰掛ける私たち。

 でも私は恥ずかしくて俯いたまま。

 なのに彼はそんな私の背中を優しく撫でてくれている。

 しでかしたのは私の方だというのに。

 

「キスしてくれて嬉しかった」

「うるさい……」

「気持ちはちゃんと伝えないと」

「悪かったな、素直じゃない可愛くない女で」

「十分可愛いけど?」

「うるさいっ」

 

 我を忘れてキスしたんだ。それを可愛いと言われてもどんな反応すればいいか分からない。

 なのに彼は相変わらず「可愛い可愛い」と優しく頭を撫でてくる。私はどうしたらいいんだ……うぅ。

 

「聖、聖」

「……今度はなんだ?」

「顔上げて」

「やだ」

「お願い」

「…………なんなんd――」

 

 ちゅっ♡

 

 え?

 

「これで恥ずかしさは飛んだでしょ? 俺の方が聖より恥ずかしいことしたんだし♪」

「き、キミというヤツは……♡」

 

 いきなりキスするヤツがいるか! いや、私もいきなりキスはしたが、唇になんてしてないぞ!

 ああああああもう、好き! いきなりキスしてくれたのも、さり気なく人目を盗んでしてくれた配慮も、し終わったあとのいたずらっぽい笑顔も、全部好きっ!

 どこまで私を虜にしたら気が済むんだこのプロデューサーは!

 

「やっと俺の方見てくれた」

「嫌でもそうなるだろ……ばか♡」

「お顔に嬉しいって書いてある」

「と、当然だ、ばか♡」

「バカバカ言い過ぎじゃね?」

「うるさい、ばかっ♡」

 

 私がそう言い放って彼の胸板に隠れるように顔を埋めると、彼はそんな私の背中に両手を回して抱きしめてくれた。

 ばかなんて、本当は言いたくない。でもなんて言い返せばいいのかも分からない。それだけ初めての事だらけで、彼のくれる私の初めてはどれも嬉しい事ばかりだから、悔しくて嬉しくてそう返してしまう。

 初めてのキスがデート中。二人きりじゃないところなんて思ってたのと全然違ったけど、嬉しい気持ちしかない。だから余計に悔しい。私ばかり喜ばされてるみたいで。

 

「やっぱり聖は可愛いね」

「……そう思うのはキミだけだ♡」

「当たり前だろ。こんな可愛い聖、他の男に見せたくない」

「またそんなことを……♡」

「いいものは独り占めしたいじゃん?」

「好きなだけしてくれ……ばか♡」

 

 ―――――――――

 

 それから気を取り直して私たちはデートを再開した。

 時間いっぱいまで動物園を見て回り、その帰りにブティックに寄って彼に服をプレゼントしてもらい、今はその近くのレストランでディナーを過ごしている。

 楽しい時間は本当にあっという間に過ぎるから、お互いディナーの話題は次のデートのことばかりだ。

 

「じゃあ次は遊園地にしよう」

「あぁ、構わない♡」

「お化け屋敷で聖の悲鳴期待してる」

「悪いが私はその手のことは得意だぞ?」

「あ、そうなの?」

「あぁ。作り物や変装だと分かりきっているからな」

「そっか。それじゃ聖はお化けとか信じないタイプ?」

「ん〜、例えば可愛がっていたペットが亡くなったあとも私の周りに居てくれるのは嬉しく思う」

「あぁ、聖はそういうロマンティックなタイプね」

「う、うるさい」

「でもまた聖のいいとこ知れた」

「うきゅぅ……♡」

 

 何を話しても彼にはいい風に返されてしまう。本当に私を喜ばす天才だ。

 でも私も今日はキミのいいところをたくさん知れた。

 気遣い上手なところや子どもっぽいところ、本当に私にはもったいないくらいの恋人だ。

 

「お互い仕事で忙しいけど、これからも色んな場所へデートしに行こうな」

「あぁ、連れて行ってくれ♡」

 

 だから私も頑張っていい恋人になろうと思う―――。

 

 青木聖#完




青木聖編終わりです!

押しに弱いイメージがあるので、可愛がられたら可愛がられただけデレデレになるかと!

お粗末様でした☆

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