なので美城常務の名前は〇〇と表記します。
キャラ大崩壊してます。予めご了承ください。
時計の針は待ってはくれない
必ず一定に平等に進み
人はその中で己を磨き
他との違いを見せる必要がある
アイドルというのは
いいものではある
しかし何かと芽吹くまでが
遅くて効率が悪い
そう思っていたが
急ぐのもそう悪いことではないと
とある魔法使いに教わった
―――――――――
「これで本当に結果が出るのか? 結果を出せなかった時の責任は誰が取るんだ? その時の会社の損失を計算に入れているのか?」
私はいつものように常務として自身のオフィスに構え、自分の仕事と並行してアイドル部門でプロデューサーをしている者と今後の方針について意見交換をしている。
個性を伸ばすことは大変結構なことだ。しかし何かと効率が悪い。
いや、分かっている。それがアイドルで、アイドルのひとりひとりが努力していることは。
しかし私はこの会社を守ることの方が大切だ。"アイドルの一人や二人が夢を諦める"のと"何百人規模の社員が路頭に迷う"のとどちらがマシかを考えれば、そこらを歩く小学生でも前者を選ぶだろう。
世の中は決して優しい世界で出来ていない。
今こうしている間にも、名もない会社が潰れている。
我が社は運が良かったのだ。
例えば、100のアイドル事務所が一斉に事業を開始したとしよう。
同じ規模で同じクオリティでだ。
その100ある内、いくつが生き残れるだろう。
答えは神にしか分からない。
つまり成功は時の運が大きく左右するということだ。
だからこそ私は時間を大切にしている。
時間を掛けたら掛けただけいいものは出来る……しかし逆にその間に受けられるはずだった仕事が消えるのだ。
「絶対というのはこの世にありません。しかし、自分はこれに賭けたいのです」
私を前に一人のプロデューサーは力強く言葉を返してくる。
いい目をしている。彼の隣に立つアイドルたちもやる気に満ちている……ならば、少しは時間をやるのも選択肢に入るな。
「いいだろう。君たちの好きなようにやるといい。経過報告は怠るなよ。一時的なものではなく、定期的なパフォーマンスを期待する」
『ありがとうございますっ!』
ふっ、いい顔をする。
―――
「彼らはきっとやり遂げますよ」
彼らが私のオフィスから去ったあと、私の側に控えていた男が私に静かに告げた。
この男も現役のプロデューサーだが、今この時間は私の補佐をしてくれている。
武内君の陰に隠れがちだが、この男も多くのアイドルたちを世に出し、うちのブランド力を高めてくれた。武内君が縁の下の力持ちなら、彼はその更に下の力持ちだ。
武内君があれだけのことをした裏には必ず彼の存在がいる。同期であり、親友である彼だからこそ、武内君もやり遂げることが出来たのだろう。
「君の目からもそう見えるか?」
「はい、プロデューサーとしての勘としか言えませんがね」
「ふっ、相変わらず不確かなものだ」
「でも自分が言ったことは今まで外したことありませんよね?」
「理解している。そう睨まないでくれ」
「睨んでませんよ」
「鋭い眼光のままだが?」
「この顔が嫌でしたら整形してきますよ? もちろん何が何でも経費でやらせてもらいますが」
「つまらん冗談は止してくれ。私は君の顔を気に入っているんだ」
「それは大変嬉しい返答ですね」
「全く……」
この男はいつもこうだ。飄々としていて、掴みどころがない。しかし攻める姿勢に入れば、相手をとことん追い詰める狡猾な男なんだ。
まあ、恋人としては悪くない……いや、とても安心出来る相手だ。
む、当然父からの交際許可は得ているし、共に両親公認だぞ? 社内では恋人らしいことはしていないし、付き合う際に変な圧力も掛けていないからな?
―――――――――
――――――
―――
彼との出会いは形式的なものだった。
が、私の考えを真っ向から彼は崩しに掛かってきた。
私が企画した『かつての芸能界のようなスター性、別世界のような物語性の確立』に、彼は『時代遅れ』と言い放った。
面白かった。肩書きに臆さず、現場を見てきた者としての堂々たる反論が。
日本人は上から言われたことに従うことの方が多い。
私は海外にいた経験から、そのギャップに戸惑った。
より良いものを生み出すのに大切なのは議論だ。
言われたことを正確に熟すことも優秀ではあるのだが、それではAIや機械で事足りる。
それでも出来ないことを生み出すのが人間であり、それが人間の可能性なのだ。
だから私は彼との議論が好きだった。
そういう考えもあるのかと知るきっかけになったし、だからこそ武内君の話も理解出来た。
肩書きこそ私の方が上だが、現場管理をしていない以上私は彼らの言葉に耳を傾ける必要性がある。
そうして彼と議論を……時には夜通し電話越しでしたこともあった。
それで武内君のアイドルたちの成功は本当に良かった。
だが、私の心の中にポッカリと穴が空いた。
彼と議論する時間が無くなったことだ。
最初はどうしてこんなにも彼との時間を欲していたのか困惑したが、冷静に考えればすぐに答えは出た。
私が彼を愛してしまっていたからだ。
彼とこのまま関係を絶ちたくない。
だから私は人生で初めて告白をした。
彼を私のモノにするため、ありったけの勇気を出して。
その時にまさか『お願い!シンデレラ』に背中を押してもらうことになるとは思わなかったがな。
―――
――――――
―――――――――
当初は陰で鬼だの冷酷だのと呼ばれていたが、私と彼が付き合うと社内に知れ渡ってからそんなつまらない陰口も消えた。
正直自分でも、まだ自分の中にこんなに乙女のような心が残っていたことに驚いている。
でもきっと私は彼だからこそ、自分の素直な気持ちを出せるのだろう。
「ふぅ、今戻った」
「あ、お帰りなさい、美城常務」
ここは私と彼が同棲するマンションの一室。
交際して1年となった記念に二人で契約した。
今日は彼の方が早く上がったので私が出迎えられているが、逆だったら私が彼を出迎えている。家事は先に帰った方がする約束で、同時の時は分担する決まりだ。
家に自分の帰りを待つ者がいるというのは幸せなことなのだと、この瞬間にいつも思わされている。
でも―――
「………………」
「あれ、どうしました? そっぽなんか向いちゃって?」
「…………今は常務じゃないもん」
―――そう、今の私は常務ではない。彼と対等な存在だ。
なのに彼はそれを敢えてこの場に持ち込み、私に意地悪をしている。
だから私は彼の言葉にそっぽを向いて抗議しているのだ。
恋人にプライベートでまで常務なんて呼ばれて喜ぶ女がどこにいるのだ。少なくとも私は嬉しくない。ちゃんと名前で呼んでほしい。
「そんな軽いジョークで不機嫌にならいでよ、〇〇」
「君が悪いの……家ではそう呼ばないでって言ってるのに」
「ごめんごめん。お帰り、〇〇」
「ん、ただいま♡」
謝罪と優しいハグをしてくれたので、私は彼を許すことにした。
私はつまらないことでいつまでも腹を立てているような、心の狭い女ではないからな。
しかし、いつされても彼のハグはいいものだ。
少々弛んだ肉が私を優しく包み込んでくれて、もちもちの頬肉が私の頭を撫でてくれる。
世界で唯一私をダメにする人間だ。
「お腹減った? それともお風呂入ってくる?」
「お腹減った〜♡」
「じゃあ先にご飯にしよう。今日は〇〇が好きなビーフシチューだよ」
「やったぁ♡ ハニー大好き〜♡ 愛してる〜♡」
「俺も〇〇のことを愛してるよ」
「んへへへぇ♡」
彼の前でのプライベートの私なんてこんなものだ。
いつもはプライベートでも人目があれば常務としての肩書きをつけていないといけない。
だが、この場ではそんな肩書きはいらない。
私が最も大切にしている彼との時間だ。
―――
「はぁ、何度食べてもハニーのビーフシチューは絶品〜♡」
「沢山食べてくれるから作り甲斐があるよ」
「今度は私がお礼にご馳走作るから♡」
「ならローストビーフ丼がいいなぁ」
「分かった♡ また知り合いに頼んでいい物を取り寄せるね♡」
「普通のでいいよ普通ので。贅沢はたまにだからいいんだよ」
「分かってる♡ それよりほら、もっとギュッてして♡」
「はいはい……こう?」
「んぁ……幸せ〜♡」
食事を終えた私たちは二人で一緒にバスタイムを過ごしている。節約になるし、これがまた幸せな時間だ。別々に入ると二人の時間が無駄になってしまうしな。
それにこう、生まれたままの姿のままで背中から抱きしめられると、なんとも言えない幸福感に満たされて癖になるんだ。もう前みたいに一人でなんて入っていられないな。彼がいない時は仕方ないが。
「髪を下ろしている〇〇はいつもと違って可愛いよね」
「むぅ、可愛いって言わないで。年下に可愛いって言われるとくすぐったいの」
「事実だから仕方ない」
「私は綺麗って言われたいの〜!」
「いつも綺麗だと思ってるよ……ちゅっ」
「はぅん♡ 首筋にちゅうするのダメぇ♡」
「好きな癖に……ちゅっちゅ〜」
「んはっ、あっ、好きだけどぉ……んっ、ゾクゾクするからやだ〜♡」
「そこが気持ちいいんじゃん……ちゅっ、ちゅぱっ」
「んひぃっ、も、もう♡ 意地悪ぅ……あっあっあっ♡」
ダメだ、これ以上は。
私のスイッチが入ってしまう。
するならちゃんとベッドの上がいい。
昨日もここでシたばかりだから、今夜はベッドかソファーがいい。
だから私は頑張って彼からの拘束から逃れ、今度は向かい合うようにして抱きついた。
これなら彼からのキス攻撃も回避出来るし―――
「今はダメぇ♡ 今は、お口にちゅうするだけにしてぇ♡」
―――キスのおねだりもしやすい。
「〇〇はキスが好きだね……ちゅっ」
「んっ、ちゅっ……はぁっ、ハニーのちゅうが悪いの……んっ、んふぅ♡」
ディープな厭らしいキスなのに、彼からされるキスはどれも優しいキスばかり。
こんなに愛情をたっぷりに注がれるキスをされれば、誰だってキスが好きになる。
私だって自分がこんなにキスばかりせがむようになるだなんて思いもしなかったのだからな。
「ぁむ、ちゅぷっ、れろっ、ちゅぴっ……ん、んっ、んふっ、ちゅっ♡」
「ぷはぁ……〇〇、ちょっとストップ」
「え……なんで?」
「無意識なのか……〇〇がさっきから腰を動かしてくるからさ、俺のに〇〇のが当たるんだよ」
「あ……えへへへ♡」
「笑って誤魔化さない。ほら、もう我慢出来ないみたいだから上がって寝室に行こう?」
「それからでもいっぱいちゅうしてくれるぅ?♡」
「俺がするよりも〇〇がしてくるだろ?」
「だってしたいもん♡」
「明日もお互い早いんだから2回までだからな?」
「はぁい♡」
それから私たちは存分に愛を確かめ合った。
しかし不思議なことに2回目が終わったのは朝方だった。時間が過ぎるのはやはり早い。これからも時間は大切にしないといけないな―――。
美城常務#完
美城常務編終わりです!
なんか書いていてとんでもない常務になっちゃいましたが、お許しを。
お粗末様でした☆