デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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渋谷凛編

 

 私は何がしたいんだろう

 

 私は何をしてきたんだろう

 

 私は―――

 

 どうしたいんだろう

 

 ―――――――――

 

『―――みんな、今日の単独ライブ! 楽しんでくれたー!?』

 

 ワァァァァァッ!

 

 私の声にホールに来てくれたファンのみんなは大声で答えてくれる。

 楽しい……嬉しい……心地いい……。

 

 アイドルになって本当に良かった。

 

『またやる時も今日みたいに全力で歌うから! だから……みんなも必ず聞きに来てねーっ!!』

 

 ワァァァァァァァァァッ!

 

 ―――――――――

 

 2回もあったアンコールに応えた私。

 本当にもうクタクタ。

 でもこの疲労感は嫌いじゃない。

 

 ファンのみんなの声を背中で聞きながら、

 

「お疲れ様でした! ありがとうございました!」

 

「お疲れー! 良かったよー!」

「また一緒に仕事しようね!」

「お疲れ様でした。渋谷さんは控室で休んでてください」

「控室には渋谷さん宛の贈り物を運んでおきましたから!」

 

 スタッフさんたちに挨拶をしながら、控室に向かった。

 

 いや、違う……かな。

 本当に向かった先は―――

 

 ―――――――――

 

 ガチャ

 

「―――ただいま♡」

 

「おぉ、お疲れ、凛♪」

 

 プロデューサーのところだから。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

『え?』

 

『だからさ、アイドル興味ないかな? 俺これでもアイドル事務所でプロデューサーやってて、それなりに世にアイドルを売り出してるんだよ』

 

 第一印象は今思い返しても最悪。

 妙にヘラヘラしてて、スーツもヨレヨレのしわだらけで、よりによって私にアイドルやらないかなんてどうかしてる。

 

『アイドルになんて興味ないから』

 

 そう言って私はプロデューサーとか言う人から逃げるように走り去った。

 

 でも―――

 

『…………またあんたなの? いい加減にしてよ。ストーカーって言うんだよ、そういうの』

 

 ―――それ以来毎日、彼は私をいつもの場所で待ってた。

 駅の前……辺りは人の海。

 なのに何故か彼は必ず私をその海の中から見つけ出して、声をかけてくる。

 

 アイドルにならないか?

 

 人って不思議な生き物で、何度も言われるとそれが気になってくるんだよね。

 そして私は思った。

 どんな世界か見てみたいって。

 

 それまでの私は色んなことが普通で、なんとなく時間を過ごしてた。

 普通に学校に通って……普通に進学か就職して……普通に結婚して……普通にお婆ちゃんになって……。

 でもそこに楽しさがなかった。

 

 なのに彼はいつも笑ってた。

 大の大人が、やましい笑顔じゃなくて、純粋な少年のような笑顔で……。

 だからこそ、この人が笑ってる理由に……アイドルに興味を持ったのかもしれない。

 

 アイドルの世界は思ってた以上に過酷で、辛かった。

 でもそんな私にプロデューサーはいつもこう言うの。

 

 振り返らずに前を向いて走れ

 そして沢山の笑顔をファンに与えろ

 凛が走れる道を俺が必ず作るから

 

 そんなこと真顔で言われ続けてきたんだもん。

 その人のことを気になるなって言う方が難しい。

 だから私はアイドルとプロデューサーっていう、ドラマや映画みたいな壁も気にしないことにした。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

「おいおい……戻ってきて早々かよ」

「何、文句あるの?」

「いや、彼女に抱きつかれるのは嬉しいけどよ」

「ならいいじゃん♡ 今の私はステージに立つアイドルじゃない……プロデューサーの恋人なんだから♡」

 

 スキャンダルとか世間体とかどうでもいい。

 それくらい私は、私を今の私にしてくれたこの人のことが好き。

 学校の友達とかは『アイドルは恋愛出来ないからかわいそー』ってよく言ってくるけど、

 

「……ったく、人が来たら離れろよ?」

 

 全然恋愛出来るし、幸せでしかない♡

 

「私は記者会見する覚悟は出来てるし」

「ダメに決まってんだろ……主に俺の人生が終了するわ」

「……あ、そっか」

「そうだよ。だから――」

「――じゃあ、記者会見すれば一生プロデューサーを私が養ってあげられるね♡」

「しぶりぃぃぃぃぃん!?」

 

 慌ててる慌ててる♪

 まあ、プロデューサーが困ることはしたくないから、ほんの冗談なんだけど……最終手段としては有りかも。

 

「それよりプロデューサー、今日のライブの私はどうだった? ちゃんと見ててくれたんでしょう?」

 

 流石にこれ以上はプロデューサーが可哀想だから、私はライブの話題にした。

 するとプロデューサーはさっきまですごく口を開けてたのに、いつもの顔に戻る。本当にコロコロと表情が変わるから一緒にいて楽しい♡

 

「そりゃあ、当然……めちゃくちゃ輝いてたぞ! 声もよく通ってたし、振り付けも完璧! まさに99点だ!」

「あ、やっぱそこは満点じゃないんだ?」

「そりゃあな。いつも言ってんだろ? 凛は――」

「――"もっと輝くステージで満点を取る"……でしょ?」

「おうよ! そのために俺も凛の専属プロデューサーになって、凛に負けないようにプロデュースの腕を日々磨いてんだからな!」

「あはは、楽しみにしてるよ。プロデューサーが私のために作ってくれる道の先にある景色を♡」

 

 私の言葉にプロデューサーは二カッて少年のような笑顔を見せる。

 それがもう好きでたまらなくて……私はスタッフさんが楽屋のドアをノックしてくるまで、プロデューサーの大きな胸の中に顔を埋めた。

 

 ―――――――――

 

 それからスタッフさんたちやスポンサーさんたちに私たちは挨拶して、事務所へ戻るために車に乗り込んだ。勿論私は普段着に着替えてからね。

 本当ならコンサートライブとかみたいな大きな仕事のあとって、私が事務所へ戻る必要は無いんだけど―――

 

「今回もいつも通りでいいのか? ちょっとくらいわがまま言ったって多少の融通はきくんだぞ?」

「いいの。ライブが終わったら、二人で打ち上げする約束でしょ?」

 

 ―――大好きなプロデューサーと二人っきりで、しかも仕事抜きで過ごせる大切な自由時間をもらえる。

 

 二人で打ち上げするようになったのは私がまだアイドルになりたての頃に、小さな箱のライブイベントで失敗した時にプロデューサーが私を励ますためにしてくれたことだったんだけど……今となっては私にとって何よりものご褒美。

 

「それに、わがまま言ってもいいなら、私は結婚記者会見したい……結構憧れてるんだ、アレ♡」

「それはちょっとの範囲外でござんす」

「むぅ……男に二言があるなんてどうかと思うよ?」

「……せめて、結婚が許されるお年を召してからで――」

「――じゃあ、あと数年後だね♡ やった♡」

「と思ったけど、流石に高校は卒業しないとねぇ!?」

「…………また逃げた」

「勘弁してくれ……」

 

 プロデューサーはこのあともずっとタジタジで、いつまでも私に振り回されてた。

 いつも通りの私たちって感じだけど、でも今日はちょっと嬉しかった。

 だって―――

 

『せめて、結婚が許されるお年を召してからで』

 

 ―――その年齢に私がなれば、結婚してくれる可能性があるってことだもんね♡

 加蓮や美嘉に相談して前々から押せ押せで攻めてきた結果だもんね♡

 今度二人に何か奢ろう。加蓮の方はウィクドナルドのポテトのLLサイズでいいかな?

 

 そんなこんなで私は事務所に着くまでプロデューサーにも言われるくらい、ずっと笑顔でプロデューサーが運転する車の助手席に座ってたみたい。

 それと笑顔が可愛かったって言われた……不意打ちとか照れるじゃん。

 

 ―――――――――

 

 事務所は私が通うようになってから、全く変わらない。

 実家の次に親しみを持ってる場所かな。

 アイドル仲間もいるし、さり気なくいつもサポートしてくれるちひろさんや社長さん……みんなが私を駆け出しだった頃から笑顔で出迎えてくれる温かい場所。

 

 でも流石に0時を回れば、残業で残ってる他の子のプロデューサーと警備員の人しかいない。

 

 私はそんな事務所のプロデューサーの個室に入って、打ち上げの真っ最中。

 打ち上げって言ってもそんな大袈裟なことはしないんだけどね。

 恋人になる前は反省会って感じだったけど、今は―――

 

「プロデューサー……私頑張ったよね?♡」

「あぁ、凛はよく頑張った。次も頑張ろうな」

「じゃあ、いつもの魔法をまた掛けて♡ 私が頑張れる、特別な魔法♡」

「…………勿論♪」

 

 ―――プロデューサーに抱きしめられながら、キスしてもらってる。

 

 アイドルになる前の私が今の私を見たら卒倒しちゃうだろうな。

 

「んっ……ちゅっ……っ……ん〜っ……ぷはぁ、プロデューサー……♡」

「…………凛」

 

 プロデューサーに……大好きな人に名前を呼ばれただけで、私の心臓は壊れたみたいに何度も何度も高鳴る。

 好き……こんなに人を好きになるなんて思ってもみなかった。

 

「プロデューサー……プロデューサー……♡」

 

 だから私は全身を使ってプロデューサーに自分の気持ちを伝える。

 するとプロデューサーは私の頭を優しく撫でて、また優しく耳元で囁いてくれる。

 

「……凛」

「っ……んむぅ♡」

 

 好き過ぎて胸が痛いよ……

 

「……好きだ」

「うんっ♡」

 

 私だって好き……大好きだよ……

 

「もう一度、いいか?」

「うんっ♡」

 

 何度でもして……

 

「凛……ちゅっ……」

「んんっ……ぁ……んぅ♡」

 

 私、愛されてる……

 プロデューサーに……

 心から好きな人に……

 

「……ぁん……はあはあ……ふぅ♡」

「……幸せだ」

「私も……♡」

 

 幸せってこういうことだったんだって実感する。

 仕事とプライベートの両立って難しいって雑誌で読んだことはあったけど、当事者になってみると案外両立って簡単。

 まぁ、そこに育児とか家事とかが入ってきたらまた話は変わるんだろうけど……だからこそ私は、

 

「プロデューサー……私をプロデューサーのお嫁さんにしてよぉ♡ もっとプロデューサーと幸せになりたい♡」

 

 とことん欲張ろうって決めた。

 最初は無理だと思ってたアイドルもプロデューサーがいてくれたから、ここまで振り向かずに走って来れたなんだから。

 

「だ、だからそれは……もう少し先で……」

「ふーん……♪」

「な、なんだよ、ニヤニヤして……?」

「どんどん近い未来になってるなぁって思ってさ♡ 最初の頃はもっと大人になったらなって軽くあしらってたのに♡」

「…………」

 

 プロデューサー顔真っ赤♡ 困ってる困ってる♡

 私のことで頭がいっぱいにしてくれて嬉しい♡

 

「…………そりゃあ、惚れた女から毎回逆プロポーズされてんだから、本気にもなるだろ……俺だって男なんだからよ」

 

 っ!?

 

「プロデューサー!?♡ 今の本当!?♡」

「い、今のに関しては男に二言は無い……」

「っ♡」

「うぉっ!?」

 

 好き……大好きだよ、プロデューサー♡

 

「じゃあ、明日早速社長さんたちに話して、マスコミにもFAXで記者会見の日時を教えて――」

「――待てぇぇぇい! 話が急過ぎなんだよぉ!」

「もう……意気地無し♡」

 

 でもこういう関係も楽しまなきゃ損かな。

 いつか産まれてくる私たちの子どもに、パパとママはとても幸せな恋愛をしたんだって教えられるから―――。

 

 渋谷凛♢完




渋谷凛編終わりです!

やっぱクールはデレてからのアピールがグイグイなのがいいですよね!(個人的に)

お粗末様でした☆

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