デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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上京してる設定です。


佐久間まゆ編

 

 この世に偶然なんてものはない

 

 全てそうなる事が決まっていて

 

 人はその事柄に直面すると

 

 思ってもいなかったから

 

 偶然というコトバを使いたがる

 

 でも私は偶然なんて信じない

 

 だってあの人があの日あの時

 

 私と出会って

 

 私に声をかけたのは

 

 運命で決まっていたことだから

 

 だから私はあの人の望む

 

 アイドルになる運命が始まることを

 

 心から喜びました

 

 ―――――――――

 

 ガチャ

 

「はぁ……今日も疲れた。ただいま〜」

(まあ、んなこと言っても俺の部屋には誰もいないんだけどな)

 

 パタパタ

 

「おかえりなさい、プロデューサーさん……じゃなかった、今は〇〇さんですよね♡」

「え、なんでまゆが俺の部屋にいるんだ?」

「もう、忘れちゃったんですか? まゆの手料理をご馳走しますって今日お別れした際に伝えましたよね? その時、〇〇さんは楽しみにしてるよって言ってくれてたのに……」

「流石にその日の内になんて思ってなかったんだよ」

「まゆは〇〇さんのためならなんだってします。〇〇さんが望むことはまゆが叶えてあげます。それだけ私は〇〇さんを愛してるんです♡」

「あ、ありがとう……」

「はいっ♡」

 

 私の名前は佐久間まゆ。元は仙台で読者モデルをしていましたが、ある日その読者モデルのお仕事を終えた時にプロデューサーさんと出会い、運命を確信した私は事務所も辞めて学校も転校すると決め、彼のために東京までやってきたんです。

 そして今では彼の望む佐久間まゆというアイドルをこなして、プライベートは恋人……将来の妻として彼を支えています♡

 

 私が彼との運命を確信した理由……それは彼が昔、私を助けてくれた人だったから。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 昔、私がまだ9歳の頃。私は地元の公園で昼下がりにひとり、砂場で遊んでいました。

 するとそこに優しそうな大人の男の人が現れたんです。

 

 その人は私に『君ひとり? お母さんやお父さんは?』と訊いてきました。

 私が『いない』と答えると、その人は『ここら辺は最近誘拐事件が多いから危ないよ。おじさんと安全な所に行こう』と言ってきました。

 

 確かにその頃、私の地元では児童連続誘拐殺人事件が報道され、犯人が捕まっていない状況でした。

 私の両親もひとりで遊ばないようにと私へ注意してましたが、その日はたまたま一緒に遊ぶお友達が来れなくなったみたいでひとりで遊ぶことにしたんです。子どもだったし、何が危なくて何が危なくないのか理解出来ていませんでした。

 

 それを聞いて急に怖くなった私はその男の人が差し出している手を取ろうとしました。

 するとそこへ高校生くらいの男の子が割って入ってきたんです。

 

『僕の妹に何の用ですか?』

 

 勿論、その人は私の兄ではない。そもそも私には兄弟も姉妹もいません。

 どうしたのかなって思っていたら、男の人はそそくさとその場をあとにしたんです。

 男の人が完全に姿を消すと、

 

『怖かったね。大丈夫?』

 

 その高校生の男の子は私の頭を優しく撫でてくれて、一緒に手を繋いで近くの交番へと向かいました。

 

 後日、ニュースで犯人は逮捕され、その犯人は私に声をかけてきたあの男の人だったことが分かりました。

 怖かったと子どもながらに感じたと同時に、あの時助けてくれた高校生の男の子の優しい笑顔と手の温もりが忘れられなかった。

 そしてその時、手を繋いでくれた男の子の左の手首には目立つハート型のようなアザがあったんです。

 

 ―――――――――

 

 私はその高校生の男の子が忘れられず、その高校生……もう年齢的に大学生か社会人になるかならないかの男の子を私なりに探しました。

 でも子どもだった私は探し当てることが出来ず、時は流れて行き、私は高校生になっていました。

 

 高校生になっても私の胸の中にはあの時の男の子がいて、学校の友達と街を歩いていても、目ではその人のことを探していました。

 そこで私は両親がデザイナーだったこともあって読者モデルになって、あの時助けてくれた男の子に『私はここにいるよ』って伝えたくてモデル活動を始めたんです。自分の左手首にいつもリボンをつけたり、左手だけ手袋をしたりして。

 でも、私自身も大きくなってしまったし、女性向け雑誌を男の子……大人の男性が手に取ることなんてない。

 だからこれは私の虚しい自己満足でした。

 

 ―――――――――

 

 モデルを始めて半年……運命がまた私たちを引き合わせてくれました。

 

 私は撮影を終えて控室へ戻る時、私は廊下の角で男の人とぶつかって転んでしまったんです。

 男の人は『大丈夫?』と言って、私に手を差し伸べてきました。

 そこで私は見たんです。彼の左手首にあの日見た男の子と全く同じハート型のアザを……。

 

 その時は嬉しさのあまり何も聞けませんでしたが、あとで父親に訊ねてみると、東京からアイドルのスカウトのために帰ってきた地元出身の駆け出しプロデューサーさんだったことが分かりました。

 だから私は確信して、すぐに行動を開始したんです―――

 

 もう絶対に離さない

 

 ―――って。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 そして今に至ります♡

 流石のプロデューサーさんも最初は私のことを忘れてしまっていましたが、何度も何度も説明して分かってもらえて……その都度私がどれだけあなたを探していたか、恋い焦がれていたかをお伝えして、晴れてお付き合いを始めたんですよ♡

 でも私がアイドルで未成年でトップアイドルでもないから、プロデューサーさんは公表は出来ないって言うので今はそれに従ってます。

 だから早くトップアイドルになってプロデューサーさんの望むアイドルになって、年齢を重ねて結婚することが今の私の目標です♡

 

「そういや、なんで合鍵も渡してないのに俺の部屋に?」

「マンションのオーナーさんに頼んで入れてもらいました。あ、オーナーさんには妹だって言ったので大丈夫ですよ♪」

「そ、そう……ならなんで鍵閉めた上で夜になっても真っ暗でいたんだ?」

「いくらマンションとはいえ、鍵は閉めておいた方が安全ですよね? 電気は〇〇さんをちょっと驚かせようと思って……♡」

「なるほどね……頼むから、次からは事前に言ってくれ。別に拒んだりしないから」

「本当ですか?♡」

「本当だ。合鍵もその内作って渡すよ」

「嬉しいです♡ 楽しみにしてますね♡」

 

 でもどうしてすぐに合鍵を渡してくれないんですか?

 渡したら何か不都合なことでもあるんですか?

 まゆと〇〇さんの間に何も不都合なことなんてないはずなのに……。

 

「すぐに合鍵を渡してもいいんだが、渡したら最後まゆは俺の部屋に入り浸るだろ?」

「はいっ♡」

 

(即答なのね……)

「そうなるとアイドル活動に支障が出るかもしれない。まゆは今安定して仕事をもらえてるんだから、ここでスキャンダルになるのはマズイんだよ」

「なるほど……〇〇さんはそれだけまゆのことを心配してくれているんですね♡」

「当たり前だろ。まゆは大切な彼女であり、大切なアイドルなんだ」

「〜♡」

 

 幸せで全身にビリビリとなんとも言えないものが伝わっていく。

 これまでの努力が全て無駄じゃなかったんだと思えて、更にこれからも彼のためにこの身を捧げようとより気持ちが募る。

 

「〇〇さん♡」

「どうした?」

「大好きです♡ 言葉なんかでは足りないくらい、好きで好きでどうかなっちゃいそうなくらいに♡」

「ありがとう。俺もまゆのことが好きだよ」

「えへへ、もっと言ってください♡」

「大好きだよ、まゆ」

「もっともっと〜♡」

「愛してる、まゆ」

「〜♡♡♡♡♡」

 

 生まれてきて良かった。私はあなたに愛されるために生まれてきたし、あなたに愛される運命。神様に感謝してもしきれない。

 

「それで、まゆの手料理は頂けるのかな?」

「勿論です♡ でも先ずは先にお風呂に入って疲れを取ってからにしてください♡ ちゃんと入れるようにしてありますから♡」

「何から何までありがとな」

「〇〇さんに尽くすことがまゆの喜びですから♡」

「ありがとう、入ってくるよ」

「はい♡ その間にお料理は温めておきますね♡」

 

 本当はお背中とかも丹念に洗ってあげたいけど、今は我慢。彼はいきなりそういうことをされるのは嫌がるから。

 でも少しずつ少しずつそれを当たり前にしていければそれでいい。私たちの愛はまだまだ育んでいる途中だし、途切れることなんてないのだから。

 

 ―――――――――

 

「はい、あーん♡」

「あ〜……んっ」

 

 今日のメニューはプロデューサーさんが前にとても喜んでくれたビーフシチュー。

 これは特別な日に私が作るメニューで、今日はプロデューサーさんが私の専属プロデューサーになってくれた100日目となる記念日なんです♡

 プロデューサーさんはそんなこと覚えていないと思いますが、プロデューサーさんには私のお料理を食べてもらって『美味しい』って言ってもらえれば私はそれだけで幸せです。

 

 なのに―――

 

「そう言えば、俺がまゆ専属のプロデューサーになって丁度100日になるのか〜。恋人になったり、実はもっと前に知り合ってたり、ご両親にご挨拶に行ったり……仕事の方よりプライベートの方が濃厚な100日だった気がする」

 

 ―――プロデューサーさんはちゃんと覚えていてくれました♡

 

「まゆにとっては幸せな日々でした♡ でももっともっとまゆが〇〇さんを幸せにしてあげますから、満足しないでくださいね?♡」

 

 私があなたへ送る愛はこんなものじゃない。もっともっともっともっと……あなたが想像つかないくらい、私のあなたへの愛は常に溢れてる。

 

「俺もまゆをもっと幸せに出来るように頑張るよ」

「うふふ、その言葉だけでもう幸せな気持ちです♡」

「まゆは本当にお手頃だなぁ」

「〇〇さんだからですよ♡ 他の人にそんなこと言われても羽虫が小うるさく飛んでるくらいにしか思いませんから♡」

「こらこら、アイドルがなんてことを言ってるんだ」

「〇〇さんには嘘は言いたくないだけです♡」

「これまた清々しい笑顔で……」

 

 だって本当のことですからね。アイドルはあくまでもあなたが望んでいるからしていること……私が本当にやるべきことはあなたを骨の髄まで愛すことですから♡

 

「そう言えばさ、まゆ」

「はい?♡」

「今日泊まってく?」

「そのつもりですけど……何か都合が悪いですか?」

「いや、都合が悪い訳じゃないよ。ただ今日は書類仕事で疲れちゃってさ、彼女に甘えたいなぁ……と」

「〜♡♡♡♡♡」

 

 嬉しい♡ そんなことがなくてもいつでも甘えてほしい♡

 

「まあ日頃からまゆには甘えまくってるんだけどな」

「そんなことありません。もっともっとも〜〜〜っと甘えてほしいくらいです」

「気持ちだけ受け取るよ。それに俺だってまゆから甘えてほしいからね」

「じゃあ、今夜はいっぱい〇〇さんを癒やして、まゆからもいっぱい甘えちゃいます♡」

「あはは、少しは寝かせてくれよ?」

「分かってます♡」

 

 そしてその日の夜は彼のことをたくさん甘やかして、私からも彼にたくさん甘やかしてもらいました♡

 でも気がついたら朝になってて、私からちひろさんに午後に出勤することお伝えしておきました。

 朝だからこそ、彼のためにしなければいけないことがたくさんありますから♡―――

 

 佐久間まゆ*完




佐久間まゆ編終わりです!

私イチオシのまゆちゃん!
私の中では不動のセンター!
そんなまゆちゃんの番が回ってきたのですが、いざ書いてみるとちょっと真面目な感じになってしまいました。
でも彼女からあんなに愛されればもう幸せでしかありませんよね!

お粗末様でした☆

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