相原雪乃編
仕事の善し悪しも分からない
世間知らずな私を
優しく導いてくれる人がいました
その方は私に
アイドルというお仕事を教えてくれました
その時から私の世界は輝き
大きく動き出したのです
―――――――――
「お疲れ様でした。またのご機会がありましたら、何卒よろしくお願い致します」
『お疲れ様でーす!』
ソロでの小さなライブイベントを終えた私は、スタッフさんたちと挨拶を交わして控室へ戻りました。
アイドルというお仕事を始めた頃は同じ事務所のアイドルの方々とご一緒にお仕事をする機会が多かったのですが、今ではこのように一人でのお仕事も頂けるようになりました。
それも全ては―――
「プロデューサーさん、雪乃、今回もちゃんとファンの皆様へ笑顔をお届けすることが出来ました♡」
「うん、ちゃんとステージ脇で見てたよ。お疲れ様」
―――プロデューサーさんのお陰なのです♡
この方が私のプロデューサーさんで、半年程前から私専属のプロデューサーさんになってくださった方。
そして―――
「プロデューサーさん……ちゅっ♡」
「んむぅ!?」
―――今では私の恋人でもあります♡
「ぁむ……っ……っはぁ♡ ご褒美、頂きました♡」
「ライブのあとは特に熱烈だな……」
照れていらっしゃるプロデューサーさんはいつもと違って可愛らしい。
だから私ははしたないと分かっていても、またプロデューサーさんの唇に自分の唇を重ねてしまいました。
プロデューサーさんと私が正式にお付き合いをするようになりましたのは、ほんの1週間前のこと。
恋というものを小説やドラマなどで知ってはいたのですが、まさかこんなにも素敵なことだったとは思いもしませんでした。
たくさんのきっかけが積み重なり、私はプロデューサーさんに惹かれ、恋をしました。
アイドルなのに……と思われるかと思います。
しかし私を……相原雪乃をここまで導いてくれた人を愛しく想うなという方が難しいと思うのです。
それにプロデューサーさんは本当に素敵な方で……恋敵も多くて大変だったのですから。
「ちゅっ……んっ……んんっ……♡」
「ゆ、んんっ……ゆきっ、の……っ」
ですから、この恋は必ずものにします♡
お父様もお母様もばあやもプロデューサーさんのことは気に入ってくれてますし、ばあやからは『好いた男はなんとしても手放すな』とご教授して頂きましたから。
「っはぁ……雪乃、少し落ち着いてくれ。二人きりとは言ってもここはプライベートルームでもなんでもないんだから」
「あら、申し訳ありません……しかし、それだけ私はプロデューサーさんへの愛が溢れてますの♡ このことだけは知っておいてくださいませ♡」
「それは……この1週間で嫌というほど思い知らされてるよ」
「むぅ、嫌だなんて心外ですわ」
確かに多少強引なこともしてしまったと反省はしてますが、後悔はしていません。
ですから"嫌"と言われると胸が張り裂けそうです。
「しかしなぁ……このところ妙に雪乃の実家へ招待されてるし、『うちの娘を頼むよ?』なんて別な意味でプレッシャーがすごいからなぁ」
「あら、プロデューサーさんは私と添い遂げたいとは思っておりませんの?」
もしそうだとしたら、とても悲しいですわ。
仮にそうだとしたら、添い遂げたいと思って頂けるようにこれから頑張ってプロデューサーさんにアピールしなくては!
そう思っていた矢先―――
「いやいや、俺も出来ることなら雪乃と結婚したいよ?」
―――プロデューサーさんも私と同じ思いでいてくれたと分かり、とても幸せな気持ちになりました♡
「ならば、何も問題はありませんよね?♡」
「いやいや、あるよ。雪乃はアイドルで厳格なお家のご息女様だからね。俺としては考えることが多過ぎだし、大きいんだ……分かってくれ」
「……分かりましたわ」
むぅ、やはりプロデューサーさんは大人ですわね。
ですが、こういう冷静なところがまた私の想いを強くします♡
―――――――――
それから私たちは事務所へと戻ってまいりました。
小さくともライブのあとということで私は帰ることを許されましたが、プロデューサーさんはこのあともお仕事をなされるご様子。
ですので、私はプロデューサーさんを待つことにしました。
だって明日は私も学校はお休みでお仕事のご予定もレッスンのご予定もなく、プロデューサーさんもお休みとのことですし、今夜は恋人として過ごしたいんですもの♡
ですが、私はプロデューサーさんのお邪魔をしないよう、プロデューサーさんには「ロビーでお待ちしてます♡」と伝えて、ロビーのソファーへ腰を落ち着かせてその時を待っていました。
すると、
「あら、雪乃さん。ごきげんよう。プロデューサーちゃま待ちですの?」
桃華さんが声をかけてきてくださいました。
そのお隣には星花さんもご一緒で、私たちはいつものようにお茶をすることになりました。
―――
「ふふふ、相変わらず雪乃さんはプロデューサーさんのことが大好きなんですね♪」
「はい、とても……こうしてお付き合い出来るようになったのも、お二人のお陰です。その節は本当にありがとうございました」
「お力になれて光栄ですわ♪」
事務所内なのにこんな話題をお話しになってしまうのもどうかと思われますが、実はここ、事務所の中でも所属アイドルの方たちだけがお使いになられるお部屋なんです。
なんでもアイドルの方たちが事務所内でも落ち着いて過ごせるようにと防音性の高い構造になっているらしく、主に待ち時間を使って読書したい方やお茶を楽しみ方専用のお部屋のようです。
ですので、私や桃華さんたちはこの部屋を良く利用させて頂いてます。
そんな私たちのお茶会での話題は……私とプロデューサーさんのこと。
このお二人には前からご相談をさせて頂いてて、ご報告という形で私たちの近状をお話しさせて頂いてます。
「でも、本当に雪乃さんと担当のプロデューサーさんがお付き合いされるなんて、すごいですね」
「そうですか?」
「そうですよ。私たちはアイドルなのに、そのお相手が自分を担当なさるプロデューサーなんですから」
しみじみと星花さんに言われると、私も確かにと思えてしまう。
「それでも、そういった肩書きに囚われず、ご自分のお気持ちに素直になってお付き合いされたのですから、胸を張っていいことでしてよ」
一方で桃華さんには励まして頂きました。私より年が下ですのに、本当に感心してしまうほどのお人柄です。
「ありがとうございます。ではこれからも、たくさんラブラブ致しますね♡」
「今よりも更にラブラブ……すごいことになりそうですわね」
「でも雪乃さんらしいです。私は応援してますよ」
「うふふ、頑張ります♡」
とは言ったものの、こればかりは私だけで頑張ることは出来ません。
なのでプロデューサーさんに放っておかれないよう己を磨かなくては!
「何こっ恥ずかしいことを堂々と言ってるの……」
そう思っていた矢先、プロデューサーさんが来てくださいました。
お仕事は終わったのでしょうか?
そう思いながら私はプロデューサーさんの元へと行くと、
「あ、ごめん。実はまだもう少し掛かるんだ。そのことを伝えに来たんだよ」
プロデューサーさんはとても申し訳なさそうに私へ頭を下げてきました。
「わざわざご足労頂きましてありがとうございます。私はいつまででもお待ちしておりますから、お気になさらず♡」
「ありがとう……二人も雪乃のことありがとうな」
「いえいえ、わたくしたちは楽しくお茶を楽しんでいるだけですから」
「そうですわ、雪乃さんのプロデューサーちゃま。しかし恋人を待たせるのは紳士としては褒められたことではなくてよ? 出来るだけ早くお迎えに参上してくださいまし」
「あ、あぁ、了解だ。それじゃもう少し待ってて、雪乃……ちゅっ」
プロデューサーさんは去り際に私の頬へキスをしてくださいました♡
いつもこういうことは私ばかりですので、たまにプロデューサーさんからされると嬉しくてたまりません♡
桃華さんも星花さんも私たちの関係をご存知だということでしてくれたのでしょう……ですが私はどなたの前でもしてもらいたいと欲張りさんになってしまいそうでした♡
―――――――――
それから更に1時間程が経ち、プロデューサーさんがお仕事を終えて私をお迎えに来てくださいました。
桃華さんたちは寮の門限がありますので、既にこの場をあとにしていましたが、私にとってプロデューサーさんを待つことは彼のことだけを想う大切な時間なので苦ではありませんでした。
プロデューサーさんのお顔を見てしまうと、胸の鼓動が高鳴り、やっと会えた喜びではしたないと分かっていても彼の胸の中へ飛び込んでしまいます。
「おっとと……遅くなってごめんね」
「いいえ、そのお仕事も私のためだと理解しています♡」
「ありがとう……じゃあ、早速ディナーでもどうかな? 待たせちゃったお詫びに雪乃が望むレストランに連れて行くから」
「まぁ……でしたら是非とも行ってみたいところがありますわ♡」
「どこ?」
「プロデューサーさんのマンションのお部屋へ♡」
「へ?」
「……これでも私、お料理も得意なんですよ? 今夜はプロデューサーさん……未来の旦那様へ未来の妻から少し早めの愛妻料理をご馳走致しますわ♡」
「お、おぉ……今日はやけにグイグイ来るね……」
「お嫌ですか?」
「そんなことはないよ」
「嬉しい……デザートの方も期待していてくださいね♡ ちゅっ♡」
こうして私はプロデューサーさんのマンション……いずれ私も暮らすお部屋へとお邪魔させて頂きました。
私のおもてなしにプロデューサーさんはとてもお喜びになられて……当然、
相原雪乃*完
相原雪乃編終わりです!
彼女は無自覚天然押し掛け女房って感じがしっくり来たのでこのようにしました!
お粗末様でした☆