デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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上京してる設定です。


早坂美玲編

 

 ヘンなヤツってのは

 

 前から自覚してた

 

 でもみんなと同じなのが

 

 スゴくイヤだった

 

 だから目立つ服を着てたし

 

 それで浮いてていいと思ってた

 

 この先もこのまま

 

 色んなオトナから文句言われたり

 

 白い目で見られ続けると覚悟してた

 

 なのに

 

 "それでいい"なんて

 

 都合のいいホラを言ってくる

 

 悪い魔法使いと出会った

 

 ―――――――――

 

「は〜い、目線こっちね〜。いいよ〜。んじゃ、次は強気な感じで胸を張って―――」

 

 カメラマンからの指示にウチは従って、言われた通りのポーズをとる。

 今日のウチの仕事はファッションモデル。ブランドはウチ好みなパンク系の服を多く出してるとこで、載るのは前に飛鳥とも表紙を飾らせてもらったパンク系がメインのファション雑誌。

 ただ最近ここのブランドはゴスロリにも力を入れるみたいで、ウチが今着てるのは蘭子が好みそうなフリルがたくさんついてる紺色のドレス。

 いかにもゴスロリって感じだけど、返り血みたいに赤いペイントが各所に施さてるし、擦り切れてる感じにしてあるスカートの裾や縫い合わせた感じに見せてる袖のとこもカッコいい。しかも目立つ大きな安全ピンで止めてあるみたいにしてるのもウチ好みだ!

 

 これだけじゃなくて、他にもパンツとかアウターとかも色々とゴスロリとパンクを上手く融合させたモノが多かった。だから多分……いや、確実にウチは買うと思う。

 

 ―――――――――

 

「お疲れ、今日の表情はいつにも増して活き活きしてたな」

「うるさい。オマエに言われなくても分かってる」

 

 撮影を終えたウチにヘラヘラ笑って声をかけてきたスーツの男。コイツがウチの専属プロデューサーで、今はウチの恋人……。

 

 アイドルなんてする気なかったのに、コイツの口車に乗せられてアイドルになって、しかもコイツにいつの間にか惚れてて、少し前に付き合うことになったんだ。

 当然だが、事務所には黙ってる。てか、そうしないとコイツがヤバい。コイツがどうなってもウチは構わないけど、やっぱ付き合うって決めた手前、恋人が捕まるのはイヤだからな。決してウチがコイツのことを好きだからそう思ってるんじゃないからな。

 

「そっか。まあでもこの仕事受けて正解だったな」

「それは……感謝してる」

「お、デレた」

「デレてない! オマエなんかにデレたことない!」

「はいはい」

 

 人を小バカにしたみたいに笑いやがって……ムカつく。

 でもウチはコイツがいなかったら、今のウチじゃないのを知ってる。だから睨む程度にした。それにどんなに好きな服を着れたからって、撮影で疲れたし。

 

 ―――――――――

 

 スタッフさんたちとかと挨拶を終え、ウチもちゃんと着替えてスタジオを出る。

 するとプロデューサーが『事務所に戻る前に何処か寄るか?』って提案してきた。

 

 それはウチとプロデューサーの間で『少しデートしよう』って意味。

 ウチはアイドルでコイツはそのプロデューサーだから、普通の恋人同士みたいに気軽にデートが出来る訳じゃない。

 コイツに乗せられてアイドルになったからこっちの中学に編入したけど、こっちで出来た友達から『アイドルって恋愛出来なくて大変だよね』ってよく言われる。でも実はそうでもない……なんて言えない。

 

 そもそもプロデューサーがウチのこと好き過ぎて、断ったら可哀想だからウチがお情けで付き合ってるんだからな。

 だからウチがプロデューサーからのデートを断るのは基本ない。だってウチが断ったらコイツは悲しいだろうからな。うん。決してウチがプロデューサーのこと好きだから断らないって訳じゃないんだからな!

 

「いつものとこでいい……♡」

「おう、了解♪」

「……ヘラヘラ笑ってんなよ、キモいから♡」

「はいはい」

「……♡」

 

 ムカつく……ムカつくのに、そのはずなのに、ウチはコイツから視線を向けられると、なんか力がなくなる。だから余計に自分にも腹が立つ。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 プロデューサーはヘンなヤツだ。

 自覚してるけど、ウチみたいなファッションしてて、言葉も乱暴なヤツを恋人にするなんて、どうかしてる。

 

 でもプロデューサーだけなんだ。ウチのことを見て、ウチのことを『いい』って言ってくれた人は。

 

 認めたくないが類は友を呼ぶって言うし、だからプロデューサーはウチに声をかけてくれたんだと思う。

 それにいっぱいいっぱい告白してくれたし……こんな経験今までなかったし、恥ずかしかったけど、それ以上に嬉しかったのを今でも思い出す。

 

 このままでいいんだ

 このままで受け入れてくれるんだ

 このままで愛してくれるんだ

 

 そんな人、一生に何度出会うかなんて分からないし、たった一回しか出会わないかもしれない。

 ならこのチャンスを逃すなって、そう思えたんだ。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 ウチは『お情けで』なんて言ってるけど、自分でも本当のところは自覚してる。

 ウチはコイツが……ウチの全部を肯定してくれるプロデューサーが大好きなんだ。

 

「美玲はいつもの?」

「うん♡」

「了解。すいません、注文お願いします」

 

 ウチがプロデューサーに連れてきてもらった場所……それは昼間でも営業してるダイニングバーだ。

 ここはプロデューサーの行きつけの場所でよくご飯を奢ってもらってて、ウチも好きなお店。流石にウチひとりではオトナ過ぎて入れないけど、プロデューサーとゆっくりするならココなんだ♡

 マスターもプロデューサーからウチとの関係を聞いてて、自然と他のお客からあまり見られない席に案内してくれる。

 そもそも店内も薄暗いし、今は昼下がりだからウチら以外に客はいないけどね。

 

 でも、そうなると逆にプロデューサーと貸し切りみたいになって……なんか落ち着かない。

 

「ヘーゼルナッツココアとブルーマウンテンになります」

「ありがとうございます」

「どうも」

 

 店員さんは飲み物を置くと、スッとまた本来の立ち位置に戻る……というか、マスターの計らいでドアのとこのかけ札を『OPEN』から『CLOSE』にして、店員さんは厨房に入っていく。勿論、マスターも奥に引っ込んでいく。

 

「俺たちだけだな、美玲」

「そ、そうだな……♡」

 

 ウチの目の前に座るプロデューサーは、優しい声色で囁き、ウチの手をそっと握ってくる。

 プロデューサーはロマンチストだし、ウチより10歳年上だから女の扱いも手慣れてる。まあウチをプロデュースする前は何人ものアイドルをプロデュースしてたから、そういうのもあって慣れてるんだろうけどね。

 

 でもウチはプロデューサーがウチを恋人扱いしてくれるのが、心の底から嬉しい。単純かもしれないけど、今だけはウチとプロデューサーだけしかこの世界にいない気分に浸れるんだもん♡

 

「こんな可愛い女の子が俺の彼女だなんて、人生何が起こるか分からないなぁ」

「……う、うるさいなぁ。可愛い可愛い言い過ぎなんだよ、オマエは……♡」

「可愛いものは愛でなきゃ」

「う、うるさいっ♡」

「静かに語りかけてるはずなんだが?」

「そういうとこだよっ!♡」

 

 ウチがこういう空気恥ずかしくてヤバいのに、コイツは余裕ぶっこいてヘラヘラと笑ってきやがる! 悔しい! でもイヤじゃない!

 

「今、二人きりだから、その眼帯外してもいい?」

「と、特別だぞ?♡」

「うん」

 

 ウチがトレードマークの眼帯を外すと、プロデューサーはジッとウチと目を合わせてくる。2つの目でプロデューサーと見つめ合うと、なんだかいつもより胸がドキドキして、顔も熱くなってく。でもプロデューサーからは目を逸らせない。どうしてなのかは分かんない。

 

「そういえば、前は色んな眼帯をしてたけど、今はこのハートマークがたくさんの眼帯しかしてないね」

「お、オマエが誕生日にくれたお気に入りだから……♡」

「そっか。なら自惚れていいのかな?」

「へ?」

「だから、その眼帯くらい美玲が俺のこと好きってことを、自惚れていいのかな?ってこと」

「べべべべっ別に好きにしたらいいだろっ?♡」

 

 ウチの気持ちをいつも見透かしてくる。ウチってそんなに分かりやすいのか? 親からも友達からも『美玲は何を考えてるのか分からない』って言われてきたのに……。

 

 あれ? でも蘭子とか飛鳥とか、小梅とか輝子とか乃々とか……みんなしてウチがプロデューサーのこと好きなの知ってたな。誰にも言ってないし、そもそも自覚すらしてなかったのに。不思議だ。

 

「美玲」

「こ、今度はなんだよ?♡」

「抱っこしていい?」

「…………好きにしろ♡ どうせ二人きりで助けを呼んでも誰も来ないんだからな♡」

 

 自分でもどうしてそんなに可愛くないことを言うのかと思う。どうして素直に言えないんだろう。

 でもさ、プロデューサーは嬉しそうに笑って、ウチに両手を伸ばしてくるんだ。

 それでウチは何度かその手を拒んで……結局は捕まえられる。

 

 ギュッとウチの全身をプロデューサーが包み込んで、暑いとかそういうのとは違う……温かさをくれる。

 その度に思う。

 

 あぁ、ウチはこの人が好きなんだ

 

 って。

 

 顔も近いし、目を合わせるだけでドキドキするのに、この瞬間だけは何も余計なことを感じない。ただただ、プロデューサーのことしか目に入らない。

 

「そんなに見つめられると、辛抱堪らんのだが?」

「辛抱する必要あんのかよ?♡ ウチら、恋人同士なんだろ?♡」

 

 恋人同士なんだから好きなことしたらいい。プロデューサーからされて、イヤな思いをしたことなんてないんだから。

 

「美玲はここぞという時にグッとくること言うのな」

「日頃のお返しかな?♡」

「余計に俺が調子に乗るぞ?」

「乗ればいいだろ♡ ウチが何言っても聞かないのはオマエの方なんだから♡」

「ちくせう……休憩時間いっぱいキスしてやる」

「やれるもんならやってみろ、バ〜カ♡」

 

 するとプロデューサーはウチに更に顔を近づけて、何度も何度もキスをする。そうされるのが分かってて、そうされるのが幸せだって知ってて、ウチはいつもプロデューサーに挑戦的な言葉を返すんだ。

 だってウチが結婚出来る歳になるまで、プロデューサーにはウチに夢中になっててほしいんだもん♡ まあその先もずっとだけど♡

 

 絶対に他のヤツなんか考えられない。

 絶対に他のヤツなんかに譲る気なんてない。

 コイツはウチだけのプロデューサーなんだ。

 そして―――

 

 ウチだけの愛する人

 

 ―――なんだからな♡

 

「美玲の唇は甘い……いや、全部甘い」

「ならさっさと手ぇ出せよ♡」

「美玲がもう少し大人になるまではキスとハグだけにする」

「そこは真面目ちゃんかよ♡」

「美玲との関係も真面目だ」

「うるせぇ♡」

 

 いつまでも待たせたら、今度はウチの方からひっかくからな♡―――

 

 早坂美玲*完




早坂美玲編終わりです!

どんなに尖ったフリをしてても、好いた相手の前では無理ってことで!

お粗末様でした☆

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