デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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上京してる設定です。


双葉杏編

 

 働くのは大嫌い

 

 一生懸命やってるのに

 

 "そうじゃない"

 

 "こうじゃない"

 

 "どうして出来ない"

 

 なんて言われるから

 

 ならもっと的確に言えよ

 

 だからもう働きたくない

 

 はずだったのに

 

 悪い魔法使いに

 

 操られてしまったのだ!

 

 ―――――――――

 

「プ〜ロ〜デュ〜サ〜……」

「ほいほい」

「あむっ♪」

 

 杏はアイドルだよ〜。今は私専属プロデューサーがデスクに向かってるけど、杏はそのお膝の上にいて〜、飴とかお菓子とか食べさせてもらってるとこ〜。

 今日は本当ならきらりと今度発売予定のニューシングルのジャケ写とオマケのチェキを撮るはずだったんだけどさ〜、撮影予定のスタジオが急遽予定変更してきたんだ〜。

 だから杏、今日は何もしなくていいの〜♪

 

 まあ基本、その日の予定がズレたりなんかしたらレッスンなんだけど、最近は杏も色んなユニット組んで忙しくしてたからさ〜。だからプロデューサーが『今日は休んでいいよ』って言ってくれたから、杏の好きなように過ごしてるとこ〜♪

 

 ん? どうして杏がプロデューサーのお膝の上にいるのかって? そりゃあ、杏がプロデューサーの彼女だからだよ〜♡

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 当時の私は、ざっくり言うと社会が苦手だった。

 自分なりに頑張っても、上の人が満足しなければ『もっと頑張れ』って言われるんだもん。

 こちとらもう頑張ってんだよ!って思ってても言えない。言っても通じないし、ガミガミ文句言われて余計に疲れるもん。

 

 だから、いつからか私はニートでいいと思い始めた。

 それなりに貯金あったし、誰にも迷惑かけないように生活するだけの知恵はあったから。

 

 そんな時にプロデューサーと出会った。

 最初の印象はお人好し。だって知り合いでもないのに、プロデューサーはその時私が運んでた荷物を代わりに運んでくれたんだもん。

 その帰りにアイドルにスカウトされて、口車に乗せられてアイドルになってた。

 

 最初は話が違うとも思った。印税生活で楽したいから頑張ったのに、頑張れば頑張るほど忙しくなるんだもん。

 

 でも絶対的にこれまでと違ったのは、それが楽しいって思えたこと。

 あれほどもう頑張らないと思ってたのに、頑張れば頑張るだけプロデューサーが褒めてくれるんだもん。

 こんなの普通じゃないよね? どんなに頑張っても褒めてもらえないことの方が多くて、寧ろ『これくらい出来て当たり前』的なこと言われてたんだから。

 

 だからってのもあるけど、私はプロデューサーがいないとダメなんだって思ったし、プロデューサーがいなくなった生活を想像するとそれだけでどうかなりそうだった。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 そんなことを思って、勝手に不安になった私がプロデューサーに『ずっと私の側にいてくれるよね?』って訊いたら、プロデューサーが『じゃあ将来結婚しちゃおうか』なんて言ってきて……今に至るって感じかな。

 彼氏なんて面倒だと思ってたけどさ、実際本当に心を許せる人が相手だと何も面倒じゃないんだよね。今だって私の好きなようにさせてくれてるし♡

 

「プ〜ロ〜デュ〜サ〜……」

「ん、はいはい」

「あむっ♪」

 

 ん、美味しい♪

 プロデューサーって私が呼ぶと、プロデューサーはエスパー人間でもないのに私が何を求めてるか分かってくれる。

 ただお菓子の場合は完全にランダム。そっちの方が飽きっぽい私が飽きずにいられるからってことらしいんだけど、私はプロデューサーに食べさせてもらうのが好きだからなんだっていいんだよな〜♡

 

「プロデューサー」

「杏……ちゅっ」

「んっ♡」

 

 えへへ、プロデューサー個人のオフィスとは言え、事務所内なのにキスしちった♡ でも本当にダメなら『あとでな』って意味で頭を撫でてくるんだけど、してくれたってことは今はいいってこと♡

 プロデューサーに出会って、めんどくさいけど色んな仕事して、オフはオフでこうして私を骨の髄まで甘やかしてくれるんだもん……あの時頑張って買い物行って良かったぜ私〜。

 

「ふぅ……」

「ん、やっと一段落?」

「うん、そんなとこ」

「私のために馬車馬のように働くのはいいことだよ〜♪」

「そうだね。もっと頑張って杏には楽させたいからね」

「えへへ、杏のこと幸せにしてね♡」

 

 もう十分私は幸せなんだけど、

 

「あぁ、もちろんさ」

 

 プロデューサーにこう言われて、笑顔を向けられるのが堪んないからいつ言っちゃうんだよね♡ もう本当にプロデューサーなしの生活には戻れないよ、私♡

 

「さて、そろそろ昼食にするか」

「お、いいね〜。杏〜、ケーキバイキング行きた〜い」

「それは昼食なのか?」

「女の子の半分はお砂糖で出来てるんだよ〜?」

「へぇ、どうりで杏とのキスは毎回甘い訳だ」

「へへっ、杏甘い〜?♡」

「あぁ、甘いよ。何時間でも味わっていたいくらい」

「え〜、どうしようかな〜?♡」

 

 自分でも何言ってんだって思うけど、正直私もプロデューサーとなら何時間でもちゅう出来る自信がある。

 人間ってその人同士の遺伝子が違ければ違うほど、相手のことが好きになるらしいんだよね。匂いもよく感じるし、キスも気持ちよくなるんだって。この前出演した科学番組でどっかの偉い教授がそう言ってた。

 

「あの〜、二人共、自分たちが事務所にいるってことをもう少し自覚してください」

「おや、ちひろさん。いたんですか?」

「ちひろさん、おはよ〜」

 

 いきなりちひろさんが現れて内心ビックリしたけど、ちひろさんは味方パーティだからおk。

 流石に社長とかにはまだ言えないからねぇ。でもちひろさんは私らアイドルが恋愛禁止なの可哀想って思ってる派だし、上にバレなきゃおkとかヘーキで言っちゃう人だからいつもフォローしてもらってるんだ。あ、一応きらりとか他のアイドル仲間のみんなも私たちの味方パーティだよ。やっぱ味方は多い方が何かと有利だからね。

 

「何度ノックしても返事がありませんでしたからね。私だから良かったものの、注意してくださいよ」

「今日の事務員はちひろさんだけでしたからね。安心して杏とイチャイチャしてました」

「プロデューサーさん、私が上に報告したら一発アウトなの忘れてません?」

「え、ちひろさんってそんなに腹黒い人だったんですか?」

「うわ〜、ちひろさん悪女だなぁ」

「うぅ〜、そんなことしませんっ!」

『ちひろさんは聖女ってはっきり分かんだね。キリッ』

「そこだけハモらないでくださいっ!」

 

 ちひろさん顔赤くして書類だけ渡して帰っちゃった。

 でもちひろさんって妙にいじり甲斐あるんだよねぇ。私の方が年下なんだけども……。

 

「それ何の書類〜?」

「俺のとこに来たってことは杏の仕事関係の書類だろうね」

「また仕事か〜」

「辞めたい?」

「……ううん。辞めない」

 

 だってそうしたらプロデューサーと一緒にいる時間が減るもん。そりゃあ、プロデューサーが同行しない仕事なら辞めたいけど……でも結局困るのプロデューサーだもんなぁ。好きな人を困らせるほど、私はウザい女じゃないんでね。

 

「で、今度は何の仕事?」

「きらりちゃんと一緒に温泉紹介番組」

「温泉か〜、やってらんこともない」

「あん肝食えるって」

「っ……」

「夜にメインの露天温泉入って、朝は朝で早起きしなきゃいけないが、朝だといい画が撮れる絶景温泉に入るんだって」

「っ……!」

「しかも帰りはそこの街のB級グルメ巡りして終わりだって」

「いいじゃないか! 良かろう、杏が引き受けた!」

「いや、きらりちゃんのプロデューサーと相談してからじゃないとゴーサイン出せないよ」

「なら早く連絡取るんだ!」

「とりあえず、メールだけして折返し連絡来るの待つよ。それよりケーキバイキングだっけ? 昼食」

「うんっ♡」

 

 えへへ、結局杏のリクエスト通りのとこにしてくれるんだもん……プロデューサーは杏をダメにする天才だなぁ♡

 

 ―――――――――

 

 事務所からそう遠くない、歩いて行ける距離にケーキバイキングをやってる店があったから、私たちはそこに来た。もちろん、めんどくさいけど私は変装してきた。変装っていってもガキみたいなコーデだけどな。でも私の場合、こうした方がバレずに済むし、プロデューサーも老け顔(28歳)だから父親ってことで怪しまれない。まあ職質受けた場合は、素直にお互いの身分証明書とプロデューサーは名刺、私は素顔を見せるけどね。

 

 私が食べたいケーキをごっそりお皿に盛ってテーブルに戻ると、プロデューサーは電話中だった。多分きらりのプロデューサーからだな。

 

「いただきます」

 

 だから私はプロデューサーの邪魔にならないように、先に黙々と食べることにした。プロデューサーもこういう時は先に食べててっていつも言うし。

 

 もぐもぐ……

 

 あ、このティラミス当たりだな。美味しい。

 でもどうしてだろう……美味しいのに、なんか物足りない。

 甘さもちょうどいいし、コーヒーの味もしてるし、にが甘でいい感じなのになぁ。

 

「それじゃあ、あとで事務所で……おう、また」

 

 あ、電話終わったらしい。

 

「どうだった?」

「きらりちゃんのプロデューサーもいいって」

「ならあとできらりも一緒に説明聞く感じ?」

 

 きらりは悪い奴じゃないけど、煩いんだよなぁ。私をぬいぐるみみたいに抱っこしてくるし……まああのマシュマロおっぱい枕は気持ちいいんだが。

 

「そんなとこ。それよりそのケーキ、あんまり美味しくなかったの?」

「え、美味しいよ?」

「でもいつもより笑顔が輝いてない」

「そう?」

「うん……ほら、あーん」

「あ〜……んっ♡」

 

 あれ? なんかさっきより美味しいような……?

 

「あれ、今度は本当に美味しそうだね」

「だから最初から美味しいって言ったじゃん」

「おかしいなぁ。俺が杏の変化を見間違えることなんてないんだが……」

「まあいいじゃん、それより……あ〜♡」

「はいはい」

「あむっ……へへっ、おいひぃ♡」

 

 あぁ、そうか。分かった。分かったと同時に私はもう戻れないことを確信した。

 プロデューサーに食べさせてもらうのが好きだから、自分で食べると味気なく感じてるんだな私は。

 ということは、もう心も身体もプロデューサーがないと生きていけないということになる。

 

「プロデューサー♡」

「ん?」

「責任とってね?♡」

「もちろん」

「プロデューサーの仕事が終わったら、プロデューサーの部屋行って、朝までイチャラブね♡」

「この前みたいに途中で寝るんじゃない?」

「気持ちは朝までってこと♡」

「ああね。ならうんとイチャラブしよう」

「えへへ、プロデューサー大好き♡」

「俺も杏が大好きだよ」

 

 幸せって本当にきっかけがあるだけで手に入るんだね。

 だからこそ、今の私はその幸せを手放さないように頑張ってるんだと思う。

 プロデューサーとの幸せを♡―――

 

 双葉杏*完




双葉杏編終わりです!

杏はもうデレデレしっぱなしがいいかと思って書きました♪

お粗末様でした☆

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