デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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上京してる設定です。


水本ゆかり編

 

 アイドルは楽器みたい

 

 どの楽器にも個性があるみたいに

 

 アイドルのひとりひとりに

 

 そのアイドルの個性があるから

 

 だからそう思うと

 

 楽器を演奏するのと変わらない

 

 そんな風に思えるようになりました

 

 そう思わせてくれたのは

 

 不思議な魔法使いさんです

 

 ―――――――――

 

「次は曲に合わせて、ゆかりの好きなように歌ってごらん」

「分かりました」

 

 私はいつものレッスンルームで専属プロデューサーさんからレッスンを受けています。

 プロデューサーさんは先程「歌って」と言いましたが、皆さんの思う「歌う」とは違うと思います―――

 

「〜〜♪ 〜〜〜〜♪」

 

 ―――何故なら、私はフルートを演奏しているから。

 

 実は次のライブで私はフルートを演奏する予定なんです。

 曲は私と法子ちゃんと有香さんのユニット曲「Kawaii make MY day!」で、ライブのオープニングが私のソロ演奏から始まります。

 この演出を考えたのが私のプロデューサーさんなんですが、いつもの発表会とは違った緊張感があって、ちょっと不安ですね。

 でもその不安を楽しんでる自分もいるので、大丈夫かと。それに本番はプロデューサーさんもステージに……今と同じくピアノ演奏で上がってくれますから。

 

「…………うん、問題ないね。あとは本番で今のような演奏が出来ればファンも喜んでくれるよ」

「ありがとうございます♪」

 

 プロデューサーさんから褒められると、私はつい声が弾んでしまいます。

 だってプロデューサーさんは私の恋人さんでもありますから。

 

 え、アイドルとプロデューサーって付き合っちゃダメなんですか? 法子ちゃんも有香さんも自分のプロデューサーさんと付き合ってるのに? 本当にお互いが求め合っていれば大丈夫ですよね?

 だってそのはずです。どんなモノでもその人の心は縛れないのですから。

 それにプロデューサーさんのことが私は大好きです。もしプロデューサーさんが私以外の女の人と付き合ってると考えただけで、私の胸は苦しくなって何も手につかなくなりますから。

 それだけ私はプロデューサーさんを愛していますし、プロデューサーさんだってそんな私の気持ちを受け止めてくれてます。だから何も問題ないんです。

 強いて問題をあげるならば、歳の差と事務所でしょう。私の年齢が15なのに対し、プロデューサーさんの年齢は28ですから。それもあり事務所には流石にまだ報告は出来ません。私が18になれば出来るかもしれませんが、その時までに私のアイドルとしての地位が揺るぎないものでないといけません。でもまだ時間はありますし、心強いプロデューサーさんも一緒なんですから、きっと出来ると信じてます。

 

「……プロデューサーさん、お願いしてもいいですか?」

「ああ、いつもの?」

「はいっ、お願い出来ますか?」

「それくらいはお安いご用だよ」

 

 プロデューサーさんはそう言って笑うと、鍵盤に指を添えてキレイな音色を響かせました。

 私はプロデューサーさんが演奏するピアノが大好きなんです。優しくて、その優しさに包み込まれるようで……心が温かくなるんです。

 

 プロデューサーさんは音大を卒業していて、元は音楽の教師か自分でピアノ教室を開こうと思っていたみたい。

 でも現実はそう甘くなく、卒業後はピアノ教室のアルバイトで生活していたんだそうです。

 そんな時に事務所からスカウトされ、プロデューサー業のノウハウも習い、ボイストレーナーもこなせるプロデューサーとしての人生を歩み出し、そんなプロデューサーさんの目に私が留まったということです。

 

 人生の厚みが違う……私みたいな若輩者が言うのは間違ってるかもしれませんが、プロデューサーさんのピアノはそんな色んな経験からくる、温かい音色なんです。

 だから聴いてて、落ち着くのかも。

 

「プロデューサーさん……」

 

 まだ演奏の途中なのに、私はプロデューサーさんの隣に腰掛けて声をかけます。

 するとプロデューサーさんは演奏する手を止めることなく、「どうした?」と訊ねてきました。

 

「私、プロデューサーさんに出会えて良かったです♡」

「何を今更……というか、演奏の度に言うんだね」

 

 私の言葉にプロデューサーさんの笑みは深みを増します。言葉では呆れてるようなことを言っているのに、そんな表情をするんですからズルいです。

 だから私は調子に乗って、今度はプロデューサーさんの肩に頭を預けちゃうんです。

 

「何度言っても足りないんです。プロデューサーさんがあの日、私の演奏を聴いて、私をスカウトしてくれなかったらと思うと、怖くて仕方ないんですから」

「………………」

「怖くて怖くて……想像しただけで体中が震えてしまって……だからそんなことはないのだと実感したくて、プロデューサーさんに出会えた喜びを伝えているんです、きっと」

「実はあの日、僕は途中で帰ろうと思ってたんだ」

 

 プロデューサーさんの言葉に私は「えっ」と驚いて、プロデューサーさんの顔を見つめました。

 でもプロデューサーさんは変わらず優しい笑顔のまま、鍵盤に指を滑らせています。

 

「丁度仕事の電話が掛かってきててね。ホールをあとにしようとした瞬間、ゆかりのフルートの音色に足を止めた」

「…………」

「そんな素敵な音色を奏でる天使は誰なんだと電話を切ってステージを見た。でもそこには天使じゃなくて女神がいたんだ」

「…………♡」

「だから演奏が終わった時に、すぐに事務所に電話した。逸材を見つけたと。そして必ず自分でプロデュースしてトップアイドルにするって」

「……もう♡」

「だから僕たちの出会いはフルートに感謝しないとね」

「はいっ♡」

 

 私は笑顔で返事をし、またプロデューサーさんの肩に寄り添いました。そして自分の手にずっと持っていたフルートをそっと優しく撫でながら、大好きな人のピアノを堪能しました。

 

 ―――――――――

 

「すっかり遅い時間になってしまったね。ちゃんと親御さんに連絡したかい?」

「事前に今日は遅くなるって伝えてあります。それにまだ夜の8時ですから、遅い時間とは言えません」

 

 フルートを習っていた時は私のワガママで9時過ぎまでやってましたから。それに東京は明るいし、夜でも人はたくさんいますからそんなに怖くありません。

 何より頼りになる大好きなプロデューサーさんが送ってくれますし♡

 

「この歳で夜更かしを覚えるなんて、感心しないな」

「ふふ、ちゃんと夜は寝てます。あ、でも卯月さんとか李衣菜さんとかと電話してて朝になってる時はありますね♪」

「はは、青春だねぇ。僕には徹夜なんて拷問でしかないよ。仕事がある場合なら仮眠しながらやるけど、それ以外なら夜は寝ちゃうね」

「じゃあ、朝まで私とラブラブえっちは出来ませんね。残念です」

 

 私がそう言ってわざとらしくしょんぼりして見せると、プロデューサーさんが「ぬっ!?」なんて謎の言葉を叫びながら驚いてました。いつものプロデューサーさんと違ってなんか可愛らしい。

 

「ラブラブえっ……なんだって?」

「ラブラブえっちです。愛海ちゃんと美里さんから聞きました。ラブラブなカップルはそういうことをするものだと」

 

 私が教わった通りのことを説明するとプロデューサーさんの笑顔が深まり、でもとても黒くなりました。細まる目もどこか怒りが混じっているように見え、私は彼をいつの間にか怒らせてしまったと焦り、急いで謝罪したんですが―――

 

「ああ、大丈夫。ゆかりは何も悪くない。でもその二人の担当プロデューサーにはほうふ……報告しとこうかな。僕の女神に悪魔の囁きをするとはいい度胸だ、と」

 

 ―――プロデューサーさんはくつくつと喉を鳴らしました。

 

「さ、車に行こう。帰る途中でどこか食事でもして帰ろう」

「はいっ♡」

「何かリクエストはあるかな? 僕のシンデレラ」

「あう……それやめてください。恥ずかしい……」

「はは、ごめんね。ゆかりを僕に首ったけにしたくて、つい柄にもないセリフを吐いて」

「そ、そんなことありません。プロデューサーさんはとっても素敵な男性です。私にはもったいないくらい」

「その言葉がどれだけ僕の心を弾ませるか、ゆかりはちゃんと理解して言ってるのかな?」

 

 そう言うと、プロデューサーさんは私の左手を取って、手の甲にキスを落とします。流れるような自然な動作に私は息を呑み、キスされたと実感した瞬間に体が沸騰したように熱くなってしまいました。

 きっと今の私の顔は夜でもハッキリと分かるくらい、赤くなっているでしょう。

 

「プロデューサーさんっ」

「その顔が見れたなら、仕返しは成功だね。驚かされたから悔しかったんだ」

「もう、プロデューサーさんの意地悪」

「元はといえば、ゆかりが二人の言葉をちゃんと理解しないまま僕に言ったのが悪い。次からはちゃんとどんな意味を持つのか調べてから使うんだよ?」

 

 プロデューサーさんはニコッと笑ってから、私の髪をその細くて長い指で梳きました。私はそれが嬉しくて、いつまでもやっていて欲しいという理由でただプロデューサーさんの目を見つめていると―――

 

「本当に、ゆかりは可愛くてこのまま攫って行きたくなるよ……ちゅっ」

 

 ―――不意にプロデューサーさんが私の髪を一房取って、そこへまたキスを落としました。

 私はまた自分の顔が熱くなっていくのを感じながら、激しくなる心臓の音を聞きながら、うっとりとプロデューサーさんの胸の中に顔を埋めます。

 どうして私の気持ちを良くすることばかりするのか、どうして私の心が弾むことばかりしてくるのか、好きという気持ちが胸いっぱいになった私は―――

 

「私もプロデューサーさんに攫ってほしいです♡」

 

 ―――つい、感じたままの言葉を口にしていました。

 プロデューサーさんは黙っていましたが、私の背中に回した両手の力がこもるのと、息を呑んだ音が聞こえしました。

 

「……今日、ご両親にアイドル寮に宿泊するって伝えてくれないかな?」

「いいですけど、どうしたんですか?」

「シンデレラの望みを叶えようかと思って」

「それって……っ!」

「ただ、僕も男だ。口では気障なこと吐いてても、やることは狼と変わらないよ?」

「食べられちゃうんですか?」

「…………まだ僕のシンデレラには早いかな。まあ焦る必要もないし、今夜は一晩中キスして過ごそうよ」

「嬉しいっ♡ すぐ親に連絡しますねっ♡」

 

 そして私は親に連絡し、プロデューサーさんのマンションにお泊まりしました。親には嘘を吐いてしまいましたが、いつか必ず本当のことを伝えようと思います。

 ただ、今だけは……大好きな人との甘い時間に溺れたいと思います♡―――

 

 水本ゆかり*完




水本ゆかり編終わりです!

いつもの天然節はちょっと薄めですが、こんな感じにしました♪

お粗末様でした☆

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