相川千夏編
私は読書が好き
自分の知らない世界に触れ
そのストーリーの一員になった気がするから
そんな私を本当の意味で
知らなかった世界に連れ出してくれた人がいる
その人は―――
―――――――――
「ふぅん……ここがプロデューサーさんが私にオススメするカフェなのね」
「あぁ……確か"フランスの街角にあるシックなカフェ"ってコンセプトなんだそうだ。席はどれも個室のテーブル席でカップルは勿論、仕事やその打ち合わせとかにも適してるんだ」
―――私をアイドルにしてくれた、このプロデューサーさん。
プライベートでは三ヶ月くらい前から彼氏彼女なんだけど、仕事の時もプライベートの時も私たちの態度はあまり変わらない。
そもそも私自身があまり感情を面にしない質だし。
「今日は久々に午後からはオフだ。ゆっくりしてくれ」
「えぇ、お言葉に甘てるわ」
プロデューサーさんが言うように午後は久しぶりに完全オフ。
午前中は都内で雑誌のインタビューを受けて、その足でこのカフェに連れてきてもらった。
こういうさり気ないサプライズって今までされたことなかったから、ちょっとだけ喜んじゃったわ。
恥ずかしくて本人には直接言えないけど……。
―――――――――
私はブレンドを頼み、プロデューサーさんはこのカフェ特製のセイロンティー。
私はコーヒーならブラック派で紅茶も無糖派だけど、プロデューサーさんはコーヒーだろうと紅茶だろうと必ず砂糖とミルクを入れる。
好みも性格も私たちは正反対。
なのにどうして彼は私に惹かれ、私は彼に恋をしたのかしら。
それは恋人の関係でいられる不思議が面白くて、彼がこれから私に見せてくれる景色が楽しみで、私は無意識の内に彼の隣にいたいと思ってるということなのでしょうね。
そもそもアイドルとプロデューサーが恋人関係になるだなんて、小説の世界みたい。
彼は私にどんなラブロマンスを見せてくれるのか、それともラブコメディなのか……毎日が新鮮で楽しくて仕方ないわ。
こんなことを思ってる私は変わり者なんでしょうけど、そんな私をアイドルにした上に告白までしてくれたのだから、プロデューサーさんも相当な変わり者。
あら?
そう考えると私たちは変わり者同士で恋人関係なのよね?
「…………ふふふっ♡」
「その小説、そんなに面白い?」
知らない内に声に出して笑っちゃってたみたい。
でも別に知られて恥ずかしいことではない。
「小説で笑ったんじゃないの。プロデューサーさんのことを考えてたら、ついね♡」
「え……俺? なんか千夏に笑われるようなことしたかな?」
ネクタイは曲がってないし、もしかして寝癖?――なんて見当外れなことを言いながら、プロデューサーさんは色んな表情を浮かべてあたふたする。
そんな彼を見ていると、胸の奥が心地よい熱を帯びてきて、『嗚呼、私はこの人が好きなんだ』って実感してしまう。
フランスの作家でクロード・アネはこう言ってる―――
恋人を選ぶ…なんてウソ。いきなりわが身に降りかかってくるものだ。
―――と。
本当にその通りで事実は小説よりも奇なりとはよく言ったと思う。
当事者になると本当にそう思うのだから面白い。
「別に変なところなんてないわよ。可笑しな失敗もしてない」
ただ私が―――
「あなたと同じ時を過ごせて幸せだと感じて、笑みがこぼれたの♡」
―――あなたに恋をしている。ただそれだけ。
「な、なんだよ……そういうことか。良かった……」
「ふふっ、プロデューサーさんってコロコロ表情が変わるから見てて飽きないのよね……小説なんかよりあなたを見つめている時間の方が、今の私には有意義みたい♡」
「や、止めてくれよ……恥ずかしいから……」
私よりも大人なのにプロデューサーさんは小さな男の子みたいに照れて、顔を赤く染める。
そういうところが見ていてまた面白いのよね♡
「プロデューサーさん……♡」
「?」
「
「???」
「なんでもない……ふふふっ♡」
あのキョトンとした顔……
人と付き合って分かったことだけど、私って案外好きな人には意地悪しちゃう質みたい。
現にプロデューサーさんがあたふたしてるところを見ると楽しくなっちゃうのよね。
―――――――――
あれから何分経ったのだろう。
プロデューサーさんとは特に会話も無いまま、ただただお互いに手を握り合って、お互いの顔を眺めていた。
完全個室だから今だけはただの相川千夏とこの人だけの世界で、ペンダントライトの落ち着いた光が私たちを照らしてる。
いつまででもこのままでいられるけど、流石にこのままではせっかくのオフが勿体無く感じてしまう。
こんな風に私を感じさせるのも、全部はこの人のせい。
だからまたちょっと意地悪しちゃいましょう♡
「ねぇ、プロデューサーさん?」
「ん?」
「来年の夏に、旅番組のロケでフランスへ行くでしょう?」
「あぁ、企画が通ったからな。千夏の他にもリアクションがうるs――豊かなフレデリカと唯、バランサーとして千秋とあいも一緒だ」
「今サラッとフレちゃんたちのことうるさいって言おうとしてなかった?」
私の指摘にプロデューサーさんは目を逸らしてわざとらしく口笛を吹く。
まあそれについてはこれ以上責めないであげる。
本題はここから♪
「それで、プロデューサーさん? フランス語の勉強の方はどうなの? 通訳の人は同行してくれるけど付きっきりって訳じゃないから、その分はプロデューサーさんが補うってことだったわよね?」
「うぐっ!?」
分かりやすい反応♡
「自分で言うのもなんだけど、私フランス語は読めて書けるってだけで、話す方は不得意なのよね」
「…………」
「それに、プロデューサーさんが言い出しっぺなのよね? "彼女に頼りっきりじゃ男が廃る"って言ってフランス語を勉強するって」
「………………」
「あの時のプロデューサーさん、格好良かったのになぁ」
「……………………」
押し黙っちゃって……♡
私より年上なのにこういう子どもっぽい反応を見せるから、そんな反応が可愛いから私もつい意地悪しちゃうのよね♡
現に今も私はプロデューサーさんの頬を軽く指で突いて遊んでるし♡
「どうなの? 進んでないなら進んでないって正直に言ってもいいのよ? 私は別にそんなことで怒らないもの。まだまだ時間はあることだし」
「ふ、フレデリカの担当プロデューサーに頼んで、フレデリカのお母さんを紹介してもらって仕事の合間に少々……」
「不倫は文化じゃないわよ?」
「してないから! そもそも俺は千夏一筋だから!」
「……よくそんな恥ずかしいこと真顔で言えるわね♡」
ちょっと……いや、すごく嬉しいけど♡
「恋人にやましい男だって思われたくないだけだ」
プロデューサーさんはそう言うと、拗ねたように私から顔を背ける。
ちょっと意地悪し過ぎちゃったわね。反省。
「心配しなくても軽い冗談よ。あなたからはいつも私に対する気持ちを感じてるから♡」
「冗談でも、そんな冗談はよしてくれ……」
「ごめんなさい♡」
お詫びに今度美味しいサンドイッチを作ってあげましょ。前に作ってあげたらすごく喜んでくれてたし。
「……まあ、とにかくだ。ちょっとは勉強してる」
「なるほどね……なら、どうして私が言った言葉が分からなかったの?」
「…………習ってない」
「っ……うふふっ、そう。なら分からないわよね……ふふふっ♪」
何、その可愛い反応……思わず抱きしめたくなっちゃったじゃない♡
「そ、そんなに笑うことないだろ? 俺だって仕事があって、その合間に――」
「――知ってる。ちゃんと理解してるわ。あなたがどれだけ私のことを考えて仕事をしてくれているか……ずっと側で見てきたんだもの」
「な、ならいい……」
今度はまた照れちゃった。耳まで真っ赤にして、可愛いわ♡
「これまで習ってきたことは?」
「挨拶と道の尋ね方と金額の尋ね方……あとは意味はまだ教わってないんだけど、なんかしらの言葉を教わったな」
「ふぅん、なんて言うの?」
無難に"美味しい"とか"ありがとう"とかかしら?
「えっと……
「っ!?」
え……!?
「
やられたわ……流石フレちゃんのお母さんってとこかしら。
発音も完璧で徹底的に教え込んだんでしょうね……フレちゃんから私たちの関係を聞いて……。
「プロデューサーさん、その言葉の意味、分かる?」
「え、なんか知らなきゃヤバい言葉なのか?」
「知らないのね……」
まあ、知ってて言われたらそれはそれで問題ね(いい意味で)。
さっきも何気なく言われただけで、私の胸は幸せではち切れそうになっているんだもの。
「……知らないなら知らないでいいわ。次に教わる時に教えてもらえばそれでいいから」
「そうなのか……良かった……」
「じゃあ、私からも1つ教えてあげるから、今から言う言葉をフレちゃんのお母さんから意味を教えてもらって」
「お、なんだなんだ?」
目を輝かせちゃって……その分あとでどんな顔を見せてくれるのか楽しみね♡
「
「………………千夏の笑顔が素敵過ぎて覚えられない」
「もう……じゃあメモしてあげる♡」
「ありがとう」
こうして私たちはそのあとも暫くカフェで落ち着いた時間を過ごした。
私の方は言わされてるにしても好きな人からプロポーズされて、恥ずかしいことにずっと浮かれてたわ。
さて、プロデューサーさんはどんな顔を見せてくれるのかしら?
今から楽しみで仕方ない――。
相川千夏♢完
相川千夏編終わりです!
うわキツ……は置いといて、千夏さんはちょっと大人っぽくも可愛らしい感じにしました!
お粗末様でした☆