デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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ち……ウサミン星から東京に通ってる設定です。


安部菜々編

 

 私は怖がりだ

 

 周りが目まぐるしく変わる中

 

 私ひとり

 

 自分の夢にすがるしかなかったから

 

 無理にキャラを作って

 

 無理に年齢を偽って

 

 虚しさに押し潰されそうだった

 

 そんな私を導いてくれた

 

 魔法使いさんとの出会いが

 

 私を変えてくれた

 

 ―――――――――

 

「は〜い、ラジオの前の皆さんこんにちは! わたくし安部菜々がメインパーソナリティを務める『ウサミン星☆通信☆』のお時間ですよ! キャハッ☆」

 

 ナナは今、声優アイドルとして自分の看板番組を持てるほどになりました。

 若い子に合わせたりするのはかなりしんどいけど、こうしたラジオ番組が出来て本当に幸せ!

 諦めなくて良かったって毎回思える瞬間です!

 

「ではでは〜、早速リスナーの方からナナへの質問コーナー! まず初めのメールは……ラジオネーム:ポテト大好きさん『ウサミンは何故いい歳なのに永遠の17歳なんですか?』……って、なんですかこの質問は!?」

 

 ナナのツッコミにスタッフさんたちみんなしてガラスの向こうで笑ってる。

 まあこの雰囲気もいつも通り。

 何故ならナナはもう世間に実年齢も晒して、その上で『永遠の17歳』と言ってますからね!

 

 どうしてナナがこれだけ自分のことをさらけ出しているのかというと、ナナ専属のプロデューサーさんが今後の私のためにって雑誌やテレビで暴露話企画を行ったからです。

 ナナは最初猛烈に嫌がったんですけど、プロデューサーさんの熱意に負けて実行した次第でして……。

 でもそのお陰でナナはもっと人気になれたんです!

 

 芸能関係の方々からは『あそこまで自分を貫いててすごい!』って声が多くて、ファンの方々からは『そんなウサミンを応援してる!』って言ってもらえて……本当にナナは幸せ者です。

 それもこれも全部プロデューサーさんのお陰なんですけどね♪

 

 ―――――――――

 

「お疲れ様でした〜♪ ありがとうございました!」

 

「お疲れ様ー」

「また来週もよろしくねー」

 

 無事にラジオの放送を終えたナナはスタッフさんたちに挨拶して、帰り支度をしてスタジオをあとにしました。

 すると、

 

「お疲れ様でした、安部さん」

「あ、プロデューサーさん♡ いつもお迎えありがとうございます♡」

 

 スタジオの外でプロデューサーさんが待っててくれました。

 いつもはナナのお仕事にはプロデューサーさんも同行してくれるんですけど、今日は次のお仕事の打ち合わせで一緒じゃなかったんです。

 でもでもプロデューサーさんはどんなに忙しくても、必ず車でナナをお迎えに来てくれます。

 遅れる場合はちゃんと連絡してくれるし、着いたら着いたよってメールを入れといてくれるし、本当に頼りになるプロデューサーさん。

 

 そんなプロデューサーさんですが、ナナは最近困ってることがあるんです。

 それは―――

 

「いえ、愛するあなたが心配ですので」

「っ……あ、ありがとう、ございましゅ……♡」

 

 ―――ナナを本物のお姫様みたいに扱ってくれるからウサミン星の仮面が剥がれて、ナナはただの女の子になっちゃうからです♡

 

 ファンの方々には申し訳ないなって思ってますが、ナナだってお仕事外では普通の女の子で、ナナの夢を叶えてくれたプロデューサーさんと今では恋人同士なんです。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 それはほんの1年ほど前のこと。

 私がアイドルになり立てで、今後の活動をどうするかプロデューサーさんと話し合ってた時のことです。

 

『そ、そんなのいくらプロデューサーさんの提案でも出来ません! ナナのアイデンティティが消えちゃいます!』

 

 プロデューサーさんはナナに『今後のために全てを暴露しましょう』と言ってきました。

 当然ナナは嫌でした。この()()でずっと来てたのに、路線変更だなんて到底無理だと思ってたから。

 

『これは路線変更の提案ではありません。あなたがもっと輝くために必要なことなんです』

『もっと輝くため……』

『そうです。確かにあなたにとって今あるウサミンという事柄はあなたの魅力の1つです。ですから私はそんなあなたをプロデュースしたいと思ったのですから』

『…………』

『何度も言いますが、路線変更を促しているのではありません。世間にあなた……安部菜々というアイドルを知ってもらおうってことを提案してるのです』

『…………ファンとかお仕事がなくなっちゃったら?』

『そうさせないために私があなたをプロデュースしてるんです。信じてください。あなたはデビューするだけで満足していい人じゃない……もっともっと輝けるんです』

『……プロデューサーさんを信じます!』

 

 結果、ナナは雑誌やテレビ番組で赤裸々告白をしました。

 もともと実年齢は事務所とかには素直な数字を言ってあったのですが、ファンの方々や事務所のアイドル仲間の子たちにはかなりの衝撃を与えてしまいました。薄々勘付いていた方もいたでしょうけどね。

 でもプロデューサーさんのお陰で、等身大の安部菜々になれて、『永遠の17歳』を体現するアイドルとしてみんなに認めてもらえたんです。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 そんな人を好きになるなって言う方が難しい話なんですよ。

 だからナナは何度も何度もプロデューサーさんに迫りました!

 ウサギだってライオンを狩るのに必死になることだってあるんですからね!

 

 そしてそんなナナの願いがウサミン星に届いて半年前から事務所の人たちには内緒でプロデューサーさんとお付き合いしちゃってます♡

 でもプロデューサーさんは本当に恥ずかしい台詞を涼しい顔で言うから困ってるんですよ……幸せな悩みですけど♡

 

「今日はこのあとレッスンもお仕事も予定にありませんが、今度のお仕事は地方でロケになりましたので、お疲れのところ申し訳ありませんがこのままロケ地の下見に行きます」

「分かりました♡」

 

 下見……それは表向きの話でナナたちにとってはデート出来る絶好のチャンス♡

 だからナナはとても弾んだ声でお返事しちゃいました♡

 いつこうなってもいいように毎日かわいい下着も身に着けてるし、ホテルでもなんでもバッチコイ!

 

「今度のお仕事ってどういう内容なんですか?」

 

 でもその前にちゃんとお仕事の話は聞かなきゃ。

 ナナの質問にプロデューサーさんは「こちらに概要書があります」と言って、概要書を見せてくれました。

 

 今回のお仕事の内容とは―――

 

「……『ウサミン星の真実! ウサミンはここから始まった!』ってなんですかこの企画!? しかもロケ地ナナの実家なんですけどぉっ!?」

 

 ―――まさかの実家訪問のテレビ番組のお仕事。

 

「はい、今回はファンの皆さんたちにウサミン星を知ってもらう企画です。ご実家訪問の前に先日千葉県の観光大使にもご指名されましたので、千葉県知事からの任命式とその時の会談場面も番組内で放送する予定です」

「えぇぇぇぇっ、聞いてませんよ!?」

「打ち合わせ中に連絡がありましたので……それに断らないですよね?」

「そ、それはまあ、嬉しい限りですけど……メールでもいいから知らせといて欲しかったです」

「では次からそうしますね。あなたに悲しまれると私も悲しくなりますから」

「っ……も、もう、またそうやってぇ……♡」

 

 そんなこと言われたらもう何も文句言えないですよ♡

 

「あれ……そういえば、実家訪問企画って何をするんですか? こう言っちゃうとあれですけど、私の実家の周りってそんなに観光スポットないですよ?」

「観光スポットなんていりませんよ。小さい頃遊んだ場所やよく行ってたお店、通った学校などなど、安部さんのこれまでの思い出を語って頂くのがメインですから」

「あぁ、なるほど……」

「それに安部さんのご両親の許可を得て()()()1()7()()の頃のお写真もテレビの前の皆さんへお送りします」

「あぁ……ですよね〜。薄々そういうことやるんじゃないかって思ってました」

「ふふふ、流石は安部さんですね。私のプロデュース内容をよくご理解してくれていて嬉しいです」

 

 どうしてこんなに幸せそうに笑うんだろう……ナナまで幸せな気持ちになっちゃうじゃないですか♡

 

 でもこの時のナナは思ってませんでした。

 まさかあんなことになるなんて……。

 

 ―――――――――

 

「まさか菜々が彼氏を連れてくるなんてねぇ♪ アイドルになったかと思えばどんどん女の階段を登って……お母さん嬉しいわ♪ ね、お父さん?」

「そうだな……もう定職にも就けず嫁の貰い手もないんだと思ってからな」

 

 ナナは今、両親の前で縮こまってます。

 あの時デート出来ると浮かれていた自分を引っ叩きたい気持ちです。

 

 実家訪問ロケの下見……即ちプロデューサーさんがナナの両親に会うということでした。

 しかもプロデューサーさんったら「娘さんをプロデュースし、更に将来も約束させて頂いております」なんて堂々と言っちゃったから、うちの両親はもう宴会騒ぎ。

 まあ、それだけナナが心配させちゃってたのも悪いんですけど……でもこの状況は恥ずかし過ぎる!

 

「娘さんとの出会いは本当に運命的でした。周りが彼女を放っておいてくれたから、こうして私が娘さんと出会えたのです」

「ぷ、プロデューサーさんっ」

 

 そんなペラペラと恥ずかしいこと言わないで!

 心がぴょんぴょんしちゃうから!♡

 

「うんうん、良かったわね、菜々!」

「それで式はいつを予定しているのかね?」

 

 式って……けけけ、結婚式だよね?

 ひゃわ〜! 無理無理! まだ心の準備がががが!

 

「式の予定はまだ未定です。申し訳ありません」

 

 あれ?

 

「なんだ、まだなのか」

 

 うわっ、お父さん明らかに不満そう……。

 

「はい。私はまだ彼女との約束を果たしていません。彼女を日本一の声優アイドルにするという約束を」

 

 プロデューサーさん……。

 

「この約束もいつ果たせるのか明言出来ません。しかし、必ず……必ず娘さんを誰もが知る立派な声優アイドルにします! 結婚はそれからなんです! ですから、もう少し猶予をください!」

 

 プロデューサーさんはそう言うと畳におでこを付けてまでナナの両親に頭を下げました。

 そしてナナもいつの間にかプロデューサーさんと一緒に頭を下げてました。

 

「そこまで心を決めていてくれているなら、私たちからは何も言うことはない。娘をよろしく頼む」

「菜々、プロデューサーさんの言うことをちゃんと聞くのよ? それとプロデューサーさんに飽きられないように! しがみついてでも離したらだめよ?」

 

「あ、それは大丈夫ですお義母様。私は娘さんにしか興味がありませんので」

「プロデューサーさんっ!」

 

 ―――――――――

 

 そしてナナたちはその日の晩、流れで実家に泊まることになりました。

 お母さんが気合いを入れてうな重とかスッポン鍋とか作ってくれたけど、かなり恥ずかしかった。

 

 でも―――

 

「親御さんにも認めてもらえましたし、これからは"安部さん"なんて呼ばず、"菜々"と呼ぶことにします」

「は、はい♡」

「まだまだ夢の途中ですが、必ず二人で夢を叶えましょう。そうしたら私のお嫁さんになってください」

「……はい、勿論です♡」

 

 ―――その日の晩はこれまで過ごしてきた夜の中でも一番素敵な夜になりました♡

 

 安部菜々*完




安部菜々編終わりです!

ウサミンには幸せになってほしいなぁといつも思ってるので、こんな感じにしました!

お粗末様でした☆

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