小さな頃からバレエ一筋だった
踊るのが楽しくて
上達するのが嬉しくて
バレエに夢中だった
でも
私はいつしか
楽しく踊れなくなっていた
そんな私に
バレエ以外の楽しみをくれた方がいました
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「ん〜、温泉気持ち良かったですね、プロデューサーさん♪」
「ゆっくり出来たのなら良かったよ」
今日私は専属のプロデューサーさんと電車でとある温泉旅館に来てます。
お仕事ではなく、オフを利用して二人きりで……。
どうして私がプロデューサーさんと二人きりで温泉旅館に来ているのかというと、一泊二日のお泊りデートだから、です♡
先日に大きなライブハウスでのライブが成功したお祝いで、連れて来てもらいました♡
朝から電車に乗って、風景を楽しみ、途中下車して観光をしたり写真を撮ったりしながら♡
あ、勿論、母親にちゃんと許可を得てですよ?
母親にはちゃんとプロデューサーさんとお付き合いしていることをお話ししてますし、母親も私たちを応援してくれています。
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―――
私がプロデューサーさんに恋をしたのはいつなのかはハッキリと覚えていない。
だってプロデューサーさんと初めて会った時から緊張も何もしなかったから。
プロデューサーさんも落ち込んでる私を見て思わず声をかけちゃったみたいで、そんなプロデューサーさんの優しさに私が甘えて、バレエについて愚痴をこぼして、そしてプロデューサーさんは私に『アイドルにならないか?』って提案してくれた。
その時のアイドルのお話をするプロデューサーさんがとてもキラキラと輝いて見えて……この人が見ている夢を見てみたい、って思ってからアイドルになることを決意した。
アイドルのレッスンはバレエのレッスンと似ているようで全然違う。
笑顔は作るのではなく、自然に。
歌声は透き通るようにではなく、楽しませるように。
トレーナーさんから沢山注意されたけど、今までとは違う自分を見つけられるのが楽しかった。
そして何より、新しいことを覚える度にプロデューサーさんも同じように喜んでくれることが嬉しかった。
―――
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それから次第に私は自分の恋心にも気づき、今に至ります。
バレエ一筋で、今までバレエが恋人みたいな人生でしたけど、本当の恋人が出来た今はとても幸せです♡
「今日の綾瀬はよく笑うな」
「ふふふ、だって幸せですから♡」
「連れて来た甲斐があるよ。協力してくれたお母さんにも何かお土産を買ってかないとな」
「はい、父親には『アイドル仲間と一緒に温泉に行ってる』ってことにしてもらってますから♪」
でも一応は周りの目に注意しないといけません。
だからお部屋に戻るまでは"ぎゅう"も"ちゅう"も我慢です!
「ほら綾瀬、こっち」
「っ……はい♡」
プロデューサーさんから手を握られちゃいました♡
しかもさり気なく自然に!♡
流石は私のプロデューサーさんです!♡
「プロデューサーさん……♡」
「まあ、これくらいなら、な?」
プロデューサーさんは小声で言ってから、私にいたずらっ子のようにウィンクをしました。
すると私の胸は嬉しさが爆発したかのように、ずっとドキドキと鼓動を刻んでいました。
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「おぉ、すごいなぁ」
「わぁ、豪勢ですね」
部屋に戻ってから少しすると、旅館の方々が夕食を運んできてくれました。
海の幸に山の幸、彩り豊かなお料理を前に私たちは思わず感嘆の声をもらします。
そして旅館の方々が部屋をあとにすると、
「はい、あなた……なんて♡」
私はついつい新婚さんみたいにお酒の入ったとっくりをプロデューサーさんに見せました。
「お、おぉ、ありがとう……ほ、穂乃香……」
「っ……ふふ、ふふふ♡」
「はは、ははは」
可笑しくして思わず二人で笑っちゃいました♡
でもそれもまた幸せで、私は『あぁ、自分はこの人のことが好きなんだなぁ♡』ってつくづく思います。
「こんなとこファンに知られたら俺は殺されるだろうなぁ」
「そんなの嫌です!」
「言葉の綾だよ」
「それでもそんなこと言わないでください……」
プロデューサーさんと会えなくなるなんて、そう考えただけで、私……。
「ほらほら、綾瀬」
「?」
落ち込む私の顎を持ってプロデューサーさんは優しくクイッとあげさせると―――
ちゅっ♡
―――次の瞬間、私にちゅうしてくれました。
私は最初こそ驚きましたが、すぐにプロデューサーさんの背中に両手を回して私なりに一生懸命気持ちをお返ししました。
「……はぁ、ご機嫌は直ったかな?」
「…………はい♡」
「まあ、この先どうなるかなんて誰にも分からない……でも俺は綾瀬をアイドルとしてもっともっと輝かせる。それまでは何が何でも死なないよ」
「その先も死にません! トップアイドルになっても、私はプロデューサーさんとずっと一緒で、おじいちゃんおばあちゃんになっても一緒にいるんです!」
「言うようになったな」
「夢を見せて、その夢を実現してくれる方が側にいてくれますから♡」
「頑張るよ」
「私も頑張ります♡」
だから、今は……今だけは―――
「綾瀬穂乃香というひとりの女の子を愛してください♡」
―――ごっこでもいいから、あなたのひとりの女の子として寄り添いたいです♡
「…………本当、綾瀬は積極的になったな。酔ってないのにもう顔が熱いよ、俺」
「むぅ、綾瀬じゃなくて名前で呼んでください」
「ほ、穂乃香……」
「どうしてどもるんですかぁ」
「は、恥ずかしいんだよ……こういうの」
「むぅ、むぅむぅ!」
「わ、分かったから、そんな拗ねるなよ」
「じゃあ改めて、どうぞ♡」
「穂乃香……もう一献くれないか?」
うわぁ……自分からおねだりしといてなんですけど、とても恥ずかしい。
でもとってもとっても嬉しい!
それに真っ赤になってるプロデューサーさんも可愛い♡
「はい、あなた♡」
「……穂乃香には敵わないなぁ」
こうして私たちは新婚さんごっこしながら、幸せな夕食を頂きました♡
―――――――――
あれから二人でもう一度温泉に入りに行って、部屋に戻ってくると―――
「お、おぉ……」
「はわぁ……」
―――お布団が2組隙間なく敷かれていました。
それはそうですよね。だって若い男女が同じ部屋に泊まるんですから……♡
「す、少し離そうか」
「私はこのままでも……」
「いやぁ、でも流石にこれは……」
「あなたは私の隣で寝たくないのですか?」
「…………その訊き方ズルくね?」
「さぁ、なんのことでしょう?♡」
「手は出さないから」
「出してくれてもいいですよ?♡ 私は心構えは出来ています♡」
「ダメダメ! そういうのはせめて穂乃香が18になってからだ!」
「はーい♡」
こういう真面目なところもプロデューサーさんのいいところ♡
でも今夜の私は聞き分けのいい私じゃないですからね♡
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「なぁ、綾瀬さんや」
「……ふーんだ……」
「……穂乃香さんや」
「はい、なんですか、あなた?♡」
「何故それがしの布団の中にいるのでござりんすの?」
プロデューサーさんとても緊張してて、言葉遣いがこんがらがっちゃってますね……こういうのも可愛いかも♡
「夫婦ですから♡」
「いや、でもですね? これは流石にマズいんじゃないかと――」
「――何がそんなにマズイのですか?」
「いやだからその……ね?」
部屋の明かりが消えていても、プロデューサーさんのお顔が赤くなってるのが分かります。
だって私の手に伝わってくるプロデューサーさんの鼓動の音が、ドッドッドッて激しく鳴り響いてますから。
そう言う私も同じですけどね♡
「ほ、穂乃香……」
「どうしてそんなに可愛らしい声を出すんですか?」
「いや可愛らしいくは……てか本当に離れて」
「嫌です」
「くぅ……!!」
ぴくん♡
あら?
何か下の方で何かが……っ!?
ぴくんぴくん♡
「プロデューサーさん……」
「……殺してくれぇ」
「こんなになるんですね……♡」
「お、おい、穂乃香何を……はうっ」
「あ、痛かったですか!?」
「い、いやちょっとびっくりして……てか離して」
「嫌です♡」
「穂乃香……」
「私はそのつもりでお泊りデートに来たんです♡ 大丈夫ですよ、ちゃんとプロデューサーさんの部屋にあったご本でお勉強しましたから♡」
「うわお」
「私をプロデューサーさんだけのアイドルとしてプロデュースしてください♡」
「ほ、穂乃香ー!」
―――――――――
「……朝?」
うぅ、寒いっ。
「…………っ」
あれ、どうして私裸なの!?
チラッ
「ぐぉ〜……ぐぉ〜……」
「っ♡」
そうだ……昨晩私、プロデューサーさんと……♡
「でへへへ〜♡」
嬉しい……幸せ……♡
今でもズキズキと痛いところがあるけど、これも私がプロデューサーさんとひとつになれた証♡
プロデューサーさんは本当に私のことを大切に思ってくれてたけど、私はそれ以上にプロデューサーさんとの将来を真剣に考えてます。
だから普段の私とは違って、昨晩の私は積極的に誘ってしまいました♡
だって夢は欲張った方がいいってプロデューサーさんに教わったんですからね♡
ならああなってしまうのは仕方ないですよ。
「ぐぉ〜……むにゃむにゃ……」
「ふふふ、昨晩はあんなに男らしかったのに♡」
今はただただ可愛らしい♡
「プロデューサーさん、大好きです♡」
だからまた今度、お泊りデートに行きましょうね♡
私は寝ているプロデューサーさんに小声でつぶやくと、またプロデューサーさんの腕に抱きついて眠りました。
それからまた起きた時、プロデューサーさんはすごく顔を真っ赤にしてて、とても可愛らしかったです♡
そして私たちは次のお泊りデートの約束をしながら、仲良く旅館をあとにしました―――。
綾瀬穂乃香♢完
綾瀬穂乃香編終わりです!
穂乃香ちゃんはやる時はやる子なのでこんな感じにしました!
お粗末様でした☆