デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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伊集院惠編

 

 私はいつも自分を探して旅してた

 

 遠い異国や日本国内

 

 様々な景色や光景に感動し

 

 その都度自分を見失っていく

 

 私ハ何ガシタクテ

 

 私ハ何ガ楽シクテ

 

 生キテイルノダロウ

 

 考えれば考えるほど

 

 答えは見えなくなっていく

 

 そんな私を呆れもせず『素敵だ』と

 

 真っ直ぐな眼差しで言う人がいた

 

 ―――――――――

 

 ピンポーン

 

 とある縁でアイドルという未知の世界に足を踏み入れた私。

 感動を与えてもらう側ではなく、感動を与える側に立ってから、私の世界は初めて意味を得たように廻り出し、目まぐるしく変わり、そんな日々が楽しくて仕方ない。

 そんなアイドルの私は久々に貰ったオフの日にとあるアパートの部屋の前へやってきた。

 目的は―――

 

『は〜い……今出ま〜す』

 

 ―――この扉の向こう。

 

 ガチャ

 

「はいはい、新聞なんてうちはいりませんよ〜」

「新聞の勧誘じゃないわよ、プロデューサーさん?」

「え……うわぁ、惠!? な、なんだ!? なんで惠がここに!? もしかして何かのドッキリ企画とか!?」

 

 この慌てふためくのが私専属のプロデューサーさん。

 これでも私より5つも年上なのよ?

 でもこの通り、私が来ただけでこの有様。

 まあ黙って来ちゃった私のせいなんだけどね。

 

「別に何もないわよ。恋人に会いたくなったから会いに来ただけよ、私は」

「と、とりあえず中に入って!」

「きゃっ」

 

 バタン

 

 こういう強引なのもちょっと新鮮。久々にときめいちゃった♡

 当の本人はとてもご立腹の様子だけど。

 

「惠……来るなとは言わないよ。でもいつも言ってるよな? 来るなら来るで連絡しろって」

「会いたくなっちゃったの。気がついたら支度してプロデューサーさんの部屋の前に着いちゃったんだもの。仕方ないでしょう?」

「でも誰かに見つかったら……!」

「記者会見して、正式に付き合ってますって言えば済む話じゃない? 何もやましい関係ではないんだし……それに世間ではワイドショーとかに引っ張りだこでお仕事は貰えそうじゃない?」

「そんな風に惠を有名にしたくない!」

「…………じゃあ、どういう風に私を有名にしてくれるの?♡」

 

 私はプロデューサーさんに詰め寄って玄関の壁に追いやる。いわゆる逆壁ドンってやつかしら?

 でも私は聞きたい。この人が私をこの先どういう風にしようとしてくれているのかを……。

 

「…………正攻法でトップアイドルにする」

「その先は?」

「ぜ、全国ツアーライブする……」

「そのあとは?」

「………………」

「もう終わり?」

「…………ぷ、プロポーズする」

「へぇ、それから?♡」

「け、結婚記者会見する……」

「うん、それで?♡」

「け、結婚式を挙げる……」

「うんうん、そうしたら?♡」

「………………その先は惠と決めたい」

「っ……なるほどね♡ 悪くないわ♡」

 

 流石は私のプロデューサーさんね……私のツボをよく押さえてるじゃない♡

 ファンの人たちの中には怒る人もいるかもしれないけど、素晴らしいプランだと思う♡

 

 それなら私は―――

 

「私も頑張ってアイドルとして成長して、プロデューサーさんに最高の景色を見せてあげるわ♡」

 

 ―――それを実行して実現させるのみ。

 この人が描く景色を隣で見たいから。

 

 ―――――――――

 

 立ち話も終わって、私たちはリビングに移った。

 プロデューサーさんって私と付き合うまでは仕事仕事の生活だったらしいから、このソファーくらいしか家具らしい家具はなかったみたい。

 

 でも今は私がよく突撃訪問するから、ちゃんと寝室にベッドもあるし、ソファーの上にもクッションがあったり、テーブルもマットも買い揃えたらしい。

 そう考えると、私のために用意してくれたみたいに思えて、私はプロデューサーさんに特別扱いをされてるんだと変な優越感や幸福感が募る。

 それに本当に心がプロデューサーさんを求めてるから、オフの日は彼に会いたくなるのかもしれない……。

 

「お、お待たせ……」

「あら、わざわざ着替えてきたの? さっきみたいにジャージのままでも良かったのに」

「こ、恋人の前なのにジャージ姿じゃダメだろ……」

「そんなことないわ。プロデューサーさんの生活感を感じられて私は好きよ?」

「……け、結婚したら嫌でも感じられるんだから、恋人の内はいいんだよ」

 

 またそんなこと言って……ときめくじゃない♡

 

「なら、結婚してしまったあとはもう頑張ってくれないのね?」

 

 だから私もついイジワルしたくなる。

 私って自分で思ってたよりも好きな人にはイタズラしちゃって、その上で尽くされたい人間だったのかしら?

 これも彼とお付き合いして分かった自分。

 

「そ、そんなことないぞ! 仕事だってもっと頑張るし、海外旅行だって連れて行くし、変わらずに惠を愛するから!」

 

 ムキになっちゃって……カワイイ♡

 そういうことを言って私を喜ばすから、私も調子に乗っちゃうのよ。

 

「嬉しいわ……なら、これからはどんなことをしてくれるのかしら?♡」

「……ノープランです」

「ふふふ、知ってる♡ とりあえず朝食でもどう?♡ キッチンに入る許可をくれれば、私が作るけど?♡」

「お願いします!」

「はーい♡」

 

 目をキラキラさせちゃって、本当にカワイイんだから♡

 そういうところが私を夢中にさせるのよ……罪作りが上手い人ね♡

 

 ―――――――――

 

 こうして私はプロデューサーさんのために朝食を作った。

 作ったと言っても、キッチンに無造作に置かれたパンをお皿に乗せて、冷蔵庫に入ってた野菜でコンソメスープを作って、スクランブルエッグとベーコンを焼いたくらいだけど―――

 

「美味しい!」

 

 ―――プロデューサーさんはそれだけでも凄く喜んでくれる。

 そしてそれだけで私も心が満たされるのよね。

 

「それなら良かったわ♡」

「いやぁ、惠と付き合ってこんなに幸せなら、もっと早く返事をすれば良かったよ」

「待たされた分が悔しいから、あなたが後悔するようにうんと幸せにしてあげるって言ったでしょう?♡」

「……身に沁みてます」

「これからも覚悟してなさい♡」

「……了解」

 

 顔赤くしちゃって……本当に分かりやすいんだから。

 でもそれだけ私のことで頭をいっぱいにしてくれてる証拠だから、私も嬉しくてつい笑みがこぼれちゃう。

 

「惠はどこか行きたいところとかある?」

「どうして?」

「俺の部屋ってこの通り何もないからさ……今日はせっかくのオフだし、映画を観に行くとかショッピングに行くとかの方が有意義に過ごせるんじゃないかと……」

「外に出れば私はアイドルの伊集院惠になるしかない……例えサングラスや帽子を被っても。それでもプロデューサーさんは外でいいの?」

「俺は惠と同じ時間を過ごせるならなんでもいいから」

 

 曇りない、真っ直ぐな目。

 そしてどこまでも私のことを思い遣ってくれる優しさ。

 本当にこういう時ばっかり真面目な顔するのはズルいと思う。

 だから―――

 

「私はどこも行きたくないわ」

 

 ―――私はまたイジワルしたくなるの。

 

「えぇ、でも本当に俺の部屋は何もないんだよなぁ」

「あなたがいるじゃない」

「……え?」

「私は自分の意思であなたの部屋に来たの……つまり私にとってはもうお出掛けしてるのよ」

「な、なるほど……」

「だから私はこのままでいいの……私はあなたとそのままの私で過ごしたいから♡」

「わ、分かった……ありがとう」

「分かればよろしい……なんてね♡」

 

 そして私たちは暫く声を出して大笑いして過ごすのだった。

 

 ―――――――――

 

 朝食を終えると、プロデューサーさんがお皿とかを洗ってくれた。

 私がするって言ったのにプロデューサーさんは今度は自分が、って言ってさっさと洗い物を始めちゃった。

 

「プロデューサーさん、まだ〜?」

 

 私寂しい〜。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。てか今始めたばかりなんだが?」

「だって寂しいんだもの〜」

「な、ならこっち来る?」

 

 あ、行ってもいいんだ♡

 

「なら、遠慮なく♡」

 

 私はソファーから立ち上がると、プロデューサーさんのところへまで行って、そのままプロデューサーさんの背中に抱きつく。

 なんかこうしてると落ち着くのよね。どうしてなのかは分からないけど。

 

「ん、プロデューサーさんの匂い……」

「息が熱い……」

「わざとやってるからね♡」

「本当に惠はいたずらっ子だなぁ」

「飽きないでしょ?♡」

「いつも驚かされてばっかりだよ」

 

 私だってプロデューサーさんの言動にはいつも驚かされたり、ドキドキさせられてるんだけど?

 私の気持ちを落ち着かせるのも、乱すのも全部プロデューサーさんなんだから。

 

「それで、結局どうするんだ? 本当に何もないぞ?」

「私はあなたで遊ぶから平気よ♡」

「俺はおもちゃかよ……」

「違う……彼氏よ。こ・い・び・と」

「うぐっ……んなこっ恥ずかしいことを」

「私は恥ずかしくないもの♡」

「俺の方が年上なのに……」

「ならもっと頑張って♡ 楽しみにしてる♡」

「努力します」

 

 あ、洗い物終わったみたい。

 やっぱりこうして二人でいると時間があっという間に過ぎるわね……不思議だわ。

 

「洗い物終了?」

「あぁ、終わったよ」

「じゃあ、ソファーへ戻りましょう?」

「分かった」

「戻ったら抱っこしてね?♡」

「あぁ、膝上に乗せてお姫様抱っこするやつ?」

「そう、それ♡」

「ならもうここでするか」

「え?」

 

 ふわっ

 

 次の瞬間、私はもうプロデューサーさんにお姫様抱っこされてた。

 やっぱり男の人なのね……筋肉とかあまりついてないイメージなのに、こんなに軽々と出来るんだもの。

 こういうふと見せる男らしさってときめくわ♡

 

「どうですか、お姫様?」

「悪くないわ……でも、キスはいつしてくれるのかしら?♡」

「…………ソファーに着いたらで」

「ふふふ、今すぐじゃないのがあなたらしい♡」

 

 そう言って私がプロデューサーさんの頬を突くと、彼は「勘弁してくれ」って照れてた。

 

 その後も私はプロデューサーさんにイタズラしながら、とても穏やかなオフを過ごしたの。

 勿論、夜明けまで♡―――

 

 伊集院惠♢完




伊集院惠編終わりです!

惠さんはミステリアスチックなので、上手の彼女って感じにしました!

お粗末様でした☆

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