私はそこまで優れた人間じゃない
だから物語に出てくる
主人公やヒロインに憧れてた
自分の力で道を切り開き
仲間と共に困難を乗り越え
素晴らしい光景を見つける
だから私もそうなりたかった
けど
何も踏み出せないでいた
そんな私に
勇気の魔法をかけてくれた
魔法使いがいました
―――――――――
「はい、では今週の『地元で不思議見つけたよ!』はここまで! また来週お会いしましょう! さよなら!」
「さようなら〜♪」
今日はテレビ番組の収録に来てます。
なんと私がレギュラーとして出演させてもらっている地域密着型秘境探検バラエティ番組です。
この番組は視聴者さんたちからのお便りを頼りにその秘境へ番組スタッフさんが出向いて、その映像を収録スタジオで見るといった形。
それでも私は過去に実際に現地へロケしに行ったこともあるんですよ、えっへん♪
その時はとある山奥にある天然温泉に入ったんですけど、お猿さんにブラジャーを盗られちゃったりして大変でした。白地にピンクのフリルがついててお気に入りだったのに……とほほ。勿論そこはカットされてました。
でもそれもいい思い出ですし、このお仕事のお陰で番組や事務所にも私へ応援のファンレターが増えたんです♪
「お疲れ様でしたー!」
「はい、お疲れ様でーす」
「お疲れ様でしたー」
「またねー、むつみちゃーん」
スタッフさんたちや共演者の方々と挨拶してから控室に戻ると、私は衣装さんやメイクさんたちとおしゃべりしながら普段着に着替えました。
―――
「お疲れ様でしたー」
「今プロデューサーさん呼んできますね」
「はい、ありがとうございました」
衣装さんたちが控室から出ていくのを見送ると、私は忘れ物がないかチェックしながらプロデューサーさんを待つ。
ガチャ
「お疲れ、むつみ」
「あ、プロデューサーさん。お疲れ様です!」
この人が私をアイドル界に送り出してくれたプロデューサーさん。
今は私専属ってことで頼れるパートナーです!
そして―――
「プロデューサーさん、ちゃんと私のお仕事の様子見てくれてました〜?♡」
「あぁ、ちゃんと見てたよ。今回もいい表情だった」
むぎゅ♡
―――今では正真正銘、お仕事でも私生活でもパートナーなんです♡
私がプロデューサーさんとお付き合いを始めたのは、半年前。
好きになったのはもっと前で、私が憧れてた冒険記みたいに私の知らない世界をたくさん見せてくれて、その都度優しく導いてくれたから。
アイドルとプロデューサーだからとか、歳が離れ過ぎてるとか、色んなしがらみがあるけど私にとってそんなの関係ない。
だってプロデューサーさんだから今の私があるんだもの。
それに危険を冒すと書いて"冒険"なんだし、アイドルとプロデューサーが芸能界でハラハラドキドキのラブロマンスとか素敵じゃないですか?
プロデューサーさんも最初は私のために色々と我慢してくれてたけど、私がその柵を一つ一つ突破しちゃったから今じゃ二人きりの時は甘えても受け入れてくれます♡
あ、勿論事務所の人には内緒にしてますよ。バレちゃうとプロデューサーさんが大変なことになっちゃいますから。
でもでも、仲良しのアイドル仲間で何度か共演したことのある裕子ちゃんとか紗南ちゃん、亜季さんなんかには知られてます。前から相談に乗ってもらってたから……。
―――――――――
私とプロデューサーさんは番組の関係者さんたちに挨拶したあとで、事務所に戻りました。
「さて、上への報告も終わったし……明日からのスケジュールの話をするよ」
「はーい♡」
ひしっ♡
「…………むつみ」
「はぁい?♡」
キラキラ♡
(ぐっ……無意識に上目遣いとか、末恐ろしい子!)
「ごほん、むつみ。ここはどこかな?」
「事務所のプロデューサーさんの個室です♡」
「正解……で、この状況は?」
「私がプロデューサーさんにくっついてます♡」
むぎゅ〜♡
「正解…………じゃあ、離れようか」
「???」
きょとん
(上目遣いに加えて小首傾げるとか……なんたる合わせ技を……!)
Pはむつみの愛らしさに魅了されている!
「だ、だからな? 今は確かに二人きりだが、ここは事務所の中なんだ。スケジュールの確認をこんな至近距離で普通はしないだろ?」
「普通はですよね? なら私とプロデューサーさんは普通じゃないってことで♡」
「なんでだよ」
「冒険は常に未知との遭遇が続きます! 私たちは冒険者なんですから、皆さん分かってくれますよ! 私のキャラだって皆さんご存知ですし!」
「キャラっていうなキャラって。何にしても今この場面では離れること」
そう言うとプロデューサーさんは私を抱きかかえて正面のソファーに座らせました。
むぅ、遠いです……まるで行く手を阻む大河のせいで合流出来ない主人公とヒロインみたいです。
「そんなに睨んでもダメだ」
「………………」
「えーと、明日の当初の予定はダンスレッスンとヴィジュアルレッスンだったが、変更になった。明日は休み」
「え、お休みなんですか?」
「そうだ。でもただの休みじゃない」
「?」
「急な話で悪いんだが、明後日は急遽『地元で不思議見つけたよ!』のロケで高知県の仁淀川にある『にこ淵』へ向かう。明日の休みはその準備ということで俺たちだけ先に高知入りしてロケに備える形だ。撮影スタッフさんたちは明日の夜に現地入りする予定」
「にこぶち?」
「聞いたことないか? テレビじゃ仁淀ブルーなんて呼ばれてて知る人ぞ知る観光スポットだ」
プロデューサーさんはそう言うとタブレットで私にその場所の画像をいくつか見せてくれました。
まるで日本じゃないみたい。澄みきったエメラルド色の滝壺で、画像だけでもすごく感動しちゃった。
「ただここは単純に歩いていける場所じゃない。道中にロープやハシゴを使って斜面を降りるから、滑らない靴を持っていくように。衣装は向こうで番組お馴染みの探検隊の制服だから撮影衣装の心配はない」
「なるほど……!」
「あと今回はゲストとして前にむつみと共演した三好紗南さんもロケに参加する……だからむつみは番組の先輩として引っ張ってやってくれ。三好さんとそのプロデューサーさんも明日の夜に高知入りする予定だから、実際に会うのは明後日からだな」
「分かりました! 今からとっても楽しみです!」
ロープやハシゴまで出てくるなんてまさに冒険じゃないですか!
プロデューサーさんはちゃんと私が求めてるお仕事をもらってきてくれるから、本当すごいです!
「てことで明日俺たちは朝イチの便で高知入りするぞ」
「朝イチですね、了解し――えぇ、朝イチですか!?」
「当然」
「せ、せっかくのお休みですし、もう少しゆっくりしたいなぁ……なんて」
「そうなのか。じゃあ高知デートはお預けだな」
ん、デート?
デートってあれですよね?
仲良しの男の子と女の子がお出掛けするアレですよね?
「今から帰って準備すれば余裕で高知デート出来ると思ったんだが、むつみはそれが嫌なのか〜。なら仕方ないなぁ」
「朝イチで! 朝イチがいいです! 今から帰って荷造りして学校の宿題も終わらせてきます!」
「おし、その粋だ。それじゃあ朝はむつみの家まで迎えに行くからな」
「はい!♡」
こうして私は急いで帰って明日のデートに備えました。
―――――――――
そしてやってきました高知県。
目的はお仕事とその下見だけど、今だけはお仕事抜きのデート♡
泊まるビジネスホテルは別々のお部屋を予約したけど、今回くらいはどっちかのお部屋で……むふふ♡
「何不気味な笑い方してるんだ?」
「あ、ごめんなさい♡」
「それじゃあレンタカーのキー預かってきたから、観光に行くぞ」
「はーい♡」
こうして私とプロデューサーさんのデートが幕を開けました!
―――――――――
私たちが回ったのは土佐市の清瀧寺と青龍寺。
どちらも冒険してる気分になれる雰囲気でとてもワクワクしたし、実際に本堂とかを目の前にするととても身が引き締まる思いがしました。
それから土佐市の隣にある須崎市にある鳴無神社にお参りに行きました。
そこはなんでも有名なパワースポットらしく、湾の奥に参道が海から続く神社があって、海から神様が上陸して神社の中に鎮座しているような神秘的な感じがして……とても不思議な感じがした神社でした。
他にも美味しい土佐のお料理を食べたり、道の駅で家族や学校の友達へのお土産やプロデューサーさんと思い出の物を買ったりして、とても楽しいデートになったんです!
そして、
「…………むつみ」
「はーい♡」
私たちは泊まるホテルのプロデューサーさんのお部屋で明日の打ち合わせ中です。
むぎゅー♡
「……離れてくれ」
「んぅ?♡」
くびかしげー?
(またそんな姑息な技を(褒めてる)!)
「い、今は明日の仕事についての話をしてるんだ。こんなにくっついてなくてもいいだろ」
「でも明日の朝まではデート中ですから、このままがいいです」
「ダメだダメだ。終わってからにしろ」
「終わったらいっぱいくっついててもいいですか?♡」
「いいぞ」
「じゃあ我慢します!」
そして私はプロデューサーさんと打ち合わせしてたんですけど、朝も早くて歩きっ放しだったから気がついたら寝ちゃってました。
―――――――――
「………………」
目が覚めると、私はベッドの中にいてプロデューサーさんの姿はありませんでした。
ですが、お部屋にはプロデューサーさんの荷物があるのでプロデューサーさんのお部屋で一晩過ごしたんだと分かります。
プロデューサーさんどこにいるんだろ?
私の泊まる予定のお部屋で休んでるのかな?
すると私の足元の方からいびきが聞こえてきました。
確認するとプロデューサーさんはソファーで眠ってたんです。
あわわ、私またプロデューサーさんに迷惑を!
「っ……朝か」
するとプロデューサーさんが目を覚ましました。
私はどうしたらいいのか分からなくなって、そのまま寝たフリをすることにしたんです。
「…………まだ時間はあるし、もう少し寝かせておくか」
足元の方からするプロデューサーさんの優しい声。
「まさか高知に来てまでソファーで寝るハメになるとはなぁ」
うぅ、ごめんなさい……。
「でも恋人同士とは言え、年頃の女の子が使う予定の部屋で寝るのもアレだったしな。仕方ないか」
プロデューサーさんそんなこと考えてくれてたんだ♡
「まぁ、でも役得かな。可愛い可愛いむつみの寝顔を独り占めだもんな」
思ってても口にしないでほしい……恥ずかしいから。
「本当……俺にはもったいないくらい可愛い彼女だよ」
すぐ近くからプロデューサーさんの声がする。
そしてプロデューサーさんは私が起きてるのを知らずに、私の頭や頬を優しく撫でてくれた。
「まだまだ先だけど、むつみが俺を見なくなるその日まで俺はむつみを愛してるから……寧ろそうであっても俺は愛し続けるよ」
私はずっとプロデューサーさんが好きです!
勝手に変なこと言わないでください!
「愛してるよ、むつみ」
ちゅっ……
ふと私の唇に何か柔らかいものが重なった。
それがキスだと分かると、私の鼓動はバクバクと大きくなる。
プロデューサーさんからしてくれるのは、これが初めてだから。
私が気がつかないだけで、実はこういうことは何度かあったのかな? なんか損してる気分……。
「…………起きてる時にしてくださいよぅ♡」
「っ!?」
「や〜、離れちゃや〜です♡」
「…………」
「今度はちゃんと私と見つめ合ってしてください♡」
「…………っ」
「はやくぅ♡」
ちゅっ♡
えへへ、今度は満足♡
こうして私は朝からとても幸せな気持ちになって、ロケも楽しく出来ました―――。
氏家むつみ♢完
氏家むつみ編終わりです!
むつみんは13歳ですが、なんか可愛いだけじゃない魅力がありますよね。
だからこんな感じにしました!
お粗末様でした☆