世界は音が溢れてる
それがいつも鳴り響いて
人々の生活の一部になってる
だから私も音が好き
それを奏でる楽器も
自然が織りなす音も
騒音と言われる音すらも
しかし時に音は
私を惑わせる
そんな私に素敵な音を
最高の音を聞かせてくれた人がいた
―――――――――
「〜〜〜♪」
ワァァァァァッ!
「ありがとうございました。またよろしければ、私の歌を聴きに来てください」
ワァァァァァッ!!!!
私は今日、大きな劇場ホールでコンサートを行い、今アンコールに応えて歌い終えたところ。
ファンの方々の声援が上がる度、それがキラキラと輝いて、私にあてられるライトなんかよりも眩しくなる。
だから私もその輝きに負けないように、もっともっとファンの方々の声が光り輝くように、精一杯私の歌を歌いました。
スタッフの皆さんと挨拶をしながら楽屋に入ると、
「やぁ、音葉チャン、元気にしてるぅ?」
前に私が所属していた事務所の社長さんがいらしてました。
「……どうも、お久しぶりです」
「だいぶ出世したね、音葉チャン♪」
「ど、どうも……」
一体何の用なのだろう。
正直言って、私はこの方が苦手です。
音楽を商売の道具としてしか見ていない……上っ面だけがいい人間。
もっと言うと、顔も景色が淀んであまり見えてすらいないのです。
「まさか音葉チャンがここまで大物になるとはね〜。期待してただけあったよ。まあ僕じゃ音葉チャンをここまで大きくは出来なかったんだけどね。本当におめでとう」
でも今は……今だけはハッキリと顔が見えました。
これまでかかっていたもやが綺麗に取れて、澄んだ水のように。
「あ、ありがとうございます」
「うちでも今度アイドルユニットを世に出そうとしてるからさ、気が変わったらいつでもうちの会社に戻ってきてよ。勿論、音葉チャンの才能を見抜いたあのプロデューサーと一緒にね。音葉チャンもそうだけど、彼みたいなプロデューサーはこれからもっともっといい仕事してくれるだろうからね」
「は、はぁ……」
また少し淀んできた。でも前ほどじゃない。
きっとこの方も少しずつ変わって来ている。
私がここまで変われたように。
「んじゃ、挨拶はこれくらいにして僕はお暇するよ〜。次の会議もあるしね〜。さっきの話忘れないでよ〜」
「あ、ありがとうございました」
社長さんはそう言ってそそくさと楽屋をあとにした。
私が有名になったから無理矢理にでも連れ戻されるのかと少し警戒してしまったけど、彼が最後に放っていた光や色からして最初からそういうつもりはなかったみたい。
「おう、お疲れ様、音葉。二階の観客席からずっと観てたぞ」
「プロデューサーさんっ」
そこに私専属のプロデューサーさんがやってきてくれました。
相変わらず力強く輝いてて太陽の様。私はこの人が放つ光りがとっても好き。
「プロデューサーさん、今前に私が所属していた――」
「――社長さんがいたんだろ? 音葉に会う前にわざわざ俺の所に来て挨拶してくれたよ」
「プロデューサーさんもご勧誘を?」
「つぅことは音葉もか」
私はただコクリと頷いてみせる。
「まあありがたい話ではあったよ。なんでも俺に任せたいアイドルユニットがあるんだって」
「……お受け、するんですか?」
「する訳ないだろ。確かに前みたいに色んなアイドルをプロデュースするのも楽しかったけど、俺は今のこの仕事に満足してるんだ。ならわざわざそれを壊す必要もないだろ? 壊すにしたって今このタイミングじゃない」
とても澄んだ優しい色……それを見ると私はこの人に出会えて本当に幸運だったと、神様に感謝する。
今の私があるのは全てプロデューサーさんのお陰。この人が私を暗闇の中から救い出してくれた。
そして今では私専属となって日々を私のために費やしてくれてる。
だから私は―――
「プロデューサーさんっ♡」
―――思わず彼に抱きついてしまった。
私とプロデューサーさんはアイドルとプロデューサーという肩書きを抜きにして、プライベートでは恋人としてお付き合いしてます。
互いに惹かれ合った……遅かれ早かれこうなってた……どんな言葉で言えばいいのか分からないけど、私はそれくらいこの人のことを好きになり、彼も私と同じ気持ちでいてくれました。
当然、事務所のみんなには内緒です。でも恋愛禁止ということではなかったので、社長さんにはお話ししてあります。社長さんの色や光りを見て、この人には話しても大丈夫だと感じたから。
なので社長さんからはスキャンダルだけ気をつけてくれって言われただけで、他には何も言われませんでした。
なんでもプロデューサーさんによると、社長さんも前はプロデューサーのお仕事をしていて、その時の担当アイドルが今では奥さんなんだとか。
あと私にとってもっとも怖いのはプロデューサーさんを失うこと……これが一番怖い。
「おいおい、ここは楽屋だぞ?」
「いいんです……ライブの成功が嬉しくて抱きついてしまったってことにすれば♡」
「今のステージ衣装の姿はとても綺麗で妖艶だから、辛抱すんの大変なんだがなぁ」
「もう、えっちな人ですね」
「男なんてみんなそんなもんさ」
「もう少し待ってください……♡」
今夜はあとで貴方が満足するまで、貴方のために歌いますから♡
―――――――――
劇場ホールのスタッフさんたちやスポンサーの方々との挨拶を終え、事務所に戻ってきた私たち。
「ライブの成功おめでとう。それじゃあ今夜からゆっくり休んで、次の仕事に全力を注いでくれ」
「はい!」
「はい」
事務所の社長さんへの報告も終わると、私たちは社長室を出てプロデューサーさんの個室に向かう。
「それじゃあ、俺らで軽く打ち上げするか♪ なんか食いたいのあるか? それとも前に行ったジャズバーでもいくか?」
「それもいいですね♪」
プロデューサーさんはとても優しい色と声で提案してくれる。
バーといってもプロデューサーさん行きつけのお店で、未成年の私のこともマスターさんは歓迎してくれた。
そこはマスターさんが自分でジャズバンドを組んでるから、ジャズバンド仲間が頻繁に来ては即興で演奏してくれる落ち着いてて賑やかな、今では私もお気に入りのお店。
でも今夜は、
「プロデューサーさんと二人きりの時間が欲しいです♡」
愛する人に甘えたい。
男の人と付き合うまでは自分がこんなに甘えたがりとは思わなかった。
でもたぶん、プロデューサーさんだからついつい甘えてしまうのかも♡
「なんだ、男の部屋に来るのか?」
「私のアパートでもいいですよ?♡」
「女がそうやすやすと男を部屋に上げてもいいのか?」
「もうそうやって意地悪して……怒りますよ?」
ニヤニヤしてるプロデューサーさんは意地悪だから、ちょっと苦手。
でも心から嫌がってない自分がいるのも事実で……たぶん私はプロデューサーさんになら何をされてもいいんだと思う。
「悪い悪い……なら俺のとこに来いよ。音葉が来ると俺の殺風景な部屋もきらびやかになるからな」
「はーい、分かりました♡」
―――――――――
それから私はプロデューサーさんに連れられてスーパーで買い物をしてから、プロデューサーさんが住むマンションのお部屋の前にきました。
勿論、伊達メガネとマスクをして。こうすると意外とバレないから不思議です。
「ほら、入れよ」
「お邪魔します」
プロデューサーさんはいつも私を先にお部屋へ入れてくれる。
そこで今回、私はちょっとしたイタズラをすることにしました。
玄関に入った私はすかさず彼の方へ体を向ける。
彼が不思議そうに私を見る中、
「おかえりなさい、あなた♡」
前に出演したテレビ番組でやってた『男が自分の奥さんにされて嬉しいこと』をやってみたの。
私もちょっと奥さん気分だったり♡
プロデューサーさんも喜んでくれるかな?♡
「…………っ!!」
「え?」
な、泣いてる!?
そんなに嫌だった……
「あ」
「えぐっ……ぐすっ……」
……プロデューサーさんの光りがとても温かく輝いてる。
嫌じゃなかったんだ♡
「うぅ……音葉ぁ……ぐすっ」
「はい、あなた♡」
「好きだ……げっごんじでぐれーっ」
「っ…………私で良ければいつでも♡」
おフザケでもプロデューサーさんからプロポーズされちゃった……嬉しい♡
―――――――――
「ったく、やられたぜ……あんなの反則だろ」
「ふふふ、泣いてるプロデューサーさんは可愛かったですよ?♡」
リビングのソファーテーブルに肩寄せ合って打ち上げ中の私たち。
なのにプロデューサーさんはさっきから玄関での出来事のお話ばっかりしてて、可愛い♡
「こうなんつぅの? 荒んでた俺の人生にやっとオアシスを見つけたみたいな……そんな感動」
「大袈裟ですよ……」
嬉しいけど♡
「音葉みたいな綺麗な奥さんが毎日出迎えてくれたりすると、本当に幸せなんだろうなぁ」
「いつでも準備は出来てますよ?♡」
「まだ早いよ。それに俺は音葉をトップアイドルにするっていう約束をまだ果たしてない」
「私は今のままでも十分……」
「現状に満足するな。音葉の魅力はそんなもんじゃない。もっともっと輝けるんだ」
「プロデューサーさん……」
また眩しいくらい輝いてる。
本当にこの人は私にとって大切な人……。
「これからもっともっと忙しくしてやるから、覚悟しとけよ? 俺がしっかりと支えるからな!」
「はい……プロデューサーさんと一緒なら、私はなんだって頑張れます♡」
そして私たちは互いに誓う合うようにキスをしました。
「……っ、プロデューサーさん♡」
「なんだ?」
「今夜、私の歌を聞いてくれますか?♡」
「聞かせてもらおうかな♪」
「今夜の衣装はちょっと派手です♡」
「それは楽しみだなぁ。因みにどんなの?」
「これです♡」
私はそう言って来る前に私のお部屋に寄ってもらって、このお泊まりのために持ってきた
「……歌うってそっち?」
「はい♡」
「…………歌うっていうか、鳴くじゃね?」
「どちらでもいいです♡ 私を愛して、声をたくさん聞いてください♡」
「スケスケだし、寒そうだな」
「だからこそプロデューサーさんの熱で、私が凍えないようにしてくださいね?♡」
そして白い私を貴方色に染めてください♡
「優しくする」
「いつも優しいですよ?♡」
「あ、当たり前だろ」
「たくさん歌いますからね♡」
こうしてプロデューサーさんに愛されながら、私はプロデューサーさんのために朝まで歌いました♡―――
梅木音葉♢完
梅木音葉編終わりです!
デレデレになったら音葉さんもこうなると思うんですよ(真顔)。
お粗末様でした☆