デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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千葉から東京の事務所に通ってる設定です。


神谷奈緒編

 

 あたしは昔から

 かわいい物が好きだった

 

 でも

 

 あたしには似合わないから

 見てるだけで満足してた

 

 そんなあたしに

 

 "かわいい"が似合う

 

 なんて言った奴がいる

 

 そいつのせいで

 今のあたしがあるのは癪だけど

 

 それ以上に感謝もしてるんだ

 

 ―――――――――

 

 ガチャ

 

「んあ〜、疲れた〜。もう動きたくない〜」

「お疲れ、加蓮。事務所着いたよ」

「とりあえずソファーで寝てろよ」

 

 あたしは今、凛や加蓮と一緒にレッスンルームから戻ってきた。

 今度あたしらのユニット《トライアドプリムス》でドームライブをやる予定だから、そのレッスンが今めっちゃ厳しくなってる。

 でも二人共やる気満々だし、一番年上のあたしが二人に負けてちゃかっこ悪いから、二人に負けないようにあたしも頑張ってる。雰囲気としてはかなりいい雰囲気だ。

 これならライブはきっと成功出来ると思う。

 

「あ〜、事務所のソファーは落ち着くわ〜。めっちゃ落ち着くわ〜」

「おい、加蓮、シマシマが見えてるぞ。ちょっとは隠せよ」

「何〜、奈緒ってばかわいいかわいい加蓮ちゃんのパンツでハァハァしちゃった〜?」

「か〜れ〜ん〜?」

 

 加蓮はいつもこんな感じであたしをからかってくる。まあそんな関係もいつものことだから、あたしはいつものように加蓮のオデコにデコピンを食らわせた。

 

「凛ちゃんっ、奈緒ちゃんが加蓮のことイジメるのっ!」

「ダメだよ〜、奈緒く〜ん」

 

 出たよ、即興コント。しかも今回はぼのぼ〇ネタかよ。

 凛も普段はしっかりしてるのに、こういう時だけ加蓮と徒党を組むんだよなぁ。まあこれもいつも通りっていえばその通りなんだけど。

 

「…………イジメてやるイジメてやるイジメてやる!」

 

 だからあたしもそのコントに乗って、二人へデコピンを食らわせた。

 

 ―――――――――

 

「ったく、二人のせいで余計に疲れただろ!」

「結構ノリノリだったくせに……ね、凛?」

「うん。奈緒も楽しんでた」

 

 ぐぬぬ……確かにちょっとは楽しかったけどさ! そもそも加蓮が始めたんだからな!

 

「……で、このあとどうする? いつもみたいにワクドナルドでも行くのか?」

 

 あたしらのレッスン後は基本的に三人で遊びに行く。

 でも―――

 

「え、奈緒それ本気で言ってんの?」

「奈緒……」

 

 ―――今日の二人はなんか違った。

 

 なんだ? あたしなんかまずいこと言ったか?

 でもでもいつも通りだったよな?

 レッスン前とかそれより前とか何も約束とかしてないし!

 

 あたしが悩んでると、

 

「奈緒はこれからプロデューサーさんとデートでしょ?」

「加蓮の言う通りだよ。あれだけ楽しみにしてたじゃん」

 

 二人にそう言われて、あたしはやっと思い出した。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 あたしがプロデューサーさんと恋人同士になったのは半年前。

 トライアドプリムスのライブの打ち上げであたしらとそれぞれの担当プロデューサーたちだけで鍋パーティしてた時に、加蓮と凛にそそのかされてあたしが告白して……その告白をあたしのプロデューサーさんが受け入れてくれた時から始まった。

 

 もちろん、事務所の人には内緒にしてる。でもなんでかアイドル仲間にはバレてるんだよな。加蓮や凛も言いふらすような奴らじゃないのに不思議だ。

 

 アイドルとその専属プロデューサーとの恋愛なんて漫画やアニメだけかと思ってた。そして隠さなきゃいけないのがしんどいんだろうと思ってた。

 

 でも案外これが余裕でさ。実は結構何度もプロデューサーさんが暮らしてるマンションの部屋にお泊まりしたこともあるんだ。

 流石に学校の友達らみたいに放課後デートとかは無理だし、公然の場で手を繋いだりは出来ない。

 でもちゃんとプロデューサーさんはあたしとの時間も作ってくれるから、あたしとしては幸せでしかないんだ。

 

 本人には恥ずかしいからそんなこと言えないけど……。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

「あ、あ〜、そういやそうだったなぁ……レッスンのせいで忘れてた」

 

 でも確かに忘れてた。最近はプロデューサーさんもあたしのことで忙しいからデートなんて全くしてなかったし、それに慣れちゃってた自分がいるから。

 すると加蓮に名前を呼ばれたから、あたしは加蓮の方を見たんだ。

 そしたら、

 

「あんたさ、最近腑抜けてない?」

 

 んなこと言われた。

 

「はぁ、なんでだよ? あたしは真剣に毎日を生きてるぞ!」

「加蓮はそんなことを指摘してるんじゃないよ、奈緒」

「じゃあ、なんだってんだよ?」

「奈緒はさ……プロデューサーさんがずっと自分のこと好きでいてくれるって思ってない?」

「な、なんだよいきなり……そりゃあそうだろう、それの何が悪いんだよ」

 

 あたしがそう返すと、加蓮だけじゃなくて凛まであからさまに呆れたようにため息を吐いてくる。何なんだよ……。

 

「あのね奈緒……安心してるのはいいんだけどさ、慢心はいけないからね?」

「あ、あたしは別に慢心なんて……」

「してるよ。前の奈緒ならプロデューサーさんとのデートを忘れるなんてしなかったもん」

 

 凛に言われた言葉はあたしの胸にズシッときた。

 確かに前のあたしは自分に自身がなくて、プロデューサーさんに嫌われるのが怖くて、振り向いていてほしくてがむしゃらだったと思う。そんなあたしを二人は応援してくれて、二人のお陰で今の関係になれたんだ。

 

「………………」

「久々のデートなんでしょ? そんな大切なことを忘れるようじゃ、プロデューサーさんへの気持ちが薄れてる証拠だよ」

「私は恋愛したことないから大きなお世話かもしれないけどさ……距離が近過ぎて心が離れてるのが分からなくなってるんだと思う」

 

 た、確かに二人の言う通りかもしれない。

 前はデートの約束してたのにプロデューサーさんがその日に急に仕事が入っちゃった時なんて、あたし家で泣いてたからな。

 でも今は『しょうがない』で済ませちゃってる……。

 だから今日もデートの約束してたのに、あたしは忘れちゃったんだ。

 

「ごめん、二人共」

「別に私らに謝る必要ないよ」

「うん……ただ、もう大切なことを忘れないようにね」

「うんっ、二人共ありがとなっ! それじゃあたし、プロデューサーさんのとこ行くからっ!」

「いってら〜♪」

「惚気話楽しみにしてるよ〜♪」

「んなのしたことない〜!」

 

 ありがとう、二人共。

 

 ―――――――――

 

「さてと、家に着いたぞ、奈緒?」

「……うん」

 

 デートも終わって、あたしはプロデューサーさんの運転で家まで送ってもらった。

 いつもプロデューサーさんとのデートは楽しいけど、今夜のは加蓮たちのお陰で改めて楽しいって思えるデートだったんだ。

 だから今夜は余計にプロデューサーさんと別れるのが嫌で……ワガママ言って家まで送ってもらったんだ。

 

「…………今日の奈緒はいつもより素奈緒で可愛いなぁ。何かあったのか?」

「今の素直って絶対漢字変換おかしい方だろ? 別に何もないよ!」

「そうなのか。まあ何にしても、素直に甘えてくれるのは嬉しいよ」

 

 プロデューサーさんはそう言うと、あたしの髪を優しく撫でる。優しい手付きで、丁寧に……あたしはそれが嬉しくて、くすぐったくて……でも嫌じゃなくて、プロデューサーさんにもっとしてほしくなって、自然とプロデューサーさんの肩に頭を乗せてた。

 

「デレデレ奈緒の破壊力は半端ないなぁ。ヨシヨシ」

「う、うるさいなぁ……もう♡」

 

 いつあたしがプロデューサーさんにデレデレになったんだよ。勘違いすんなよな♡

 

「まあ話す気がないなら無理には訊かないけど、本当に今日は改めて奈緒のことが好きになったデートだったよ」

「……あ、あたしだってそうだよ♡」

「暫くまた寂しい思いをさせちまうけど、我慢してくれな?」

 

 我慢……それくらいは出来る。浮気してるんじゃなくて、仕事しててあたしとデートしたいのに出来ないんだからな。

 それなのにあたしは……。

 

「な、なぁプロデューサーさん」

「ん?」

「ここだけ……ここだけの話しだからな?」

「うん」

「実はあたし……プロデューサーさんとの今日のデート、忘れてたんだ」

「…………」

「そんで、それを加蓮たちに指摘されて……あたしの心がプロデューサーさんから離れてる証拠だって、言われたんだ」

 

 一度話し出すと次から次へと言葉が溢れ出す。

 こうして話すのも随分してなかったから、余計にそうだったのかも。

 

「言われてみると……っ……そうだったのかなって、ぐすっ……思う節が結構あって……、プロデューサーさんのことが好きなのに……うぅっ、そ、その気持ちを……忘れてた自分が許せなくて……っ」

 

 頭ん中ごちゃごちゃ。自分でも何言ってるのか分からなくなってる。でもプロデューサーさんは何も言わずにあたしの言葉を聞いてくれてた。いつものように優しく微笑んで……。

 

「ごめん、なさい……えぐっ……プロデューサー、さんのこと、っ……大好きな人の、ことを、忘れてて……ごめんなさいっ」

 

 あたしがプロデューサーさんに謝ると―――

 

 ちゅっ

 

 ―――プロデューサーさんは何も言わずに、あたしにキスをした。それは乱暴なキスじゃなくて、とっても優しかった。

 

「んはぁ、ぷろでゅーさーさん?」

 

 どんなキスでもプロデューサーさんとのキスは好きだけど、一番は今みたいな優しいキスが好き……♡

 どうしてその一番好きなキスをしてくれたの?♡

 

「奈緒は本当にいい子だね。本来なら奈緒を構ってあげられない俺に文句を言うべきなのに」

「そ、そんなこと……」

 

 言えるはずない。だってプロデューサーさんはあたしのために毎日忙しく働いてくれてるんだから。

 

「謝るのは俺の方だ。ごめんな、構ってあげられなくて」

「そんなことないっ」

「これからも構ってあげられない時期があると思う。だけど、俺の心はいつも奈緒の側にいるから」

「知ってる……分かってるよぉ……」

 

 だからあたしはプロデューサーさんが今も大好きなんだよ。

 

「次のライブが終わってお互い仕事が落ち着いたら、どっか旅行に行こう。そして誰にも邪魔されずに二人で過ごそう」

「約束してくれる?」

「ここだけの話しだからな♪」

「あたしのセリフだ、バカ♡」

 

 ―――――――――

 

 ライブ当日―――

 

 ここだけの話 そうよ♪

 

 夢のような気持ちを♪

 

 あなたは知らない♪

 

 本当のあたし 見せるから♪

 

「今日の奈緒、乗ってるね」

「うん。歌に気持ちがこもってる」

 

『でも――』

 

 先に気づいて〜♪

 

 ほ・し・いの♡

 

『――プロデューサーさんへの気持ち込めすぎー! 惚気ご馳走様ー!』

 

 ―――ソロを終えた加蓮と凛は楽屋で次の出番を待ちながら、ステージに立つ奈緒の映像を観て口の中をジャリジャリさせた模様。

 

 神谷奈緒♢完




神谷奈緒編終わりです!

クールなのにキュートな奈緒ちゃんはこんな感じにしました!
私の中で奈緒ちゃんはクール勢ではかなり上位に入っている好きなキャラなので自然とこうなりました←

お粗末様でした☆

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