愛があるから平和で
平和であるから
そこに愛が溢れる
それは当たり前で
とても尊いもの
その本当の意味で教えてくれたのは
ある日出会った魔法使いさんだった
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「うわぁはぁ〜! 今日も多くの方々にラブ&ピースをお伝え出来ました〜!」
今日のお仕事は都内S駅東口の広場でゲリラライブ。
あ、勿論駅の方々にはちゃんと許可を貰ってますよ?
今回のゲリラライブはプロデューサーさんの発案で、次のライブに備えて行なったんです。
歩いてる人の多くが私の歌に足を止めてくれて、自分で思ってたよりも多くの方々に聞いてもらいました。
「お疲れ、柑奈。CDの方も100枚以上売れたし、今度のライブハウスでのチケットも順調に売れたぞ♪」
そして私は専属のプロデューサーさんの車で事務所に戻ってるところ。
プロデューサーさんは私専属になる前から何人ものアイドルを世に羽ばたかせた敏腕プロデューサーで、私の地元にロケで訪れた際に私を見つけて、私の歌に惚れてしまわれたそうです。
そんなプロデューサーさんは今では私の最愛のパートナー……つまり恋人なんです♡
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――――――
―――
これはまだ私がアイドルとしてデビューする前の、上京したばかりの頃。
『プロデューサーさ〜ん、悲しい歌なんて私歌えませ〜ん。難し過ぎます〜!』
初めてのヴォーカルレッスンでプロデューサーさんが出した課題……それはラブ&ピースを伝えたい私に『悲しい曲を歌う』というものでした。
これまでずっと爺っちゃんの影響で愛と平和をテーマに歌ってきた私にとって、この課題は絶望的なもので私はプロデューサーさんにどうしてこんなことをさせるのか訊ねてみました。
すると―――
『悲しみを理解出来ないきゃ、愛も平和も語れない。世界には多くの悲しい出来事が常に起こっているのだから』
―――プロデューサーさんはそう答えたんです。
その答えを聞き、私はこれまで自ら目を逸らしてきた愛と平和の裏にある事実を思い知らせました。
確かに世界ではこうしている今も重い病や不慮の事故、不幸なことで人々が死に、その周りの人々が耐え難い悲しみに涙をこぼしている。
私はそんな人々を笑顔にしたくて歌を歌ってきたのに……。
そう思うと私がこれまで歌ってきた歌の全てが軽いものになったようで、なんとも言えない虚無感となって押し寄せてきました。
落ち込み、俯く私にプロデューサーさんは―――
『でも悲しみがあるから、人は人を愛し、人々は平和を望む……そこに柑奈は自分の歌で人々にラブ&ピースを伝えればいいんだ。愛と平和の尊さを』
―――そう言って、優しく私の小さな両肩を軽く叩いてくれたんです。
だから私はこの人となら自分の夢を叶えられると確信して、現実から目を逸らすことを止めようと決めました。
―――
――――――
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そしていつしか私は自分の恋に……プロデューサーさんに対する特別な愛に気がつき、アイドルとプロデューサーという過酷な恋路に足を踏み入れたのです。
恋というのは本当に辛く、苦しい……心はいつも満たされては乱れての繰り返しでした。
でも好きな人が笑ってくれただけで私の恋は素晴らしいものだと実感し、またその人への想いが募って更に強くなる。
未熟な私に悲しみも愛も……全部教えてくれたのはプロデューサーさん。
そんな人を好きならない方がおかしいですよね?
「〜♪ 〜〜♪」
すると私は無意識の内に、助手席で歌を口ずさんでいた。
大好きなプロデューサーさんと私が歩んできた愛の歌を……。
「今日はやけに乗ってるな。やっぱり歌を聞いてくれた人たちの反応が良かったからか?」
「それもありますけど、本当のところは違います♪」
「なんか他にいいことでもあったのか? あ、帰り際に雑誌の記者が来てインタビューと写真を撮っていったからか。運が良かったよな。これで小さくてもあの雑誌で扱ってくれるからな」
「違いますぅ」
もう、本当にこういう時のプロデューサーさんって鈍ちんなんですから。
でもそういうところもプロデューサーさんらしくて、私は好きです♡
「私は大好きなプロデューサーさんが嬉しそうにしてくれているから、気分がいいんです」
「……やべぇ、俺って柑奈からすごく愛されてるんだな」
「あ、当たり前です! 私に本当の愛と平和を教えてくれたのはプロデューサーさんなんですよ!?」
自覚なしとか酷いです!
私をこんなに夢中にさせてるくせに!
「俺はそんな大それたこと教えてない。俺自身がんなの語れるほどの人生を歩んでる訳じゃないしな」
「でも私はプロデューサーさんから教わったと思っています」
「そうじゃないよ」
「え?」
「これから二人で本当の愛と平和を探すんだ。一人じゃ無理でも二人でなら俺たちなりの愛と平和を見つけられるだろ?」
「っ!?」
ズルい……ズルいズルいズルいズルいズルい〜!
どうしてプロデューサーさんはそんなセリフがポンポン出てくるんですか!?
何回私の心に響く言葉を浴びせるんですか!? これはもう愛の暴力ですよ!
確かにプロデューサーさんは私より10年も多く生きてますけど、私は10年後にそんなセリフ言えませんよ。
でもそれだけプロデューサーさんは色んな経験をしてきたんでしょう。
何かの詩で"優しい人はそれだけ涙を流してきた証拠"だと読んだことがありますし、私はまだまだプロデューサーさんのことを知らないのだから。
「でも先ずは二人でアイドルの頂点を目指そうな。そしてそうしていく過程でファンだけじゃなくて、沢山の人にラブ&ピースを伝えよう」
「…………はい、プロデューサーさん♡」
でも焦る必要はない。
私は私なりにプロデューサーさんを少しずつ知っていけばいいんだもの♡
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事務所に着いた私たち。
プロデューサーは早速今回の結果を上の方々へ報告しに行き、私は休憩スペースでプロデューサーさんの帰りを待っていました。
「お疲れ様です、柑奈ちゃん」
「あ、ちひろさん」
するとちひろさんも休憩みたいで、私に挨拶をしてから私の向かい側の席に腰を下ろしました。
「お仕事の方、順調みたいですね」
「はい、これもプロデューサーさんのお陰です」
「〇〇プロデューサーさんはこの道10年のやり手ですからね。私もプロデューサーさんのせいでお仕事が忙しくて、嬉しい悲鳴をあげちゃってますよ」
「そうなんですか?」
他愛もないおしゃべりだけど、こういう時間って平和だなって思います。
こういう風に物事を考えられるようになったのもプロデューサーさんのお陰……なんでしょうね♡
「そう言えば柑奈ちゃんは聞きました?」
「何をですか?」
「社長さんがプロデューサーさんに新しくプロデュースしてもらいたい子がいるってお話です」
「え」
プロデューサーさんに?
それじゃあ、私は……。
「そ、そういうお話は聞いてませんね……」
「そうなんですか……なら余計なこと話しちゃいましたね。今のお話忘れてください」
ちひろさんはそう言って謝ってきましたが、私はもうちひろさんの声なんて聞こえてなかったし、そのあとどんな話をしたかすら覚えていませんでした。
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それからいつもより遅くにプロデューサーさんが戻ってきて、私のお仕事は終わりということで私が住んでるアイドル寮へ送るということになりました。
でも私はちひろさんから聞いたことで頭がいっぱいで放心状態で、プロデューサーさんからの声にも空返事なことしか返せなかったんです。
「柑奈、寮に着いたぞ?」
「…………」
「柑奈? お〜い、柑奈〜? か〜ん〜な〜?」
プロデューサーさんに肩を叩かれてやっと我に返った私。
「あ、す、すみません。送ってくれてありがとうございました」
「……何かあったのか?」
「…………」
「無言てことはあったんだな」
「…………プロデューサーさんこそ、私に隠していることがあるんじゃないんですか?」
なんて嫌な女なんだろう、私って。
プロデューサーさんは悪くないのに、気がつけば私はプロデューサーさんを責めるような口振りになってしまっていた。
「俺が? 柑奈に?」
「…………社長さんに何か頼まれたんじゃないんですか?」
「あぁ、今度新しくプロダクションに入るアイドルのプロデュースに関することか」
「っ」
それを聞いた途端、私の体は勝手にプロデューサーさんに抱きついてて、キスまでしてました。
それだけ私はプロデューサーさんと離れたくなかったんだと思います。
だってプロデューサーさんが私以外のアイドルをプロデュースするだなんて、考えたくなかったから……。
「……ぷはぁ、はぁはぁっ……」
「か、柑奈……誰かに見られたらどうs――」
「――どうなったっていいです! 私は……私はプロデューサーさんと離れたくないんです!」
自分でもこんな声が出るなんて思わなかった。
でも私の思いはもう止められない。
「柑奈……」
「私、プロデューサーさんじゃなきゃ嫌なんです……。プロデューサーさんが私に愛をくれたから、私はここまでやってこれたんです……。もしプロデューサーさんがいなくなったら……私は愛も平和も歌えません! 伝えることが出来ません!」
なんて迷惑なんだろう。
涙を流してまで、私は自分とプロデューサーさんを繋ぎ止めようとしてるんだもの。
でも―――
「何勝手に変な想像してんだ、その話なら新人プロデューサーのヤツに任せたよ」
―――プロデューサーさんは私のおでこを軽く叩いて、優しく否定してくれました。
「確かに社長からは話をされてたよ。んでさっきはその話で遅くなった」
「…………」
「でも今の俺は柑奈のことで手いっぱいだ。まだまだ柑奈をトップアイドルにしてないのに、他のアイドルなんてプロデュースしてられねぇよ」
「フ"ロ"テ"ューサ"ーさ"ん"」
「二人で……俺たちなりの愛と平和を探そうって約束したろ? 大丈夫。俺はずっと柑奈のプロデューサーで……柑奈を支える恋人だ」
「はい……よろしく、お願いしますっ……グスッ」
あぁ、なんて幸せなんだろう。
なんて自分は愛されているのだろう。
この気持ちを……世界中に届けたい。
「んじゃ、誤解も解けたことだし、明日からまた二人で頑張ろうな?」
「えぐっ……うぇっ……はいっ」
「…………泣き止むまで俺の腕の中にいろ。寮の駐車場ならゴシップ記者もいないからな」
「……はい……♡」
それから暫く、私は泣き止むまでプロデューサーさんに優しく抱きしめてもらってました。
そしてこの時の想いを詞にして、作曲して……ライブハウスでプロデューサーさんへの私の愛をファンの皆さんに聞いてもらいました。
勿論、プロデューサーさんへ向けてということはファンの皆さんにはヒミツです♡―――
有浦柑奈*完
有浦柑奈編終わりです!
ちょっとベタな展開になりましたが、ご了承を。
お粗末様でした☆