デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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上京してる設定です。
本来、きりのんの一人称はリリース直後は『アタイ』だったのですが、本編では現在使われている一人称の『アタシ』で統一します。


桐野アヤ編

 

 アイドルって仕事はアツイ

 

 ステージでは無駄にキラキラしてるが

 

 そこに立つまでに

 

 アスリート並みの努力が必要だ

 

 なってみてそれを痛感した

 

 チャラチャラしたもんだと

 

 勝手に決めつけてたんだ

 

 今じゃ本当にアイドルってのは

 

 アツイ仕事だって分かるよ

 

 ―――――――――

 

「なあなあプロデューサー、こんな衣装考えたんだけど、どうかな?」

「…………アシンメトリースカートなら、別にフリルは要らないんじゃないか? これキュート系っていうよりはセクシー系だろ?」

「あ〜、言われてみりゃそうかもな〜。さっすがプロデューサー♪」

「そりゃどうも……あと、上はノースリーブにして背中か胸元にダイヤカット入れたらよりいいと思う」

「へ〜……プロデューサーってそういうのが趣味なんだ?」

「俺じゃなくて一般的にな。俺なら上はロング袖でその袖は花柄刺繍の施されたレースのが好み」

「なるほどねぇ〜」

 

 アタシは今、事務所内にあるプロデューサーの個室にいて、今度自分の人形に着せる服をスケッチブックに描き下ろしてる。

 今日、本当ならアイドル雑誌の取材を受ける予定だったんだけど、向こうの都合で明日に延期になっちまったからアタシは急なオフになっちまったんだ。

 デビューしてからそこそこアタシも人気が出てきたみたいで最近は忙しかったが、今日みたいに急なオフになってもやることがないから暇なんだよな。

 だからプロデューサーが仕事終わるの待ってんだ。

 

 え、どうしてかって? そりゃあ……プロデューサーとデートしたいからさ……。

 

 今デスクで黙々と仕事してるのがアタシ専属のプロデューサーで、アタシの恋人。事務所には内緒で付き合ってるけど、アイドル仲間の何人かにはバレてる。でもみんないいやつらだから、変に言いふらしたりしないし、からかってもこないから感謝してるんだ。

 

 実はアタシ、元々好きなタイプってがっしりしてて、男らしい人だったんだよ。でもプロデューサーはその真逆。細っこくてアタシに腕相撲負けるくらいひ弱で格闘技とか苦手なんだ。痛々しくて見てらんねぇんだと。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 そんなアタシらが付き合う……というかアタシがプロデューサーに惚れたきっかけは、アタシがデビューして少ししたくらいの握手会でのことだった。

 アイドルとしてデビューして、仕事の要領とかファンとの距離感とか、アタシなりにコツを掴んできたが、その日は本当に背筋が凍ったんだ。あんまり言いたくないけど、本当に質の悪いファンに会った。

 握手会なのに割り込みして、アタシが順番を守るようにお願いしても、その人は―――

 

『俺が一番君を愛してるんだから何も問題ない! というか他の男と俺の許可なしに握手してんな!』

 

 ―――とか言ってきてアタシの腕を掴んできたんだ。

 

 すると颯爽とプロデューサーがアタシとその人の間に入って、

 

『順番が守れないなら追い出します』

 

 って注意したんだ。

 それでも尚アタシの腕を離そうとしなかったんで、プロデューサーはアタシの腕を掴んでるその腕を……腕というか関節辺りを素早く掴んであっという間に放させたんだよ。

 んで、すぐにその人の腕の関節を決めて警備員に突き出したんだ。

 それでプロデューサーは―――

 

『お騒がせしました。握手会は少し予定時間をずらしますので、握手会を楽しんでください』

 

 ―――って来てくれた人たちに謝って、その後は何も問題なく握手会は無事に終わった。

 

 その事があって以来、アタシはプロデューサーを見る目が変わったんだよ。

 プロデューサーと同期のプロデューサーさんにそのことを話したら、

 

『あぁ、あいつは柔術と合気道の有段者だぞ?』

 

 って言われた。

 それ聞いてめっちゃ驚いた。でも確かにプロデューサーってアタシの基礎トレーニングでランニングとか一緒に行っても息切れ一つしないんだよな。あれはそういうことだったのか。

 

 なんでそれを今まで隠してたのか訊いたら―――

 

『え、訊かれなかったから』

 

 ―――なぁんて言うんだぜ? アタシとプロデューサーの仲だってのにさ。

 

 でもアタシは心の何処かでプロデューサーを男らしくないって決めつけてたのかもしれない。だからあの時見せてくれた男らしさに、アタシはグッと心を掴まれたんだと思う。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 それからはアタシも自分のことをプロデューサーには良く話すようになった。自分のことを知って欲しいから。

 んでプロデューサーのことももっと知りたかったから、たくさんたくさん色んなことを訊いたんだ。

 そうしていく内にそれじゃ満足出来なくなって、プロデューサーに告白して今に至るって感じ。

 

 恋人とかぶっちゃけ柄じゃないとか思ってたけど、恋をするとアタシでもこんなに変わるもんなんだよな。

 

「えへへ……♡」

 

「ん、なんか楽しいことでもあったのか?」

 

「ううん、別に〜♡」

 

 プロデューサーと恋をして良かったって思っただけだぜ♡

 

「そっか……あ、そろそろ終わるから、帰り支度しといて。んで、そろそろお昼だからリクエスト考えといてくれ」

「あ〜い♡」

 

 ―――――――――

 

 アタシが帰り支度を済ませるとプロデューサーも仕事を終えて、事務所の人たちに挨拶して一緒に事務所を出た。

 

「さて、リクエストは何かな?」

「肉!」

「ならいつものとこでいいか?」

「いいよー♡」

「んじゃ、行くか。シートベルト忘れずに」

「あ〜い♡」

 

 アタシが肉を食いたいってなったら、決まって行くレストランがある。そこは全国チェーンのステーキレストランなんだけど、けっこう値段も優しくて肉らしい肉が食えるから気に入ってるんだ♪ それにいつも行くとこなら個室もあるし♡

 

 ―――

 

 アイドルとプロデューサーってことだから、表立っては恋人らしく出来ない。でも車の中の会話とかお店の個室とかなら多少は恋人らしく出来るから、プロデューサーがわざわざアタシのために気を使ってくれてそういうとこを探してきてくれるのが嬉しい♡

 まあアタシがそう言うとプロデューサーは『俺がアヤと一緒に過ごしたいだけだ』って返してくるけど、アタシはちゃんとプロデューサーの優しさを分かってるからな♡

 

 レストランの個室に通されたアタシたちは、早速メニューを見て、注文する。基本的にアタシもプロデューサーもこういう時はそんなに悩まないから。

 

「アヤが頼んだやつ、一口味見させてくれよ?」

「いいよ♡ プロデューサーもくれるんだろ?♡」

「あげるよ。というか半分くらいは食べちゃっていいぞ。アヤが食べるだろうと思って多めにしてるから」

「知ってる♡ 遠慮なく頂くぜ♡」

「おう」

 

 アタシって普通の女子からしたらめっちゃ食う方なんだけど、プロデューサーはその逆なんだよなぁ。それなのにあんなに仕事するんだからすげぇって思う。

 

「食事が終わったらどうする?」

「ん〜……プロデューサーはどうしたい?」

「俺? 俺は……動物園かな」

「? なんで動物園?」

「昨日ネットでカワウソの動画を見て、本物を見たくなったから」

「カワウソって……まあ確かに可愛いよな」

 

 プロデューサーってこういうの普通に言えるからすげぇよなぁ。アタシは恥ずかしくてそういうの堂々とは言えないわ。

 

「んじゃ、動物園行くか?」

「いいのか?」

「アタシはプロデューサーと一緒ならどこだって特別な場所だからな♡」

「…………アヤが可愛くて死にそう」

「なんでだよ!?」

「アヤの愛情表現がどストレートだから」

「別に普通じゃね? てか、好きな人への愛情なんて隠してたって伝わんねぇじゃん」

「それ、そうの。大人には胸をえぐられるくらいの破壊力なんだよ。いい意味で」

「ふーん、変なの♡」

 

(ついでにそのニパッと見せる笑顔も凶器だよ)

 

 ―――――――――

 

 それから食事を終えたアタシらは動物園に来た。

 んで、お目当てのカワウソを今見てるんだけど―――

 

「可愛い……」

 

 ―――来園してもう30分以上はこの状態。

 いやまあ確かにカワウソは可愛いと思う。でも流石に飽きてこね、普通? プロデューサーに至っては時折「可愛い」ってつぶやくだけだし……。

 

「プロデューサーって動物好きなの?」

「嫌いじゃない。小学生の頃実家で飼ってた犬の"ちだるま"のチィちゃんの写真は今でも大切にアルバムに残してある」

「ネーミングセンス皆無だな……ちだるまとか酷すぎだろ。ちゃんってことはメスなんだろ、その子?」

 

 というか、よく役場にその名前で通ったな。

 

「だって産まれた時血まみれだったんだぞ?」

「大抵の哺乳類はそうだろうが」

「でもチィちゃん可愛かったぞ?」

「あぁそう」

 

 プロデューサーってやっぱ変わってるなぁ。多分アタシくらいしかプロデューサーの相手なんて出来ないんじゃないか?

 

「アヤはなんか好きな動物とかいないのか?」

「え、アタシ? ん〜……カバとか? ずんぐりむっくりで愛嬌あるじゃん」

「カバか……知ってるか? 野生のカバってあのアゲイン・ボルトよりも早く走れるんだぞ?」

「えぇ、マジかよ!? それは流石にウソだろ!?」

「ところがどっこい。カバってのは時速40キロで走れる生き物なんだからな?」

「へぇ……」

 

 カバの印象めっちゃ変わったんだけど……というか、可愛い対象から外れちゃったんだけど!?

 

「んじゃ、そういうことを踏まえてカバを見に行こう」

「あ、やっぱ行くんだ?」

「だって改めて見たら、見方変わるだろ?」

「まあ、確かになぁ」

 

 そんな感じでアタシはプロデューサーに連れられてカバを見に行った。まあ可愛いとは思ったけど、複雑な気持ちになってたアタシもいた。

 

 ―――――――――

 

 その後も閉園時間ギリギリまで動物を見て回ったんだけど、プロデューサーが逐一動物雑学を教えてくるからそのことばっか気になって仕方なかった。

 でも楽しかったのは事実だし、実は付き合って初めての動物園デートだったから嬉しさが勝ったなぁ。

 プロデューサーって普段からあんま表情は変えないんだけど、動物の話をしてる時の目はキラキラしててなんか可愛かった♡

 

 んで、アタシはプロデューサーにアイドル寮まで送ってきてもらったんだけど、すぐには帰らずに車内でちょっと雑談タイム。実はこの時間かなり好き♡

 

「んじゃ、また明日な。予定変更とかの際は必ず連絡する」

「おう……予定変更がなくても連絡してくれてもいいけど?♡」

「可愛い彼女が俺を殺しにきてる……」

「なあもっと普通に褒められないのか!?」

 

 ったく、可愛いって言っとけば許されると思って……。

 

「ごめんごめん。でも本当に死ぬほど可愛いよ、アヤは」

「ふんっ、最初からそう言えってんだ♡」

「それじゃ、今度こそ……また明日なアヤ。ちゅっ」

「んっ……へへっ、電話待ってるからな♡」

 

 こうしてアタシはプロデューサーとその日は別れた。そんでちゃんと日付けが変わる前に電話してくれた♡―――

 

 桐野アヤ♢完




桐野アヤ編終わりです!

男勝りですが、やはり根っこのとこは乙女なきりのんでしたとさ♪

お粗末様でした☆

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