デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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上京してる設定です。


黒川千秋編

 

 いつも上ばかり見ていた

 

 上を見ていないと辛いから

 

 下は雑然としてるのに

 

 上にはそれがない

 

 だから何をするにも

 

 私はただ上を目指した

 

 それでもどこか足りなかった

 

 何か足りないと感じても

 

 それが何なのか分からなかった

 

 そんな時にその足りないものが

 

 見つかったの

 

 ―――――――――

 

「助演女優賞受賞、おめでとうございます、黒川千秋さん」

「ありがとうございます。このような素晴らしい賞を頂けて、とても嬉しく思います」

「この気持ちを誰に伝えたいですか?」

「たくさんいます。私を育ててくれた両親、指導してくれた監督に演出家の方々、共演してくれた多くの先輩方や後輩たち、同じ事務所に所属する仲間たち、裏方の方々……そして、私をこの舞台に立たせてくれたプロデューサー……挙げたら切りがありません」

「なるほど……ではカメラに向かってその皆さんにメッセージを!」

「本当にありがとうございました! でも私の目標はまだまだ上にあります。ですので、これからもよろしくお願いします!」

 

 パチパチパチパチパチパチ!!!!

 

 私はとあるドラマに出演し、その演技が評価されて今年の助演女優賞に選ばれた。当然今の私ならこれくらい受賞出来る自信はあった。でもいざ受賞して言葉を求められると、思っていたこととは全く違った言葉が出てしまったわ。

 でもそれが今の私の精一杯の言葉なのだろう。ならば次はもっと余裕を持って臨めばいいということ。いい経験をさせてもらえたわ。

 

 ―――――――――

 

「いやぁ、本当におめでとう、千秋!」

「私なら当然でしょう。これくらいで泣いてちゃ、来年からもっと大変よ?」

「べ、別に泣いてねぇし!」

「あら、目が真っ赤だからそうだと思ったけど、違うのね。ごめんなさい♪」

「ふんっ」

 

 授与式も無事に終わり、私は私専属のプロデューサーの運転で一先ず事務所へ戻っているところ。

 

「それより、明日のスケジュールはどうなってるのかしら?」

「えぇと……朝のニュース番組に3つ出演が決まった。そのあとでラジオ番組にゲスト出演、昼食を挟んで午後イチから生放送番組『ごきげんだよ』に出演、それが終わったら次のライブの打ち合わせで、最後は事務所で受賞おめでとうパーティだ」

「ふふっ、助演女優賞くらいで大袈裟ね。それなら主演女優賞なんて獲得したらどうなってしまうのかしら? 今からが楽しみで仕方ないわ♪」

 

 私はもっともっと上に行く。その自信や根拠がある。

 それはプロデューサーを私が全面的に信頼しているから。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 あれはまだ私がデビューして半年といった頃。私は確実にトップへの階段を上がっていた。

 賢いふりをするのはやめて、その時その時の仕事でトップを取っていって、小さなライブハウスだけど単独ライブも成功出来るようになっていた。

 でもそんなある日、私のプロデューサーが私の担当を外れると言って来たの。それはつまり彼の仕事が評価され、もっと人気のアイドルをプロデュースするのに事務所が彼を推したから。

 悔しかった。でも彼の仕事振りをその身を持って実感していたからこそ、今の彼に私は不釣り合いだと思った。

 何より彼の……もっと上に行こうとしている彼の足枷になりたくなかった。

 でもただ外されるだけなんて面白くない。

 だから私は誓ったの―――

 

『事務所があなたの力を存分に発揮出来るアイドルは私だって認められるアイドルになってみせる。だからそれまであなたはもっと上に行きなさい。私もすぐに追いついてみせるから』

 

 ―――ってね。

 その約束を果たすまでに少し時間を要してしまったけれど、彼はちゃんと更に上を目指しながら私が追いつくのを待っていてくれた。

 もう私をプロデュースするのに相応しいプロデューサーは彼しかいないと、事務所の誰もが認めている。

 

 自分でもどうしてそこまで彼のことに拘っているのか分からなかった。

 でも離れている間にそれが分かったの。

 私は彼を愛しているんだ……って。

 

 どうして愛してしまったのか……それは彼の私を見る眼がいつも力強くて真剣だったから。

 そして私に本当のアイドルという仕事を教えてくれた人だから……アイドルの黒川千秋が満を持して世に羽ばたいたのよ。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 トップを取るのに恋愛なんて邪魔だと思ってた。でも私って欲張りな人間だからプロデューサーの中でのトップの座も欲したの。

 それに秘密恋愛しながら頂点に立つのってすっごく気分がいいじゃない? だからプロデューサーに猛アタックして落としたの。

 

「プロデューサー、今夜はお暇?」

「報告が終わったら俺だって千秋と同じで暇だ。俺だって明日は朝からずっと千秋にくっついてないといけないからな」

「なら今夜からくっついてよっか?♡」

「っ!?」

 

 ふふっ、動揺してる♡

 

「どうなの……って言っても、こんな素敵な彼女からのお誘いを断るほど、贅沢な予定なんてないわよね?♡」

「…………はい」

「ふふふっ、私がトップへ駆け上がる本当の第一歩を踏み出した記念すべき夜よ♡ うんとお祝いしなさい♡」

「が、頑張りまーす……」

「〜♡」

 

 ―――――――――

 

 事務所での報告も終えて、私はまたプロデューサーの運転で彼が住んでいるマンションに連れて行ってもらった。

 私の住んでるマンションより、プロデューサーのマンションの方がテレビ局に近いから今回は私がお邪魔させてもらったの。

 

「ただいま〜♪」

「お、おかえり……」

 

 まるで自分の部屋みたいに上がる私の後ろから、プロデューサーはのそのそと控えめについてくる。普段はとても頼り甲斐のある人なのに、プライベートだと妙に大人しくなってしまうから、そのギャップに私の胸はときめく。

 

「来ておいてなんだけど、まだ着替えのストックあったかしら?」

「あぁ、いつものとこに入ってるだろ?」

 

 もう何度もお泊まりには来てるから、着替えの服や下着も何着かこの部屋に置かせてもらってる。もちろん私の部屋にもプロデューサーの服とか下着を何着か置いてあるわ。

 

「…………あら?」

「なかったのか?」

「その逆よ。思っていたより残ってたの」

「なら良かった」

「良くないわよ。こんなに素敵な彼女の下着が置いてあるのに放って置かれてるのよ?」

 

 寧ろもっと減ってないと不安になるじゃない。毎回毎回あなた好みの下着を選んで、置いていってるのに!

 

「俺はそういう趣味持ってないから」

「なら使用済みの方が嬉しいの?」

「アイドルがそんな生々しいこと言うな!」

「今はあなたの彼女よ!」

「恋人の下着とかで抜く趣味はないんだよっ!」

「あら、そうだったの?」

「そうだよ」

「変ね……前にあなたの部屋で見たその手の雑誌にそういうのがあったのに?」

 

 てっきり私はそういうのが好きなんだと思っていたのにそうじゃなかったのね。

 

「あ、あれはつい出来心で買ってしまったんだ」

「別にその手の雑誌くらいで私は怒らないわよ。でもそれを手に取るきっかけは知りたいわ。私はあなたの彼女である以上、あなたのトップに君臨し続けなくちゃいけないもの」

「………………から」

 

 ん? いつになく声が小さいわね……そんなに言いにくいことなのかしら?

 

「聞こえなかったわ」

「だ、だから……表紙の女優が千秋に似てたから、それで……」

 

 ドクン♡

 

 何よ、その可愛い理由。不安になってた私が馬鹿みたいじゃない。顔も真っ赤にして、本当に私より8つも年上なのかしら? 私をこんなにも魅了するあなたはズルいわ。

 

「そうだったのね。私に似てる人が表紙に出てるってだけで買ってしまうほど、あなたは私のことが好きなのね♡」

「そ、そりゃあな……好きだから、今の関係になっているのであって……」

「ふふふっ、なら今夜のあなたは幸せね♡ 似てる人じゃなくて本人と甘い夜を過ごせるんだもの♡」

「めっちゃ幸せだよ」

「素直でよろしい……ふふふっ♡」

 

 嗚呼、自分でもにやけてるのが分かるわ。どうして私はこんなにもこの人を愛しているのかしら。好きで好きで好きで……あなたと過ごす時間が増えれば増えるほど、あなたへの想いが募っていく。

 

「ねぇ、あなた?♡」

「……ん?」

「ぎゅってして?♡」

「あぁ」

 

 ギュッ♡

 

 幸せってこういうことを言うのよね、きっと。

 

「〜♡」

「ちょ、千秋、くすぐったい」

「い〜や♡」

「いやって言われても……」

「私はこうやってスリスリするのが好きなの♡ だからまだ止めるのはやなの♡」

「メイクが崩れるぞ?」

「どうせあとは落とすだけなんだからいいわよ♡」

「ったく……千秋には敵わないなぁ」

「〜♡」

 

 何を言ってるのよ、馬鹿な人ね。こんなにも私を夢中にさせておいて、敵わないってのはこっちのセリフよ……全く♡

 

「……さてと、名残惜しいけどそろそろディナーにしましょ。これ以上遅くなると体に悪いわ」

「なら……」

「……一緒に作りましょ♡」

「分かった」

「♪♡」

 

 ―――――――――

 

 一緒に料理をして、一緒にその料理を食べて、お祝いに香り高いワインで乾杯して、何も特別なことなんてしていないはずなのに、プロデューサーとすることの何もかもが私の特別に変わる。

 

「〜♪ 〜〜♪」

 

 そして今はお風呂上がりに彼にだけ聞かせる私の単独ライブ中。

 お酒を飲んだあとに歌うのって喉にはあまりよくないんだけど、1曲だけなら問題ない。それにあんまり強いお酒を飲んだ訳ではないしね。

 

「〜〜♪――どうかしら?♡」

「千秋の歌声は本当に最高だな」

「当然じゃない♡ それにあなたのことを考えて歌うのが私の歌の秘訣なのよ?♡」

「幸せな限りで」

「あなたがそう感じてくれると私も幸せだわ♡」

 

 愛する人にだけ送ったライブが終わると、私は彼の膝の上に腰を下ろす。すると彼は優しく私の腰に手を回して、もう片方の手は私の手を握ってくれる。

 

「幸せね……♡」

「でもこんなもんじゃないんだろ?」

「当たり前じゃない♡ 私たちがトップに立ったら、これ以上に幸せなんだから♡」

「置いてかれないように頑張るよ」

「あら、いつもあなたの方が私の前を進んでいるのに?♡」

「千秋の努力に負けていられないから、いつもがむしゃらさ」

「そう……♡」

 

 私もあなたに追いつくまでがむしゃらで、今だって必死にあなたの背中を追いかけてるわ。

 私たちらしくていい関係ね♡

 

「これからもよろしくね、私のプロデューサー♡ 一緒にたくさん、素晴らしい光景を見ましょう♡」

「おう、頑張ろうな♪」

 

 そしてその日の夜はとても素敵な時間になったわ♡―――

 

 黒川千秋♢完




黒川千秋編終わりです!

クールタイプの中でも私の中ではトップ5に入るキャラなので、気合入れました←

お粗末様でした☆

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