デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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上京してる設定です。


小室千奈美編

 

 妥協はしない

 

 一度妥協したら

 

 そこが自分の限界になる

 

 だから妥協なんてしたくない

 

 それを信条にしてきた私に

 

 "もったいない"

 

 なんて言ってきた人がいる

 

 妥協しない私に対して

 

 だからその人がどんなものか

 

 試してみることにした

 

 そうしたら

 

 やる前から私の負けだった

 

 ―――――――――

 

『ナイスTon』

 

「まあ、こんなとこね♪」

 

 今私はとあるダーツバーに来てる。今回は遊びじゃなくてお仕事。ここのダーツバーが全国チェーンになって20店舗達成記念として、そのキャンペーンガールが私って訳。

 ここはただのダーツバーってだけじゃなく、昼間は未成年もダーツを楽しめて、ダーツ教室も開いてる。お店の雰囲気もいいし、これならもっと流行るんじゃないかしら。

 それでポスター撮影とかも終わって、今はお店のご厚意で遊ばせてもらってるところ。

 

「ナイスTonって何?」

「ナイスTonは挨拶というか、社交辞令みたいなものね。野球でいう"ナイスピッチ"とか"ナイスラン"みたいな」

「ほぇ〜……で、TONってのは?」

「TONは101点以上のことよ。因みに150までがLow Tonで151以上からHigh Ton」

「で、今のは170だからナイスTONでもHigh Tonと……」

「最近忙しくてダーツなんて出来なかったけど、まだまだ衰えてないわね♪ もっと調子が上がってくれば180も余裕だわ♪」

「へぇ〜」

 

 こののほほんとしてる人が私の専属プロデューサーさん。

 パッと見は冴えなくて何考えてるのかも読めない男だけどプロデューサーとしてはかなりやり手で、この私でさえ手玉に取る。

 

「へぇ〜とか感心してないで、あなたもやってみたら?」

「僕はいいよ。それよりゆっくりしたい」

「つまらないわね……私のパートナーなら乗って来なさいよ」

「じゃあ、一回だけ……」

 

 プロデューサーさんは気だるそうに立ち上がって、私からダーツの矢を受け取って位置につく。

 

「初心者ならそこより前の位置からの方がいいわよ」

「ん、じゃあ」

 

 初心者用の位置に直して、プロデューサーさんはトントントンと素早く矢を放つ。

 すると―――

 

『ナイスBlack』

 

 ―――まさかの"3 in the Black"を成功させた。

 これは真ん中……ブルの本当にど真ん中のブラックのところに全部入れる技で、私でも出来たことは2回か3回くらい。

 初心者用で近くとはいえ、これはなかなか出来るものじゃないから周りの人たちも拍手してる。

 なんか悔しい。

 

「なんかすごい拍手されたんだけど、そんなすごいのあれ?」

「…………知らない。まあ、あなたが拍手を貰うなんてそうないんだから、良かったんじゃない?」

「そっかー」

 

 涼しい顔して……本当にムカつくわ。

 プロデューサーさんはいつもそう。プロデュース以外は何も取り柄がないみたいなくせに、いざやってみると大抵のことは卒なく平均以上にこなす万能タイプ。これが俗に言う天才なのかしら?

 でも私は認めない。やる気もないのに普通よりも出来るってだけで天才なんて評価したら、誰だって天才になれるんだもの。

 

「千奈美にそう言ってもらえると嬉しいな」

「っ!?♡」

 

 どうして……どうしてあなたはこういう時ばかり、そんな柔らかい表情で私に笑みを向けるの?

 さっきは天才だと認めないって思ったけど、私を喜ばす天才って意味では認めるしかない♡

 

 私は、プロデューサーさんのことが好き。仕事上のパートナーとしても一人の男性としても。

 だってこの私をモデル時代よりももっと輝かせて、より完璧な私にしてくれた。そして私に上には上がいるんだって目標をくれた。

 最初は卒なくなんでもこなすプロデューサーさんに憧れてた私がいたのに、いつしか私はこの人を愛してしまっていたの。

 これまで告白は何度かされたけど、自分から恋なんてしたことのなかった私にとって、この恋は新鮮だったしこの人だから私は恋をすることが出来たんだと思う。

 

 アイドルなのに自分専属のプロデューサーに惚れるなんてアイドル失格と言われるかもしれない。でもね、私は妥協しない主義なの。だったらやることは一つ……プロデューサーさんも私のものにして、トップアイドルになればいいのよ。

 そうすれば誰だって私たちの関係に文句も言えなくなるんだから。

 

 ―――――――――

 

「ん〜、束の間の休息ってのはいいもんだね〜。これから事務所に戻るのが嫌になるよ〜」

「はいはい。いいから安全運転で私を事務所まで連れて行きなさい」

 

 私はプロデューサーさんの運転でダーツバーから事務所に戻ってる途中。

 

「はぁ、このあと仕事がなければあのままあそこでゆっくりしてたのに〜」

「マッサージチェアとか存分に堪能してたじゃない」

「あ〜、あれね〜。いいよね〜。ダーツバーなのにマッサージチェアとかハンモックとか色々あってさ〜」

「私がダーツしてる間にかなりリラックスしてたのね……」

 

 仕事の延長とはいえ、少しくらい私との時間を作りなさいよ……私ばかりあなたを求めてるみたいで悔しいじゃない。

 

「今度デートとかであのダーツバーに行ってもいいよね〜。今度は千奈美も一緒に僕とハンモックに揺られようよ〜」

「っ……周りの目があるのにそんなこと出来る訳ないでしょ♡」

「出来るよ〜。カップルで楽しんでた人たちもいたし〜」

「私がアイドルだってバレるでしょ……全くもう♡」

 

 出来ることなら私だってあなたとハンモックに揺られてみたいわよ。でももう少し自覚してほしいとこね……というか、その大丈夫って言える根拠が謎だわ。

 

「部屋も結構落ち着く暗さだったし、大丈夫だと思うけどな〜。それにコソコソしてるより堂々してる方がかえってバレ難いと思うし〜。チラッ」

「……チラッて……♡」

「可愛い千奈美と一緒にハンモックで揺られたら、最高なのにな〜。チラチラッ」

「〜っ、もう!♡ なら好きにしなさいよっ!♡」

 

 バレたらそれ相応の責任をとってもらうんだからね!

 

「へへへ、やったぜ♪」

「本当に子どもなんだから……♡」

 

 私は自分でそう返しても、顔はきっと緩んでしまってるわね。だってプロデューサーさんとのこうしたやり取りって、なんだかんだ言って好きなんだもの♡

 

 ―――――――――

 

 そして事務所に戻ってきた私たち。

 プロデューサーさんは早速自分の仕事のために自分のデスクに向かい、私はプロデューサーさんの仕事が終わるまで彼を待つために休憩室にきた。

 

「お、千奈美じゃん。お疲れ〜」

「あら、アヤじゃない。お疲れ様」

 

 休憩室に入ると、そこにはアヤの姿があった。アヤと私は性格が正反対だけど、同い年だし結構話も合うのよね。前にユニットを組んでから何度も一緒に仕事したこともあるし、馬が合うって言葉がしっくりくる。

 

「千奈美は何してきたんだ? アタシはレッスン漬けでさ〜、超疲れた〜」

「お疲れ様。私はキャンペーンガールの仕事でポスター撮影とかしてきたとこ」

「へぇ、すげぇじゃん♪ アタシはてっきり千奈美のプロデューサーとイチャイチャしてきたのかと思った〜」

「っ……仕事先でそんなことしないわよっ」

 

 アヤは私たちの関係を知ってる数少ない人間。まあ私が露骨にプロデューサーさんにアピールしてたから、それで分かってるアイドル仲間も何人かいると思う。でも誰も事務所に告げ口したりする人はいないし、寧ろフォローしてくれてるから感謝してる。

 でもあからさまにその話題を振るのはどうかと思うわ……。

 

「そうなのか?」

「……そうよ」

「前ユニットで一緒に仕事した時、めっちゃイチャイチャしてる感じだったのに……プロデューサーと喧嘩でもしてるのか?」

「してないっ。そもそもアヤの前でイチャイチャなんてしたことないでしょ!?」

「そうかな〜? アタシから見たら、あれは十分イチャイチャしてるように見えたけどなぁ」

 

 私はイチャイチャなんてしてない。そりゃあ、楽屋でプロデューサーさんが『今日も可愛いね』とか『もっと千奈美の顔をよく見せて』とか言ってきたけど、専属なんだから普通でしょ……普通よね?

 

「あの時の千奈美めっちゃ嬉しそうな顔してたのに、おかしいなぁ」

「そ、そんなこと……」

「プロデューサーに褒めてもらって、千奈美は『ばかばか〜!』ってプロデューサーのこと叩いてたけど、あれってどう見てもイチャイチャじゃね?」

「……してないったらしてない!」

「そうなのか〜。なら二人にとってあれはイチャイチャに入らないくらい、二人きりの時はもっとイチャイチャしてるんだな〜」

「〜〜っ!」

 

 悔しい悔しい悔しいっ! どうして私がアヤからこんなに言いがかりをつけられなきゃいけないの!? それもこれも全部プロデューサーさんのせいよ!

 

 ―――――――――

 

「千奈美〜、どうしてそんな不機嫌なの〜?」

「………………」

 

 あれからも私は散々アヤから「イチャイチャしてた」って話をされた。

 イチャイチャしてないって言ったのに……。

 だから私はプロデューサーさんに自分が住んでるマンションに送ってもらってる車内で、プロデューサーさんのことを無視してた。

 

 それが八つ当たりだってのは分かってる。結局のところアヤから見た私たちの関係は良好で幸せそうって意味だもの。でも私は仕事の時は仕事モードに入ってるし、公私混同なんてしないの。なのにそう見えてたのが不覚で……そんな自分が許せないから、プロデューサーさんに八つ当たりしちゃってる。

 ごめんね、可愛くない彼女で……。

 

「困ったな〜。このままじゃ千奈美とお別れ出来ないな〜」

「…………」

「仕方ない。機嫌が直るまで僕の部屋で可愛がるか〜」

「…………♡」

 

 何それ、どういう理屈なの♡ 普通ならそのまま別れるのに、どこまで私のこと好きなのよ♡

 

「あ、千奈美今ちょっと笑ってる〜。な〜んだ、構って欲しかったのか〜。可愛いな〜♪」

「……ばかじゃないの?♡」

「千奈美が笑顔になるなら、僕はばかにでもなんでもなるよ〜♪」

「……そ、ならこれからも道化に徹することね♡」

 

 プロデューサーさんが私のことを好き過ぎなのは間違いね。

 私がプロデューサーさんを好き過ぎてるから、こんな風になるのよ♡

 

 そのあと私はプロデューサーさんの部屋に行って、いっぱい可愛がってもらったわ。朝まで♡―――

 

 小室千奈美♢完




小室千奈美編終わりです!

たかびーな感じの千奈美ちゃんも惚れた人の前ではデレデレになるってことで!

そしてこれでか行終わりました!
次回からさ行です!

お粗末様でした☆

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