デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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佐々木千枝編

 

 オトナってすごい

 

 泣かないし色々知ってるし

 

 優しい人が多いです

 

 アイドルになって

 

 そう思うことはますます増え

 

 早くオトナになりたいって

 

 思うようになりました

 

 でも

 

 一番オトナになりたい理由が

 

 あるんです

 

 ―――――――――

 

「そこ、ライトの角度もう少し下げて……そう。あぁ、そっちのライトはそのままで」

 

 おはようございます。アイドルの佐々木千枝です。今日は日曜日ですが、千枝は朝から千枝専属のプロデューサーさんと午後から始まる千枝のライブイベントを行うライブハウスへ来ています。

 今回は今までと違って大きなところなので少し不安ですけど、レッスンもしっかりしたし、プロデューサーさんも太鼓判を押してくれましたから、来てくれたファンの人たちを頑張って笑顔にしたいです!

 

「千枝、そのままでいいからそこのステージの中央に立ってみて」

「分かりました」

 

 プロデューサーさんに言われてステージ中央に立つ。

 するとプロデューサーさんはスタッフさんたちに細かく指示を出して、千枝が最高に輝けるステージにするために頑張ってくれました。

 

 ―――

 

 それからリハーサルも終えると、プロデューサーさんはスタッフさんたちとの打ち合わせで席を外し、千枝だけ用意された楽屋で休憩中。

 プロデューサーさんが帰ってきたらお昼ご飯かな?

 

 デビューしたばっかりの時は緊張でお仕事の前にご飯なんて食べられなかったけど、今は食べられるようになりました。それに最近は特にだったり……てへへ。

 

 ガヤガヤ

 

 あ……打ち合わせ終わったのかな?

 楽屋のドアの外から話し声が聞き取れるくらいになると、

 

「あのプロデューサー、ホント細けぇよなぁ」

「分かるわぁ。んなライトの角度でとやかく言うなっての」

「あんな奴に日々しごかれてる千枝ちゃんかわいそー」

「ロリコンだから千枝ちゃんには甘かったりな!」

「あはは、ケーサツ呼ばなきゃっ!」

『ははははは!』

 

 スタッフさんたちが千枝のプロデューサーさんのことを悪く言ってるのが聞こえました。

 

(……ひどい……)

 

 プロデューサーさんのこと何も知らないのに、そんな悪口を陰で言うなんて……。

 

 プロデューサーさんはお仕事に対しては厳しい人です。でも厳しいのはそれだけ真剣にお仕事に取り組んでるってことだし、上手くできれば笑顔だって見せてくれる。それに何より、本当はすごくすごく優しい。

 だから今のアイドルとしての千枝がいるのに……。

 

 ガチャ

 

「待たせて悪かったな。昼食に……どうした、何かあったのか?」

「あ……プロデューサーさん……」

 

 プロデューサーさん、どうしてそんなこと訊くんだろう?

 そんなことを考えていると、プロデューサーさんは千枝のすぐ近くにやってきて、

 

「涙なんか流して……本当にどうしたんだ?」

 

 無意識に流していた涙を優しくハンカチで拭いてくれました。それと同時に涙を流していた自分に驚きました。

 

「…………」

「何か不安なことでもあるのか?」

「……プロデューサーさん」

「ん?」

「千枝はプロデューサーさんと出会えて幸せですから!」

 

 だからこれからも千枝はプロデューサーさんから離れませんっ!

 

「…………あぁ、なんとく察したよ。ありがとうな。でもそれくらいで泣くな。俺は周りからの評判なんて気にしてないから」

「はい……」

 

 プロデューサーさんはそう言うけど、千枝は嫌です。

 だって大好きな人が悪く言われてるのはとても悲しいから。

 

 実は千枝……小学生なのにオトナのプロデューサーさんとお付き合いしてるんです。

 最初は憧れるオトナってくらいだったんですけど、ずっとプロデューサーさんと過ごしている内に好きになってて、いっぱいいっぱい告白してプロデューサーさんも受け入れてくれたんです。

 もちろん、事務所には秘密です。じゃないとプロデューサーさんが大変なことになっちゃいますから。

 

 お付き合いをしてると言っても、千枝はお付き合いしたら何をすればいいのか分かりませんでした。

 でもとにかくプロデューサーさんと……この人とずっと一緒にいたいって気持ちが溢れて、未だにどうしたらいいのか分からないけど、自分なりにプロデューサーさんの恋人としていっぱいいっぱいプロデューサーさんに尽くしたいって思ってます!

 

「まあとにかく昼食にしよう。今日も作ってきたから」

「っ! はい!」

 

 お昼ご飯がお仕事で出ない時、そんな時はプロデューサーさんがお弁当を作って来てくれます。プロデューサーさんってお料理が趣味なのでとても楽しみなんです♪

 それに好きな人が千枝のためだけにお料理してくれたっていうのが、とても嬉しいんです♡

 

「今回は千枝が前に喜んでくれたウサギさんのリンゴとかデザートに色々と持ってきたんだ」

「わぁ、嬉しいです♡」

 

 プロデューサーさんはとても器用さん。リンゴのウサギさんはもちろんのこと、カニさんだったりお花の柄だったり、フライドポテトみたいにカットしてあったり……とってもすごいんです!

 

「美味しい?」

「はい、とっても美味しいです!♡」

 

 おにぎりも海苔でかわいいウサギさんの絵を描いてくれてますし、今回は中の具がシャケです♪

 

「千枝の笑顔が見れて良かったよ」

「えへへ、千枝はプロデューサーさんの前ならいつだって笑顔ですよっ!♡」

「さっきは泣いてたのに?」

「あ、あれはプロデューサーさんがいなかったからセーフです!」

 

 そもそも自分でも泣いてなんて気づかなかったんですから。

 

「にしても千枝は優しいな」

「もぐもぐ……んぅ?」

「だって俺に対する悪口が聞こえて、泣いてたんだろう?」

「は、はい……」

「他人の悪口聞いて泣くなんてなかなかないぞ? だから千枝は優しいんだ」

「他人じゃないです」

「え?」

 

 他人の悪口じゃない。

 あれは―――

 

「大好きなプロデューサーさんへの悪口です! 千枝にとっては他人なんかじゃないです!」

 

 ―――絶対に許せない。

 

 それに優しいという言うなら、プロデューサーさんです。

 お仕事で失敗しても怒るんじゃなくて、『あれだけ準備してても失敗はする。次から気をつけような。俺も気をつけるから』って励ましてくれるんですから!

 

「ははは、そうか。ありがとう」

「っ♡」

 

 そ、それに……こんなに優しくて素敵な笑顔の人を悪く言えませんよ。

 

「むぅ……プロデューサーさんもスタッフさんたちに優しくすれば、悪口言われないのに」

「無理だな。仕事は仕事でアルバイトにせよパートにせよ、それでお金を貰うなら責任を持ってやってもらわないと」

「………………」

 

 む、難しい……。やっぱりオトナになるって大変なんだなぁ。

 

「それに俺は優しくするのは好きな人にだけって決めてるからな」

「え――」

 

 それって……

 

「――千枝にだけって、こと……ですか?」

 

 ……そういうことだよね?

 

「当然だろう。寧ろ千枝にはうんと優しくしてるんだがな。千枝にしか俺手作りの弁当なんて用意しない」

「〜〜〜っ」

 

 どうしよう……嬉しい♡

 でも嬉しいのに、お顔が熱くなって、プロデューサーさんのお顔を見れなくなっちゃう♡

 胸がたくさんドキドキドキドキして、うるさいくらい。

 

「ニヤニヤして、そんなに嬉しいか?」

「に、ニヤニヤなんてしてません……えへへ♡」

「俺にはニヤニヤしてるようにしか見えないなぁ」

「気のせいですぅ♡」

 

 ほっぺたプロデューサーさんにむにむにされてる。恥ずかしいけど、なんか恋人扱いされてるみたいで嬉しい。

 

 まあ、いつも二人きりの時は恋人扱いしてくれてるんですけどね♡

 

「また一層ニヤニヤしたな」

「し、してません〜♡」

「どの口が言ってるんだか。まるで説得力ないぞ」

「知りません〜♡」

 

 それからもプロデューサーさんは千枝のほっぺたをたくさんむにむにしてて、千枝はそれが嬉しくてずっとプロデューサーさんと笑ってました。

 

 ―――――――――

 

『皆さん、ありがとうございました! また来てくださいね!』

 

 ワァァァァァッ!

 

 ライブも無事に終わり、スタッフさんたちに挨拶して楽屋へ戻ろうとすると、

 

「す、すみませんでした!」

 

 角のところでライトを担当していたスタッフさんたちがプロデューサーさんに謝っていました。

 

 実はライブ中、曲を流す前にライトが点かなくなってしまったんです。

 それでプロデューサーさんは急遽曲をバラードに変更して、トラブルじゃなくて演出ということにしたんです。

 その結果、なんとかライトは直ってサビの前には点きました。

 

 でもスタッフさんたちは自分たちのミスってことでプロデューサーさんに謝ってるんです。

 そんなスタッフさんたちにプロデューサーさんは、

 

「ミスなんて誰にでもあります。今回はなんとかなりましたし、返っていい演出になりました。だから謝らないでください」

 

 プロデューサーさんは優しい言葉をかけてました。

 スタッフさんたちもすごくホッとしてるし、これならもうプロデューサーさんのことを悪くは言いませんよね。

 でも、ちょっと複雑です。

 だってプロデューサーさんは千枝にだけ優しいって言ってくれたのに、ああなんだもん……。

 

 だから―――

 

「プロデューサーさんっ! 千枝、頑張りましたよっ! 褒めてくださいっ!」

 

 ―――千枝は欲張りさんになってスタッフさんたちからプロデューサーさんを取っちゃいました。

 大声にすることはできないけど、この人は千枝のなんだから。

 

「おぉ、よく頑張ってな。声もよく出てたし、ダンスもキレがたったぞ」

「ありがとうございます!♡」

「じゃあ、今衣装さんたち連れてくるから、楽屋で待っててくれ」

「はーい♡」

 

 ―――――――――

 

 スタッフさんたちに挨拶をして、事務所までの帰り道。

 千枝はプロデューサーさんの運転する車の助手席で怒ってました。

 

「千枝、どうしてそんなに怒ってるんだ?」

「千枝以外の人にも優しくしてたからです」

「あれは別に優しくなんてしてないぞ?」

「千枝だけって言ってくれたのに……」

「機材のトラブルは仕方ない。それを俺がとやかく言うのはあれだから、仕方ないですねって話しだろう」

「むぅ……」

「千枝は意外とヤキモチ焼きさんなんだな」

「どーせ子どもですよー!」

「ははは、可愛いな」

「ふんだっ」

 

 自分でも変なこと言ってるって思う。でも本当に胸がモヤモヤして素直になれないんです。

 

「千枝、許してくれよ。本当に千枝にしか優しくしてないんだから」

「………………」

「ライブ成功のお祝いに今度デート連れてくから」

「……プロデューサーさんのお家がいいです」

「いいよ」

「……いっぱいキスしてくれなきゃ許しません」

「報告が終わったら嫌ってくらいするよ」

「約束してくれますか?」

「うん、約束する」

「えへへ、なら許してあげます♡」

 

 千枝はプロデューサーさんのことになるとすぐに拗ねちゃう子どもだけど、もう少しこのままでも許してくださいね。

 それだけ千枝はプロデューサーさんを独り占めしたいですから♡―――

 

 佐々木千枝♢完




佐々木千枝編終わりです!

千枝ちゃんは合法ってことで!
それに健全なお付き合いですしお寿司!

お粗末様でした☆

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