デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

93 / 196
上京してる設定です。


篠原礼編

 

 社交ダンスは華やかなイメージがある

 

 でも実は情熱的だったり

 

 観客を興奮させたりと

 

 華やかさとは別の物がある

 

 それはアイドルも同じ

 

 でもアプローチの仕方が違う

 

 笑顔の見せ方ややり方

 

 己の長所の見せ方と

 

 己の短所の隠し方

 

 そんな奥の深い世界に私を導いた

 

 悪い魔法使いがいる

 

 ―――――――――

 

「ね、ねぇ、プロデューサー君……本当に行かなきゃ駄目?」

「はいっ! 罰ゲームですからっ!」

「……そうよね……」

 

 私、篠原礼は本日、絶体絶命のピンチを迎えている。

 今日は久々の完全オフということで、同じ日にオフとなった私専属のプロデューサー君と一緒に浅草の遊園地にやってきた。

 

 ここまで言えば察しのつく方もいるでしょうけど、敢えて言うと私とプロデューサー君はお付き合いしてる。

 そして今日は半年目の記念日ということで前々から予定していたデートなの。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 私のプロデューサー君への第一印象は素直。

 私が教える社交ダンスのスタジオに彼はやってくると、初めてなのにとても飲み込みが早くて驚いた。そしてその飲み込みの早さは素直さのお陰だと思う。

 だから彼がその気なら本格的にレッスンをさせようと思ってた。

 

 なのに彼は私に―――

 

『アイドルとして踊って』

 

 ―――と、私に申し込んできた。しかもちゃんと私の手を取って。

 こんなこと初めてだったけど私より4つ年下なのに、その読めない発想と裏表のない素直さに騙されてみたいと私が思った。

 

 アイドルになってみると彼への興味は増す一方。

 世間一般からすれば遅すぎるアイドルなのに、彼はそれを逆手に取って私を盛大に売り出した。

 そして半年前、私は初めてドームでのワンマンライブを成功させた。

 その感動が私に勇気をくれた。彼に告白する勇気を。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 結果として今の関係になれたのは嬉しかったし、私は彼の前だけでは生娘みたいになってしまう。彼の視線と重なるだけで、彼の声を聞くだけで……私の心臓は壊れたかのように高鳴り出して、私の世界で彼だけしか映らなくなる。

 それだけ私は彼に惚れていると毎回思い知らせるし、彼に愛されていると思うと全身に電気が走ったみたいな感覚に陥る。

 

 なのに―――

 

「いやぁ、楽しみですね! ここのお化け屋敷、怖くて大好きなんですよ、僕!」

 

 ―――今だけはちょっと……いや、とても嫌な彼氏だと思うわ。

 

 私は普段から事務所では年長組に属するから、私より年下の子たちの前ではお姉さんとして振る舞ってる。

 けど、私にだって苦手な物はある。それがお化け屋敷といった暗い場所。停電も嫌いだし、お化けも大っ嫌い。

 

 じゃあ、どうして今に至るのかというと、昨日彼となぞなぞ勝負をして彼が私の出したなぞなぞをヒントなしで全問正解したから、これがその罰ゲームって訳なの。

 彼、実は頭の弱い振りをしているだけで相当頭のキレる人なのよね。

 そしてもっと厄介なのが全問正解されて悔しいはずなのに、何故か喜んでた自分がいたこと。やっぱり惚れた方が負けってのは正しいことなのかもしれない。

 

 でもね―――

 

「うぅっ……貴方も怖いなら余計に嫌よ! 他の罰ゲームにしましょうよ!」

 

 ―――お化け屋敷は本当に無理なのよ!

 作り物とか中に人がいるとかそんなの関係無いの、私には。その空間その物が嫌なの。入ったら泣く。絶対に泣く。100%泣いちゃう自信が私にはあるの!

 

「うーん……」

「…………」

「却下で♪」

「ガクッ……」

 

 酷い……酷いわプロデューサー君。でも大好き。

 今日はデートだから貴方好みのメイク(それでも変装はしてる)をしてきたのよ? それに前にプロデューサー君が喜んでくれたからお弁当だって作ってきたのよ? それにそれにプロデューサー君が興奮するっていうからショートパンツに貴方好みの網タイツを履いてきたのよ!?

 それなのにこれからわくわくドキドキのデートじゃなくて、ハラハラドキドキのお化け屋敷だなんてぇっ! それでも愛してる。

 

「4分弱で終わりますから♪」

「魔の4分間よ……」

 

 こうして私はプロデューサー君に手を引かれて足取り重くお化け屋敷へ向かった。

 

 ―――――――――

 

「……3時間待ち」

「…………!!」

 

 やった! やったわ! 勝利の女神は私に微笑んだわ! 考えてみれば今日は祝日! それなら遊園地が混むのは当然! 女神は我に味方せり!

 

「プロ……〇〇君、混んでるみたいだし、他のアトラクションにしない?」

「……そうですね。取り敢えず先に食事にしましょうか。それから並びましょう」

「そ、そうね……」

 

 駄目だわ。この人、完全に並ぶ気でいる。寧ろ私は退路を絶たれたわ。お腹が空いたから今回は諦めましょうというカードを封じられたのよ!

 かくなる上はもう恥を忍んで腹痛とか言って逃げることくらいしか残されていない。

 

 ―――

 

 レッスン中以上に思考をぐるぐると巡らせる私をよそに、プロデューサー君は遊園地内のパラソルがあるテーブルへ私の手を引いて座らせてくれた。優しい、好き。

 

「お弁当用意してくれて嬉しいです! お化け屋敷の次に楽しみしてたんですよ!」

「ちょっと引っ掛かる言葉だけど、素直に喜んどくわね……」

 

 お化け屋敷の次ってのは悔しいけど、これだけ喜んでくれるなら作ってきた甲斐があるというもの。

 だから私は今は私の作ってきたお弁当で大喜びしてる彼との昼食を楽しむことにした。

 

「貴方は結構食べる方だから、多めに作ってきたの。だから好きなだけ食べて♡」

 

 バスケットの蓋を開けると、彼は少年のように目を輝かせて「ふぉぉぉっ!」って声を上げる。可愛い、大好き。

 

「ふふっ、そのリアクション最高ね♡ 私まで嬉しくなっちゃうわ♡」

「だって好きな人の手作りですから! テンション上がんない方がおかしいですって!」

「ありがとう……仮に私がお料理下手だったら?」

「不味いといいつつも食べます!」

「ふふふっ、優しいんだか正直なんだか……♪」

 

 本当に彼といるとなんの変哲もない会話が楽しくて仕方がない。どうしてこんなにも私を魅了するのかしら、この人は♡

 

「いただきます!」

「召し上がれ♡」

 

 お行儀良く手を合わせてから彼が先ずはじめに手を伸ばしたのは、一口オムレツ。彼は卵料理が好きで、毎回3食卵かけご飯でもいいと豪語したことがある。

 だから私も自然と卵料理を多めに作ってきた。オムレツの他にタマゴサンド、タマゴサラダ、半熟玉子のベーコン巻き、タマゴの入ったハムカツ、うずらのタマゴのスコッチエッグ……。私ってとことん好きな人には甘くなるみたい。

 

「美味しいですっ! もぐもぐっ!」

「まだまだあるから、慌てないで?♡」

「ごくん……はいっ!」

 

 はぁ……好き過ぎて思わずため息が出る。

 

 どうしてこんなに可愛いの?

 どうしてこんなに素敵なの?

 どうしてこんなに…………

 

 本当、これが初めての恋って訳じゃないのに、何もかもが初めてのように心が揺さぶられる。

 私って自分で思ってたよりも恋愛経験が豊富じゃなかったのかしら。

 

「礼さんは食べないんですか?」

「え」

 

 私が物思いにふけっていたから、彼は心配そうに私へ声をかける。

 その瞳に……私なんかよりも多くのことを見てきたであろうその黒い瞳に見つめられると、私の体はカァーッと熱を帯びていく。見つめられるのなんて慣れているはずなのに。

 

「大丈夫ですか?」

「えぇ、今日は早起きもしたし、そのせいかも」

「そこまでしてお弁当を作ってくれて嬉しいです。ありがとうございます」

「どういたしまして♡」

 

 貴方に見惚れてたなんて恥ずかしくて言えない。だからそれらしい言葉を返したのに、その返答で私は余計に彼に釘付けになる。

 本当に悪い人♡

 

 ―――――――――

 

 楽しい昼食が終われば、いよいよお化け屋敷に並ぶ。

 でも彼は根っからの鬼じゃない。私があまりにも食い下がるものだから、彼は遊園地内でもあまり目立たないところにあるベンチへと連れてきた。

 

「プロデューサー君、いくら人目が少ないからって私に何をさせる気なの?」

 

 私は口ではそう言ってるけど、

 

「何言ってるんですか。僕はそんな趣味ありませんよ」

 

 彼がそういうつもりでないは分かってる。だから私は別条件を突き付けられるというシチュエーションなのにもかかわらず、彼が私に何を要求するのかわくわくしていた。私って実はそっちの気があるのかしら?

 

「礼さんが可哀想なので、僕から提案させてもらいます」

「何かしら?」

「今から僕が出すなぞなぞに正解出来れば、お化け屋敷は無しにします」

「なるほど、そういうことね。いいわ、出して頂戴」

 

 どんな難しいなぞなぞだってお化け屋敷が回避出来るならやってやるわ。どれだけお化け屋敷が嫌いなのって思われるかもしれないけど、これはどうしようもない。どうしようもないことなの。

 

「では出します。『初めてのキス、クリスマスのキス、結婚式のキスをしました。この中で二人の距離が最も縮まったのはどれ?』……3分以内にどうぞ」

 

 キスに関連したなぞなぞ? 距離って心の距離よね? キスってどれも至近距離だもの。

 

「1分経過」

 

 え、待って。お願い。

 

「ヒントは?」

「心の距離ではないです」

 

 えぇぇぇぇぇっ!? どういうことなの!!? キスってそもそも至近距離じゃない! エアキスみたいな!? それとも投げキッス的な!?

 

「2分経過〜」

 

 どうしよう……分からない。物理的な距離が縮まったキスなんてどれも同じじゃないの。

 あぁ、なぞなぞを考えたりするの得意だから甘く考えてたわ。

 

 そしてもう3分が過ぎようとした瞬間―――

 

 ちゅっ♡

 

 ―――プロデューサー君に私の唇を奪われた。

 

 どういうことか分からない私が目をパチクリさせていると、彼はクスクスと笑い出す。

 

「正解は結婚式のキスです。誓い(近い)のキスですから」

「あ……」

 

 彼の策にまんまと嵌った。至近距離ってことばかりに気を取られて、視野が狭くなってた。

 でも不意打ちとはいえ、あんな風にキスするのって狡いと思う。悔しい、好き、大好き、愛してる。

 

「理解出来ました?」

「もう、意地悪な人ね♡」

 

 本当に悪い人なんだから♡

 なのにそんな彼のことが好きで好きでどうしようもない自分がいる。

 

「では罰ゲームです」

「分かりました。覚悟決めます」

「今度は礼さんから、僕にキスしてください。今、ここで」

「え?」

「この僕が礼さんの嫌がることすると思います?」

「…………嫌い」

「わぁ、ショックだなぁ♪」

「嘘。好き……大好き。これでもかってくらい貴方に夢中よ、愛してる♡」

 

 ちゅっ♡

 

 本当にこの人は悪い人だ。この人の前だと、私はアイドルでもお姉さんでもなく……ただの恋する少女にされてしまうのだから。

 

 来園者の何人かに私たちのキスシーンは見られてたけど、プロデューサー君が上手く私の顔を隠しててくれたからバレはしなかった。

 その後の周りの視線はちょっと生温かく感じたけど―――。

 

 篠原礼♢完




篠原礼編終わりです!

普段は大人らしい礼さんも惚れたプロデューサーの前では女の子になるってことで!

お粗末様でした☆

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。