海が好き
小さな頃から
いつも側にあって
優しく私の心を
落ち着かせてくれた
そんな私に
私が知らない海を
教えてくれた人がいます
―――――――――
「わぁ……プロデューサーさん、見て見てっ。一面がコバルトブルーよっ」
「テレビとかで観たのと同じだなぁ」
私、瀬名詩織は今、海外の有名なリゾート地にある浜辺へ来てるの。今回はお仕事ではなく、完全プライベートで。
どうしてそのお相手がプロデューサーさんなのかと言うと、私が今回のこの旅行にプロデューサーさんを直々にご招待したから。
私は私専属のプロデューサーさんと事務所に内緒で半年前からお付き合いをしてる。
アイドルなのに……プロデューサーなのに……と、言われてしまうかもしれない。でも多くの時間を共に過ごしてきた私たちがこうなるのは普通だと思うの。
プロデューサーさんだって私のこの想いを穏やかな海のように受け止めてくれた。ならもうあとは海に漂うようにこの身を任せることにしたの。
とても優しいプロデューサーさんなら……この人なら私をずっと導いてくれると思って。
私の見込んだ通り、プロデューサーさんは私を導いてくれて、ステージから見える最高の海を幾度も見せてくれた。だから今回はその恩返しってことで私から海に誘ったんです……と言っても、私も沖縄の海じゃない外国の海なんて今回が初めて。だけど、お父さんの伝手でこのリゾートホテルの予約を取れたから良かった。
「まだチェックインするには早いし、先に浜辺をお散歩しましょっ」
「あぁ、もちろん。それにこんなにはしゃいでる彼女のお誘いを断れないしな」
「もう、そんな言い方しなくたって……意地悪」
はしゃいでるのは自分でも分かってる。確かにこんな綺麗な海を前にしたら誰だって気分が盛り上がるでしょう? でも大好きなあなたと一緒だから、今の私は余計にはしゃいでるんだからね?
「ごめんごめん。ほら、掴まって。砂に足を取られて転んだりしたら大変だから」
「…………はい♡」
さり気なく差し出された左腕。いつもはスーツで隠れているけど、今日は流石のプロデューサーさんも私服でポロシャツ姿。
男らしい腕だけど、特に運動してないから二の腕の柔らかさがいい具合♡
「誘ってくれてありがとうな」
「それもう三度目」
「いやぁ、だってなぁ……」
「あなたはもっと自分の評価を改めた方がいいと思うの。私がアイドルとして成功したのは全部あなたのお陰。だからあなたは私から感謝されるべきなの」
本当にプロデューサーさんは控えめ過ぎる。今回のこの旅行だって私が半ば強制的に連れてきた形。だってそうでもしないとこの人は遠慮しちゃうんだもん。私だってプロデューサーさんにお返ししたいのに!
「あ、あぁ、分かったよ」
「じゃあ……んっ♡」
ちゅっ♡
「ありがとうのキス……ご馳走様♡」
「ど、どういたしまして……」
お顔赤くしちゃって可愛い♡ 初めてのキスの時とは全く立場が逆になっちゃってるなぁ。
理不尽って言われちゃうかもしれないけど、プロデューサーさんが私にこんなに気持ちがいいことを教えたんだから責任とってもらわないとね♡
―――
「あ、あなた。そんなに波打ち際へ行っちゃ駄目」
「え……でももっと近くに行った方が良くないか?」
「ううん、一定の距離でいいの。それに出会った頃のようにあなたが不意に波にさらわれちゃったら、嫌だもの」
「う……あれは忘れてくれよ。あれは本当にうっかりしてたんだよ」
「………………」
「わ、分かったよ」
「うん♡」
私、海は好きだけどカナヅチだからもしプロデューサーさんがまた波にさらわれても自分の手では助けられないもの。だから安全な場所で眺める方がいいの。
あなたのために私はそう考えてるのに―――
「あの時のこと思い出したらまた詩織に膝枕されたくなったなぁ」
―――あなたは別のことを思い返してる。本当に仕方ない人♡
「もう、ホテルに行ったらいっぱいしてあげるから我慢して♡」
「えぇ、浜辺ではもうしてくれないのか?」
「今はしてあげな〜い♡ 今はお散歩の時間だも〜ん♡」
「詩織は意地悪だなぁ」
「私の好きな人も意地悪だからお相子ね♡」
「くぅ……可愛いから何も言えねぇ」
「ふふふっ♡」
こうして私たちはホテルへチェックインする時間ギリギリまで浜辺のお散歩を満喫したの。
―――――――――
ホテルにチェックインした私たち。流石に急な予約だったからスイートは取ってあげられなかったけど、どの部屋もオーシャンビューで海を一望出来るし、ジャグジー付きのバスルームが付いてる。このホテルにしてよかった。
「うわぁ……詩織のお父さんに今度お礼しなきゃ」
「そんなことすると結婚式場を用意されちゃうかも」
「えぇ……駄目駄目! 詩織はまだ引退させられないよ!」
「私だって引退する気はないわ。でもプロデューサーさんってお父さんに凄く気に入られてるから、お礼しますなんて言ったら……ね?」
「じゃ、じゃあ、悪いけど詩織からお礼の品渡してくれ。あとで買ってくるから」
「は〜い♪」
結婚してママになってもアイドルを続けてみるのも面白そうだと思ってるんだけど、今プロデューサーさんに話したら絶対に驚かせちゃうからこのことはまだ言わないでおこう。
「それじゃあ、もう夕方だしディナー前にひとっ風呂浴びるかな〜」
「それなら私も♡」
「お、一緒に入っちゃう?」
「えぇ、だって今はアイドルとか関係ないもの♡」
「じゃあ、いっぱいイチャイチャしよう!」
「ふふっ、こういう時ばっかりあなたは子どもみたいになっちゃうのね♡」
「男なんてみんなそんなもんさ♪」
「あいにく私はあなたしか家族以外でここまで親しくしてる男の人はいないの♡」
「光栄に思うよ♪」
プロデューサーさんはそう言うと私を優しく抱き寄せて、唇を重ねてきた。そのキスが嬉しくて、早く終わらせたくなくて……私は彼の首に手を回して少しでも長くキスをした。
―――
「おぉ……」
「綺麗……」
一緒にバスルームへとやってきた私たち。教えてもらっていた通りバスルームからも海が一望出来るけど、お部屋の方ではキスばっかりしてて気が付かなかった幻想的な景色が広がっていた。
「凄いなぁ……」
「はい、こんな景色をあなたと二人きりで見られるなんて、本当に幸せ……♡」
「益々お礼の方を頑張って選ばなきゃな」
「ふふっ、あなたってばそればっかり」
「あ、もちろん詩織にも何かお礼するからな!」
「あの〜、この旅行はあなたへ私からのお礼なんだけど?」
「お礼のお礼だっていいだろ!?」
「ふふふっ、は〜い♡」
それから肩寄せ合って湯船に浸かる私たち。私は海の方ばっかり目がいってるけど、隣から明らかな視線を感じる。もう、プロデューサーさんのエッチ……♡
「タオル取った方がいい?♡」
「え……あ、肩紐のない水着着てるのか!」
「一緒に脱衣所で脱いだはずなんだけどなぁ?♡」
「うぐっ……で、ですよね〜」
「見たいなら見たいって言って?♡」
「べ、ベッドの上で見たいなぁ〜、なんて」
「……エッチ♡」
「申し訳無い」
「ふふふっ♡」
あぁ、どうしてこんなに胸がときめくの♡ 大好きな人とこんなお話しをしてるなんて前の私では想像出来ない。
プロデューサーさんにエッチなんて言っちゃったけど、私だって人のことは言えない―――
「あなたの触ってほしそう♡」
「あ、こ、これは……」
「唇には沢山キスしたから、今度はこっちにキスしようかなぁ♡」
―――だって私だってそういう気分だもの♡
「お、お願いします」
「は〜い♡」
―――――――――
ちょっと熱が入り過ぎてしまった私たち。主に私がだけど……♡
だからディナーはルームサービスを頼んだ。
「本当にワインとか飲まなくていいの?」
「俺一人だけ飲むのもね。詩織が二十歳になったら一緒に飲もうよ」
「はい」
「それにさ……」
「?」
「今夜はお酒の力を借りなくても、雰囲気とか詩織に酔ってるようなものだし……」
キュンッ♡
「ふ、ふふふっ♡」
「わ、笑うことないだろ……自分でも柄じゃないの分かってるんだ」
「ふふっ、ごめんなさい。でもそれならなおのこと、雰囲気なんて入れずに私だけに酔っててほしかったなぁ♡」
「うぐっ」
「ふふふっ♡」
あぁ、幸せ♡ 星明りで煌めく海と愛おしい人が揃って……これを幸せと呼ばずになんて言うの。
「あなた」
「ん?」
「私、今とっても幸せよ♡」
「なんだよそれ、そんなの俺のセリフだよ……」
「あなたも私と同じ気持ちなの?♡」
「当たり前だろ」
「そっか……そうなんだ♡」
同じ気持ちってだけなのにこんなにも胸が弾むことってあるの? いえ……これもあなたが私に与えてくれたことなのよね。
プロデューサーさんは当たり前なんて言ってけど、こんなにも幸せなことが当たり前だなんて私は思わない。
お父さんが好きなイギリスの小説家『ジョセフ・コンラッド』は海に対してこう残してる―――
海は人に優しかったことなどない。
不安を掻き立てるのが関の山だ。
―――と。
私はこの言葉に力強くは頷けないけど、この人の考えを否定は出来ない。感じ方は人それぞれなのだから。
だからこそプロデューサーさんの言う『当たり前』なんてないと思う。
もしこの幸せが当たり前なら、私はきっと幸せ過ぎてもう死んでると思う。それくらいに今の幸せは尊くて大切な時間なの。
「あなたに出会うきっかけをくれた海。だから私はあの日からもっともっと海が好きになった」
「? ごめんなんて言ったんだ?」
「海に感謝してたの♡」
「そっか……最高のロケーションだもんな」
「えぇ♡」
私の思いをプロデューサーさんはすべて把握は出来ない。それは仕方のないこと。でも同じ時間を共有することで、私たちの恋は育まれていくのだと思う。そしてそれはきっと海のように大きくなると思う……いや、なるわ。だって私のプロデューサーさんへの思いは今もどんどん大きく広がっているもの♡
「ところであなた♡」
「なんだい?」
「私、早速あなたからのお礼がほしくなっちゃった♡」
「お、何々? 遠慮せずに言ってくれ!」
「あなたとの甘い時間♡」
「………………」
「もう、なんとか言ってよ、これでも恥ずかしいんだから♡」
「べ、ベッド行こうか……」
「わぁい♡」
こうして私は大好きな人の一番近くで、夜が明けるまで愛を囁いてもらった♡ といっても、旅行中はずっと囁いてもらっちゃった♡―――
瀬名詩織♢完
瀬名詩織編終わりです!
お嬢様ってことで物静かながらもアッツアツな恋愛モノにしました!
お粗末様でした☆