注意。この先の文章は独自設定と独自解釈、ネタバレにまみれています。好まない方はブラウザバックして下さい。
人理焼却を防いだ数日後、昼を過ぎたあたりの時間帯にマスターである藤丸リツカは今までの道のりを振り返るのも良いかもしれない、と考えカルデアにある記録保管室に足を運んでいた。
「あれ、マスターじゃないか。こんな所に何か用事かい?いや、言わ無くてもいいよ。こんな場所で出来ることなど記録の閲覧ぐらいしかないのだから。」
驚くことに、いや驚くほどのことではないのかもしれないが保管室には既にホームズがいた。
相変わらず自分本位な私立探偵だ。彼の相手は疲れるから、出来れば誰か他の人に任せたい、などとリツカは考えながらも、疑問を口にした。
「ホームズは記録を閲覧して何をしようとしていたの?」
薄々勘づきながらも質問を口にするリツカに対して、まるで当然のことを言うようにホームズは答えた。
「君とカルデアが歩んだ道のりには数多の謎が埋まっている。この私がその謎を放置しておくはずもないだろう。英霊たちの宝具や戦闘に目を通しておこうと思ってね。ちょうど君がやってくるだろう時間に閲覧許可を取っておいたよ。探偵は推理を聞かせる相手がいなければ始まらない。」
「分かったよ。一人で振り返るのも辛いからさ。解説を頼むよ、私立探偵さん。」
「……私がするのは推理なのだが。まぁ、いい。全てを振り返っていると時間が足りない。要点を押さえて記録を見ようか。」
リツカが最初に選んだのは特異点Fにおける最終戦。アーサー王との戦いだった。
「懐かしいな。オルガマリー所長がいる。正直言ってこの戦いは冬木でのトラウマなんだよなぁ。ケリをつけたかったんだよね。」
特異点Fでの最終戦は円卓の騎士王である。加えて言うのならば、聖杯による強化が多分に掛かっており、非常にカルデアにとって手強かった。
「正直言って、勝てたのはマシュがギャラハッドのデミサーヴァントだったからとクーフーリンが味方だったのが大きかったんだよね。」
「強い英霊であったこともそうだけれど、戦力の不足と、君たちの戦闘慣れを考慮すれば最も厳しい相手だったと言っても過言ではないだろうね。」
映像を見ているリツカの顔は渋かった。トラウマを刺激されているのだろうか。
「ああ、そうそう。聖剣を防ぎきった直後の、隙をついての大神宣言が防がれて、キャスターのお腹が半ばまで切られたんだった……。」
「プリドゥエンが有ったら更にまずかったね。剣と盾を使って戦うスタイルは騎士としては一般的なものだがアーサー王に使われると感じる絶望感が違う。」
「そういえば、カルデアに呼ばれたアーサー王は誰一人プリドゥエンを持ってないんだけど。説明してくれないかな、ホームズ。」
「ふむ。映像のほうの戦闘も終了した様だし、丁度いいか。マスター、君が疑問に思うことを聞いてくれ。それに私が答える形式にしよう。先ずはプリドゥエンの事だね。」
ホームズにとっては本腰を入れる程の事では無いのかもしれない。普段の謎解きにおいて話を中断されることを嫌う彼がこんな提案をするのだ。
リツカは部屋に漂う匂いを感じ、ホームズが気分がイイ事を悟ったのだろう。何も言わず、言葉を促した。
「さて、本来ならばアーサー王がプリドゥエンを所持するのはシールダーで特殊召喚されたときのみだ。そして、アーサー王程の英雄がセイバーで呼ばれる事以外は極めて異例だ。例外は数多あるが。」
「ランサーで呼ばれているじゃないか。それも例外的なものなの?」
「そうだよ。ランサーで呼ばれたアーサー王が神となっていたのを君は知っているだろう?通常、神霊の召喚は不可能なんだ。カルデアに呼ばれた神霊はその神性を半神以下に抑えて存在の規格を霊器にあわせている。ロムルスやケツァルコアトルがいい例だ。」
「オジマンディアスは神霊並みに強かったんだけど……」
リツカの脳裏に太陽王が浮かび上がったのだろう。リツカはあの王が神霊に匹敵するほど強大であった事を知っている。
「それにも理由がある。本来ならば神霊は英霊の規格には合わない。しかし、太陽神ラーと自らを同一視されるかの王は固有結界内において最大の信仰を獲得し、固有結界が付与する不死の加護が、霊器にかかる負荷を無視させているんだ。」
「そうか。じゃあもしかして、インドで呼ばれたラーマやカルナも……」
「その可能性はかなり高いね。彼らが召喚されたのが北米だったのは僥倖だ。さて、話を戻そう。アーサー王がプリドゥエンを使用出来そうだったのには聖杯が関係している。」
「それは分かってるよ。どうしてあの時"だけ"、盾を持ってこれそうだったかが知りたいんだ。」
気持ちよく話していたところに水を差されたホームズは不満げな顔でリツカに言った。
「まだ話は途中だよ。せっかちはいけない。」
若干の面倒臭さを感じつつ、ああこんな奴だったなと、リツカは続きを促した。ここで言葉を重ねても両者にとってよくないと思ったからだろう。
「アーサー王は元より聖杯と関係が深い英雄だ。しかし、聖杯を手にしてはいない。そこで先の状況だよ。聖杯を手にしないことが決定しているアーサー王が聖杯を手にした。それも、人理焼却中にだ。その矛盾が特異点を発生させた。聖杯の中身による汚染が彼女の属性を変質させ、本来の聖剣が反転したことによる宝具ランクの低下が霊器の余裕を生み、聖杯を手にした彼女は戦闘時の危機に際して、聖杯に自らの盾となる宝具を求めた。そして、聖杯は自身と、分かりやすく言えばキリスト教と関連深い宝具であるプリドゥエンが彼女に渡そうとしたということだ。全て遠き理想郷を使えないために代替としてプリドゥエンが選ばれたのだろう。」
「そういえば、プリドゥエンは聖母マリアの意匠が施された、船になる聖盾だったね。そういう繋がりか。」
リツカは納得したのか、しきりに頷いている。しかし、何か思いついたのか首を傾げながら口を開いた。
「ああ、そうだホームズ。キャスターのクーフーリンが使っていたルーン文字なんだけど、ケルト神話に所属しているキャスターが、北欧のルーンを使っている理由を教えてくれないかな?」
「……特異点Fの振り返りの最後として、これから話そうと思っていたんだが。先を越されてしまったか。神学者ではない私の下手な説明で我慢してくれ。」
ホームズはパイプを吸い、一呼吸置いてから説明を始めた。
「ケルト神話のアルスターサイクルにおける英雄であるクーフーリンには師匠がいる。そう、スカサハだ。影の国の女王である彼女は、北欧神話において"影"を意味する語を名前とする女神であるスカディと同一視される。ケルト神話というテクスチャと北欧神話というテクスチャは"影"という虚数域において重なった。それによって実数域では交わることのない両者は影の国においてのみ交わり、その断片が流出した結果、ルーンを使用するケルト英雄が生まれたというわけだ。」
「じゃあ、北欧の英雄もケルトの技術を使用する可能性があるって事?」
「いい質問だ。そして、それは無いよ。何故ならば、ケルト神話における影の国全域が重複区域であるのに対して、北欧神話ではスカディという個人のみしか重複区域でしか無いからだ。北欧神話におけるスカディは山に居を置いている山の統治者であって、虚数域の支配者では無いからね。そして、スカディ本人はケルトの技術を扱えるだろうけれど、純粋な神霊であるため召喚され得ない。」
理解しきっていない様子のリツカに、ホームズは言葉を重ねる。
「分かりやすく言うのならば、影の国は北欧神話世界との繋がりがあるために影の国で修行を積んだ者は少なからず北欧神話の術理を知っているし、使えるのだよ。メイヴは影の国には行っていないから北欧神話由来の力を使っていなかっただろう?クーフーリンの大神宣言もそうだ。ケルト神話の主神である光神ルーの血筋である彼がルーンを十分に使いこなせているのは、影の国での修行が一因だ。」
「そうか、概要は分かった。ところで、その言い方だとクーフーリンがルーンを使用できる理由は他にもあるみたいだけど?」
「正確には使用できる、ではなく使いこなせる理由だね。クーフーリンの父であるルーは"サウィルダーナハ"とも呼ばれ百芸に秀でる神でもある。工芸、美術、魔術、武術、医術、詩などに優れるルーの息子であると言う事実がクーフーリンがルーンを使いこなせる理由だ。ルーの多才さが引き継がれていることはクーフーリンが全てのクラスに適性が高い適性を持つことからもわかるだろう?」
なるほど、そう言われてみると戦車も剣も槍も投擲も全てにおいて高いレベルの英霊であったなぁ、とリツカは納得した。
「彼の息子であるコンラも………
脇道に逸れた話をさらに続けようとするホームズを制しリツカは言った。
「そろそろ次の特異点の振り返りに進もう。本筋とは関係ない話を続けていても時間が足りない。その話は後で話す必要があると思った時に話して。」
ようやく話が一旦終わり、一息ついたリツカは自分たちの話がまだ第一特異点にすら進んでいないことに気づいてしまったらしい。
まだ先は長いな、と思うリツカだった