Science,Magic,......SCP   作:独田博士

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tale 1-2 7月20日

7月20日、早船が初めて超能力を目撃した夜から数時間後、彼はとある高校の職員室に赴いていた。彼は学園都市に『学生』と『研究者』の2つで登録されている。『学生』である以上、学校には通わなくてはならないのだが、既に早船は大学教授レベルの頭脳を持っている。ならば研究者として同世代(外見)のおバカさん達を導く教師役になって貰おうと、とある高校から依頼が届いていたのだ。

 

授業に時間を割かれてしまうのは痛手だが、学園都市内にてきちんとした身分を手に入れることは間違いではない。また財団職員の身分を隠すためにも、一学生という肩書は丁度いいと判断されたのだろう。それに研究者としても登録されている為夜間の外出も自由であり、研究優先で学校を休むことも許可されている。繰り返しになるが早船の年齢は■■歳だということをここに記しておこう。

 

依頼を出してくれた高校の学力レベルも打ってつけだった。

学園都市内における学力レベルは、在籍している生徒の超能力レベルに大きく関わってくる。当高校はレベル0~2の生徒がほとんどらしく、言っては悪いが平凡の域を出ない。

 

だが、それこそ財団の求めていた潜伏先でもある。良くも悪くも”普通”の学校であるため、財団職員が紛れ込むには都合が良かった。進学校の生徒は全員エリートであるが故、学園都市の研究者に目を付けられる可能性が高いし、治安の悪い所は先の若人たち(ここでは”スキルアウト”と呼ばれるらしい)に絡まれる。とても面倒だ。

 

早船を出迎えてくれた教員(早船はその教員のあんまりな体系から『お兄ちゃんか、お姉ちゃんの補習を待っている、先生ごっこをしている幼女』と勘違いしてしまい、軽い説教を受けた)からは、転入は夏休み明けになるので、それまでは夏休みを満喫するようにとの説明を受けた。また、本日補習の為に数人、転入するクラスの生徒がいるらしく、挨拶も兼ねて参加してみないかとのお誘いを受けた。

 

「折角ですから、顔を出そうと思います。月詠先生、わざわざありがとうございます。」

 

「そんなのは教師として当たり前のことです、それじゃあ早船ちゃん、私のクラス1年7組にレッツゴーなのですよー」

 

やはり小学生にしか見えない、餅月さんといい勝負だなと独り言ちながら月詠教諭(件の教師である)の後ろを付いていく早船。端から見れば学校探検に付き合わされるお兄ちゃんにも、幼女を付け狙う変質者とも見て取れるがこの学校では良くある日常の一部だ。

 

「はいはいみなさーん。補習の前にちょっとしたご挨拶があるのですよー。早船ちゃん、お願いします!」

 

教室に到着した月詠先生が壇上(生徒から果たして見えているのだろうか、黒板に文字が書けるのだろうか、早船は激しく疑問に思った)から声を上げる。補習を受けるおバカさん達は夏休みという高校生活一番のお楽しみを学業に費やさなければならない虚しさからか、既にグロッキー状態の様で、やる気のないジトっとした眼差しが一斉に向けられる。とても自己紹介など求められていない状況ではあるが、来てしまったからには仕方ない。簡潔に済まそうと先生に促されるままご挨拶。

 

「早船 研人です。学園都市外の研究施設から此方に来ました。研究者としても活動していますので、いずれ皆さんに僕たちの研究についてお話しする『特別講義』をすることもあるでしょう。夏休み明けから一緒に過ごすことになりますので、よろしくお願いしますね」

 

簡単な挨拶、まばらな拍手に包まれながら本日の補習に挑む生徒連中を見渡す早船であるが、金髪アロハにサングラスという出で立ちの男子、青髪ピアスの巨漢という二連コンボにおみまいされワンダウン。そんな高校生がいていいのだろうか?サングラスは外すべきでは?うちの人事は潜入させる高校間違えてるんじゃないか?と後ほどサイト■■01に戻った際に問い詰めようと決心するが、そんな早船の視線は、見覚えのある人物を捉えた。

 

「......あ」

 

ウニ人間......もとい、昨日見かけた少年である。

どうやら昨日、痴情のもつれを起こしていた彼もこの学校に通っていたようだ。外の景色を見ながらセンチメンタルな気分に浸っているようだが、今は補習中。ぜひ此方に集中して欲しいものである。

 

補習までは見学せずに早船は退席する。

早々に失礼して、学生諸君には勉学に専念してもらおうとドアを閉める途中、どうやら上条君(クラスメイトや月詠教諭との会話からついさっき名前を知った)は校庭の女子テニス部のヒラヒラに夢中になっていたようだ、青髪ピアスな青年に告発された彼は完全下校時刻まで拘束されるらしい。残念だが同情する気にはなれない。

 


 

 高校見学も済ませ、本来の業務に戻るべく早船は場所はサイト■■01に出勤した。

 

学園都市支部が設立された理由…それは、要注意団体に認定された学園都市の調査が主な目的であるが、もう1つ、高度な科学技術を所持するこの学園都市ならば、今までその収容方法が未完全であったSCPオブジェクトを解析、安全に収容できるかもしれないという期待も含まれている。現在学園都市支部にて収容されているSCP-JPオブジェクトの殆どがsafeクラスだ。当然の話である、此方での特別収容プロトコルも未だ万全だとは言い難い。いきなりKaterクラスなんて送られた際は阿鼻叫喚の世紀末、収容違反待ったなしだ。まずはしっかりと収容手順が確立され、設備不足の支部でも収容可能なオブジェクトから再研究を始めるようにとのO-5、日本支部理事からの指令である。

 

常に危険と隣り合わせであり、世界を守るべく我が身を捧げる財団の職員たちだ。彼らは極めて生真面目で、全員が使命に燃える連中なのかといえば、必ずしもそうではない。そもそも財団職員が懸命な努力、研究の末に導き出した収容手順、確保手段でも、端から見れば変人奇人のそれと紙一重な部分があることは否めない。現に今も職員たちは皆......必死になってかき氷を食していた。

「皆さん一体何やってんですか......」

 

財団学園都市支部の研究施設は大きく分けて3つの施設に大別される。体育館程のスペースと誇り職員の主な勤務スペース、また打ち合わせや職員内交流の場となる『職員ロビー』、各博士、研究員、エージェントにそれぞれ1室づつ与えられる『研究室』(待機室とも呼ばれる)、SCPオブジェクトを収容する『収容室』だ。

施設入口の厳重な警備を抜ければすぐロビーに着く訳だが、早船に割り当てられた区画の人員は見知った顔ばかりなので仕事もし易い。

 

「何って、これも職務の内や。早船も早う手伝い!ボクもう体温奪われて動けんねん」

そう言って小皿に乗ったイチゴ味のかき氷を自前の機械で器用に口に運ぶエージェント・カナヘビ......学園都市支部では当サイトの副管理者として日本支部より異動している......は早船を学園都市支部へと派遣要請をした1人、いや1匹である。小刻みに震えており既に自身の限界を超えていることは明らかだ。

 

「これだから変温動物は使い物にならない。私なんてもう13杯目なんだから、いいから早船あなたもとっとと食べなさい。」

 

度重なる越権行為、規則違反。その上に職務怠慢と今までの所業には枚挙に暇がないが、反面多大な貢献もしている財団史上最高の女科学者前原博士だ。彼女の麗しく、蠱惑的な唇は真っ青であり、14杯目のブルーハワイ味に取り掛かろうとしていた。

 

「いや僕は別に......あぁ暴力は駄目っ!じゃあ、頂きます......僕はメロン味が好きなんで......おいしいじゃないですか。口どけまろやかで頭もキーンとしない」

 

早船のデスク周辺全員がかき氷と格闘する奇妙な光景がそこにはあった。中には唐揚げが、バスケットボールが、本が、互いを鼓舞しながら口(唐揚げと本の食事風景の全貌を今度こそ観察するべく、早船含め彼らを覗き見していたが失敗に終わった)にかき氷を詰め込むシーンもあったが、今回は割愛しよう。

 

「さて」

西日の日向ぼっこを終え、すっかり体温が元に戻ったらしいカナヘビが話題を切り出す。

 

「学園都市支部には今、何もかもが不足している状態っちゅーことは分かってるな。SCiPがSafeクラスに限定されていることはもちろん、研究設備、資材、そして人材が足りひん。Dクラス職員をこっちに送ることも出来ひんから実験も......まあ、生命の危険のないSCiPについては、実験は全職員が強制参加やから覚悟しいや。」

 

「学園都市支部に職員クラスなんて、あってないようなモノですからね」

 

「人材については倫理委員会と折り合いがついたらしいから今後解消されるでしょうね。簡単な実験であれば学園都市の生徒を『バイト』で雇えばいいんじゃない?だって言われたそうよ」

『30杯は食べ終わるまで帰らない!』と謎の制約を自身に課したらしい日本支部の至宝前原博士は頭を叩きながらこちらの会話に口を挟む。

口だけで幸いだった。いつもは口よりも先に手や足が飛び出す人物なだけあって、特に男性職員は近くにいるといつも不必要な緊張に苛まれるのだ。

 

「設備、資材は随時送られてくるから時間の問題、それまでの間は僕達の踏ん張りどころってところですか。」

 

「学生の夏休み明けまでは辛抱するようにっちゅーことやな。てな訳で早船、君の記念すべき学園都市支部の初実験が......これや!」

 

「ああ、なるほど......ってなんで僕が」

命の危険は確かに無い。ただこの実験がバレたら確実に変質者扱いは免れない。そもそもこの実験の為にみんなかき氷食べてたのかと納得する。とても嫌だがこれも世界の為と早船は自身を納得させる。死ぬことはないんだし、『死な安』の精神である。

 

「それで一日過ごせば良いだけのお手軽実験やで。早船、よろしゅうな?」

 

 


 

 

暑さも幾分和らいでいるであろう夕方過ぎにも関わらず何故か全身ずぶ濡れの状態となっている早船は、自身に与えられて社宅(という名の学生寮)に向かっている最中だ。

サイト内にも早船の私室は用意されているが、学生という身分も持ち合わせている以上、学生寮に暮らす必要もある。昨日の夜も訪れはしたのだが、停電によりエアコンが付かずサイト■■01にトンボ返りしたのだ。

 

「もっと治安の良さそうな物件見つけてくれよもう......落書きだらけじゃん、昨日まではなかったのに」

 

意味不明な文字の書かれたテレホンカード大の紙があちこちに張られておりとても不気味だ。廊下に、手すりに、エレベーターのドアにもだ。明らかな事故物件である。これは明日一番に、このマンションを手配した輩を制裁せねばとスケジュールを脳内で再設定し、自室の7階にたどり着くとそこには

 

廊下が火に包まれていた

 

「......なんで?」




エージェント・カナヘビ
©tokage-otoko
http://ja.scp-wiki.net/author:tokage-otoko

前原博士
©mary0228
http://ja.scp-wiki.net/author:mary0228


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