愛すべき馬鹿どもの世界にて   作:欲望貯金箱

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【既知こそが未知であり、未知こそが既知である】


あくのそしきの場合

 一台のバスがおおよそ道路とは言えない場所を、よく見ると光り輝く粒子の上に乗りあげて走る。

 流線型のデザインが特徴的なそのバスにはナンバープレートに相当する部分にARCADIAの文字。

 そして中に乗るのは、少女と3人の大人たち。

 

「あくのそしきの3かじょう!いえる人ー!」

 

「それでは不詳この皇鼎(すめらぎかなえ)がお答えいたしましょう」

 

教授(プロフェッサ)は手をあげてないので答えちゃダメでーす!」

 

「くっそう!運転席に座ってなかったら答えられたのになー!」

 

 くすくすと笑う少女。

 運転席に座り、運転しているふりをして、ハンドルに手をかけたくせっ毛の男。

 

「カナエはせっかちね。ハイ」

 

「へびさん、どうぞ」

 

××(ピー)す、殺す、奪う」

 

『大蛇丸さま、それは極悪人の3箇条です』

 

「あら、そうだったかしら」

 

 渋く低めの電子音声と、しゃがれ声の女言葉を話す長髪で和装の男。

 

「カズフサ!」

 

「あー、俺?うん。メアリーちゃんは今日もかわいいな!」

 

「ありがと!答えは?」

 

「みんなで楽しく遊ぶこと、7日に一度は騒ぐこと、正々堂々ふいうちすること」

 

「せいかーい!みんなも見習って!」

 

 むぎーっ!と怒る少女に、大変危険な視線を寄越す眼鏡をかけた男。

 少女と3人の大人と電子音声は、まさしくただしく悪の組織だ。

 公然結社アルカディア。面白おかしく日本中を混乱に叩き込む正真正銘のお気楽集団である。

 

「セバス、次の目標までどれくらいだい?」

 

『このまま直進できれば5分と言ったところでしょう、教授』

 

「では直進できないと?」

 

『クソザコパトカー…失敬、言葉が汚いですな。あまりにも役に立たない車が行く手を阻んでいます』

 

「おーけー、では対策だ。大蛇丸くん」

 

「もう打ってあるわ」

 

「流石だわ、これ俺いらないんじゃね?」

 

『マスターカズフサ、あなたがいなければ私はジャイロゼッターへと超速変形できません』

 

 わちゃわちゃと騒ぎ目的地を目指すのは、何も騒ぎたいだけではない。

 アルカディア首領のメアリーは一生遊んで暮らせるだけの莫大な遺産を受け継いだ独りぼっちの少女だった。

 アルカディアは、その理想郷という名の通りに、彼女が独りにならない理想を追い求めるのだ。

 

 駅前を占拠する3台のスポーツカーがあった。

 警察が撤去しようとした矢先に変形、合体し巨大なロボットとなって動き出した。

 ロボットは駅前の球体時計をサッカーキックで蹴りぬいて駅にシュート、3台の車へ素早く戻ると蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。

 かの有名な『九頭竜駅ゴールポスト事件』である。

 

 関西のランドマークタワーに突如として謎の液体を吹き付けるドローンが出現。

 正義の鉄槌や謎の組織、便利屋稼業に裏社会の重鎮、ありとあらゆる集団が寄ってたかって恩売るために奮闘するもむなしくタワーはもこもことしたパン生地に覆われ、その後別のドローンによってこんがり焼かれた。

 『通天閣棒巻パン事件』である。

 

 全世界のお菓子売り場にいつの間にかアルカディア印のチョコエ●グが陳列される。

 タイトルは「あくのそしきガールズコレクション!」とされた。

 過去から現在にかけての悪の組織とする様々な集団の女性陣の、極めて精巧なフィギュアが入っていた。

 季節イベントごとに発売されるものの、売り上げが虚空へ消えたり、イベント時期から外れるといつの間にか陳列棚から消えていたりする。

 このチョコエ〇グの悪質なところは、鎖国災害国となった日本にとっての迷惑集団だけではなく海外のギャングスターの愛人であったり、何百人もの犠牲者を出した娼婦であったりしてもフィギュア化される。

 それどころか元女性、女性だったナニカ、性別が女性のバケモノ、自称女性であってもフィギュア化される。

 これが夏の時期に出て見ろ、水着姿のオカマが排出される可能性すらあるのだ。

 現在進行形でさまざまな公機関に眼をつけられている『チョコレート菓子事件』である。

 

 幹部の1人であるカズフサ、大森カズフサが逮捕された時の話だ。

 留置所に入れられ、寂しく膝を抱えドナドナを歌う頬骨の張った20代後半の男の、見るに堪えない姿だった。

 しかし翌日になると留置所はもぬけの殻、それどころか彼の放り込まれていた檻いっぱいに詰められたミルク寒天を見て、担当者が卒倒したのは言うまでもない。

 『ミルク寒天留置事件』である。

 

 ここバルク市でも彼女たちは大騒ぎするつもりなのだ。

 否、準備は1週間のうちに済ませてあるので、大騒ぎする(・・・・・)のだ。

 週刊世界の危機。特撮的に悪の組織は栄えないが、彼女たちの遊びはみんな()楽しく。

 世界そのものをおもちゃ箱に、面白おかしくさわぐのだ。

 

「もー!バルク市庁舎までもう少しなのに!」

 

『マスターカズフサ、教授との交代を要請します』

 

「僕も交代したほうが良いと思う」

 

「私もそう思うわ」

 

「あー、畜生!行くぞセバス!」

 

 彼女たちはさわぐのだ。

 面白おかしくさわぐのだ。

 

「市庁舎のてっぺんでゴリラ豪雨さくせん!ぜったいせいこうさせるんだから!」

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