プロゲーマーやってたら妹がアイドルになっていた件について。 作:河竹
凛達を迎えにいくと、見慣れた花屋の前で三人の少女が談笑していた。
車で近づいていくと案の定凛達だ。
凛達の前につけ、窓を開けて話しかける。
「よう、凛。久しぶりだな」
「あ、お兄ちゃん。久しぶり。ちょっと老けた?」
「失礼な。これでもまだ二十代前半だ」
開口一番酷いものである。
俺は意趣返しに攻めの得意な凛に
「そういう凛はずいぶん変わったな。なんていうか大人っぽくなったし、綺麗になったな」
逆に褒めてみることにした。
「......うるさい。ほら、二人とも乗ろ?」
案の定、俺の言葉に顔を赤くしつつ、話をそらすために二人を車にのせる。妹ではあるが、そういう仕草も可愛く見えるあたり、さすがトップアイドルだ。
車の後部座席に北条さんと神谷さんが乗り、助手席に凛が乗る形になった。
「二人とも、凛の兄の秋人だ。よろしくな」
バックミラー越しに片手を上げつつ二人に自己紹介をする。
「私は北条加蓮。加蓮って呼んでね、お兄さん」
「あっ、あたしは神谷奈緒!よ、よろしく」
親しみやすい雰囲気の北条さんにガチガチに緊張した神谷さんのギャップがすごいんだが。
緊張しすぎて顔見ても全然視線が合わないんだが。
「まあ、そんなに緊張しないでくれ」
じゃないと笑ってしまいそうになる。
「んじゃまあ、とりあえず行きますか。後ろのお二人さんは真面目そうだし大丈夫だと思うけど、凛、シートベルトしろよ?」
「するよ、子供じゃないんだから」
子供扱いに拗ねたように口を尖らせながらシートベルトを締める。
それを確認して車を走らせた。
道中、凛達はガールズトークに花を咲かせていた。あんのじょうら女子高生の話に俺がついていけるはずもなく。ほとんど俺は会話に参加することはなかった。
まあ、別に寂しいとかじゃねーし?
まあ、運転中に会話とかあぶねーし?
まあ、ただちょっとは振って欲しかっけど?
しばらく車を走らせ、目的地にたどり着くと付近のパーキングに車を止めた。
東京のパーキングはありえないほど高すぎるが、まあ、仕方あるまい。
「それで、今日は何食べにいくの?」
そういえば言ってなかったな。
「あー、小料理屋だよ。和食とかメインの」
本当はイタリアンとかそういうオシャレなやつがいいんじゃないか、なんて思っていたけど、結局良い店なんて見当もつかなかった。
「あ、そうなんだ。二人とも大丈夫?」
「おう、あたしは特に苦手なものもないからな」
「私も大丈夫!」
「おっけ、んじゃ行きますか。あそこの角を曲がったらすぐだから」
俺を先頭に店へと向かう。
東京の街の夜は、確かに上の方からの夜景も綺麗だが、下から見る景色もなかなかに絶景だ。
林立したビルから発せられる色取り取りのネオンの光に目を奪われる。
ものの数分で店へとたどり着いた。
店の名前は「ゆきの」
なんでも先代の奥さんの名前をそのままとって付けたらしい。
曇りガラスがはめられているドアを開け、店内に入る。
「......らっしゃい」
「いらっしゃいませ!」
前者の落ち着いた声が2代目大将の智幸さんでその次がここの看板娘である二葉さんだ。
二人とも20代後半くらいの年齢だ。先代が早くに旅立ち、若干29歳の大将がこの店を受け継いでいる。
味は先代の味を完全にものにしているらしく、まだ若いのになかなかの才能である。
「あっ、渋谷さん!お久しぶりです!」
看板娘の二葉さんがお盆を胸に抱えながらやってくる。
「よ、二葉さん。一ヶ月ぶりくらいか?」
「それくらいになりますかね?今日もお一人ですか?ですよね」
失礼な物言いだな、おい。
「残念ながら今日は連れがいるんだ。奥の個室は空いてる?」
「「えっ?」」
俺が一人じゃないことがあまりに予想外だったのか、普段寡黙な店主までもが驚きの声を上げる。
「えっ?えぇ、空いてますけど......え?本当に?」
「舐めてんのか。んじゃ上がらせてもらうわ。ほら、行くぞー」
そう言って俺は後ろの三人組に声をかける。
「へぇー、結構いい雰囲気じゃん」
凛が暖簾をくぐり、店内を見回しながら呟く。
「ほんとだね〜、なんていうか料亭って感じ!」
凛の呟きに同調しながら北条さんが入り、最後に
「ちょっ!置いてくなって!」
神谷さんが慌てて店内に入る。
まだ開店してすぐの店内には俺以外に客がおらず、騒がれる心配もないことに安堵する。
が、そこで俺は忘れていた。
あ、店長達にアイドルが一緒って言ってなかった
と。
「えぇぇぇぇ!?」
二葉さんの悲鳴にも似た驚きの声に俺はやってしまったと右手で頭を掻く。
「もしかして渋谷凛さんに北条加蓮さんに神谷奈緒ちゃん!?」
そらそうなるわな。
「あ、どうも。いつも兄がお世話になってます」
「どうも〜、お邪魔します」
「ちょ、なんであたしだけちゃん付けなんだよ!」
凛が丁寧にお辞儀をし、神谷さんが逃さないとばかりにツッコミを入れる。
「えぇ!?渋谷凛。渋谷、え、もしかして!?」
すごい勢いでこちらを向いてくる。
首は大丈夫だろうか。
「そ、俺の妹。こないだシンデレラガールズで頑張ってたからさ。ご褒美的な。んじゃ奥の座席もらうな」
俺は未だに呆然としている二人を置いて奥の座席へ入っていった。
未だ石像と化した大将がいるカウンターから、美味しそうな出汁の匂いが漂っていた。