プロゲーマーやってたら妹がアイドルになっていた件について。 作:河竹
「さ、なんでも好きなもん食ってくれ」
座椅子に座りながらメニューを開く。
この店は定番の和食のほか、居酒屋メニューや変わり種の洋食がいくつかある。
「んー、悩む。ここって何がオススメなの?」
「基本的に和食がメインだからな、寿司とかも美味いぞ」
「そうなんだ。それじゃ私お寿司にしよっと」
「なら私もそうする〜」
「な、ならあたしも」
結局みんな適当にお寿司を握ってもらうことになった。
ま、俺も運転とかあるから酒が飲めねーからな。おつまみなんて頼んだらかえって飲みたくなってしまう。
「そういえばこの間の大会の動画観ましたよ!」
北条さんが話題を提供してくれる。
「あー、こないだのあれか。俺の黒歴史」
「ははは、あれは確かに黒歴史になるかも......」
それに北条さんも苦笑いをしながら同意する。
「でも、凄かったよな!」
慌てて神谷さんがフォローをしてくれる。
「神谷さんが健気すぎてお兄さん泣きそうだ」
俺の言葉に神谷さんは顔を赤くして俯く。
「そういえばお兄さんはなんでプロゲーマーを始めたの?」
「そうそう、昔はそんなにゲームなんてやってなかったじゃん」
「あー、ほら、凛覚えてるか?俺が高校の時にさ、ゲーム買ってもらっただろ?」
「んー、あ、えっと、M◯Sってやつだっけ?」
「そそ、初めてそのゲームやった時にさ、こう、感動したんだよ」
あれは俺が高校二年の時だった。普段から欲しいものがなかったというか興味がなかった俺に、何かしら趣味を持たせようとした両親が買ってきたのがゲームだった。
初タイトルは某有名なステルスゲームの最新作。
俺は物の見事にそのゲームの魅力に引き込まれていった。
現実のものを忠実に再現した武器、鮮やかなグラフィック。
そしてなんと言ってもその作り込まれた世界に俺は瞬く間に魅了されていった。
「へ〜、ならそのゲームが今のお兄さんの根源なんだ。どんなゲームなの?」
「女の子とかはあんまり興味ないかもな。戦争のゲームだよ。設定は冷戦後の世界。結構設定とかが複雑だから、興味がないととことん興味が出ないと思うよ」
苦笑い気味に答える。
「あ、それなら私いま学校でそのあたりの歴史やってるからちょっと気になるかも」
隣に座っていた凛がそう答える。凛は歴史系の選択なのか。
向いてねーなんて口が滑ってもいえない。
「お、そうなのか。なら今度貸してやろうか?確かこないだ復刻版が出てたはずだし」
「なら今度やってみよ」
凛が意外な食いつきを見せる。
「今度お兄ちゃんの家行くからその時にやらせてね」
「それなら私も行きたい!プロゲーマーの部屋がどんなのかちょっと気になる」
「ちょ、二人ともあたしを置いてくなよ!!」
先程から会話に入ることができずに挙げ句の果てに置いてけぼりにされかけている神谷さんが抗議の声をあげる。
というかここまでで気付いた。
神谷さんがこの二人のおもちゃなのか。
まあ、確かにいじりやすそうだしな。
「ん、じゃ今度来る日が決まったら言ってくれ。流石に配信に三人が映ったらシャレになんねーからな」
おそらくコメント欄が荒れ狂うことになるだろう。
「......なんで?」
首をかしげる凛。
「んなもんお前らのファンにボコボコにされるに決まってんだろ」
「あー、確かにな。ネット民は割とそういうの多いからな」
共感するように神谷さんが頷く。
というか、神谷さんはそっち系もいける系アイドルのようだ。
頷いてから気付いたのか、神谷さんはハッと顔を上げると
「ち、ちがっ、が、学校の友達が言ってたんだ!」
何もかも手遅れだと思うのだが。
が、そんなアタフタする神谷さんが可愛いのでしばらく鑑賞することにする。
「......み、見るなぁ!」
そう机に突っ伏す神谷さん。
うん、かわゆす。
「んじゃさ、こういうのはどう?」
「......ん?」
「逆に一緒に配信するとか」
「あっ!それ面白いかも!」
「おいおい、勘弁してくれ、俺のことを殺す気か?」
「でもほら、声だけならほとんど気づかれないんじゃない?それにまさか一緒にやってるなんて思わないでしょ?」
「まあ、それはそうだが。でも機材が足りんぞ。パソコンはまあ、スポンサーが支給してくれたやつがあるからいいとしてもマイクが足らん」
それにアカウント作成とかある程度のプレイング技術も必要だ。
「んー、すぐは無理そうだね。なら来週とかにしようよ。それまでに機材とか腕も磨いとくからさ」
「なら私も!お兄さんに追いつくくらいやる!」
「いやいや、お兄さんプロだからな?1週間で追いつけるわけがないだろ、加蓮」
「まあ、それならまだいいか。でもなんでまた急にやりたいなんて」
「んー、ほら、前まであんまり話さなかったじゃん?だから配信とかで色々話せたらなって」
「あー、なるほど」
確かに、俺と凛は子供の頃はよく一緒にいたし会話も多かったけど、俺が高校になってからは一気に減ったもんな。
それにその後すぐに家を出たし。
「それじゃ北条さんは?」
「あー、ほら、私この間まで入院してたんだ。それであんまり皆んなと話す機会とかが無かったから、他愛もない話しをしながらゲームやるのとか良いなって思って」
「あー、なるほど。すまんな。なんか」
「ううん、大丈夫。だから来週は楽しみにしてる!」
やばい、北条さんが儚すぎて可愛すぎる。
なんなんだ先程とのこのギャップは。反則すぎる。
「ん、ならパソコンとかは俺のやつ余ってるから使ってくれ。古いやつになっちゃうけどでも性能的には結構いいやつだから」
北条さんの可愛さに衝撃を受けたが、それを表に出さないようにする。
「わかった、なら来週までにセッティングとかしとくね。奈緒、よろしく」
「えぇ!?あたしがやるのかよ!?」
「だってああいうのは奈緒にしかわからないし。お願い、奈緒。奈緒にしかできないの」
凛が神谷さんを拝み倒す。
「うぐぐ......」
「私からも、お願い奈緒!」
続けて北条さん。
「うぐぐぐ............し、仕方ないな、あたしがやってやるよ」
はい、凛と北条さんの勝ち。
というか神谷さん押しに弱すぎる。
「んじゃこの話は終わりってことで。また詳細とかは後で話そう。それより飯食おうぜ。どんどん頼んでくれ」
そう言って俺は隅に寄せてあったメニューを再度広げる。
上質な紙で作られたメニューの懐かしさを覚える匂いに、どこか心が落ち着く気がした。
いつのまにか先程よりも客の増えた店内は、和気藹々とした活気に満ちていた。
そういやヒロインを考えてなかった。