ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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原作と変わらないところは省略します


#11 体育祭その4

 1回戦最終試合の爆豪VS麗日は、麗日の健闘及ばず爆豪が勝利を収める。

 試合が終わった爆豪は観客席に戻って来た。

 

「おーう、なんか大変だったな悪人面」

「組み合わせの妙とは言え、とんでもないヒールっぷりだったわ爆豪ちゃん」

「うるっせぇっつんだよ黙れ!!そこのコロコロ女よりはマシだろが!!」

「ホワーイ!?ボンバーマン!!ミーは嬲ったりしてないデース!」

「どっちもヒールだったよ」

「まぁーしかし、か弱い女の子によくあんな思い切りのいい爆破出来るな。俺はもーつい遠慮しちまって……」

「何もしてなかったわ上鳴ちゃん」

「……」

 

 爆豪は不貞腐れたように椅子に座る。

 

 続いては、轟と緑谷の試合。

 

「轟と緑谷か……。緑谷が厳しいよな」

「あの氷は本当に卑怯だぜ」

 

 1回戦で轟に一瞬で凍らされた瀬呂がブルリと震える。

 

「緑谷ちゃんは完全な接近タイプだものね」

「勝機はある。轟が舐めている限りはな」

「舐めてる?轟ちゃんが?」

「氷しか使わぬ時点で某達を舐めてるでござろう?」

 

 刃羅の言葉に悩ましそうに顔を顰めるクラスメイト達。

 

「確かに氷も強いけどぉ、炎の方が緑谷君にはぁ厄介だろうねぇ。砕くとかは出来ないしぃ」

「言われればそうだな」

「個性を使いこなせてへん緑谷はんと、頑なに個性を制限しとる轟はん。意地をどう通すかやな。勝敗を分けるんは」

「緑谷ちゃんはまたボロボロになりそうね」

「なるに決まってますわ。それだけ本来2人の間には差があるのですから」

「ケロォ」

 

 梅雨は不安そうにステージ上に立つ2人を見つめる。

 

『今回の体育祭!両者トップクラスの成績!!まさしく両雄並び立ち今!!緑谷バーサス轟!!START!!!』

 

 開始と同時に氷を生み出す轟。

 それに緑谷は右腕を突き出すと、指を弾いて衝撃を放って氷を砕いた。

 

『おオオオ!!破ったあああ!!』

 

「一回戦で見せた指での衝撃波!!」

「いよっしゃ!防いだぞ!!」

「……これで3本」

「3本?何がだ?乱刀」

「緑谷氏が壊した指でござる。1回の氷結に1本ずつ指を壊さねば氷結は防げぬということでござる。それも瀬呂氏に使ったものより弱い氷に対して」

 

 クラスメイト達は目を見開いて緑谷を見る。

 緑谷は今度は人差し指で弾いて、氷を砕く。

 

「さらに言えば、これで両手の指を壊しやがった。これで緑谷は全力で拳が握れねぇ。ただでさえ全力を出せねぇ緑谷の一番の武器がこれで更に弱体化しちまった」

「あ!?マジか!」

「でも、指でもかなりの衝撃じゃない?」

「轟様は攻撃と同時に背後にも氷作ってますわ。これは間違いなく飛ばされないようにとの備えですわ」

「対策まで出来てんのかよ……!?最強すぎんだろ」

 

 すぐさま氷を放つ轟。それに緑谷はまた指を犠牲にして、また氷を砕く。

 しかし、轟は冷静な顔でさらに氷を放つ。

 

「これで右手は使い切っただ」

 

 それを見た轟は走り出して、氷を生み出しながら緑谷に向かう。

 今度は左手指で弾くが、轟は氷を足場に飛び上がり緑谷に迫る。

 緑谷のすぐ横に飛び降りた轟はすぐさま氷を放つ。

 それに緑谷は左腕を振り抜いて、今までより大きな衝撃波を放つ。

 轟はすぐさま背後に氷を張り、飛ぶのを防ぐ。

 

「無茶をする。これで左腕は使えん。右手指も全滅。手詰まりだな」

「緑谷ちゃん……」

「轟の判断力もすげぇな。あんな威力出されたら、中々詰めれねぇよ」

「緑谷氏の『個性』が分かっているからでござるよ。使えば体を壊すのが分かっているから、対策さえ出来れば危険は低いと考えたのでござろうな」

「なるほどな」

 

 緑谷は満身創痍。

 轟は涼し気に立っている。その時、轟が緑谷から視線を外し、観客席に視線を向けた。

 しかし、すぐさま視線を戻し、トドメの氷を放つ。

 

「どこを見ているんだ……!」

 

 緑谷は再び衝撃波を放ち、氷を砕く。

 油断していた轟は場外ギリギリまで飛ばされるが、氷を張って場外負けを防ぐ。

 それに刃羅やクラスメイト達は目を見開く。

 

「ただでさえ壊れている指で、さらに弾いた!?」

「なんて無茶すんだよ!?」

 

(……何でそこまでぇ?……ん?なんか轟君震えてるっていうか霜?)

 

 よく見ると轟の左半身に霜が降り始めている。

 

「『個性』だって身体機能の1つだ。君自身冷気に耐えられる限度があるんだろう……!?」

 

 緑谷の言葉に刃羅は自分の推測が正しかったと理解する。

 

「でもそれって、左側の熱を使えば解決出来るんじゃないのか?……皆、本気でやってる!勝って……目標に近づくために……一番になるために!半分の力で勝つ!?僕はまだ君に傷1つつけられちゃいないぞ!全力でかかって来い!!」

 

 壊れた右手を握って轟に怒鳴る緑谷。

 それに息を飲む一同。

 

「緑谷ちゃん……」

「……」

 

 今の緑谷の気迫に刃羅は表現する言葉が見つからない。

 轟はなにやらイラついている様で、再び飛び出す。

 

「……遅い……!」

 

 緑谷が轟以上の速さで懐に潜り込む。

 

(ここで攻めるか……!しかも、轟の右足が浮いたところを狙ってじゃと!?)

 

 緑谷は壊れた右手を握って、轟の腹に拳を叩き込む。

 しかし満足に殴れなかったのか、場外までは吹き飛ばせなかった。

 轟は氷を生み出すが、最初の勢いはなかった。

 

「……体が冷えすぎるとぉ氷も弱くなるんだねぇ」

 

 緑谷は轟の氷を親指を口で弾いて砕く。

 それに轟はバランスを崩す。

 

「なんでそこまで……」

「期待に応えたいんだ……!笑って答えられるような……かっこいいヒーローに……なりたいんだ!!」

 

 緑谷の気迫に轟は気圧される。

 

「だから全力で!やってんだ皆!君の境遇も君の決心も僕なんかに計り知れるもんじゃない……!でも……全力も出さないで一番になって完全否定なんて、フザけるなって思ってる!」

 

 轟は氷を生み出そうとしたがうまく出せず、緑谷の拳が再び突き刺さる。

 なんとか起き上がる轟。

 

「君の!力じゃないか!!」

 

 緑谷が叫ぶ。

 それに刃羅は轟が話した家庭事情を思い出す。

 

(……そこまで腕を壊して、轟の力を引き出すか。……いや、そこまで考えてはいないか。ただ納得出来ないだけか……)

 

 そこまで才能があるのに、そこまで実力があるのに、ただ1つに固執して中途半端でいる轟を。

 常に一杯一杯な緑谷には、誰よりもヒーローを馬鹿にしてるように見えたのだろう。

 

 その時、轟の左半身から巨大な炎が噴き出した。

 

「うアッチィ!?」

「なんて熱量だよ!」

 

 刃羅は目を細めて2人を見据える。

 

(笑っておるわ……信念を破ったのに……相手が本気になったのにのぅ……)

 

 2人は笑って互いを見ている。

 刃羅はその姿がとてつもなく眩しく見えた。

 

(……さて、この勝負……どれだけの者が価値に気づけるのだろうか)

 

 実力はなくとも間違いなくヒーローの本質を見せた緑谷。

 その本質に揺さぶられ、歪んだ信念で固められた殻を破った轟。

 

 そして、2人はこれで最後とばかりに力を籠める。

 轟は炎によって霜が溶けている。

 緑谷も足に力を籠めて、飛び出そうとする。

 

「っ!!」

「刃羅ちゃん!?」

 

 それを見た瞬間、刃羅は席を飛び出した。

 梅雨が呼び止めるが、それを無視する。

 それにセメントスとミッドナイトも動き出す。

 轟は巨大な氷を放ち、緑谷は右手を構えて勢いよく飛び出す。

 2人の間に壁がせり上がる。

 しかしその前に轟が左腕の炎を放つ。

 

バッコオオオオオン!!!

 

 大爆発が起こる。

 観客席にも衝撃が襲い掛かる。

 ステージ上には粉塵が立ち上がる。

 

『何今の……おまえのクラス何なの……』

『散々冷やされた空気が瞬間的に冷やされ膨張したんだ』

『それでこの爆風ってどんだけ高熱だよ!ったく何も見えねー!オイこれどうなって……!』

 

 煙が晴れていく。

 そこで見られたのは、

 

「っ!!刃羅ちゃん!」

「何してんだよ!?」

 

 刃羅がステージ脇に立っていた。

 左上半身の上着が破れており、下着も破れるギリギリだった。

 その右脇には緑谷が抱えられていた。

 

「……乱刀」

「はぁ~……全く加減を知らぬのか。お主らは」

 

 緑谷は意識がないのか動かなかった。

 

「もう少しで頭から壁に叩きつけられとったで……」

「乱刀さん!あなた何して……!」

「あんな壁と眠り香程度で止められるわけないべ。ほれ、場外で意識もねぇだ。リカバリーガールの所に連れて行くだよ。いいだべな?」

「っ……!緑谷くん場外!轟くん3回戦進出!!」

 

 ミッドナイトの宣言に轟は未だ唖然としている。

 乱刀はそんな轟を一瞥する。

 

「轟」

「っ!……なんだ?」

「次は某でござる。その左腕を使う覚悟を決めておけ」

「……」

 

 刃羅は答えを聞かずに緑谷を抱えて、歩き去る。

 それに轟は左手を眺めて、立ち尽くす。

 

 

 

 

「これ治りますのん?」

「右手の粉砕骨折。もうコレ、キレイに元通りとはいかないよ」

「アイヤ~」

「あんたは大丈夫かい?」

「服が破けた位だし~大丈夫~」

 

 リカバリーガールが待機している保健室にいる刃羅。

 ベッドの横に骸骨のような男が立っている。

 

(……この気配……まさか?)

 

 刃羅はこの男の気配に覚えがあった。

 質問しようとした時、扉が開かれる。

 

『デ緑ク谷くくん!!!』

「に、刃羅ちゃん」

「ついでかいな!!」

 

 飯田、麗日、梅雨、峰田が押し掛けてきた。

 

「あ。試合大丈夫ぅ?」

「ステージ大崩壊のための補修タイムと、乱刀さんの状態確認だそうだ」

「元気です!」

「うひょーー!!」

「上着を着て!?刃羅ちゃん!貰ってきたから!」

「サンキュー!」

 

 胸が零れ落ちそうな刃羅に峰田が興奮し、梅雨の舌に顔を叩かれる。

 麗日が慌てて上着を渡す。それを受け取って、羽織る刃羅。

 

「怖かったぜぇ緑谷。あれじゃあプロも欲しがんねぇよ。乱刀もだけど」

「塩塗り込んでいくスタイル感心しないわ」

「でも、そうじゃんか」

「はん!俺っちはともかく、緑谷で怖がってたらヒーローなんてなれねぇよ」

「……乱刀さん」

「轟君が~ほっとけなかったんでしょ~?勿体無かったもんね~。固執し続けるのは~」

「……」

「では、私は行く。委員長との試合もあるし、着替えもしたいしな」

「……ありが……とう」

 

 緑谷の礼に刃羅は右手を上げるだけで答える。

 そして部屋から出る。

 他の面々もリカバリーガールに追い出された。

 梅雨が刃羅の元に駆け寄る。

 

「刃羅ちゃんも本当に大丈夫なの?」

「もちろんですわ」

「乱刀さん!!」

 

 梅雨の質問に笑顔で頷くと、飯田が声を掛けてくる。

 

「次は僕とだ。……正直、君に勝てる気がしない」

「飯田君……!?」

「上鳴君との戦いや先ほど緑谷君を助けた行動……僕では無理だ。さっきなんて全く動けなかった」

「それは私達もよ飯田ちゃん」

「しかし!!!」

 

 飯田は思い詰めたように俯いて両手を握り締める。

 それに麗日や梅雨が声を掛ける。

 それには答えずに飯田は声を上げて顔を上げる。

 

「それでも僕だって上を目指すのを止めるわけにはいかない。だから……僕は君に勝つ!!」

 

 まっすぐに刃羅を見て宣言する飯田。 

 それを刃羅もまっすぐに見つめ返す。

 ニィ~と笑う刃羅。

 

「ひぃ!?」

 

 刃羅の笑みに峰田がビビる。

 

「いいねぇいいねぇ!斬りがいがあるねぇ!好きだよぉ!そういうのぉ!」

「斬っちゃ駄目よ刃羅ちゃん」

「わぁってるよ!それだけ楽しみなんだよ!」

「ならいいけど」

「本気で来なはれ飯田坊っちゃん。わっちはその上に行きますよって」

「ああ!挑ませてもらう!」

 

 そして刃羅は控室に向かう。

 飯田も刃羅に背を向けて歩いていく。

 麗日は飯田を、梅雨は刃羅を追いかける。

 峰田は忘れ去られたように放置されていた。

 

 

 

 刃羅は更衣室で下着も着替え直す。

 

「飯田ちゃんはかなり速いわよ」

「けんども駆け出しは遅いべ」

「そこを狙うの?」

「否。それは向こうも考えているはずでござるよ」

 

 着替えを終えた刃羅はストレッチを始める。

 

「梅雨ちゃんはぁ大丈夫なのぉ?爆豪君でしょぉ?」

「そうね。でも出来ることなんてないもの。だったら刃羅ちゃんの心配するわ」

「嬉し~」

 

 にへらと笑う刃羅。

 それを見た梅雨は、上鳴との戦いで見せた殺気が嘘のように感じてしまう。

 流女将の言う通り、梅雨は刃羅の事をほとんど知らない。

 彼女がどのように生きて来たのか、何も知らない。

 知っているのは不思議な性格と確かな実力だけ。

 刃羅の待ってほしいという言葉を、梅雨は今はただ信じて待つだけだった。

 

「では、行ってくる」

「頑張ってね」

「おうよ!」

 

 梅雨に見送られて控室を出る刃羅。

 それを笑顔で梅雨は送り出し、駆け足気味で観客席に戻るのだった。

 

 

 

『ステージも直ったのでさっそく行くぜえええ!!もう壊さないでくれよ!?』

『轟と爆豪が残ってる時点で諦めろ』

『うっせぇ!それじゃあ選手入場だ!まずは特急真面目ボーイ!飯田!!』

 

 飯田がステージに上がる。

 

『1回戦といい、さっきといい、俺はもう分かんねぇ!!ミステリークレイジーガール!乱刀!!』

 

 呼ばれた瞬間、刃羅が飛び出して体操の床競技のように前転したり捻り宙返りしながら、ステージに飛び上がる。

 着地して両腕を掲げて、両手の人差し指と小指を立てる。

 

「YEAHHHHHHHHH!!!」

 

『今度はパリピかよ!?ホントになんなのコイツ!?』

『多重人格なんだよ』

『あ。そうなの?って、ハアァ!?』

『だから1回戦のもその中の1個ってだけだ』

 

 刃羅はハイテンションで右足左足交互にステップを踏んでいる。

 

『もう訳わかんねぇ!じゃ、START!!!』

 

 合図と同時に飯田が猛ダッシュする。

 刃羅はそれを変わらずステップをして見つめている。

 飯田は訝しげに眉間に皺を寄せるが、構わずスピードを上げてエンジンを吹かして蹴りを放つ。

 

「レシプロバースト!」 

 

 飯田の左脚が刃羅の顔に迫る。

 刃羅は体を捻って回転しながら紙一重で蹴りを躱し、脚を振り抜いた飯田の背中に右回し蹴りを放つ。

 

「ハイー!!」

「ぐぅ!?」

 

 飯田はバランスを崩すも、逆に前に出て刃羅から距離を取る。

 そして滑りながら止まり、刃羅に向き直る。

 

「アイヤー!!」

「な!」

 

 ドン!と音を立てて地面を強く蹴って猛スピードで飯田に迫る刃羅。

 八極拳をイメージさせる動きで右肘を飯田の胸に叩きつける。

 

「ぐほ!」

 

『つえーー!?』

『ありゃあ中国拳法か?』

 

 飯田が更に後ろに下がる。

 それを刃羅は詰め寄らず、その場で中国拳法の型を連続で披露する。

 

「ハイ!ホォアチャ!アイヤー!」

 

『カンフー娘だったのか!?様になってるじゃねぇか!』

 

「ほらほら!飯田君!止まってたら駄目だぞ!」

「っ!?ごぉ!?」

 

 今度はボクシングの構えを取り、飯田の顔にワンツーパンチを浴びせる。

 

『今度はボクシング!?ほんとに訳わかんねぇな!』

 

「YEAR!ブレイキング!!」

「なっ!んだ!?一体っ!」

 

『ほんとに何なんだ!?今度はブレイクダンスの動きで逆立ち蹴り!?』

『本当に動きが変わりやがるな』

 

 ブレイクダンスのように地面で回りながら逆立ちして、蹴りを放つ刃羅。

 飯田は動きが変わる刃羅に混乱し、防戦一方になる。

 

「つぅ!はぁ!!」

「うおっち!?」

 

 飯田は無理矢理右足のエンジンを吹かして、下段蹴りを放つ。

 刃羅はそれを捻り宙返りで躱し、バク転して飯田から距離を取る。

 

「ふぅ!あっぶねぇなぁ!そんないきなり片足だけエンジン回せんのかよ!?クソ委員長!」

「く、くそ!?口が悪いぞ乱刀さん!」

「うっせぇ!こっちもギア上げてくぞゴラァ!」

「っ!!ならばこちらも!」

 

 刃羅は足裏から刃を生み出して滑り出す。 

 それに飯田もドルン!と猛スピードで走り出す。

 

 近づいて飯田が左脚で蹴りを放つ動作を見せた瞬間、刃羅は身を屈めて右脚だけ槍に変えて無理矢理方向転換する。

 飯田の蹴りが刃羅の真上を通り過ぎる。

 刃羅は両足共戻しながら右脚を振り抜いて、飯田の右足を蹴り払う。

 

「しまっ!?」

 

 飯田はバランスを崩して、うつ伏せに倒れる。

 その隙に刃羅は両腕をロングソードに変えて、飯田の背中を踏みつけて剣を交差して飯田の首に添える。

 

「っ!!」

「ここまでだ。少しでも首を浮かせば斬れるぞ」

「……降参です」

「飯田くん降参!!乱刀さんの勝利!!」

 

 ミッドナイトの宣言に刃羅は腕を戻して、背中から足を除ける。

 飯田は悔しさに顔を歪める。

 

『サーカスみてぇな戦い方しやがんな!ワンダーランドの乱刀が3回戦進出!!』

「アーユーオッケイ?飯田ボーイ!」

「……ああ、見事だった乱刀さん。完敗だった」

「あはは~」

 

 そして観客席に戻って、梅雨の隣に座る刃羅。

 

「楽しかった!」

「よかったわ」

「刃羅ちゃんって格闘戦も凄いんだね!かっこよかった!」

「ってゆーか、中国拳法にボクシング、ブレイクダンスっぽいカポエラ?とかよく組み合わせて使いこなせんな」

「使いこなすとは~ちょっと違うかな~」

「どういうこと?」

「俺っちはボクシングなんて出来ねぇ!中国拳法もな!」

「はぁ?さっきやってたじゃん」

「俺っちは、って言ってんだろ?ボクシングは【圏】、中国拳法は【偃月刀】の分野だ」

「なに言ってんだイカレ女」

 

 刃羅の言葉に首を傾げるクラスメイト達。

 爆豪も顔を顰めて声を上げる。

 

「あぁ……全員には言っていなかったな」

「どういうことですの?」

「梅雨様、透様。わたくしの人格の変わり方を話したことを覚えてますか?」

「え~っと……確か武器によって変わるんだっけ?」

「その通りでござる」

「それが?」

「分からねぇだべか?おいら……おいら達は人格それぞれで戦い方が違うべ」

『!!?』 

「当然でしょぉん。武器が違えばぁん戦い方も違うわぁん。格闘術においてはぁん人格の好みでぇんそれぞれ修めてるわぁん」

 

 刃羅の説明に目を見開いて絶句する一同。

 

「じゃ、じゃあさっきのは……」

「状況に合わせて~人格変えただけ~」

「そ、そんなの卑怯じゃねぇか!?」

「そうかのぅ?結局体は1つじゃ。注意して慣れれば対応出来ると思うがの」

「言うのは簡単だけどよ」

「わっちだってどの人格がええんか瞬時に判断せぇへんといけまへん。わっちより頭の回転早ければええことですわ」

「……なるほどな。自動で変わるわけじゃないもんな」

「そういうこと!」

 

 納得するように頷く切島。

 刃羅は常にどの武器がいいか、どの人格の体捌きがベストか瞬時に判断を迫られている。

 それが遅れれば体の動きが鈍くなり、倒されてしまう。

 どんなに武器や人格があっても、この体が動かなければ意味はないのだ。

 

「……だから、てめぇは『個性』を使い過ぎると筋肉痛になんのか」

「あや?バレてもうたか」

「どういうことだよ爆豪」

「人格が変わることに戦い方も変わんなら、使う筋肉も変わんだろーがボケ。イカレ女は戦えば戦うほど、必要以上に全身の筋肉を隅々まで使ってんだよ」

「あ~なるほどな!」

「お見事じゃの」

「あんだけ話せば普通に分かるわザコ」

 

 爆豪の言葉に肩を竦める刃羅。

 クラスメイト達は爆豪の言い方に呆れているが、爆豪は考え込むように黙る。

 

(……ってことは、このイカレ女。あれだけの動きを()()()()()()()()身に着けたってことか?今だけでも最低5人は入れ替わりやがった。そんだけの人数を1つの体で、それぞれ修行してるだぁ?)

 

 今の刃羅の話を総合すると、そう言うことになる。

 これまでの身のこなしから考えると、間違いなくどれも一級品クラスだった。

 

(ふざけてんのか?一体、他の連中の何十倍の量鍛えりゃいいんだ?ありえねぇだろ)

 

 爆豪は顔を更に顰めて、横目で刃羅を睨みつける。

 

 得体が知れない気持ち悪い女。

 

 それが爆豪が抱く刃羅の印象だった。

 まだ何かある。

 そう思わずにはいられなかった。

 

 


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