ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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10話を超えたのに、オリキャラが2人しか出てない!
多重人格は一杯出たけど!


#12 体育祭その5

 梅雨と爆豪の試合となった。

 刃羅は観客席から移動して、控室に向かう通路前まで向かう。

 

 すると、そこに緑谷が通路から現れた。

 

「もう歩けるようになったのか」

「あっ……乱刀さん。うん、何とかね。ありがとう」

「これからはもう少し方法を考えることじゃの。毎回毎回あれでは、お主をヒーローとして呼ぶものはいなくなるのぅ」

「うん……そうだね。リカバリーガールにも怒られたよ」

「ほな、うちがあんまり言うことちゃうな。ただ……」

「?」

「私はあの時、お前の背中に英雄を見た。気づいているのは一握りだろうがな」

「!?」

 

 刃羅はまっすぐに緑谷を見る。

 緑谷は目を見開いて、刃羅を見返す。

 

「実力はこれから鍛えりゃあいい。けどよ、あのお節介が出来る奴は滅多にいねえ。自分を犠牲にしてもって奴はこのご時世だと特にな。轟に炎を使わせて、あの顔をさせた価値はデケェだろうな」

「……」

「反省はするべきだろう。だが、後悔はするな。お前は確かに轟を救おうとしたのだから。眼に見える活躍だけがヒーローではない」

「……うん」

 

 刃羅はそう言って歩いていく。

 緑谷は俯いて涙を流していた。

 

 

 

 ステージの上で爆豪と梅雨が向かい合っていた。

 

「怖い顔してるわね爆豪ちゃん」

「うっせぇぞ蛙女。麗日みてぇになりたくなけりゃ退けや」

「お断りするわ」

「そうかよ」

 

 そして試合が開始される。

 刃羅は入場口の壁に寄りかかり、試合を見ていた。

 

(……梅雨ちゃんが勝つためには麗日ちゃんと同じく速攻!爆発の威力が上がれば上がるほど舌が伸ばしにくくなっちゃう!)

 

 すると、

 

「おらあああああ!!」

 

ボボボボボボボボボオォン!!!

 

「!!」

 

 突如、爆豪が地面に両手をかざし、爆破を連射した。

 煙幕が巻き上がり、梅雨は近づけずに離れる。

 

(無理矢理地面に連射して、煙幕ついでに爆破の威力を上げよった!)

 

 煙幕の中から爆豪が爆破でブーストして飛び出してくる。

 梅雨は舌で牽制しようとするが、爆豪は左手を前に向けて爆破を起こして逆に牽制する。

 そして右手の爆破で再びスピードを上げる。

 

(足元に舌を伸ばそうにも左手で対応されてまう。近づこうにも離れようにも爆破が来よる。梅雨はんの速さと反射が爆豪はんを超えん限り、このステージでは不利や!)

 

 そして、梅雨はそのまま爆破で吹き飛ばされて、場外に吹き飛ばされてしまった。

 

「蛙吹さん場外!爆豪くん3回戦進出!」

 

 梅雨は起き上がって、刃羅がいる通路に向かってくる。

 

「!。刃羅ちゃん」

「残念だったね!」

「そうね。強かったわ」

「次は勝てばいいんだよぉ」

「そうね。刃羅ちゃん」

「ん?」

「頑張ってね」

「おうよ!」

 

 ニコ!っと笑って去っていく梅雨。

 それを見送った刃羅はステージの修復が終わるまで、観客席を眺めていた。

 

「ん?あの男は……」

 

 先ほど緑谷の見舞いに来ていたヒョロガリの男。

 

「……教師?見たことありまへんなぁ」

 

 男は13号やスナイプと一緒に座っている。

 他にも周りには教師がいることから、あそこが教師陣の席だと窺える。

 

「……そういえばオールマイトの姿が全く見えぬのぅ。他の会場に行っている様子もない。……ふむ」

 

 緑谷を見に来ていたことと言い、感じた覚えのある気配と言い、気になる男である。

 オールマイトに何か関係がある。

 刃羅はそう確信した。

 

 

 

 

『準決!!サクサク行くぜ!』

 

 そして轟と刃羅の試合。

 

『轟 焦凍バーサス乱刀 刃羅!!』

 

「覚悟は決めたかの?轟」

「……」

 

 轟は刃羅の言葉に応えない。

 轟の雰囲気に刃羅は訝しげに眉を顰める。

 

『START!!!』

 

 そして、試合が始まった。

 その瞬間、轟が巨大な氷を生み出て刃羅を埋め尽くす。

 

『いきなりかましたぁ!!やはり乱刀の接近戦は嫌だよな!ってか、決まったかぁ!?』

『……いや』

 

「!!」

 

 氷が振るえ始め、ギャギャギャギャ!という音が響いてきた。

 そして、氷の上部から何かが飛び出してくる。

 

「YEAH!言ったはずデース!轟ボーイ!この程度のジ・アイス!ミーには効きまセーン!!」

 

 ドリルのように回転している刃羅。

 回転を止めて、体を広げると、轟や観客は目を見開いた。

 

『うわぁおおお!!マイッチングー!!』

 

 刃羅は体操服が破れており、スポーツブラとパンツのみになっていた。

 

「「「うおおおおおお!」」」

「うるさいわ男子」

「ってゆーか、刃羅も発育の暴力パネェ~」

 

 刃羅は下着など気にせずに、氷の上に下り立つ。

 すると、両腕と両脚を広げて歌舞伎者のポーズをする。

 

「あ!絶景かな絶景かなぁ!鉄と人に囲まれた歪な氷なれど、天から見下ろしゃ恐悦至極!」

 

『下着で歌舞伎されてもカッコよくねー!ってか、ほんとになんなのアイツ!?』

 

「あ!随分とぉ舐めた御挨拶じゃねぇか轟屋。効かねぇこたぁ……あ!分かってんだろぉ~!?」

「……」

 

 歌舞く刃羅に轟は何も答えない。

 

「だんまりかよ!はっ!余裕だなぁ!クソイケメンが!」

 

 スケートで滑り始める刃羅。

 それに腰を落として構える轟。

 

「言っとくがよ!!接近戦だけじゃあ!!ないのよぉん!」

「!?」

 

 近づきながら右腕を思いっきり突き出す刃羅。

 すると、右手が刃になって鎖のように伸びてくる。

 轟は目を見開いて、顔を傾ける。

 轟の頬をわずかに斬って通り過ぎる蛇腹剣。

 刃羅はすぐさま引き戻す。

 

『うわお!?伸びたーー!!』

 

 その隙に猛スピードで滑り迫る刃羅。

 轟は氷を壁のように作り出す。

 

「また、それですの?」

「っ!?」

「ふ!」

 

 刃羅の声に反応して、すぐさま転がる様に飛び出す轟。

 刃羅は左腕をコルセルカにして、氷の壁を貫く。

 

『あの轟の氷を易々と砕いて、貫いてやがんな!びっくりじゃん!』

 

「まだ……左側は使わないのですか?」

「……」

「……はぁ~……貴様は人を馬鹿にするためにそこに立っているのか?」

「!!ぐぅ!?」

 

 刃羅は両腕をロングソードに変えて、轟に斬りかかる。

 轟は躱そうとしたが、刃羅の腕が霞んで、気が付くと両前腕が少し斬られて血が噴き出す。

 

『うぉい!?大丈夫かあ!?人斬りは退場だぜ!?』

『今のは手加減してる。大丈夫だろ』

『マジで!?めっちゃ速かったぞ!?』

 

 刃羅は腕を戻すと、今度は右脚を蹴り出しながら大鎌に変える。

 轟はしゃがみながら氷を生み出すが、豆腐のように斬り裂けられる。

 

「ちぃ!!」

「よよい!!」

 

 今度は両腕を薙刀に変えて、回転斬りを放つ。

 それを転がって避けられると、手を圏に変えて殴りかかる。

 轟は氷を次々と作り出すが、バトルアックス、太刀、トゥハンドソードと武器を変えて壊される。

 

『轟の氷結が効かねぇ!物理系なのに効かねぇ!』

 

 刃羅は足を止めて、轟を見つめる。

 轟は肩で息をしている。

 

「……貴様は一体何がしたいのだ?緑谷のあの言葉を聞いて、行動を見て、あの怪我をさせて、その体たらくか」

「……うるせぇ」

「気づいてるぅ?轟君さぁお父さんを超えたいからぁここに来たんだよねぇ?」

「……」

「それってさ~オールマイトを超えたいって~思ってる~お父さんと~何が違うの~?」

「!!!」

 

 轟は刃羅の言葉に目を見開いて固まる。

 すると刃羅はくるりと轟に背を向ける。

 

「はいは~い!!ミッドナイトぉ!それに上の騒がしい人ぉ!」

「な、なによ?」

『騒がしくて悪かったな!で!?なんだよ!』

「あたしの『個性』ってどう思う!?」

 

 刃羅の突然の質問に眉を顰めるミッドナイトとプレゼントマイク。

 

「どう思うって……強いとは思うわよ?」

『ヒーローとしては扱い辛いだろうけどな』

「その通りであります!!」

『あぁ?』

「つまり!!俺っちの『個性』はヴィランっぽいってことだよなぁ!?」

 

 刃羅の言葉にミッドナイトは顔を顰める。

 

「轟君もそう思うよね!?」

「……それがなんだよ」

「『個性』は親の者を遺伝することが多いのぅ。そうじゃろ?轟殿」

「だから……それがなんだ!」

 

 轟は苛立ちを隠せなくなった。

 『個性』の遺伝は轟にとって最も触れられたくない話題である。

 それに刃羅はニィ~!と笑う。

 

 

「私はねぇ……ヒーローとヴィランの間に生まれたんだよぉ」

 

 

 刃羅の言葉に轟を始め、観客の全員が目を見開いて固まる。

 

「驚いた!?ねぇねぇ!驚いた!?」

 

 刃羅はお道化たように声を上げる。

 クルンと側転する刃羅。

 

「儂の父がヒーロー。そして母がヴィランじゃった。どうして結婚したかは知らん。知る気もない。知りようもない。……2人とも死んでおるからのぅ」

「!!」

 

 刃羅の言葉が会場に響く。

 

「イレイザーヘッド!貴官は小官の父を知っているでありますか!?」

『……縮尺ヒーロー『マイスタード』だな』

「パーフェクト!!では、マイマザーはドゥユーノゥ!?ヴィランネームは『スライシス』!」

「スライシス!?」

『!!』

『マジで!?』

 

 刃羅が挙げた名前に多くのプロヒーローは目を見開く。

 それに学生や一般人はそれがどうしたと騒めく。

 

『……本当なのか?』

「嘘言う理由ねぇだろゴラァ!!でも、やっぱり知ってやがったなぁ。そりゃそうだよなぁ!!忘れちゃいけねぇよなぁ!!」

 

 刃羅の言葉に轟が眉を顰める。

 それに気づいた刃羅。

 

「某の母は父と出会って、ヴィランを引退したでござる。某が生まれ、普通の母親になろうとしていたのでござろうな」

「……」

「けど、それは出来なかったアル。アタシの『個性』を知った瞬間からヨ」

「!!」

「そう。我は母に首を絞められて殺されかけた。『私の悪の血を世に出すわけにはいかない』……とな」

 

 その言葉に轟は自分の母親と重ねる。

 左手で自分の左目に触る。

 

「死にかけたけどな、ギリギリでお父んが助けてくれてなぁ。けど、お母んは罪悪感で壊れて家を飛び出しよった」

 

 観客席では緑谷や梅雨達が心配そうに刃羅を見ている。

 しかし、次の言葉で更に衝撃が襲い掛かる。

 

「その夜だ。母は暴走して……ヒーローに殺された!!!」

 

「!!!」

 

 轟はもはや声も上げられない。

 ミッドナイトや他のプロヒーロー達は悔し気に顔を歪める。

 

「そのヒーローはぁんもちろん捕えられたわぁん。資格も剥奪だよぉん。……続きは知ってるわよねぇん。ミッドナイト」

「……」

「そう……その2日後や。父様がヴィランに殺されたんは」

「!!」

「私はねぇ轟君。ヒーローとヴィランの子供でぇ、ヒーローとヴィランにぃ家族を奪われたんだよぉ。分かるぅ?この気持ちぃ」

「……」

 

 轟は答えられない。

 誰も答える事は出来ない。

 

「そこで乱刀刃羅は壊れた」

「……壊れた?」

「俺っち達の誕生さ!!多重刃格のなぁ!!」

「……!!」

 

 両腕を広げる刃羅。

 

「誰も知らないだろう?私達の誰が元々の乱刀刃羅なのか。当然だ。両親が死んだことを知った直後から、表に出たことはないのだから。それどころか……もう私達でさえ、本来の人格が残っているのかが分からん」

 

 寂しそうに目を伏せる刃羅。

 しかし、すぐさま目を開ける。

 

「けんども、それだけで終わらねぇだ。中学に入ってすぐ、おいらはヴィランに攫われただ」

「!!!」

「それから~3年近く~ずぅ~っと鍛えられたのさ~。毎日刃物で追いかけられて~斬り刻まれてね~。逃げられたのは~雄英の入試の3か月ほど前さ~」

「……そ……んな」

「だからよぉ……俺っちはなぁ!!ヒーローもヴィランも大っっっ嫌いだ!!!」

 

 目を血走らせて大声で叫ぶ刃羅。

 

「何がヒーロー!!何が英雄!!私を、乱刀刃羅を助けず!!名声と報酬ばかりを求める目立ちたがりの偽善者共!!一体どれだけの者が唯弱きものを救うためだけに戦っている!?私が知る限り唯1人!!オールマイトだけだ!!」

 

 ヒーローになるための学校でヒーローを否定する刃羅。

 しかし、それを咎める者は誰もいない。その資格がある者はいない。

 

「そしてヴィラン!!信念もなく!!ただ己が欲求のためだけに徒に力を振りまく屑!!奴らがいる限り、第2の乱刀刃羅は必ず生まれる!!それは許せない!!私はそれだけは許すことは出来ない!!」

 

 刃羅の気迫に轟は一歩後退る。

 

「だからぁ私はここに来たのぉ。母が『悪』と呼んだぁこの『個性』でぇ『ヒーロー』になってぇ『悪』を斬るのぉ。そしてぇ私と同じ子を二度と生まれないぃ世界を作るんだぁ」

 

 そして右腕をロングソードに変えて、切っ先を轟に向ける。

 

「炎を使え。お前が本当にヒーローになりたいのであれば。力を抑えてヴィランと戦い続ける気か?それで本当に弱き者を助けるヒーローになれる自信があるならば、別だがな」

「……」

 

 轟は刃羅の力強い眼に耐えられず、視線を外す。

 顔を俯かせて動かない轟に、刃羅は目を伏せて腕を戻す。

 そして、背を向けて歩き出し、場外に出る。

 

『え……ちょ!?』

「乱刀さん……!?」

「我はヒーローを目指す者と争うためにここに来た。ヒーローを目指す気がない者と戦う気はない」

 

 そうして、そのまま会場を去る刃羅。

 それを止める者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 刃羅は観客席にも戻らず、着替えてからスタジアムの上で寝転んで空を眺めていた。

 

「……やっぱりヒーローなんて~空想の産物かな~」

 

 ステインに連絡を取ろうとしたが、『保須で仕事だ』とだけメールが返って来てから繋がらない。

 

「ここに来た意味があったのだろうか……?」

 

 ステージで話した言葉に嘘はない。攫われた事と逃げ出した事以外は。

 刃羅は本気でヒーローとヴィランを粛正するステインの行動に賛同しているのだ。

 

「ここにいたのか……乱刀少女」

「……オールマイトかいな」

 

 現れたのはオールマイトだった。

 いつの間にか寝転がっている刃羅の横で体育座りをしている。

 

「なんか用だべか?」

「……何を話せばいいかは分からない。ただ……ほっとけなかっただけだよ」

「……ヒーローじゃのぉ」

「……今の私には君のその言葉が物凄く重いよ」

 

 いつもの笑みを浮かべてはいるが、雰囲気は真逆だった。

 

「マイスタードさんとは何回かお会いしたこともある。奥さんの話なんて聞いたことがなかったよ」

「言えるわけねぇだろ?ヴィランと結婚しました、なんてよぉ」

「……そうだね。……言えない世界になってしまっているんだね」

「そうねぇん。そうして生まれたのがぁん私よぉん」

 

 マイスタードは間違いなく妻と刃羅を守りたかっただけ。

 しかし、それが悲劇に繋がった。

 だからと言って、マイスタードとスライシスが悪いと言うのも違う。

 間違いなくその時の社会の風潮が引き起こした悲劇だった。

 

「おいらが訴えかけた程度で変わるわけはねぇべ。分かってるだよ。そんなこと」

「……そうとは限らない……なんて言うのは軽はずみだね。けど……出来ないとも言いたくないさ」

「……1つ聞いてもよろしおすか?」

「いいとも」

「……保健室で緑谷の横にいたのはオールマイトだよね?」

「!?!?な、なんのことかなぁ!?」

「バレバレやで」

 

 刃羅の質問にあからさまに体を跳ねさせて、ダラダラと冷や汗を流す。

 それにジト目で突っ込む刃羅。

 

「……なるほど。緑谷はオールマイトの後継者的存在か」

「……な、内緒にしてくれるかな!?」

「構わぬよ。今、オールマイトという象徴が壊れるという危険性は理解しておるつもりじゃ」

「ありがとう」

「……緑谷はあのままではオールマイトよりも悲惨な最期を迎えるぞ?分かっているのだろう?」

「……」

「象徴は必要だろう。しかしそれが1つだけに絞られてしまった今では、ただ引き継がせるだけでは象徴の代わりにはなれん。素質と信念は認めるがな」

 

 オールマイトは刃羅の言葉に両手を握り締める。

 刃羅は起き上がって、立ち上がる。

 

「その体と同じか……それ以上にボロボロにしたくないならば、間違えるな。いい所だけを見せるな。嫌な所も辛い所も汚い所も全て教えろ。緑谷に同じ道を……その体にさせたくはないのだろう?」

 

 そして刃羅は歩き出す。

 その背中をオールマイトは見送る。

 

「……励ますつもりが……逆になってしまったな。だが……いう通りだ。この道は歩かせてはいけない」

 

 

 

 

 

 刃羅は下に下りて、今度は樹の根元で寝転んでいた。

 

「……皆の所にも~戻り辛いな~」

 

 流石にあのタイミングで話すつもりはなかった。

 しかし、我慢できなかった。

 

「んあ~……人の~……こと~……言えな~……」

 

 顔を顰めて寝返りを打つ。

 直後、後頭部にスパァン!と衝撃が走る。

 

「アイヤ!?だ、誰アルか!?って、わあああ!?」

「ひっ付けたぞ!障子!掴んで回せ!」

「任せろ!」

「なになになにー!?」

 

 起き上がった瞬間、後ろに引っ張り上げられて誰かに掴まれてグルグル回されて簀巻きにされる。

 

「うぇ~……!ぎぼぢわ゛る゛ぅ」

「……すまん。回し過ぎたか」

「いいだろ。このくらいじゃねぇと斬られちまう」

「瀬呂氏?障子氏?な、なにおぶぅ!?むぅ~!」

 

 瀬呂と障子が目の前にいた。

 顔を真っ青にして首を傾げていると、口元に何かが巻き付く。

 

「行くわよ刃羅ちゃん」

「むぅ!?むむみゃん!?」

「皆、持ち上げて」

「「「「おっけー!」」」」

「むぉ!?」

 

 巻き付いたのは梅雨の舌だった。

 刃羅は目を見開いていると、今度は耳郎、葉隠、芦戸、麗日に持ち上げられて、移動を開始する。

 刃羅は声を上げるが無視された。

 

「むぉ~……むぉ~……」

「寝たふりしても無駄よ刃羅ちゃん。逃がさないわ」

「……」

「なんか梅雨ちゃん怖くね?」

「まぁ、一番仲が良いからな」

 

 連れて行かれたのはクラスの控室だった。

 部屋に入った瞬間、鎖で雁字搦めにされて、峰田のボールで椅子に固定される。

 中には流女将もいて、ほとんどのクラスメイトがいた。

 

「これから爆豪と轟の決勝だからね」

「何人かは観客席にいる」

 

 すると、ガシィ!と黒い手に体を掴まれる。

 顔だけで振り返ると常闇の影だった。

 そして、口に巻き付いていた舌が外される。

 

「プッハァ!!」

「刃羅ちゃん。何か言うことはある?」

「あんな形で話してしまい、面目次第もない」

 

 静かだが、妙に圧力がある梅雨の言葉に、すぐさま素直に謝罪する刃羅。

 頭だけペコリと下げる。

 

「分かってるならいいの」

「ってゆうかさぁ、あの話マジ?」

「マジでござるな。両親に関しては流女将も知っているでござろう?」

「……そうですね。間違ってはいません」

「……マジなのか~」

「じゃあ、流女将は……」

「この子の後見人です」

 

 梅雨は刃羅の謝罪に頷き、耳郎が話の真偽を聞いてくる。

 刃羅は流女将に目を向けると、流女将は目を伏せて頷く。

 それに芦戸が悩ましそうに腕を組む。

 

「だから攫われたんだろうね~。当時は~滅茶苦茶陰湿で荒れてたし~ヒーロー嫌いも~ヴィラン嫌いも~隠してなかったし~」

「そういうことですか……」

「そういえば飯田殿はどうしたんじゃ?」

「早退だって」

「おやまぁ」

「話を逸らさないで」

「ごめんなさい!?」

「つ、梅雨ちゃんが怖い……!」

 

 刃羅の目の前に立って、無表情で咎める梅雨。

 梅雨の雰囲気に葉隠や他のクラスメイトも気圧されている。

 

「……本来の刃羅ちゃんは、本当に分からないのかしら?」

「……分からねぇ。答えねぇんだ。見つからねぇんだ。けど記憶は共有してるから、生きてはいるはずだぜ」

「そう」

 

 梅雨の質問に真剣に答える刃羅。

 

「攫われたことで問題はないのかしら?」

「……上鳴の時に出したのは、奴に鍛えられて生まれた刃格だべぇ!?」

 

 舌でビンタされる刃羅。

 

「おぉう!?梅雨ちゃん!?」

「そんなもの出さないで」

「つ、梅雨ちゃん?」

「それを出しちゃうとそれこそ刃羅ちゃんがヴィランになってしまいそうだもの。あの時の刃羅ちゃんは、本当に怖くて、悲しかったわ。あんな刃羅ちゃんは嫌なの」

 

 ポロポロと涙を流し始める梅雨。

 再びガタガタと慌てる刃羅。しかし全く動けなかった。

 

「他にはあるの?」

「無いであります!」

「今日だけで何個の新しい人格出たんだろうな?」

「……分からん」

「だよな」

 

 ビシ!と背筋を伸ばして答える刃羅。

 その後ろで瀬呂、障子、砂籐がひそひそと話している。

 

「刃羅ちゃん」

「はい!」

「次はちゃんと話してほしいわ。あんな形で聞くのは嫌なの」

「イエス!」

「それと今度ちゃんと人格の自己紹介もして欲しいわ。皆とお友達になりたいの」

「わかった」

「なら、今回は許すわ」

「ありがとう~」

 

 ニヘラと笑う刃羅。

 それに梅雨も笑う。

 流女将もそれを後ろで見て、微笑む。

 そこに切島が入ってくる。

 

「おう、どうだ?」

「仲直りできたよ。喧嘩してたわけじゃないけど」

「まぁ、しょうがねぇだろ。あれは。で、決勝も終わったぞ。この後、表彰式だ」

「どっちが勝ったの?」

「爆豪だな。轟はやっぱり調子崩しちまってた」

「緑谷君と刃羅ちゃんのダブルパンチだもんね~」

「……轟君にぃ会いにくいなぁ」

「この後表彰式で会うんだから諦めろ。お前、常闇と同じ3位だし」

「……辞退!」

「駄目よ。反省としてそのまま出てもらうわ」

「許されてない!?」

「反省することと許すのは別よ。刃羅ちゃん」

 

 梅雨の厳しい言葉に顔を引きつらせる刃羅だった。

 その後、刃羅は障子に運ばれて表彰式に向かう。

 

 そして表彰式。

 表彰台は混沌の極みだった。

 

「半分が縛られてるってどんな表彰式だよ」

「ってゆ~か……うわぁ……何あれ」

「起きてからずっと暴れてんだと」

 

 表彰台では、

 

「ん゛ん゛~~~~!!」

 

 爆豪が手錠され、口を猿ぐつわをされて、柱に固定されながら暴れて轟を睨んでいる。

 

「もはや悪鬼羅刹」

「……うぅ~!私の存在が霞むぅ!こんな辱め受けてるのに、それ以上の拘束のされ方で暴れてるって何!?びゃ~ん!」

 

 3位の台上で刃羅が拘束されたまま、泣き始める。

 

「これは乱刀がマジで哀れだな……」

「爆豪が目立つせいで、滑稽になってるよね」

「ある意味、罰にはなってるな」

 

 クラスメイト達も刃羅に憐みの視線を送る。

 

「メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

「私が!!メダルを持ってき『我らがヒーロー!オールマイトォ!!』」

 

 スタジアムの上からオールマイトが飛び下りてきたが、ミッドナイトの紹介とセリフが被る。

 一瞬羞恥に震えるが、すぐさま表彰に移った。

 オールマイトは最初に刃羅の前に来た。

 

「なんか凄いことになってるな。乱刀少女」

「うるさい。反省だそうだ」

「なるほどな!良かったじゃないか!いい友達がいて!」

「……うっせぇ」

 

 オールマイトの言葉に恥ずかしそうに顔を背ける刃羅。

 オールマイトはそれに笑う。しかし、すぐに顔を引き締めると、刃羅に向かって深く頭を下げた。

 それには刃羅や周囲は目を見開く。

 

「な、なにしている!?」

「済まなかった」

「……はぁ?」

「我々ヒーローが君のお母さんを奪い、同じヒーローであるお父さんも護れなかった。その上、君の事を探し出せず、助け出せず、絶望させ、辛い思いをさせてしまった!1人のヒーローとして、ヒーローを代表として!謝罪しなければならない!本当に申し訳なかった!!」

「……」

 

 オールマイトの言葉と謝罪に、刃羅は黙ってオールマイトの後頭部を見つめる。

 後ろにいたミッドナイトもオールマイトに倣って頭を下げる。

 ガバァ!と頭を上げて、まっすぐに刃羅の目を見るオールマイト。

 

「もう二度と君のような子を生まないために!全身全霊を尽くすと誓おう!!だから……お願いだ。もう少しだけ……ヒーロー達を見ていてくれないだろうか。ヒーローに希望を持っていてくれないだろうか」

 

 オールマイトの言葉に刃羅はしばし黙って、ジッとオールマイトを見つめる。

 

「……今いるヒーローがそんなにすぐ変われるわけがない」

「……」

「けどぉ……これからヒーローにぃなるかもしれない子達にはぁ期待してもいいかもねぇ」

「……ありがとう」

 

 刃羅の言葉にもう一度頭を下げるオールマイト。

 

「では!改めてメダル授与だ!」

「断りたいな!」

「それを断る!おめでとう!」

 

 ニカッ!と笑って、刃羅の首にメダルを掛けるオールマイト。

 その後に常闇、轟、爆豪に声を掛けながらメダルを掛けていく。

 

 こうして体育祭は幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 教室に戻った一同。

 

「おつかれっつぅことで、明日明後日は休校だ。プロからの指名などをこっちで纏めて発表する。ドキドキしながらゆっくり休んでおけ」

 

 解散になり、帰り支度をする一同。

 刃羅が携帯を見ると『保須市でヒーロー殺し出現!』との見出しのニュースが流れていた。

 

「……動いたのか」

「あ……ヒーロー殺し?……インゲニウム!?これって飯田君の……!」

 

 緑谷も同じニュースを見たようで、目を見開いている。

 

「インゲニウムと委員長は関係あるのか?」

「乱刀さん……インゲニウムは飯田君のお兄さんなんだよ」

「……そうか」

 

 刃羅は顔を顰める。

 緑谷それを飯田を思っての事だと捉えた。

 

(よりによって……これは余計にバレるわけにはいかんな)

 

 実際は面倒になりそうだと思っての事だった。 

 

 そして、この事件がきっかけで運命は大きく動き始めるのだった。

 

_______________________

新!刃格!

 

薙刀:歌舞伎者。一人称は「あっし」。

サーベル:軍人気質。一人称は「小官」。

 

 

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