休暇最終日。
明日から学校だ。
刃羅は部屋でだらけていた。
「んあ~……やっと~……筋肉痛~……治った~……」
刃羅は轟との試合での筋肉痛が思ったより長引いていた。
それで昨日一日も痛みに耐えながら、生活していた。
「んあ~……もう少し~……動かさな~……ダメ~……」
まだまだ鍛えないとダメだと思い知った刃羅。
携帯をチェックしているが、あれから返事もなければニュースもない。
恐らく携帯を拠点に放置しているのだろう。
仕事時は余計なものを持たないのが、ステインの流儀だ。
「んあ~……問題~……飯田く~……どっしよ~……」
問題は飯田との関わり方だ。
学校側はステインに攫われていることを知っている。
刃羅の言動もステインに影響されていることも考えているだろう。
そこで飯田にそのことが下手に伝われば、ギクシャクレベルではない気がする。
「んあ~……」
眉間に皺を寄せて横になっていると、ドアがノックされる。
「はいな」
「流女将です。いいですか?」
「どうぞ~」
「失礼します」
本日の流女将は私服だった。と言っても和服なのは変わらないが。
「まだ痛むのですか?」
「もう治ったよ!それで!?」
「ご飯が出来たので呼びに来たのですよ」
「行く~」
本日の昼は鍋焼きうどんだった。
「ズズ~……ンマンマ……もう学校だなぁ」
「そうですね。そろそろ職場体験ではないでしょうか」
「ズズ~……ンマンマ……職場体験でありますか?」
「えぇ。体育祭の指名などを利用して行われるものです。プロはスカウトを、学生は現場を知るものです」
「ふ~ん。ズズ~……ンマンマ……指名なんて来るんかいな」
「どうでしょうね?駄目だったら私が引き取ることにはなってます」
「ズズ~……ンマンマ……ってことは、指名はしとらんのかの?」
「えぇ。あなたには他のヒーローも見るべきかと思いまして、今回は誰にも指名を出してはいません。蛙吹さんは気になりますがね」
「ズズ~……ンマンマ……梅雨ちゃんはいい子だよ!」
水系『個性』が在籍する流女将の事務所なら活躍できるのではと刃羅は考える。
しかし、まだ流女将は他にもインターン生がいるらしいので、今回は見送るらしい。
「私を指名する物好きなどいるのだろうか?」
「実力は確かですから、似た『個性』のヒーローからは声がかかるのでは?」
「そうかぁ?あれだけヒーロー嫌い公言したんだぜ?」
「それはあなたの境遇とオールマイトの謝罪で大分同情的に受け入れられてますよ。それにそんな境遇でヴィランにならず、ヒーローを目指していることも意外と好評化されてます」
「マジでか!?」
目を見開く刃羅。
あの試合展開と話し方で好評って頭大丈夫かと、自分の事を棚に上げて考える刃羅だった。
翌日。雨。
教室に入ると、盛り上がっているクラスメイト達がいた。
「超声掛けられたよ。来る途中!!」
「私もジロジロ見られてなんか恥ずかしかった!!」
「お、乱刀。ってなんだぁ?その荷物」
切島が刃羅に気づく。
刃羅は両腕にお菓子やら果物やら大量に抱えていた。
「……歩けば歩くほど通りがかった人から泣きながら渡された」
「あ~……両親の事とかで結構同情されてたもんな」
「うちの両親も泣いてたよ!」
「ありがたいけどぉ学校行く途中でぇ貰ってもなぁ……。あっ、メロン食べるぅ?」
「「「食う!」」」
「ちょっと待ってて~。あ~、百ちゃん~お皿出せる~?」
「……はぁ……構いませんが」
荷物を席に置いて、メロンを取り出す。
百はため息を吐きながら、腕から大皿を作り出す。
刃羅はポイッ!とメロンを放り投げる。
シャキィン!
両手の指を刃に変えて、高速で振るう。
ドン!と皿にメロンが落ちると、バラっ!とメロンが切り分けられる。
「どうぞぉん」
「便利!」
「種までキレイに切り取られてる!?」
「いただきまーす!」
「百はんも食べやぁ。お皿出させてもうたし」
「はい。ありがとうございます」
「よい!轟屋もどうだぁい?」
「……小さいのくれ」
「舐めんなゴラァ!同じ大きさに決まってんだろうが!」
「……すまん」
「ほれ。味わって食べるんじゃぞ」
「うめー!」
サラリと轟に声を掛ける刃羅。
轟も以前のようなピリピリした雰囲気はなく、戸惑いながらもメロンを受け取る。
そこに緑谷と飯田が入ってきた。
「おっはー!緑谷君に飯田君!メロンどうぞ!」
「お、おはよう。い、頂きます」
「おはよう!しかし、どこからメロンを持ってきたんだ!?教室で果物なんて!」
「登校途中でぇおばあちゃんがくれたのぉ。体育祭お疲れさまってぇ」
「それならば仕方がない!ありがたく頂こう!」
「どうぞ~」
刃羅はいつも通りの雰囲気を出して飯田にも声を掛ける。
それに飯田もいつも通りの雰囲気で応える。少しぎこちないが。
周りもそれに無理に突っ込むことなく、飯田に挨拶する。
そして、残ったメロンを教卓に置く刃羅。
「それは?」
「相澤教官のであります!!」
「先生が食べるかなぁ?」
「そこは『残すのは非合理的!』とでも言ってみる!」
「なるほどな」
そして相澤が入ってきた。
ピタと静まり返る教室。
「おはよう。って、なんだこのメロン」
「イエイ!登校途中でおばあちゃんにプレゼンツされたのデース!」
「そうか……うめぇな」
「ほんとに食った!?」
「もらったもん食べねぇ方が非合理的だろうが」
(((ホントに言った!!)))
相澤のセリフに数名が笑いを耐えるように震える。
「それで今日のヒーロー情報学、ちょっと特別だぞ」
その言葉にゴクリと息を飲み、緊張するクラスメイト。
「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」
『胸膨らむヤツきたああああ!!』
一気に爆発するクラスメイト達。
直後に相澤からオーラが発せられて、静かになるが。
「というのも先日話した『プロからのドリフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2,3年から……。つまり今回来た指名は将来性に対する興味に近い」
「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」
「そ。で、その指名の集計結果がこうだ」
後ろのブラックボードを示す相澤。
「例年はもっとバラけるんだが、今回は2人に注目が偏った」
轟が4000以上。爆豪が3000以上の指名が集まっていた。
「1位2位逆転してんじゃん」
「表彰台で拘束された奴とかビビるもんな……」
「ビビってんじゃねーよ!プロが!!」
「同じく拘束されてた刃羅ちゃんがかわいそうじゃないか!」
「シィーット!!」
「透ちゃん。それはトドメだわ」
刃羅は53件だった。
「まぁ、あの試合からしたらぁくれた方でないかなぁ」
「そうか?話の内容はともかく実力はかなり見せれたと思うけどな」
「無いな!怖かったんだ、やっぱ」
「んん……」
緑谷には指名が来ていなかった。
(やっぱ自爆技の印象がデカかったか。判断力や観察力はかなりもんだと思うけどな)
パワーに目が行きがちだが、緑谷の本領は観察力だと刃羅は思っている。
「これを踏まえ……指名の有無関係なく、いわゆる職場体験に行ってもらう。お前らは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りのある訓練をしようってことだ」
「それでヒーロー名か!」
「俄然楽しみになってきた!」
盛り上がるクラスメイト達。
「まぁ仮ではあるが、適当なもんは」
「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」
相澤の言葉を遮ってミッドナイトが入ってきた。
「この時の名が!世に認知され、そのままプロ名になってる人は多いからね!!」
「まぁ、そういうことだ。その辺をセンスをミッドナイトさんに査定してもらう」
そうして15分後、発表会が始まった。
青山、芦戸で大喜利になったが、梅雨が正統派を出して空気が戻る。
その後も続々と発表していくクラスメイト達。
刃羅は腕を組んで唸っていた。
「ヒーロー名とか考えたことないぞ……」
「とりあえずなんか書いてみれば?」
「……むぅ~」
葉隠の言う通り、とりあえず書いて発表する。
「
「ヴィラーン!!」
「びぃえ~ん!!」
却下された。
「ジラン・ザ・リッパー!」
「ヴィラーン!!」
「びゃあ~ん!!」
却下された。
「シャッフル・ソード!」
「……やっぱりヴィランっぽい」
「ふぇ~ん!」
却下された。
「頑張って!」
「……ヒーロー嫌い!」
「ここで嫌われても困るわ」
不貞腐れて頬を膨れさせる刃羅。
残ったのは刃羅、飯田、緑谷、爆豪の4人。
腕を組んで唸っていると、轟が声を掛けてくる。
「逆転の発想してみればいい」
「逆転ん?」
「漢字で書くと角が立つが、カタカナで書くと受け入れられるもんもある。常闇のツクヨミだったり、シンリンカムイだったり」
「ん~……なるほど~」
轟の助言を受けて、考える刃羅。
そして、思いついた言葉を書いてみる。
「どうや!
「オッケイ!意味はあれだけど、カタカナだからいいでしょう!」
認められた。
刃羅はハァ~と息を吐いて、緊張を解く。
席に戻る途中で轟に礼を言う。
「おおきに!」
「……気にすんな」
「なんか雰囲気変わったか?轟の奴」
刃羅の礼に目を逸らす轟。
それに他のクラスメイトも首を傾げる。
そして授業後。
「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すから、その中から自分で選択しろ。指名のなかったものは予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件。この中から選んでもらう。よく考えて選んで、今週末までに提出しろよ」
休み時間。
「見事なほど武闘派系だけどすなぁ。まぁ、わっちに救助とか言われても困るけどなぁ。ほい、リンゴお食べやす」
「ありがとう刃羅ちゃん。私は水難に係わる所ね」
「指名はどうだったでありますか?」
「ありがたいことに水難救助系が多いわ」
「いいなぁ。私トーナメント残ったのに来なかったしなぁ」
「緑谷君もだけどね」
「轟氏と爆豪氏が目立ちすぎたでござるな。桃でござる」
「「ありがと!」」
もらった名簿を見ながら、体験先を考える刃羅達。
朝に頂いたリンゴや桃を切って食べながら、話している。
「おいらはどこでもいいだべなぁ」
「ちゃんと考えないとダメよ刃羅ちゃん」
「流女将と相談する~」
「そういえば流女将は指名してないね」
「今回は誰も受け入れないそうだ。私に指名がなければ受け入れると言っていたがな」
「なるほどね」
「流女将は救助系だもんね」
「イエア!」
とりあえず先送りにした刃羅だった。
夜。
「どの人がいいの!?」
「おや。結構来ていたんですね」
「後、帰ってくるときにまた色々渡されたので差し入れであります!!」
「……凄い量ですねぇ」
「これでも学校で先生やクラスの皆に配ったのだが……」
「これで?」
「イエア!」
45Lサイズの袋が6つ。
その全てに果物やお菓子、食材などが詰められている。
「困ってるべ」
「これはそうですねぇ」
「サイドキックの連中にでも分けてやってくれや」
「そうですね」
「でじゃ、職場体験のお勧めはどこかの?」
名簿を確認する流女将。
ペンを取り出して、数字を記載していく。
「刃羅さんの『個性』や向こうの活動やヒーローの性格を考えれば、こんな感じでしょう」
「1が一番ええのん?」
「えぇ」
「光閃ヒーロー『エクレーヌ』……聞いたことはあるなぁ」
「私の所でインターンもしていましたし、プロになってからも連絡は取っています。彼女は近接系のサイドキックを欲しがっていますし、その他のサイドキックも優秀なので研修やインターンにはいい所ですよ」
「じゃあ、ここでいい!」
流女将のお墨付きならば問題はないだろうと考える刃羅。
実際に会うまでは。
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今更人物事典!!
・
誕生日:7月16日。身長:165cm。A型。
好きなもの:和食、流しそうめん
水色の髪をハーフアップに纏めている。常に微笑んでいるおっとり美女。Cカップ。
コスチュームは白の波模様が描かれた水色の小袖に、青の帯とシンプルなデザイン。
お流れヒーロー。ヒーロービルボードチャートJP:22位
大ベテランヒーローと言われるほどの経歴の持ち主。夫は死別。息子が1人おり、息子もヒーローをしている。
ランキング上位の女性ヒーローの多くが、彼女の元で一度は研修を受けている。
昔は戦闘にも参加していたが、近年は水難、火災などの災害救助を重きに置いている。また後進育成にも力を入れている。
雄英高校教師赴任の打診も毎年来ているが、現場で教えることに力を入れたいと言うことで固辞している。その代わり、職場体験やインターンは全国から受け入れている。
個性:水流操作
水の流れを操る。操るには半径5m以内まで近づく必要がある。
それに水を操るわけではないので、操るためには手でかき回したりする必要がある。そのため、サイドキックには水を放つ『個性』持ちが多い。
一度操れば、操っている水が混ざっている川や海でも大規模で操れるため、洪水、津波で最も力を発揮する。