ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#13 名前

 休暇最終日。

 明日から学校だ。

 刃羅は部屋でだらけていた。

 

「んあ~……やっと~……筋肉痛~……治った~……」

 

 刃羅は轟との試合での筋肉痛が思ったより長引いていた。

 それで昨日一日も痛みに耐えながら、生活していた。

 

「んあ~……もう少し~……動かさな~……ダメ~……」

 

 まだまだ鍛えないとダメだと思い知った刃羅。

 携帯をチェックしているが、あれから返事もなければニュースもない。

 恐らく携帯を拠点に放置しているのだろう。

 仕事時は余計なものを持たないのが、ステインの流儀だ。

 

「んあ~……問題~……飯田く~……どっしよ~……」

 

 問題は飯田との関わり方だ。

 学校側はステインに攫われていることを知っている。

 刃羅の言動もステインに影響されていることも考えているだろう。

 そこで飯田にそのことが下手に伝われば、ギクシャクレベルではない気がする。

 

「んあ~……」

 

 眉間に皺を寄せて横になっていると、ドアがノックされる。

 

「はいな」

「流女将です。いいですか?」

「どうぞ~」

「失礼します」

 

 本日の流女将は私服だった。と言っても和服なのは変わらないが。

 

「まだ痛むのですか?」

「もう治ったよ!それで!?」

「ご飯が出来たので呼びに来たのですよ」

「行く~」

 

 本日の昼は鍋焼きうどんだった。

 

「ズズ~……ンマンマ……もう学校だなぁ」

「そうですね。そろそろ職場体験ではないでしょうか」

「ズズ~……ンマンマ……職場体験でありますか?」

「えぇ。体育祭の指名などを利用して行われるものです。プロはスカウトを、学生は現場を知るものです」

「ふ~ん。ズズ~……ンマンマ……指名なんて来るんかいな」

「どうでしょうね?駄目だったら私が引き取ることにはなってます」

「ズズ~……ンマンマ……ってことは、指名はしとらんのかの?」

「えぇ。あなたには他のヒーローも見るべきかと思いまして、今回は誰にも指名を出してはいません。蛙吹さんは気になりますがね」

「ズズ~……ンマンマ……梅雨ちゃんはいい子だよ!」

 

 水系『個性』が在籍する流女将の事務所なら活躍できるのではと刃羅は考える。

 しかし、まだ流女将は他にもインターン生がいるらしいので、今回は見送るらしい。

 

「私を指名する物好きなどいるのだろうか?」

「実力は確かですから、似た『個性』のヒーローからは声がかかるのでは?」

「そうかぁ?あれだけヒーロー嫌い公言したんだぜ?」

「それはあなたの境遇とオールマイトの謝罪で大分同情的に受け入れられてますよ。それにそんな境遇でヴィランにならず、ヒーローを目指していることも意外と好評化されてます」

「マジでか!?」

 

 目を見開く刃羅。

 あの試合展開と話し方で好評って頭大丈夫かと、自分の事を棚に上げて考える刃羅だった。

 

 

 

 翌日。雨。

 教室に入ると、盛り上がっているクラスメイト達がいた。

 

「超声掛けられたよ。来る途中!!」

「私もジロジロ見られてなんか恥ずかしかった!!」

「お、乱刀。ってなんだぁ?その荷物」

 

 切島が刃羅に気づく。

 刃羅は両腕にお菓子やら果物やら大量に抱えていた。

 

「……歩けば歩くほど通りがかった人から泣きながら渡された」

「あ~……両親の事とかで結構同情されてたもんな」

「うちの両親も泣いてたよ!」

「ありがたいけどぉ学校行く途中でぇ貰ってもなぁ……。あっ、メロン食べるぅ?」

「「「食う!」」」

「ちょっと待ってて~。あ~、百ちゃん~お皿出せる~?」

「……はぁ……構いませんが」

 

 荷物を席に置いて、メロンを取り出す。

 百はため息を吐きながら、腕から大皿を作り出す。

 刃羅はポイッ!とメロンを放り投げる。

 

シャキィン!

 

 両手の指を刃に変えて、高速で振るう。

 ドン!と皿にメロンが落ちると、バラっ!とメロンが切り分けられる。

 

「どうぞぉん」

「便利!」

「種までキレイに切り取られてる!?」

「いただきまーす!」

「百はんも食べやぁ。お皿出させてもうたし」

「はい。ありがとうございます」

「よい!轟屋もどうだぁい?」

「……小さいのくれ」

「舐めんなゴラァ!同じ大きさに決まってんだろうが!」

「……すまん」

「ほれ。味わって食べるんじゃぞ」

「うめー!」

 

 サラリと轟に声を掛ける刃羅。

 轟も以前のようなピリピリした雰囲気はなく、戸惑いながらもメロンを受け取る。

 そこに緑谷と飯田が入ってきた。

 

「おっはー!緑谷君に飯田君!メロンどうぞ!」

「お、おはよう。い、頂きます」

「おはよう!しかし、どこからメロンを持ってきたんだ!?教室で果物なんて!」

「登校途中でぇおばあちゃんがくれたのぉ。体育祭お疲れさまってぇ」

「それならば仕方がない!ありがたく頂こう!」

「どうぞ~」

 

 刃羅はいつも通りの雰囲気を出して飯田にも声を掛ける。

 それに飯田もいつも通りの雰囲気で応える。少しぎこちないが。

 周りもそれに無理に突っ込むことなく、飯田に挨拶する。

 そして、残ったメロンを教卓に置く刃羅。

 

「それは?」

「相澤教官のであります!!」

「先生が食べるかなぁ?」

「そこは『残すのは非合理的!』とでも言ってみる!」

「なるほどな」

 

 そして相澤が入ってきた。

 ピタと静まり返る教室。

 

「おはよう。って、なんだこのメロン」

「イエイ!登校途中でおばあちゃんにプレゼンツされたのデース!」

「そうか……うめぇな」

「ほんとに食った!?」

「もらったもん食べねぇ方が非合理的だろうが」

(((ホントに言った!!)))

 

 相澤のセリフに数名が笑いを耐えるように震える。

 

「それで今日のヒーロー情報学、ちょっと特別だぞ」

 

 その言葉にゴクリと息を飲み、緊張するクラスメイト。

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

『胸膨らむヤツきたああああ!!』 

 

 一気に爆発するクラスメイト達。

 直後に相澤からオーラが発せられて、静かになるが。

 

「というのも先日話した『プロからのドリフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2,3年から……。つまり今回来た指名は将来性に対する興味に近い」

「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」

「そ。で、その指名の集計結果がこうだ」

 

 後ろのブラックボードを示す相澤。

 

「例年はもっとバラけるんだが、今回は2人に注目が偏った」

 

 轟が4000以上。爆豪が3000以上の指名が集まっていた。

 

「1位2位逆転してんじゃん」

「表彰台で拘束された奴とかビビるもんな……」

「ビビってんじゃねーよ!プロが!!」

「同じく拘束されてた刃羅ちゃんがかわいそうじゃないか!」

「シィーット!!」

「透ちゃん。それはトドメだわ」

 

 刃羅は53件だった。

 

「まぁ、あの試合からしたらぁくれた方でないかなぁ」

「そうか?話の内容はともかく実力はかなり見せれたと思うけどな」

「無いな!怖かったんだ、やっぱ」

「んん……」

 

 緑谷には指名が来ていなかった。

 

(やっぱ自爆技の印象がデカかったか。判断力や観察力はかなりもんだと思うけどな)

 

 パワーに目が行きがちだが、緑谷の本領は観察力だと刃羅は思っている。

 

「これを踏まえ……指名の有無関係なく、いわゆる職場体験に行ってもらう。お前らは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りのある訓練をしようってことだ」

「それでヒーロー名か!」

「俄然楽しみになってきた!」

 

 盛り上がるクラスメイト達。

 

「まぁ仮ではあるが、適当なもんは」

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

 相澤の言葉を遮ってミッドナイトが入ってきた。

 

「この時の名が!世に認知され、そのままプロ名になってる人は多いからね!!」

「まぁ、そういうことだ。その辺をセンスをミッドナイトさんに査定してもらう」

 

 そうして15分後、発表会が始まった。

 

 青山、芦戸で大喜利になったが、梅雨が正統派を出して空気が戻る。

 

 その後も続々と発表していくクラスメイト達。

 刃羅は腕を組んで唸っていた。

 

「ヒーロー名とか考えたことないぞ……」

「とりあえずなんか書いてみれば?」

「……むぅ~」

 

 葉隠の言う通り、とりあえず書いて発表する。

 

荒破刃鬼(アラハバキ)!」

「ヴィラーン!!」

「びぃえ~ん!!」

 

 却下された。

 

「ジラン・ザ・リッパー!」

「ヴィラーン!!」

「びゃあ~ん!!」

 

 却下された。

 

「シャッフル・ソード!」

「……やっぱりヴィランっぽい」

「ふぇ~ん!」

 

 却下された。

 

「頑張って!」

「……ヒーロー嫌い!」

「ここで嫌われても困るわ」

 

 不貞腐れて頬を膨れさせる刃羅。

 残ったのは刃羅、飯田、緑谷、爆豪の4人。

 腕を組んで唸っていると、轟が声を掛けてくる。

 

「逆転の発想してみればいい」

「逆転?」

「漢字で書くと角が立つが、カタカナで書くと受け入れられるもんもある。常闇のツクヨミだったり、シンリンカムイだったり」

「ん~……なるほど~」

 

 轟の助言を受けて、考える刃羅。

 そして、思いついた言葉を書いてみる。

 

「どうや!アラジン(荒刃)!!」

「オッケイ!意味はあれだけど、カタカナだからいいでしょう!」

 

 認められた。

 刃羅はハァ~と息を吐いて、緊張を解く。

 席に戻る途中で轟に礼を言う。

 

「おおきに!」

「……気にすんな」

「なんか雰囲気変わったか?轟の奴」

 

 刃羅の礼に目を逸らす轟。

 それに他のクラスメイトも首を傾げる。

 

 そして授業後。

 

「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すから、その中から自分で選択しろ。指名のなかったものは予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件。この中から選んでもらう。よく考えて選んで、今週末までに提出しろよ」

 

 

 休み時間。

 

「見事なほど武闘派系だけどすなぁ。まぁ、わっちに救助とか言われても困るけどなぁ。ほい、リンゴお食べやす」

「ありがとう刃羅ちゃん。私は水難に係わる所ね」

「指名はどうだったでありますか?」

「ありがたいことに水難救助系が多いわ」

「いいなぁ。私トーナメント残ったのに来なかったしなぁ」

「緑谷君もだけどね」

「轟氏と爆豪氏が目立ちすぎたでござるな。桃でござる」

「「ありがと!」」

 

 もらった名簿を見ながら、体験先を考える刃羅達。

 朝に頂いたリンゴや桃を切って食べながら、話している。

 

「おいらはどこでもいいだべなぁ」

「ちゃんと考えないとダメよ刃羅ちゃん」

「流女将と相談する~」

「そういえば流女将は指名してないね」

「今回は誰も受け入れないそうだ。私に指名がなければ受け入れると言っていたがな」

「なるほどね」

「流女将は救助系だもんね」

「イエア!」

 

 とりあえず先送りにした刃羅だった。

 

 

 

 夜。

 

「どの人がいいの!?」

「おや。結構来ていたんですね」

「後、帰ってくるときにまた色々渡されたので差し入れであります!!」

「……凄い量ですねぇ」

「これでも学校で先生やクラスの皆に配ったのだが……」

「これで?」

「イエア!」

 

 45Lサイズの袋が6つ。

 その全てに果物やお菓子、食材などが詰められている。

 

「困ってるべ」

「これはそうですねぇ」

「サイドキックの連中にでも分けてやってくれや」

「そうですね」

「でじゃ、職場体験のお勧めはどこかの?」

 

 名簿を確認する流女将。

 ペンを取り出して、数字を記載していく。

 

「刃羅さんの『個性』や向こうの活動やヒーローの性格を考えれば、こんな感じでしょう」

「1が一番ええのん?」

「えぇ」

「光閃ヒーロー『エクレーヌ』……聞いたことはあるなぁ」

「私の所でインターンもしていましたし、プロになってからも連絡は取っています。彼女は近接系のサイドキックを欲しがっていますし、その他のサイドキックも優秀なので研修やインターンにはいい所ですよ」

「じゃあ、ここでいい!」

 

 流女将のお墨付きならば問題はないだろうと考える刃羅。

 

 実際に会うまでは。

 

__________________________

今更人物事典!!

 

流女将(ながれおかみ)水流 青美(みながれ あおみ)

 

 誕生日:7月16日。身長:165cm。A型。

 好きなもの:和食、流しそうめん

 

 水色の髪をハーフアップに纏めている。常に微笑んでいるおっとり美女。Cカップ。

 コスチュームは白の波模様が描かれた水色の小袖に、青の帯とシンプルなデザイン。

 

 お流れヒーロー。ヒーロービルボードチャートJP:22位

 大ベテランヒーローと言われるほどの経歴の持ち主。夫は死別。息子が1人おり、息子もヒーローをしている。

 ランキング上位の女性ヒーローの多くが、彼女の元で一度は研修を受けている。

 昔は戦闘にも参加していたが、近年は水難、火災などの災害救助を重きに置いている。また後進育成にも力を入れている。

 雄英高校教師赴任の打診も毎年来ているが、現場で教えることに力を入れたいと言うことで固辞している。その代わり、職場体験やインターンは全国から受け入れている。

 

 個性:水流操作

 水の流れを操る。操るには半径5m以内まで近づく必要がある。

 それに水を操るわけではないので、操るためには手でかき回したりする必要がある。そのため、サイドキックには水を放つ『個性』持ちが多い。

 一度操れば、操っている水が混ざっている川や海でも大規模で操れるため、洪水、津波で最も力を発揮する。 

 


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