ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#14 職場体験

 職場体験初日。

 A組は駅に集まっていた。

 コスチュームが入ったトランクを持っている雄英生はかなり目立っていた。

 

「コスチューム持ったな。本来は公共の場では着られない身だ。落とすなよ」

 

 相澤が最後の注意をしている。

 

「くれぐれも注意の無いようにな。じゃあ行け」

 

 そして、それぞれの受け入れ先の事務所へと向かい始める。

 

「梅雨ちゃん!またね!」

「刃羅ちゃんも頑張ってね」

「おうよ!」

 

 ブンブン!と梅雨に手を振りながら別れる。

 

「飯田氏。途中までは一緒でござる」

「そうなのか。分かった。一緒にいこう」

 

 飯田と電車に乗り、移動を始める刃羅。

 妙に飯田が思い詰めた顔をしている。

 その理由に刃羅は心当たりがあった。

 

「……ヒーロー殺しかの?」

「!!?……なんのことだ?」

「嘘がお下手どすなぁ」

「……」

「言っておくが、私は別にそれを止める気はない」

「……え?」

「ヒーローとしちゃあ最低の行動だけどな」

 

 刃羅の言葉に俯いてしまう飯田。

 どうやらそれは理解はしているようだ。

 

(憧れであり、家族である兄が再起不能にされれば、感情をコントロール出来るものではない。本来なら、この職場体験でも兄の事務所に行けていただろうしな)

 

 今の飯田を諭せるものなどいない。

 飯田自身が己の行動を顧みる余裕がなければ無駄でしかない。

 

「間違えるでないぞ。飯田天哉。ヒーローとしての最低限の矜持だけはのぅ」

「……分かっている」

「……なら、ええわ。ほな、頑張ろな」

「……ああ」

 

 刃羅は先に電車を降りる。

 

 飯田は最後まで刃羅と目を合わせることはなかった。

 

 

 

 

 刃羅は駅を出て、事務所を目指す。

 

「まさか保須市とはねぇ。お師匠とはぁ鉢合わせしたくないなぁ」

 

 ステインが標的に定めている街だと知った時は、盛大に顔を顰めた。

 連絡しようにも、未だ携帯を持っていないようだった。

 出会わないことを祈るばかりの刃羅だった。

 

「……ここか~。思ったより~大きい~」

 

 事務所は4階建てのビルだった。

 一棟全てが事務所のようだった。

 1分程、ホケっとビルを見上げてから、中に入る。

 

「失礼するであります!雄英高校1年A組!乱刀刃羅であります!」

「うわぁ!?びっくりしたぁ!げ、元気な子だね……!」

 

 ビシィ!と入ってすぐに気を付けをして、大声であいさつする刃羅。

 それに一番近くにいたヒーローと思われる女性が、地面から両足が離れる程驚いて、胸を押さえて深呼吸する。

 

「君が職場体験の子だね」

「よろしく~お願いします~」

「……本当に話し方が変わるんだね」

「少ししたら慣れると思いますわ。堪忍ですわ」

「あははは……頑張るよ。って、ごめん。私はサイドキックの『ミラミラ』だよ」

 

 ミラミラは茶髪ショートボブの女性。

 頭の左右に手鏡が付いたカチューシャを身に着けており、平べったい胸や肩、両前腕、腰のベルト、ふくらはぎの両側、両脛に丸い鏡を装備している。

 

「エクレーヌさんは上にいるから、付いてきて」

「イエア!」

 

 ミラミラに付いて行き、3階に上がる刃羅。

 案内された部屋は執務室のようで、本やパソコンが置かれていた。

 

「エクレーヌさん。雄英生来ましたよ」

「おや、すまないな」

 

 机で書類作業をしていた白金のショートウルフカットの女性。

 ミラミラの声に手を止めて立ち上がり、刃羅を見る。

 

「初めましてだね。私がエクレーヌだ」

 

 エクレーヌのコスチュームは赤のシャツに黒の革ジャン、黒のレザーパンツに赤のブーツという私服に近いものだった。

 男装麗人と言う言葉が当てはまりそうだ。

 

「乱刀刃羅でござる。お世話になるでござる」

「ほぉ……本当に色々な性格に変わるんだね」

「めんどくさぁてすみまへんなぁ」

「構わんさ。大事なのは行動だからね。一度部屋に荷物を置いて、コスチュームに着替えておいで」

「了解だべ」

 

 ミラミラに案内されたのは、ベッドとテーブル、トイレだけの質素な部屋だった。

 仮眠室の1室とのことだ。

 刃羅はベッドがあるだけでも十分なので、一切不満はなかった。

 

 そして、コスチュームトランクを開ける。

 修正と改良を頼んでいたが、どうなったのだろうかと刃羅は首を傾げると、メモが挟まっているのに気づいた。

 

『乱刀様へ。コスチュームですが、乱刀様の髪や血液を組み込ませた生地で作られています。それと仮面のデザインも変更させて頂きました。こっちの方がいいと思うんですよ!はい!』

「……せめて一言~」

 

 サポート会社に文句を言いたかったが、すでに遅いので諦めて着ることにする。

 

 上着は藍色の筒袖和服。帯は赤でバッジがたくさん。下はは黒のパラツォパンツに赤のブーツサンダル。

 装備は背中の鉄刀と脚のナイフはそのままだが、鎖鎌などは排除した。

 試しにと右前腕から鎌を生やすも、服が破れることはなかった。

 

「おぉ!これはいいのぅ!さて、後は仮面じゃが……マスク?」

 

 前は顔上半分を覆う髑髏面だったが、今回は顔下半分を覆う赤のマスクだった。後ろで縛ると、余った布が尻尾のように靡くようになっている。

 

「……ステインっぽいな。まぁ、いいか」

 

 着替えを終えると、エクレーヌの元に戻る。

 

「ほぉ!忍者のようだね」

「かっこいいね」

「どうも」

「では、案内ついでにパトロールといこうか」

 

 エクレーヌはスポーツサングラスを掛ける。

 そして3人で街に出向く。

 

「今日は他のサイドキックが応援に出ているからね。また明日紹介するよ」

「了解じゃ」

「私達は基本ヴィランや犯罪の取り締まりをメインとしている。もちろん要請があれば災害救助にも出向くけどね」

「救助系をメインとしているヒーローは副業をしていることが多いわね。給料は歩合制だから」

「だから、私のサイドキックは他のヒーローの応援要請があれば参加させているのさ」

「ほ~」

 

 ヒーローは公務員の枠組みではあるが、特殊過ぎるため貢献度で歩合を決める。

 それが現在のヒーローの多くが報酬や名声を求める理由にもなっている。

 

「犯罪者を迅速に、かつ被害を抑えて捕らえることは意外と難しい。被害には犯罪者の怪我も含まれるからね。あまり重傷にすると、問題になるよ」

「わっちにはそれが難点ですわぁ」

「それを補うためのサイドキックであり、チームさ」

 

 しばらく街を見て回り、事務所に戻る。

 

「と、いうことでちょっと君の力を見せてもらおうかな」

 

 地下にある訓練場のような部屋でエクレーヌと向かい合う刃羅。

 

「どこまでぇありですかぁ?」

「私をヴィランと考えてくれればいいよ」

「了解であります!」

「じゃあ、おいで!」

 

 背中の鉄刀を抜いて、飛び掛かる刃羅。

 エクレーヌは右手を開くと、そこに手の平大の光る玉が現れる。

 そして、それを刃羅に向かって放つ。

 

「!」

 

 刃羅は鉄刀で払う。

 エクレーヌは両腕を振って、連続で光弾を放つ。

 刃羅は弾いたり、躱しながら、エクレーヌに迫る。

 ある程度近づき、光弾が途切れた瞬間に滑り出してスピードを上げる刃羅。 

 

「ふ!」

「っ!?」

 

 エクレーヌは右手を突き出し、今度は光弾ではなく光線を放ち、刃羅の進路を塞ぐ。

 刃羅は慌てて方向転換するが、それを狙っていたエクレーヌは左手にバスケットーボール大の光弾を生み出して放つ。

 すると光弾が弾けて、散弾のように刃羅に迫る。

 

「げ!?」

 

 刃羅は顔を引きつかせて、左腕と左脚をロングソードに変えて、右手の鉄刀と一緒に振り回して、バレエを踊る様に光弾を弾く。

 それにエクレーヌは少し目を見開く。

 再び刃羅が駆け出そうとすると、背中から避けたはずの光線が飛んできた。

 刃羅は足を槍に変えて、横に飛んで躱す。 

 

「何だぁ!?って、2対1かよ!?」

 

 飛んできた方向を見ると、そこには両腕の鏡を構えているミラミラが立っていた。

 

「よくある事さ」

「学生相手に大人げないんだぁ!」

「サイドキックとの連携も見せてあげないとね」

「こんなのイジメだよぉ!びぃえ~ん!!」

「な、泣いた!?」

「ミラミラくん。あれもそういう性格だそうだ。気にしなくていいよ」

「そ、そうなんですか……」

「ほら、行くよ」

「はい!」

 

 再びエクレーヌが光線を放つ。

 刃羅が躱すと、光線の先にミラミラが立つ。

 ミラミラは右腕の鏡を光線に向け、左腕の鏡を刃羅に向ける。

 光線が右腕の鏡に当たると、吸い込まれたように消えていき、左腕の鏡から光線が放たれる。

 

「っ!反射!?いや、ちゃうな!ゲートの類かいな!」

「!!。お見事。私の『個性』は《ミラーゲート》。鏡と鏡を繋げることが出来るの」

「反射も出来るからね。相性抜群さ♪」

「そ、そうですね」

 

 刃羅が『個性』を見抜いたことに目を見開くミラミラ。

 それにエクレーヌが得意げに語り、ミラミラにパチン!とウィンクする。

 ミラミラは頷くが、少し顔が引きつっている。

 

(……鏡女はともかく、光女は両手から放つ定番タイプ!許容超過が分かんねぇ!)

 

 刃羅はエクレーヌに向かって滑り出す。

 ただし蛇行するように滑り、照準を合わせられないようにする。

 

「よく考えているね。でも、それだけでは」

「はぁん!」

「!!」

 

 右手を蛇腹剣に変えて、鞭のように飛ばす。

 それにエクレーヌは目を見開いて、横に飛んで躱す。

 続いて左手も蛇腹剣に変える。

 

「うおっとぉ!?やるな!」

「ミラミラちゃんはぁん、自分からぁん攻撃は難しいわよぇん!」

「そこまで理解しているか!」

 

 蛇腹剣を躱しながら、光弾を放つエクレーヌ。

 刃羅は無理に弾かずに躱す。ただし蛇腹剣をミラミラに向かって振る。

 

「っ!」

「鏡を浮かせられるぅん訳ではないわよねぇん」

「そこまで対応出来ちゃうの!?」

「本当にすごいね!!でも、ここまでにしようか。これ以上は怪我では済まなさそうだ」

 

 エクレーヌの言葉に腕を戻す刃羅。

 エクレーヌはニコニコと上機嫌に笑いながら、刃羅に近づく。

 

「素晴らしいね。すぐさまサイドキックで欲しいくらいだ」

「どうもぉ」

「ふふ♪それに本当にかわいい子だ」

「!?」

 

 舌なめずりしながら、両手を刃羅の頬に添える。

 それに刃羅はゾワァ!と背筋に悪寒が走る。

 

「どうだい?一晩、私と楽しまないか?」

「やめてください!未成年ですよ!?雄英に訴えられてしまいます!流女将さんも黙ってないですよ!?」

「おや。それは楽しくないね。残念だよ」

「……」

 

 ミラミラが慌てて刃羅をエクレーヌから離す。

 ミラミラの言葉に肩を竦めるエクレーヌ。

 刃羅は未だにショックと悪寒から抜け出せない。

 

「では、今日はゆっくりと休みたまえ♪」

 

 エクレーヌは言った後に投げキッスをして、訓練場を後にする。

 

「はぁ~……全く」

「……」

「あぁ~……ごめんね。エクレーヌさんってさぁ、バイセクシャルなんだよね。だから、気に入った子がいたら男女関係なくイケるのよ」 

「……」

 

 ミラミラの暴露に固まったままの刃羅。

 そのような話は流女将からは聞いていなかった。

 

「流石に未成年には手を出さないはずだから。日中はちょっとしたスキンシップは我慢してほしい……かなぁ」

「……努力しますだ」

「ありがとうね!本当にごめんなさい!」

 

 ミラミラは本当に申し訳なさそうに謝罪する。

 それに刃羅は引きつった笑みを浮かべる。

 

 とりあえず帰ったら流女将に聞いてみようと心に決めた刃羅だった。

 

______________________

人物紹介!

 

・エクレーヌ/閃乃(せんの) (みつる)

 

 誕生日:9月22日。身長:181cm。AB型。

 好きなもの:可愛い子、演劇

 

 白金のショートウルフカット。男装麗人系。Aカップ。

 コスチュームは赤のシャツに黒の革ジャン、黒のレザーパンツに赤のブーツにスポーツサングラス。

 

 光閃ヒーロー。ヒーロービルボードチャートJP:26位

 中堅クラスのヒーロー。実力は認められているが、言動で扱い辛いと思われている。

 バイセクシャル全開。もちろん嫌がられたら身を引くし、誘ったりもしない。冗談的に言うことはあるが。

 災害救助では明かり程度しか役に立たないため、戦闘メインにしている。しかし応急処置技術や避難誘導技術はトップクラス。

 

 個性:《光波》

 両手の手の平から光線を放つ。弾状にもできる。要は気功波。かめは〇波や気〇砲、魔〇光殺法なども撃てる。

 使い過ぎると瞳孔の光調節が出来なくなり、眩しすぎて眼が開けられなくなる。

 

 

・ミラミラ

 

 誕生日:10月10日。身長:161cm。O型。

 好きなもの:リンゴ飴

 

 茶髪ショートボブ。Aカップ。

 コスチュームは白と黒のフィットしたタイツで、頭の左右に手鏡が付いたカチューシャを身に着けており、平べったい胸や肩、両前腕、腰のベルト、ふくらはぎの両側、両脛に丸い鏡を装備している。

 

 エクレーヌのサイドキック。

 駆け出しヒーロー。エクレーヌのバイセクシャルには困っているが、ヒーローとしては尊敬している。

 事務職や偵察、避難で活躍する。

 

 個性:《ミラーゲート》

 鏡と鏡を繋げる。発動条件は『一度触れていること』と『繋げる鏡の位置を明確にイメージ出来ること』。

 出口は同時に2つまで設定できる。

 そのため災害時の避難や物資・人材の運搬でも大活躍できる。大きい鏡があれば、であるが。

 

 

 


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