ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#16 貫く信念

 その後、縄を見つけてステインを拘束する。

 轟が引っ張り、緑谷はプロに背負われて大通りに出る。

 

「すまない……プロの俺が一番足手まといだった」

「いえ……1対1でヒーロー殺しの『個性』だともう仕方がないと思います……強すぎる……」

「ステインにとって『個性』はあくまで手段の1つじゃ。ステインの本領はあの戦闘技術と反射神経にあるからのぅ」

「実際、今回だって多対1の上にこいつ自身のミスがあってギリギリ勝てた。焦ったせいで引き際と緑谷を忘れてたんだろうな」

「そういうことですわね。結局……最後まで勝てませんでしたわ」

 

 刃羅は複雑な表情でステインを見下ろす。

 それを轟達が心配そうに見つめる。

 

「それで?体は大丈夫なのか?」

「んなわけねぇだろ!さっきからギリギリと痛てぇよ!腹も!!そこの眼鏡とモジャ毛よかマシだがな!」

「そう言えば乱刀さんって出せる武器は1種だけだったんじゃ……」

「やから、あの激痛やったんやろ。今は筋肉痛レベルやけどな」

「む!?んなっ……何故お前がここに!!」

 

 そこに黄色のマントを羽織った小さい老人のヒーローが小路から出てきた。

 

「何故お前がここに!!!」

「グラントリノ!!!」

「座ってろっつったろ!!」

「どなたどすか?」

「僕の職場体験先のヒーローだよ」

「まぁ……よぅ分からんが、とりあえず無事でよかった」

「ごめんなさい」

 

 緑谷はグラントリノに謝罪する。

 それを見ながら刃羅はガードレールにもたれ掛かる。

 

「あ~……うちのヒーローも~怒ってるかな~……」

「僕のところもだ」

 

 何も言わずに来てしまった。

 しかも脳無との戦闘中に。

 

「……私の純潔が危ないよぉ!びぃえ~ん!!」

「どんな事務所に行ってるの!?」

 

 するとそこに他のヒーロー達もやってきた。

 

「エンデヴァーさんから応援要請承った……んだが……」

「子どもばっかりじゃないか……!?」

「酷いケガだ!救急車を呼べ!!」

「おい!?こいつヒーロー殺し!?」

 

 刃羅も立ち上がって、ヒーロー達に受け答えをする。

 緑谷も自分の脚で立ち、対応する。

 そこに飯田が近づいて来た。

 

「3人とも……僕のせいで傷を負わせた。本当に済まなかった」

 

 飯田が頭を下げる。

 

「何も……見えなく……なってしまっていた……!」

 

 飯田は涙を流して震える。

 

「……僕もごめんね。君があそこまで思いつめてたのに全然見えてなかったんだ……。友達なのに……」

「しっかりしてくれよ。委員長だろ」

「……うん……」

 

 緑谷と轟の言葉に頷く飯田。

 

「……なぁ飯田、覚えてるか?私が体育祭で轟に叫んだ言葉。それに電車内で伝えた言葉」

「……ああ」

「正直に言えば、我はステインの言葉に少なからず賛同している」

『!!』

 

 刃羅の言葉に3人は目を見開く。

 

「誘拐されて、扱かれたことは憎んでいるがな。しかし当然だろう?我はヒーローに母親を奪われたし、ヒーローであった父親も失った。今のヒーローの多くはあまりにも醜く見えてしまうのだ」

「……」

「俺っちが表彰式でオールマイトに言った言葉を覚えてっか?緑谷、轟」

「……確か……」

「『今いるヒーローがすぐに変われるわけはない。でも、これからヒーローになるかもしれない奴らは期待してもいい』……だな」

「そうじゃの」

「……!!」

 

 刃羅の言葉に飯田を更に涙が溢れてくる。

 轟が言った言葉の意味に気づいたからだ。

 

「分かったかえ?そう。わっちが期待してはるのはA組の皆の事や。その長たるおんしが、このまま廃れてしもたら……わっちはもうヒーローを信じることが出来へん」

「……すまない……すまない……!!」

「まだ取り返せるべ。頼むだよ委員長。おいらは……皆と戦いたくねぇべ」

 

 刃羅は今にも泣きそうな顔をしていた。

 それを見た飯田は両手を握り締めて俯く。

 緑谷と轟も改めて刃羅が抱える葛藤の大きさを理解する。

 

「ちゅうことでや!」

「え?ぐぅ!?」

「ら、乱刀さん!?」

 

 突然刃羅が俯いている飯田の後頭部に拳骨を叩き込む。

 轟は目を見開いて、緑谷は慌てる。

 

「人の忠告を~無駄にしたのは~これで許したげる~」

「……ありがとう」

「いいわよぉん」

 

 ゴシゴシと目を拭って礼を言う飯田。

 それに微笑み返す刃羅に轟達はホッとする。

 

 その時、

 

「伏せろ!!」

「え?」

 

 グラントリノが上を見て叫ぶ。

 上空から翼を生やした脳無がこっちに向かって飛んできていた。

 

「ヴィラン!!エンデヴァーさんは何を……!!」

 

 ヒーローの1人が声を上げる。

 脳無は高速で降下し、突っ込んでくる。

 

 なんと脳無は緑谷を足で掴んで、上昇を始めた。

 

「緑谷くん!!」

「なんでよりによってそいつなんだ!?」

 

 飯田が叫び、刃羅は脚のナイフを抜いて投擲しようとする。

 脳無から血が振り落ち、ヒーロー達に振りかかる。

 

「わああ!!」

「くっそがぁ!!」

 

 刃羅はナイフを投擲する。

 すると、後ろで何かが動く気配がして、刃羅の横を高速で抜けていく影があった。

 刃羅はその正体を察知して、目を見開く。

 

 脳無がガクンと固まったように落ちてくる。

 飛び出した影は刃羅が投げたナイフを掴み、脳無の頭に突き刺す。

 

「偽物が蔓延るこの社会も……徒に力を振りまく犯罪者も……粛清対象だ……ハァ……ハァ……」

 

 影、ステインは緑谷を抱えて地面に下ろす。

 

「全ては正しき社会のために」

 

 そして、脳無の頭を切り裂くステイン。

 

「助けた!?」

「バカ、人質を取ったんだ」

「躊躇なく人殺しやがったぜ」

「いいから戦闘態勢を取れ!とりあえず!」

 

(タイミングよくぅ出たからぁ手を組んだのかとぉ思ったけどぉ……違うみたいだねぇ。……利用されたかなぁ?)

 

 ステインと敵連合の繋がりを疑っていたが、今の殺し方を見て、関係は薄いと判断する刃羅。

 

「何故一塊で突っ立っている!?」

 

 そこに炎を纏った巨漢の男が現れる。

 

「そっちに1人逃げたはずだが!?」

「エンデヴァーさん!!!」

 

 現れたのはNO.2ヒーローのエンデヴァーだった。

 

「あちらはもう!?」

「多少手荒になってしまったがな!……して、あの男はまさかの……」

 

 エンデヴァーは緑谷を抑え込むステインに目を向ける。

 ステインはゆっくりと立ち上がっている。

 

「エンデヴァー……」

「ヒーロー殺し!!」

 

 エンデヴァーは笑みを浮かべて構える。

 それにステインは緑谷から手を放して振り返る。

 妙な気配にグラントリノが気づき、エンデヴァーを制止する。

 

「待て!!轟!!」

 

 そしてステインが顔を上げる。

 

「贋物……」

 

 ステインのマスクが外れて素顔が晒される。

 鼻が削がれ、異常な気迫を纏うステインの姿に、その場にいる全員の背に悪寒が走り、気圧される。

 唯1人、刃羅だけはその姿を、悲しそうに見つめていた。

 

「正さねば……誰かが……血に染まらねば……!」

 

 ステインは1歩ずつ足を前に出す。

 その気迫にエンデヴァーさえも後退らせる。

 

「……!!」

「ヒーローを取り戻さねば!!」

 

 ザン!と力強く踏み出すステインに、誰も詰め寄れなかった。

 

「来い……来てみろ贋物ども……!俺を殺していいのはオールマイトだけだぁ!!」

 

 その瞬間更に膨大な殺気が襲い掛かる。

 誰かが尻餅を着いたと同時に、刃羅が右腕を刀に変えて飛び出した。

 

『!!』

「お前かぁ……刃羅ぁ!!」

「覚悟!!」

 

 刃羅を見据えて叫ぶステイン。  

 腕を振り上げて、斬りかかる刃羅。

 

「……!」

 

 しかし、刀が肉に触れる直前で腕を止める刃羅。

 

「……え?」

 

 誰もが刃羅の人斬りの瞬間を想像していたため、呆けた声が漏れる。

 刃羅はステインの肩に刀を添えたまま、ステインを睨んでいた。

 

「……お見事」

 

 刃羅は目を伏せて、腕を戻す。

 それに今度はステインに殺される刃羅を想像したヒーロー達だが、ステインは全く動くことはなかった。

 

「……!気を……失ってる……」

 

 それを理解した瞬間、轟や飯田も腰が抜けて座り込み、他の誰も動くことが出来なかった。

 

「……あんたを殺せんのはオールマイトだけ……か。そうだな。その通りだよ」

 

 刃羅は気絶したステインの顔をまっすぐに見つめながら呟く。

 その呟きと、その時の表情を見れたのはステインの背後にいた緑谷だけだった。

 

「……乱刀……さん……?泣い……てる?」

 

 刃羅は一筋の涙を流し、寂しそうな顔をしていた。

 その顔には今まで話していたような怒りや憎しみの感情など一切ないように見えた緑谷だった。

 

 刃羅はステインの目を右手で閉じさせて、ゆっくりと抱きかかえて横にさせる。

 その行動はまるで恋人を寝かしつけるような優しさだったと、見ていた者達は後に語る。

 

 刃羅はそのまま立ち上がり、緑谷の元に向かう。

 

「無事アルか?」

「あ……うん……」

「……脳無はぁん流石に死んでるわねぇん」

 

 刃羅は脳無の状態を確認する。

 緑谷は刃羅の顔を見つめる。

 すでに刃羅の涙は痕も残っていなかった。

 

「んお?どうかしたんかいな?」

「い、いや!?なんでも……ない……です……」

「??……変なのぉ」

 

 緑谷は慌ててブンブン!と首を横に振る。

 それに刃羅は首を傾げて不思議がりながら、ヒョイっと緑谷を脇に担ぎ上げる。

 

「うええ!?ら、乱刀さん!?」

「暴れんなゴラァ!!腹に響くだろが!!」

「すいません!!?」

 

 緑谷は顔を真っ赤にして慌てるが、刃羅に怒鳴られてピシィ!と固まる。

 刃羅は担いだまま、ステインの横を通り過ぎて轟達の元に戻る。

 

「警察っていつ来るの!?」

「え!?あ、ああ……もうすぐ来るはずだ……と思うが」

 

 ポイ!っと緑谷を轟達の前に落とした刃羅は、近くにいたヒーローに声を掛ける。

 それにビク!と飛び跳ねたヒーローは刃羅の質問にしどろもどろに答える。

 

「じゃあ~ステインは~どうしたらいい~?縄とか~ないの~?」

「そ、そうだな!だ、誰か縄か何かを探してこい!」

 

 刃羅の言葉に慌てて頷いて、周りに指示を出すヒーロー。

 それに周囲も慌ただしく動き出す。

 

「ふぃ~……コフッ!」

「うわああ!?乱刀さん血ぃ吐いた!?」

「ら、乱刀さん!?しっかりするんだ!!」

「……そういえば腹に穴空いてんだったな。こいつ」

「なんだって!?君!今すぐ横になって!救急車来るまで大人しくしていなさい!!」

「うい~……」

 

 突如、吐血した刃羅に緑谷達が慌てだす。

 ヒーローに無理矢理横にされて、グデェ~とする刃羅に、緑谷や飯田が心配そうに声を掛けていた。

 

 その後、刃羅達は救急車で病院に運ばれて入院することになった。

 

 

 

 

 その晩、病室にて。

 刃羅は個室の病室に入院していた。同じ階には轟達もいるらしい。

 

「とりあえずぅ、これで夜這いはぁ無くなったなぁ」

 

 違う意味でホッとしている刃羅。

 その時、刃羅の携帯に着信があった。

 

「ん?おぉ~……ナイスタイミング!」

 

 表示されてる名前を見て、通話ボタンを押して耳元に当てる。

 

「もしも『刃羅あぁぁ!!!刃羅!!貴様ああぁ!!貴様!!』うぐぅお!?」

 

 鼓膜が破れるかと思うほどの大声がスピーカー越しに届く。

 キィーーン!!と耳鳴りがした刃羅は電話を遠ざける。

 

『聞いたぞ!!たぞ!ステイン様が捕られられたって!!捕らえられたって!!しかも貴様が現場にいたとな!!いたとな!!』

「相変わらず声がデケェよ。『ランバン』。今、病院なんだ。誰かに聞かれたらどうすんだよ」

『斬り殺せばいいだろう!!いいだろう!!』

「いいわけないでしょう。わたくしは今、雄英生ですのよ」

『そんなものどうでもいいだろう!!いいだろう!!ステイン様をお救いするのが最優先だ!!最優先だ!!』

「分かっておるわ。お師匠は現在治療中じゃ。その隙をお主らで狙え」

『……お前はどうする気だ?気だ?』

「もうしばらくは雄英生を続ける。だから、私が下手に動くと厄介なことになる」

『ヴィラン連合との繋がりはどうする?どうする?』

「わっちの予想では、お師様はヴィラン連合と組んだりしてまへん。やから無視でよろしおす」

 

 独特の喋り方をする声の主の質問に、刃羅は答える。

 

「あんまり~派手にやっちゃだめだよ~」

『分かっている!!いる!!しかし、こっちの好きにやらせてもらうぞ!!もらうぞ!!』

「我との繋がりがバレなければな」

『任せておけ!!おけ!!』

 

 ブツッ!と通話が一方的に切られる。

 それにため息を吐く刃羅。

 

「はぁ~……不安だなぁ。まぁ、他の皆もぉいるからぁ大丈夫だと思うけどぉ」

 

 通話記録を消して、横になる刃羅。

 寝不足と暴れた疲れもあり、久々に爆睡することが出来たのだった。

 

 

 

 翌日。

 大部屋に緑谷達は入院していた。

 

「冷静に考えると……凄いことしちゃったね」

「そうだな」

「あんな最後見せられたら、生きてるのが奇跡だって……思っちゃうね」

「僕の脚……これ多分殺そうと思ったら殺せてたと思うんだ」

「ああ、俺達はあからさまに生かされた。あんだけ殺意向けられて尚、立ち向かったお前はすげぇよ」

「いや……俺は……」

「ちはー!!」

 

 3人の病室に刃羅がパーンと扉を開けて入ってきた。

 

「ら、乱刀さん!?って、乱刀さん服!?前が開けて来てるよ!?」

「乱刀さん!!しっかりと服を着たまえ!公共の場でもあるんだぞ!」

 

 刃羅は病衣を緩めに着ており、今にも胸が開けてそうだった。

 しかも髪も結んでいないため、普段と印象が変わり妙に色っぽい。

 緑谷と飯田が顔を真っ赤にする。

 

「あぁん?何今さら恥ずかしがってんだぁ?体育祭で俺っちの下着姿見てんじゃねぇか」

「それとこれとは別問題だ!」

「というか、元気そうだな」

「あの程度で寝たきりになどなるものか」

 

 空いているベッドにドスンと胡坐を組んで座る刃羅。

 ズボンタイプなので下着は見えない。

 

「お主達同様、明日には退院出来るじゃろ」

「そうか」

「……」

「どないしたんや?飯田はん」

 

 飯田が思い詰めたように刃羅を見ているのに気づいた。

 

「……僕のせいで君には辛い思いをさせてしまった」

「気にせんでよろしおす。ある意味、清算出来たような気にもなっとりますよって」

「……そうか」

「今、貴様に必要なのは我への謝罪ではなく、『インゲニウム』の名を継ぐ覚悟ではないのか?それに一番謝罪すべきなのは兄だろう」

「!!……そうだな」

「おぉ、起きてるな怪我人共!!それに小娘もいたか。丁度いい」

 

 入ってきたのはグラントリノ、飯田の体験先のマニュアル、そしてエクレーヌだった。

 そしてその後ろに犬顔にスーツを着た長身の男性が入ってきた。

 

「保須警察署署長の面構犬嗣さんだ」

「しょ、署長!?」

「掛けたままで結構だワン」

((ワン!?))

 

 面構の語尾に衝撃を受ける緑谷と刃羅。

 

「ヒーロー殺しだが……火傷に骨折となかなかの重傷で現在治療中だワン」

「だよね~」

「超常黎明期……警察は統率と規格を重要視し、『個性』を武に用いない事とした。そしてヒーローはその穴を埋める形で台頭してきた職だワン。個人の武力行使……容易に人を殺める力。本来なら糾弾されて然るべきこれらが公に認められているのは、先人たちがモラルやルールをしっかり遵守していたからだワン。資格未取得者が保護管理者の指示なく『個性』で危害を加えられたこと。例えヒーロー殺し相手でもこれは立派な規則違反だワン。グラントリノ、エンデヴァー、エクレーヌ、マニュアル、そして君達4人には厳正な処分が下されなければならない」

 

 面構がはっきりと口にする。

 そこに轟が抗議するが、面構の返答に詰め寄ろうとする。

 

「でも、処分を言いに署長がわざわざ来るのは、いささか物々しいではないのか?」

「アラジン……!」

「まぁ……話は最後まで聞け」

「そう。以上が警察としての意見。で、処分云々はあくまで公表すればの話だワン」

 

 面構の言葉に緑谷達は目を見開く。

 面構は公表しない代わりにエンデヴァーが捕えたことにするという。

 

「だが、君達の英断と功績も誰にも知られることはない。どっちがいい!?1人の人間としては……前途ある若者の偉大なる過ちにケチを付けさせたくはないワン」

 

 その言葉に緑谷達は顔を見合わせる。

 刃羅は肩を竦める。

 

「儂は公表すれば処分だけでなく、復讐のレッテルが張られるからの。マスコミが厄介そうじゃ」

「だったら、もう少し考えたまえよ」

「あの状況では無理だったべさ。脳無も放っておけねぇべ?」

「それはそうだがね」

 

 ペチン!とエクレーヌに頭を叩かれる刃羅。

 それに緑谷達は苦笑して、面構に頭を下げる。

 

「大人のズルで君達が受けていたであろう称賛の声は無くなってしまうが……せめて、共に平和を守る人間としては……ありがとう」

 

 そう言って面構が頭を下げる。

 こうして刃羅達の戦いは人知れず終わりを迎えたのであった。

 

 

 

 

 

 職場体験最終日。

 退院した刃羅はエクレーヌの事務所に顔を出していた。

 

「フン!!」

「ほぎゃ!?」

「ふん!!」

「むぎゃ!?」

「……ふん」

「……ほえ?」

「えい!!」

「ぽげ!?」

 

 正座をさせられ、サイドキック全員から拳骨を食らった刃羅。フィクスマンは頭に拳を置いただけで、ミラミラは拳骨よりも鏡の縁が当たって痛かったが。

 

「全く!!いきなりいなくなったと思ったら、ヒーロー殺しと戦ってたなんて!!心配させるんじゃないわよ!!」

「いやぁ申し訳ないぃ」

「反省しろや!!」

「ごぶぅ!?」

 

 ローテリアの叱責ににへらと笑って謝るが、モリアガに再び拳骨を浴びせられて崩れ去る。

 それをエクレーヌは後ろで苦笑して見ていた。

 

「まぁ、それくらいにしときなよ。私達だってアラジンを見失ったのは失態なんだから」

「う……!」

「一声掛けてくれなかったのは問題だけど、声を掛けられても現場に向かえたかは怪しかったしね。そのおかげでヒーロー殺し相手に犠牲者無しだ」

「そうですけど……」

「それに……この子にとってはヒーロー殺しは因縁がありすぎる相手だ。私達がもっと注意していなければいけなかったんだよ。保須に現れるのは分かってたのだからね」

「……反省」

「そうだね」

 

 エクレーヌの言葉に、顔を顰めながらも怒りを収めるサイドキック達。

 それに頷きながら、刃羅を見るエクレーヌ。

 

「ヒーロー殺しへの恨みは少しは消えたかい?」

「そうでんなぁ。まぁ、少しはスカッとしましたわ」

「それは良かった」

「しかし、ヒーロー殺しが敵連合と繋がっているのは意外というか……驚きましたね」

「そうだな」

 

 ミラミラの言葉にモリアガも腕を組んで同意する。

 

「それは微妙じゃのぅ」

「どういうこと?」

 

 刃羅の言葉にローテリアや他の者も注目する。

 

「繋がっていたにしては、最後には脳無を殺した。あのような無差別な行為はステインが最も毛嫌いしているタイプのはずだ」

「……じゃあ、あいつらとヒーロー殺しは偶然重なったと言うこと?」

「それも違うと思うべ」

「矛盾してない?」

「……なるほど。敵連合が一方的にヒーロー殺しの行動に合わせただけ、というわけだね?」

「イエア!」

 

 刃羅の推察をエクレーヌが読み取り、言葉にする。

 それにサイドキック達は目を見開く。

 

「そ、それじゃあ、今の報道ってまずくないですか?」

「そうだね。間違いなく、ヒーロー殺しに当てられた連中は敵連合に注目するだろうね」

「急いで止めないと!?」

「いや、しばらくはこのままにしよう」

「……何故?」

「アラジンは分かるかい?」

「ん?ん~……確かに脅威かもしれないアルが、逆に言えば一網打尽の機会にもなるネ」

「パーフェクトだ♪」

 

 刃羅の言葉にエクレーヌが笑顔で頷く。

 それにサイドキック達は納得した様に頷くが、同時に不安にもなる。

 ハイリスクハイリターンの作戦はヒーローにとっては、失敗すれば最悪の事態になることが多いからだ。

 

「まぁ、嫌な話はここまでにしよう」

 

 エクレーヌはパンパンと手を叩いて話題を変える。

 

「今日でアラジンとはお別れ。それに半年はインターンも受けれないから、気合を入れないとね」

「……そうか。監督不行き届きで」

「モリアガ。あんたも減給じゃない?」

「……」

「流石にそこまではしないよ」

「とりあえず、今日は報告書と被害補填の請求の纏めですね」

「そういうことさ。アラジンはそのまま正座だよ」

「ホワイ!?」

「反省はしてもらわないとね。まぁ、帰ったら流女将さんの説教も待ってるだろうけど」

「あんまりだぁ~!!びゃあ~ん!!」

 

 こうして翌日の朝にエクレーヌの事務所を去って、帰宅する刃羅だった。

 

 

 

 

「聞きましたよ!何故危険な真似をしたのですか!」

「だ、だからぁ!仕方なかったのぉ!」

「だからと言って、応援も呼ばずに戦う人がいますか!話を聞いた時、心臓が止まるかと思いましたよ!連れ去られていたらどうするつもりだったのですか!?」

「…………泣き叫ぶ!」

「おバカ!」

「ぷぺぇ!?」

「おバカ!」

「あべぇ!?ぐぅお!?」

 

 まさかの3連撃だった。

 頭頂部にたんこぶ、両頬を真っ赤に腫らして倒れる刃羅。

 

 更にお小遣い抜きと麺類禁止令を出され、備蓄していたカップ麺も回収されて、ガチ泣きすることになる刃羅だった。

 

 


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