説教も終わり、カップ麺も没収されて一通り泣き終わった刃羅。
「いぎいいい!?」
晩御飯を食べながら流女将に事情を改めて説明した刃羅は、2種類の武器に変える訓練を始めていた。
全く上手く行っていないが。
「……やはりそう簡単には無理ではないですか?」
心配して見学していた流女将が、眉尻を下げて声を掛ける。
「が……頑張るぅ……!みぎゃあああああ!?」
「……通報されそうですね」
ドバドバ涙を流しながら右腕で刀を、左腕で鎌を作っていた。2秒程維持できるが、直後に激痛が走り、悲鳴を上げながら強制的に解除されてしまう。
それを流女将はため息を吐きながら、見守っていた。
「ぬうううぅぅ!!こ、これし……きぃ……!もぎゃあああああああ!?」
「先は長そうですねぇ」
開始して30分もせずに大量の汗と涙を流して、訓練所の床にピクピクと痙攣して倒れる刃羅。
「ここまでですね。これ以上は明日に響きますよ」
「……むぅ。2秒が限界か」
「そう簡単に伸びたら苦労しないでしょう。特に刃羅さんの『個性』は筋肉まで変化させてますからね」
「でも~1種だと~特に制限ないからな~。出来るはずなんだけどな~」
1種類ならば四肢だけでなく、腹や背中でも何本でも生やせることが出来る。なのに2種類に増やした途端に、1本同士が精一杯になる。
「本来、刃羅さんの『個性』は《体を刃に変える》と言うもの。武器はあくまで応用なのでしょう?」
「そうだがな。ただ変えるだけではあまり役に立たん」
普通に変えるだけでは、間合いは格闘戦とあまり変わらない。
「まずは1種の武器を使いながら、普通の刃を生やして戦うことに専念してはどうですか?あのスケートのように。正直、刃羅さんは武器に変えると、それのみを使う戦闘スタイルになってしまっているようですし」
「……確かにのぅ」
腕を組んで唸る刃羅。
ステインにもそこを突かれてボッコボコにされた。
とりあえず、戦闘スタイルを変えていくことから始めることした刃羅であった。
翌日。
1週間ぶりに教室に集まるクラスメイト。
「へえー!ヴィラン退治までやったんだ!うらやましいなあ!」
「避難誘導とか後方支援で実際交戦しなかったけどね」
「私もトレーニングとパトロールばかりだったわ。一度、隣国からの密航者を捕らえたくらい」
「それすごくない!?」
お互いの活動で盛り上がるクラスメイト達。
「おはよ~」
「あ!刃羅ちゃん!おはよう!」
「どうかしたか?」
「どうかしたか?じゃないよ!大丈夫だった!?」
「やから、ここにおるんやないかい」
「そりゃそうだ!」
ぬぅ~っと入ってきた刃羅に葉隠達が近寄ってくる。
「入院したって聞いたわ」
「リカバリーガールがいねぇんだ。そりゃ少なからずはするわな」
「元気になったならいいわ」
「ありがとねぇ」
「ケロ」
席に荷物を置いた刃羅は、轟の席に集まっていた飯田と緑谷に目を向ける。
「腕と足はもう大丈夫なのか?」
「ああ。もう大丈夫だ!」
「僕も大丈夫だよ」
「それよりお前は腹の方は大丈夫なのか?」
「大丈夫よぉん」
ビシ!と腕を伸ばす飯田。
「命あって何よりだぜ」
「……心配しましたわ」
「ホントホント!ニュース見たときは心臓止まると思った!」
「あれだろ?ヒーロー殺しって敵連合と繋がってたんだろ?」
「そうそれ!USJの時いなくてよかったよな!」
切島と瀬呂の言葉に葉隠や障子が頷いている。
その言葉に緑谷や飯田、轟が刃羅に目を向ける。
その視線を受けたからか刃羅が腕を組んで口を開く。
「それはありえん」
「え?」
「ステインがあんな連中と手を組むことがじゃよ。間違いなくステインが毛嫌いするタイプの連中じゃ」
「なんでそんなこと分かんだよ?」
「だから3年間も一緒に居りゃあ分かるつってんだろゴラァ!!」
『は?』
刃羅の発言に緑谷達3人以外が目を見開く。
その反応に刃羅は怒りを引っ込めて首を傾げる。
「……ん?」
「乱刀さん。その話……僕達しか聞いてないと思う」
「……おぉ。ふごぉ!?」
「梅雨ちゃん!?」
「どういうことかしら?刃羅ちゃん」
緑谷の言葉にポン!と手を打って納得する刃羅。
その瞬間、刃羅の口元に梅雨の舌が巻き付いて驚く。
麗日が驚くが、梅雨は怒りのオーラを発して刃羅を問い詰める。
それに刃羅は冷や汗をダラダラと流し始める。
「ふが!ふふふがはがほが!」
「何を言っているの分からないわ。刃羅ちゃん」
「梅雨ちゃんの舌で塞がってるからじゃない?」
「じゃあ、正座してちょうだい」
言われた瞬間、ズダン!と正座をする刃羅。
舌を外し、刃羅の目の前に立って見下ろす梅雨。
「体育祭ではそんな話聞いてないわ」
「……申し訳ありませんわ。会うことはないだろうと思いまして……」
「じゃあ、今話してちょうだい」
「そんなに話すことはないぞ?言った通り、我を攫い、3年間も扱いてきたのがヒーロー殺しだったと言うだけだ。その時に奴の信念や思想は嫌と言うほど聞かされた。だから敵連合と手を組むことがないと思っただけのことだ。実際、脳無を殺したしな」
「……確かにな」
刃羅の言葉に現場にいた轟が頷く。
それに梅雨はジィーっと刃羅を見つめ続ける。
「……刃羅ちゃんはヒーロー殺しのことをどう思っているの?」
「……恨み憎しみはある。しかし……少なからずあの思想に賛同している自分もいる」
「確かに一本気っつうか、執念つうか、かっこよくね?って思っちまったな」
「上鳴君……!」
「え?あっ……ワリ」
刃羅の言葉を聞いて上鳴が呟くと、緑谷が飯田と刃羅を見て慌てて止める。
それに気づいた上鳴は口を塞いで、謝罪する。
「いや……いいさ。確かに信念の男ではあった……。クールだと思う人がいるのも分かる。ただ奴は信念の果てに粛清と言う手段を選んだ。どんな考えを持とうともそれだけは間違いなんだ」
「刃羅ちゃんは?」
「言ったとおりぃあいつのぉ信念にはぁ賛同している部分もあるよぉ?でもぉ、それで本物以外はぁ殺していいなんてはぁ思ってないよぉ。言ったでしょぉ?これからぉヒーローになるかもしれないぃ子達にはぁ期待してるってねぇ。だからぁ、私があいつみたいにぃなることはないよぉ。今はねぇ」
「……そう」
「大丈夫でござる。奴は倒れて、捕まったでござる。某の中では、もう決着はついているでござるよ」
刃羅の言葉を聞いて、梅雨は小さく頷く。
納得しきれてはいないが、今は刃羅の言葉を信じることにする梅雨。
「そう!!俺や乱刀さんのような者をこれ以上出さぬためにも!!改めてヒーローの道を俺は歩む!!」
「イエア!!」
「正座を止めていいなんて言ってないわよ。刃羅ちゃん」
「うそん!?」
「……騒がしい」
「なんか……ゴメン」
「上鳴も正座」
飯田がビシイィ!と腕を伸ばし、それに刃羅が同調するが、梅雨に怒られて崩れ落ちる。
いつも通りの雰囲気に戻り、ワイワイとする一同だった。
その後、久々の訓練授業で汗をかいた一同。
「刃羅、なんか今日動き硬かったね?」
「イエア!筋・肉・痛!マーックス!」
「まだ騒動のが響いてんの?」
「違うわぁん。昨日も特訓したらぁん、こうなったのぉん」
「無茶しちゃ駄目だよ!」
「そうよ。刃羅ちゃん」
「大丈夫ですわ!ただこうやってピギャアアアア!?」
「「「うわああああああ!?」」」
更衣室に帰る途中で、2種類生み出そうとして激痛に叫ぶ刃羅。
それに刃羅に声を掛けていた芦戸、葉隠、耳郎が驚く。
梅雨も目を見開く。
「乱刀さん!?大丈夫ですか!?」
「って、感じでぇ……頑張ってたのぉ……」
「実演やったん!?」
「やっぱ痛い~!びゃあ~ん!」
「そして泣くんかい」
その後麗日に浮かばされて、梅雨の舌に引っ張られながら更衣室に入る刃羅。
着替えを始めてすぐに、どこかから声が聞こえてきた。
『見ろよ、この穴ショーシャンク!きっと諸先輩方が頑張ったんだろう!!!』
「ん?」
「これって峰田の声じゃね?」
「随分とはっきり聞こえるでござるな」
『隣はそうさ!分かるだろう!!?女子更衣室!!』
「ええ!?」
「どこ!?」
「あれじゃないかしら?」
峰田の声から穴の場所を見つける女子陣。
「……駄目だ……」
「刃羅ちゃんどうしたの!?」
「あの大きさではわたくしでは目を刺せませんわ!」
「そんな!?」
「うちのイヤホンならいけるかも」
「ナイス!」
刃羅が悔しがっていると、耳郎がイヤホンの片方を壁に挿して、もう片方を穴の前に準備する。
『八百万のヤオロッパイ!!乱刀の暴れ乳!!芦戸の腰つき!!葉隠の浮かぶ下着!!麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱアアアア!!』
その瞬間、耳郎がイヤホンを穴に突き刺す。
直後、
『ああああ!!!』
悲鳴が聞こえてきた。
どうやら撃退したようだ。
「ありがと響香ちゃん」
「なんて卑劣……!!すぐに塞いでしまいましょう!!」
「そして後で斬る」
「斬るのは髪だけにしといてね。刃羅ちゃん」
(うちだけ何も言われてなかったな)
耳郎がその後妙に静かだったのは、誰も気づかなかった。
その後、相澤から林間合宿の話が出て盛り上がり、期末試験に向けて気合を入れていくクラスメイト達だった。
事件後5日後の保須市。警察病院。
ある程度の怪我の治療も終わったステインは、翌朝には特殊監獄に移送させられることになっていた。
もちろん治療中とはいえ、全身拘束され、窓がなく監視カメラがある病室でステインはベッドに寝ていた。
病室の外では警察官やヒーロー数名が待機していた。
敵連合がステインを助けに来ることを警戒してのことだ。
「……ハァ……あのような子供に負けるとはな」
「失礼します」
その時、看護師と思われる黒髪ショートの女性が入ってきた。
その後ろには警察官も同行している。
包帯などが乗っているカートを押して、ベッドの横に来る看護師。
「
「……貴様」
「少々我慢してくださいませ」
ギロリと看護師を睨むステイン。
ステインの視線に怯えることなく、看護師はニコリと笑ってステインと後ろに立っている警察官の体に触れる。
すると、ステインが寝ていたベッドに警察官だった男が、警察官が立っている所にステインが現れる。服装も入れ替わっていた。
「さて、続いては……」
「……何の真似だ?……ハァ……」
「刃羅さんからの依頼ですよ。それとも、このまま監獄に入りたいのですか?」
「……ふん。……随分と大胆な真似をする。ここは監視カメラもあるんだぞ?」
「ご安心を。すでにハッキング済みです」
看護師は靴に仕込んであった小さな箱を1つ取り出して、地面に転がす。
すると、箱がパカッと開いた瞬間、病室に2人の人影が現れる。
「ふぅ~……上手く行ってるようね」
「早く済ませっぞ。馬鹿が暴れかねん」
現れたのは黒髪ショートパーマに目元を覆うマスクに、黒の羽根つきチロリアンハットを被った女性。そして、茶髪ロングを後ろで束ね、顔に髑髏模様が描かれたマスクを被っている男。
男がステインに歩み寄り、ステインの肩に右手を置く。すると、ボヤァっとステインの姿が男の手の中に浮かび上がる。その後、今度は左手でベッドに寝ている男に触り、同じくボヤけた男の姿が手の中に浮かび上がる。
そして、左手をステインに当て、右手を男に当てる。
「よし。上手く出来たぜ」
「……何をした?」
「安心しな。見た目を移しただけだ」
「じゃあ、撤退するわよ」
今度は女性が男に触れる。すると、男が女性の手の平に吸い込まれていく。
それに目を見開く警察官に化けたステイン。
次に女性は出てきた小さな箱に手を触れると、今度は女性が箱の中に吸い込まれていった。
そして、その箱を再び靴に仕込む看護師。
「では、行きましょう。下手にしゃべらず、敬礼だけしてください」
「……」
看護師は適当に切った包帯や薬を医療品破棄のゴミ箱に捨てる。
そしてカートを押して、扉へと向かう。
それにステインは黙って付いて行く。
「終わりました」
「ご苦労様です!何か変わったところはありましたか?」
「いえ、特に変わりはありません。今も薬で良く寝ているようです」
「分かりました」
「失礼します」
看護師は扉の前にいた警察官に頭下げ、ステインは声を発せず敬礼をする。
相手の警察官達も特に訝しむことなく、敬礼を返す。
そして2人は病室から離れていく。
その後ろ姿を警備に付いていた警察官達が見送る。
「かわいい看護師さんだったなぁ」
「そうだなぁ。それにしても、あいつってあんなに無口だったか?」
「かわいい子に緊張してんだろ。あいつ、彼女いないらしいぜ?」
「初心かよ」
「全くだな!」
こうして、警察官達は異常に気づくことは出来なかった。
看護師とステインは、そのまま裏口を目指して歩く。
「どうやって逃げるつもりだ?」
「そろそろ次の段階です」
空き部屋に入って、再び靴裏から箱を取り出す看護師。
箱の中から女性が現れる。
「フェイズ2開始?」
「はい。お願いします」
「ステインさん。お体失礼するわよ」
「……先に貴様らが誰か話せ」
ステインの言葉に顔を見合わせる2人。
「そうですねぇ……。先ほども言った通り、私達は刃羅さんに頼まれてここに来ました」
「……そうか。貴様らがあいつが言っていた変人共か」
「私達は彼女同様あなたの信念に敬服している者です。あなたをここで失うのが惜しいをいうことで集まりました。別にあなたに見返りを求める気はありませんよ。刃羅さんに求める気ですので」
「……」
「まずはここを離れましょう。詳しい話はその後で」
「……いいだろう」
「では、失礼」
今度はステインは抵抗する事なく、女性に体を触れさせる。
ステインは女性の手の中に吸い込まれる。
「じゃ、後はよろしく」
「はい」
女性はポケットから携帯を取り出して看護師に渡し、すぐに箱の中に戻る。
今度はその箱をポケットにしまう看護師。
そして携帯を操作して、電話を掛ける。
『ビョン!』
「お待たせしました。お願いします」
『ビョビョーン!!』
一言だけ伝えて、すぐに電話を切る看護師。
そして、空き部屋から出る。
その直後、
ドオオォォォン!!!
轟音が響き、病院が揺れる。
「きゃああああ!?」
「なに!?」
「爆発か!?」
「患者さんの避難準備を始めて!」
悲鳴が響き、職員や患者達がバタバタと走り回る。
「では、程々でお願いしますね」
看護師は微笑みながら、走り出して階段を目指していく。
階段を上がり降りする他の職員の中に紛れ込んで姿を消した。
「な、なんだ!?」
「ヴィラン襲撃だ!!」
「くそ!!ヒーロー殺しか!?」
「それしかねぇだろ!!」
「「「うわああ!?」」」
慌ただしく走り回る警察官達。
そこに他の警察官達が吹き飛ばされてきた。
「なんだ!?」
「はーはっはっはっ!弱すぎる!!すぎる!!ヒーロー殺しはどこだ!!どこだ!!」
真っ白なロングパーマの髪を靡かせ、濃緑の軍服コートと帽子にサングラスを身に着けた長身の女性が高笑いをしながら歩いていた。
「やはり敵連合か!これ以上進ませるな!」
「それを断る!!断る!!我が歩みを止めれる者はいない!!いない!!」
女性が腕を振るうと風が巻き上がり、警察官達を吹き飛ばす。
「おいおい……派手にやり過ぎじゃないかい?『カンパネロ』」
その女性の後ろから無精髭を生やした灰色のコートにスーツ、ハットを身に着けた中年男性が現れた。
「これくらい問題ない!!ない!!『マガクモ』!!貴様も働け!!働け!!」
「やれやれ……仕方ないねぇ」
「くそ!止まれ!」
駆けつけた警察官数名が拳銃を構える。
それを見たマガクモは右腕を突き出すと、腕から糸が放たれて拳銃に巻き付く。
マガクモが腕を引くと、警察官達の手から拳銃が奪われる。
「しまっ!?」
「おいおい……危ないじゃないか。病院で発砲する気かい?」
「「「ぐああああ!?」」」
拳銃を奪われた警察官にカンパネロが放った風が襲い掛かり、吹き飛ばされる。
「そろそろヒーローが来るか!?来るか!?」
「うんうん……そうだねぇ。仕事は十分じゃないかい?」
「逃がさないよ」
「「!!」」
2人に向かって光弾が飛んでくる。2人は飛び下がって回避する。
現れたのはエクレーヌとサイドキック達だった。
「こいつらは誰だ!?誰だ!?」
「おいおい……確か……エクレーヌって名前だったかねぇ」
「君達は敵連合かい?それとも……他の組織かな?」
「決まっているだろう!!だろう!!」
「いやいや……そこはお察しで」
「そうか……では、捕えて聞くとしよう!」
光弾を連続で放つエクレーヌ。
それを2人はコート翻しながら、躱す。
「これは厄介だね」
「そろそろ……タイムアップだねぇ」
「見事だな!!だな!!では逃げよう!!逃げよう!!」
「そう上手くはいかないわよ!」
カンパネロ達を挟み込むように入り口にローテリアとフィクスマンが現れる。
カンパネロがすかさず風を放つが、ローテリア達の目の前で何かにぶつかって霧散する。
「!!」
「おいおい……塞がれたかい?」
「そのようだな!!だな!!」
「……全部、塞いだ」
「通路も入り口も塞いでるわ!大人しくなさい!」
「では上だな!!だな!!」
ローテリアの言葉を聞いてすぐにカンパネロは躊躇なく真上に風を放ち、天井に穴を開ける。
その穴にマガクモが飛び上がり、糸でカンパネロを回収する。
「戸惑いもなしとはね!」
「フィクスマン!!外!!」
「……行く」
『個性』を解除して、エクレーヌ達が外に出る。
バリィン!!
それと同時に2階の窓からカンパネロ達が飛び出してくる。
「逃がさない!!」
「ブンブーン!!」
「「「!!」」」
ローテリアが風を巻き起こそうとした瞬間、上空から声が響いてくる。
上を見上げると、背中と両足から炎を噴射しているロケットみたいな服装の人物が空を高速で飛んできていた。
「仲間か!」
「ブーン!行っくぞー!」
「はいはい……お迎えありがとさん」
空を旋回するロケット人間に向かって、糸を伸ばしてロケット人間の腕にからめるマガクモ。
そのまま引っ張られて空を舞うカンパネロとマガクモ。
「待ちなさい!」
「駄目だよ!」
「エクレーヌさん!?」
「他にもいるかもしれない!まずはヒーロー殺しの確認だよ!」
「っ!了解です!」
エクレーヌ達は深追いせずにステインの確認に向かう。
ステインの病室には敵は現れず、特に異常がない事を確認したエクレーヌや他のヒーロー達は気を抜かずに病室周辺の警備を続けた。
その後は特に何もなく、一安心したエクレーヌ達だったが、騒動が落ち着いた直後の医師の診断で偽物であることが判明し、顔を真っ青にするのであった。
保須市から離れた森小屋の中にステイン達の姿があった。
「大成功だな!!だな!!」
カンパネロが腕を組んで高笑いする。
「……そろそろちゃんと説明してもらうぞ」
警察制服から普通の服に着替えたステインはギロリと一同を睨みつける。
それに看護師として潜入していた女が微笑みを浮かべて頷く。
女は現在、赤のライダースジャケットを羽織り、黒のデニムホットパンツの下に赤のガーターベルトスパッツを身に着けている。
「もちろんです。私は『シャフル』。まぁ、簡単に言えば怪盗です」
「俺は『
「あたしは『ストレディ』。運び屋よ」
「私達3人が逃走実行班です」
続いて前に出たのはカンパネロ達。
「次は私だな!!だな!!カンパネロと名乗っている!!いる!!」
「やれやれ……俺はマガクモだ。まぁ、フリーランスの傭兵ってやつだねぇ」
「ビョン!!あちしは『フライハイ』!」
「我々が陽動班だな!!だな!!」
フライハイはピンク色ツインテールで見た目が少女にしか見えない女性。
「最後は私ですね。私は
小屋に到着してすぐにステインの包帯を交換した黒白メッシュストレートロングの女性。医者と言いながら、執事服を着ている。
「……聞いたことある名前ばかりだな。刃羅め。俺が仕事中に何をしていたのかと思えば……」
「1つ言っておくが刃羅の知り合いは私、シャフルとドクトラだけだぞ!!だぞ!!」
「カンパネロさんの言う通りです。他の方々は私達の独断で誘っただけです」
「他の者達もあなたの賛同者ですよ。まぁ、活動は関係ありませんがね」
カンパネロ、ドクトラ、シャフルが補足する。
それにステインは黙って考え込んでいるようだ。
「今回の報酬は刃羅さんから頂きますのでご安心ください。私に関しましては、先ほども言いましたが治療と装備などのサポートも依頼内容に入っております」
「私に関しても治療が終わるまでの護衛を頼まれている!!いる!!」
「……護衛はいらん」
「無理はいけませんよ。ステイン様。私の見立てですと、まだ肋骨と肺がまだ完治していません。そのまま1人で動くのは危険と考えます」
「……」
「何度も言うようですが、治療が終わるまでです。今は有象無象のヒーロー達も騒いでいます。それに……」
ドクトラは新聞を取り出して、ステインに渡す。
ステインは訝しみながらも、新聞を受け取り目を通す。
読むにつれて目が鋭くなっていき、最後には新聞をグシャリと握り潰す。
「俺が……敵連合の広告塔扱いとはなぁ……!」
ゾワァ!とステインから殺気が溢れる。
それの殺気にカンパネロ達は息を飲んで固まる。
(おいおい……これで怪我人かい……!?)
(やはり……恐ろしいですね。そして、それ以上に素晴らしい)
「ということです。これから敵連合にはあなたに同調しているとのたまう連中が集まるでしょう。刃羅さんや私達はそれを許す気はありません」
「……ハァ……どれくらいで治せる?」
「遅くとも2週間。私が抱えている治療系『個性』持ちの者を呼び寄せます。武器や服などに関しても、こちらでご用意しましょう」
「……あの馬鹿弟子に倒されて、その馬鹿弟子に世話をされるか……ハァ……落ちぶれたものだ」
ステインは顔を手で覆い、ため息を吐く。
「……分かった。世話になる」
「ありがとうございます」
「そして犯罪者共を粛正する。馬鹿弟子にも日和っているようなら斬りに行くと伝えておけ」
「分かりました」
ヒーロー殺しは復活を目指して動き出したのだった。
翌日の夜。刃羅の部屋。
『ということで、達成報酬、治療費、装備費等込みで1500万円になります』
「…………マジでか」
『これでも80万ほどオマケしてますよ』
「…………マジでか~」
『どうされますか?』
「……私のさぁ……隠し部屋知ってるぅ?」
『覚えていますよ』
「そこにの……お主らの仕事を手伝った報酬を隠しておる。足りない分は……敵連合の情報とかでもいいかの?」
『一度確認します。あぁ、それとステイン様からですが……』
「……なんや?」
『日和っているようなら斬りに行く、とのことです。頑張ってくださいまし』
「まぁ……やらかしたことを考えれば、仕方ないか」
『では、明日にでもまたご連絡します』
「了解だべ」
通話を終えて、履歴を消す刃羅。
そして、そのままベッドに横たわる。
「……わっちの貯金……多分、消えてまう……ヒーローに追われてもうた時用の金やったのに……まさか御師様に吸われて消えてまうとは……」
刃羅はその夜は涙が止まらなかった。
翌朝、刃羅の涙の痕を見た流女将は勘違いしたのか、お小遣い復活にカップ麺も返してくれた。
そして、その夜に改めて電話があり、
『合計1670万円確認出来ました。なのでオマケは止めた1580万円と治療費のツケ80万円を回収させていただきました。そして残金10万円ですが、ステイン様にお渡ししましたので、ご了承ください』
「血も涙もないとか言うレベルでは表現できんほどの鬼畜ぶりだな!?」
『この世界はお金が第1の信頼関係ですので。では』
「私の3年間の努力が~!!びゃあ~~ん!!」
この日も涙が止まらず、翌日にはお小遣いアップとなったが、失った額が大きすぎて全然嬉しくなれない刃羅であった。
_______________________
人物紹介!(一部)
・カンパネロ/
誕生日:9月28日。身長:182cm。A型。
好きなもの:ステイン、米料理、時代劇
真っ白なロングパーマの髪を靡かせ、濃緑の軍服コートと帽子にサングラスを身に着けている。
普段はサーベルやナイフも常備している。Cカップ。
20代後半。
ステインに心酔しており、弟子と認められている刃羅に嫉妬しているが、何だかんだで仲が良い。
語尾の言葉を繰り返すメンドクサイ話し方が特徴。
普段は海外から来た犯罪者をメインに『癌の切除』と称して皆殺しにして、潰した組織の財産を孤児院に寄付して回っている義賊的存在。
ヒーローの事は『犯罪者を倒しても、孤児などの弱者の救済をしない半端者の偽善者』と思っている。
個性:《鎌鼬》
両手足から風の刃を放つことが出来る。同時に重ね合わせることで竜巻を生み出せるが、一度放出するとコントロールは出来ない。
使い過ぎると自分の体も斬り刻まれる。
・シャフル/
誕生日:2月12日。身長:162cm。A型。
好きなもの:手品、美術品
赤のライダースジャケットを羽織り、黒のデニムホットパンツの下に赤のガーターベルトスパッツを身に着けている。Bカップ。
30代前半。
美術品専門の怪盗。普段はマジック・バーで不定期でショーをしている。
刃羅とはドクトラの紹介で出会い、仕事を手伝ってもらったのがきっかけで仲良くなる。
朧寺、ストレディとはよくチームを組んでいる。
怪盗ではあるが、多くは美術館から盗まれたものだったり、偽物を売りつけた者から盗む。盗んだものは美術館に返したり、寄付している。
『真の芸術は万人の目に映るからこそ価値がある。独り占めにするものではない』が信条。
ヒーローのことは『粗暴者ばかりしか捕らえない芸術を見下す粗忽者』と考えている。
個性:《チェンジ》
右手と左手で触れたものを入れ替える。小物であれば触り続けなくても最後に触れていれば、交換できる。人は触れ続ける必要がある。その代わり、体だけ入れ替えるか、服も全て入れ替えるかを選択できる。
・ドクトラ/
誕生日:12月25日。身長:166cm。O型。
好きなもの:金、紅茶、クラシック
黒白メッシュのロングストレート。執事服を着ており、白の手袋を身に着けている。Aカップ。
30代前半。
闇医者であり、裏社会でのサポートアイテムやコスチュームの開発・販売も行っている組合の長。
しょぼいヴィランに襲われている所を刃羅に救われた。それ以降、恩返しとして治療やアイテムの販売、依頼の斡旋をしている。
普段はツケなど許さないが、刃羅には許しているので信頼はしている。
法外な治療費を請求するが、それは社会的地位から換算しているため。そのためホームレス、孤児などには無料で治療、支援を行っている。
『真に信頼出来るのは金と命』が信条。戦闘力は低い。
ヒーローの事は『見る価値もない偽善者』と思っている。
個性:《スキャン》
見た人の健康状態、治療法、『個性』の内容、容量、戦闘スタイル、そして記憶までも解析することが出来る。
これを用いて、治療方針を決めたり、最適なサポートアイテムやコスチュームを提案する。
《サーチ》ほど大人数は見れないし、居場所までは分からないが、見れる内容が深いため一概に上下は決められない。