ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#18 期末に向けて

 期末まで後2週間。

 期末は筆記と実技の2つがある。

 実技に関しては当日に内容を知らされることになっている。

 

「実技がなぁ……あんまり『個性』鍛えられてねぇしなぁ」

「職場体験も大変だったものね」

 

 昼食を終えて、教室に戻る途中で腕を組みながら歩く刃羅。

 その横で梅雨も指を顎に当てている。

 

「流女将の訓練場ばっかり使うのもなぁ」

「学校の施設は使えないのかしら?」

「……聞いてみるか」

 

 HR終了後に相澤に声を掛ける刃羅。

 

「休日ならば構わんぞ。『個性』の鍛練か?」

「うむ。少し使える武器を増やしたくてのぅ。出来ればロボか人形でも使えればいいのじゃが」

「……どんな鍛練をする気だ?」

「それはサポート科次第ですわ」

「……使用許可は取っておく。ロボに関しては他の教師と相談する。駄目でも文句言うなよ」

「もちろんだぜ!」

「何々!?刃羅、特訓すんの?」

 

 芦戸が声を掛けてきた。

 後ろには梅雨、麗日、緑谷、飯田、切島、耳郎もいた。

 

「週末にでござるがな」

「相澤先生!私達もいいですか!?」

「構わんが……程々にしとけよ」

「「「は~い」」」

 

 あっという間に増えた人数。

 その後、刃羅は梅雨を伴ってサポート科に顔を出す。

 

「ちわ~」

「お邪魔するわ」

「なんだね?」

 

 サポート科教師のパワーローダーが奥から現れる。

 

「用意してほしいものがある」

 

 刃羅はメモを取り出して渡す。

 メモを受け取り、中身を見るパワーローダー。

 

「こんなもので何をする気なんだ?」

「『個性』を鍛えるためにいんだよ。ちゃんと終わったら返すからよ」

「……流石に1人では決められないね。君の担任と相談するよ」

「了解でござる。週末にここで鍛練する予定でござる。出来ればそれに間に合わせてほしいでござる」

「許可が出ればね」

 

 パワーローダーはため息を吐きながら頷く。

 

 部屋を出た2人。

 梅雨は刃羅に先ほどの事を質問する。

 

「一体何を頼んだの?刃羅ちゃん」

「まぁ、大したもんじゃねぇよ。お助けアイテムみてぇなもんだ」

「それにしてはパワーローダー先生の反応が悪かったのだけど」

「数も多いですから。仕方ありませんわ」

 

 肩を竦める刃羅に、梅雨は首を傾げる。

 妙に明言を避ける刃羅だった。

 本当にどうでもいいものなのか。少しだけ嫌な予感がする梅雨だった。

 

 

 

 

 そして週末。

 刃羅以外のメンバーはすでに体操服に着替えてストレッチなどをしていた。

 そこに相澤とエクトプラズムが現れる。

 相澤は大きなトランクを抱えている。

 

「相澤先生にエクトプラズム先生……?」

「どうしたんすか?」

 

 芦戸と切島が声を掛ける。

 

「試験前に大怪我されたら困るということでな。2人で監督することになった」

「ツイデニ助言デモシテヤロウ」

「あざます!!」

「ところで乱刀はどこだ?」

「まだ来てないです」

「……合理的時間の使い方がなってないな」

 

 そこに刃羅が現れる。

 

「ふわぁ~……ねむ~……」

「じ、刃羅ちゃん!?」

「乱刀くん!!何という格好をしているんだ!!」

「あぁん?なんか問題あんのかよ?」

 

 刃羅はスポーツブラにホットパンツに裸足だった。

 腰に上着は巻いているが。

 麗日が目を見開き、飯田が腕をブンブン!と振りながら怒るが、刃羅はめんどくさそうに顔を顰める。

 

「乱刀……」

「おや。相澤殿にエクトプラズム殿ではないか。どうかしたのかの?」

「……はぁ……パワーローダーから頼まれたものだ。それとロボはやはり承認されなかった。それでエクトプラズムに来てもらった」

「ほう。それはありがたい!」

 

 刃羅はパッチリと目を開けて、相澤から荷物を受け取ろうと手を伸ばすが、相澤は荷物を動かして刃羅に渡さなかった。

 

「む?」

「先に説明しろ。これで何をする気だ?」

 

 相澤はトランクを開けて、中を見せる。

 

「な、なんだこれは!?」

「す、すげぇ数の武器じゃねぇか……!?」

「これが刃羅ちゃんが頼んでいたもの?」

 

 トランクの中にはレイピア、鎖鎌、ハルバード、短刀など様々な刃物が入っていた。

 それに目を見開く飯田や切島達。

 

「こ、これ……本物ですか……?」

「答えろ」

「別に大したことではない。我の体を武器に変えるために、本物がいるのだ」

「……八百万と似たようなものか?」

「そうやな。百はんとちゃうんは、武器の扱い方も理解せんといかんねん。振った時の慣性や重さ、それに対する身のこなし方をな」

 

 刃羅の言葉に納得の表情を見せる相澤達。

 

「けどさ~本物なんて~手に入らないでしょ~?だから~学校内だけなら~いけるかな~って」

「ダカラ、訓練時ノミノ貸出ト言ウ訳カ」

「そういうことねぇん。これでいいかしらぁん?」

「……ああ。ただし」

「ん?」

「流石に真剣は危険なんでな。刃は潰してある」

「……潰されると調整が面倒なんだが、仕方ないか」

 

 ため息を吐いて、肩を竦める刃羅。

 そしてレイピアを手に取る。

 剣身に触り、軽く振って重さやバランスを確認する刃羅。

 

「じゃ、始めるアル。エクトプラズム師に頼めばいいアルか?」

「ソウダナ。何体出セバイイ?」

「ん~……4体出してくれや」

「分カッタ」

 

 エクトプラズムの口からモヤモヤと吐き出され、分身が生まれる。

 刃羅はレイピアを携えて、広い所に出る。

 

「悪いが常に4体出しておいてほしい。それと隙があれば容赦なく攻めてくれ」

「分カッタ」

「では、始める」

「!!」

 

 ドン!とレイピアを突き出し、エクトプラズムの首に突き刺す刃羅。

 分身が消滅し、そのまま次の分身に飛び掛かる刃羅。

 容赦ない攻撃に全員が目を見開く。

 エクトプラズムはすぐさま新しい分身を生み出して、刃羅を囲む。

 刃羅は連続で突きを放つが、分身に躱される。

 続いて攻撃しようとすると、後ろから他の分身が迫り、背中に蹴りを叩き込む。

 

「ぐぅ!?左後ろ……2刀ならば?いや、それでは甘い

「ン?」

「続きだ!」

 

 再び飛び掛かる刃羅。

 それに合わせて再び分身が後ろから蹴りかかるが、今度はそれを紙一重で躱し、回転しながら横振りする。

 分身はそれを躱すが、刃羅はすぐさま腕を引いて突きを放ち、肩を突き刺す。

 そこに他の分身が2体同時に蹴りを放つ。

 それを刃羅は下がって躱すが、残った1体の分身が後ろから蹴り飛ばす。

 

「ちぃ!ふっ!」

 

 刃羅は蹴り飛ばされた勢いを利用して、そのまま前に出ながらしゃがみ、突きを放つ。

 分身の右膝を貫くが、左脚で顎を蹴り上げられる。

 

「ごぉ!?」

「刃羅ちゃん!」

「乱刀くん!」

「激しすぎんだろ!?」

 

 刃羅は後ろに吹き飛ばされる。

 それに梅雨と飯田が叫び、切島達も目を見開く。

 刃羅はすぐさま飛び起きる。

 

「プッ!」

 

 口から血混じりの唾を吐き出す。

 

「ちっ……横振りはやはり躊躇するな。それに力が上手く乗らんか。腕の引きと直線的な剣線が見極めやすいか」

「……マダ、コノママ続ケルカ?」

「当たり前だ」

 

 再びドン!と飛び出し、分身の目を狙う刃羅。

 

「!!ソコヲ狙ウノカ!?」

 

 分身は顔を傾けて躱すが、刃羅はそのまま詰めて腹に膝蹴りを叩き込む。

 横から分身が攻めかかる。それを下がって避ける刃羅の後ろからもう1体の分身が飛び掛かる。

 すると刃羅はレイピアを逆手に持ち直し、脇に抱えるように後ろに突き出して背後の分身に突き刺す。

 

「ヌゥ!?」

「ふぅ!」

「アマイ!」

「づぁ!?」

 

 刃羅はすぐさま逆手のまま柄頭を目の前の分身の顔に叩きつけようとするが、刃羅の左側から新しい分身が飛び蹴りを浴びせる。

 2、3回転がった刃羅はすぐさま起き上がり、再び斬りかかる。

 それを何度も繰り返す刃羅。

 

 その様子を緑谷達は心配そうに見て、自分の訓練に集中出来ていない。

 

「他人の心配してる場合か。お前ら」

「相澤先生……」

「しかし!あれは少しやり過ぎでは!?」

「だからここでしかやらないって言ってるんだろ。それにあれくらいしないと仕方ねぇならするしかねぇだろうが」

「そうだけど……」

「エクトプラズムが見てくれている。お前達だって集中しろ。更に置いて行かれるぞ」

「「「!!。はい!!」」」

 

 相澤の言葉に緑谷達は頷いて、集中する。

 

「ダガ……随分ト過激、ト言ウカ危険ナ戦イ方ヲスル。容赦ナク急所モ狙ッテキテイルゾ」

「そうだな。……やはりヒーロー殺しの影響はデカイか」

「ヒーロー殺シト言エバ……聞イテイルカ?」

「……脱走のことか?」

「敵連合ノ事モアリ公表サレテイナイヨウダガ、イズレハ彼女達ニモ届クゾ」

「はぁ~……緑谷や飯田はともかく、乱刀は要注意だな」

「……復讐ニ来ルカ?」

「どうだろうな。奴の信念からすれば微妙なところだ」

 

 その後、1時間ほどぶっ通しで続ける刃羅。

 大量の汗を流して動き続ける。

 しかし、その動きは明らかに最初と比べて別人のようになっていた。

 

「すごいね……刃羅……もうほとんど攻撃もくらわなくなったし、完璧に使いこなしてる」

「ああ……それに肉弾戦も織り交ぜてやがる」

 

 その動きに耳郎や切島は汗を拭いて、水分補給をしながら観察していた。

 すると、刃羅を取り囲んでいた分身が消える。

 

「ん?」

「休憩ダ。ソノママデハ倒レルゾ」

「……」

 

 エクトプラズムの言葉に刃羅は黙り込み、体を確かめる。

 そして、目を閉じて何やら瞑想を始める。

 

「……刃羅ちゃん?」

 

 その様子に麗日が首を傾げる。

 すると、刃羅はレイピアを地面に放り投げる。

 

「……エクトプラズム講師」

「ン?」

 

 刃羅の呼びかけに顔を向けるエクトプラズム。

 

「最後の一組。お願いするのである」

 

 その言葉と同時に両手の人差し指と中指を合わせて、その2本をレイピアに変える。

 そして右手を顔の前に掲げ、左手を腰の後ろに回す。

 

「「「「!!」」」」

「吾輩の仕上げである。いざ!」

「新しい話し方だ!?」

「あれがレイピアの子ってこと?」

「英国紳士!あれ?女だから淑女?でも淑女はレイピアなんて使わないよね?」

 

 刃羅の変化に目を見開く一同。

 新しい話し方に耳郎や麗日、芦戸が驚いたり、考察している。

 

「イイダロウ」

 

 エクトプラズムが刃羅の言葉に頷き、分身を3体生み出す。 

 そして、すぐさま刃羅に向かって飛び掛かる。

 刃羅も両手のレイピアを構えて、飛び出す。

 正面の分身が蹴りを放つ。半身にして躱す刃羅は左手を背中から回して突きを放ち、右手のレイピアは刃羅の左手から迫っていた分身に突き刺す。

 

「ヌゥ!」

 

 右手のレイピアで刺された分身は消滅したが、蹴りを放っていた分身はまだ耐えていた。

 

「マダ甘イ!」

「どうであるかな?」

「ナニ!?」

 

 刃羅は両手指を戻して、左手をそのまま体の前に、右手を背中に回して背後に向かって親指を立てる。

 そして再び左手指2本と右手の親指をレイピアに変える。

 左手のレイピアで蹴りを放っていた分身を再び突き、右親指のレイピアで背後から迫っていた分身を刺すまではいかなくても牽制することに成功する。

 また両手を戻して、今度は後ろ回し蹴りを放つ。

 レイピアを警戒していた分身は蹴りを避けられず、吹き飛ばされて消滅する。

 

「ふ~……こんなものであるな」

「それで完成なの?乱刀さん」

「基礎は、であるがな」

 

 緑谷の問いに答える刃羅。

 放り投げたレイピアを拾い、トランクにレイピアを戻す。

 

「はい。刃羅ちゃん」

「おおきに」

 

 そこに梅雨がタオルと飲み物を渡してくれる。

 汗を適当に拭いて、飲み物を一気飲みする刃羅。

 

「ぷっはー!あ~、しんど!」

「乱刀」

「ん?」

 

 座り込む刃羅に相澤が声を掛ける。

 

「なんだよ?」

「喉や目などの急所を狙った理由はなんだ?」

「そうだぞ!乱刀くん!あれは人殺しの技じゃないか!」

「だからではないか」

「どういうことかしら?」

「技以前に()()()()()()だぞ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……そういうことか」

 

 ジト目を向ける刃羅の言葉に相澤とエクトプラズムはようやく納得したように頷く。

 刃羅の『個性』は常に命を奪うリスクを背負っている。そのため、逆に切れ味や本来の用途で使い方を把握しなければ、それを避けることが出来ない。

 急所を狙って、どこまで斬れるのか、傷跡はどのようになるのかまでを想像出来ないと、どこを斬りつければ致命傷にならないかを戦闘中に判断できないのだ。

 

「なるほどな。だから、あれだけ戦わねぇといけねぇのか」

「そういうことじゃな。殺さぬように武器を振りながら、自分も怪我せぬように立ち回れるイメージを作っておかねばのぅ。じゃからエクトプラズム殿が来てくれて助かったのぅ」

 

 切島の言葉に頷きながら、汗を拭いていく刃羅。

 それに傍で座っていた梅雨が顔を曇らせながら声を掛けてくる。

 

「そこまでして武器を増やす必要はあるのかしら?」

 

 梅雨の言葉に、その横にいる麗日もコクコクと頷いている。

 

「無い方がよいであるな。しかし、選択肢は多い方がいいのも事実である。必要になった際に『あの時にやっておけば』などと思うくらいならば、使えるように出来るときにしておくべき、というのが吾輩の考えである」

 

 刃羅の言葉に悩まし気に考え込むクラスメイト達。

 それを刃羅は無視して、相澤とエクトプラズムに目を向ける。

 

「あのやり方がステインの影響のせいであると思っているでござるな?」

「……そうだな」

「否定はしないわぁん。でもぉん、結局は知らないといけないでしょん?」

「そうだな」

 

 その後は鎖鎌、短刀、ハルバードを会得していく刃羅。

 そして終了時間になるころには、

 

「うお~……!か、体中が痛い~……!」

「だ、大丈夫……!?乱刀さん」

「いや、駄目だろ。あんだけ動いてボコボコにされたんだしよ」

「必要なことかもしれないけど、ちょっとやり過ぎじゃない?」

「さ、されど拙者はこの先に進まねば……!」

「こ、これ以上を目指すの!?無茶過ぎるて!」

「確かに武器は増えたです……でも1種類しか出せないのです。このままではダメなのです!」

「……それってヒーロー殺しに言われてたことだよね?」

「そうなのだよ!ムカつくことこの上ないがね!」

 

 座り込んで筋肉痛と打撲痛をギリギリと涙目で耐える刃羅。

 緑谷が慌てて心配そうに声を掛け、切島や耳郎は呆れた様子で見ている。

 その後の刃羅の言葉に、麗日はタオルで汗を拭きながら目を見開き、緑谷はステインとの戦いで言われていた言葉を思い出す。

 それに刃羅が頷くと、飯田も腕を組んで顔を顰める。

 

「それにしてもさぁ……刃羅ってさぁ、武器を覚えるたびに性格も増えるんでしょ?」

「まぁ、そういう感じでござるな」

「それってさぁ、同時に2つ武器を出すと性格が混乱したりしないの?」

「そういやそうだな。緑谷の体に俺の意識が憑りつくみたいなもんってことだろ?」

「……」

「確かにそうね」

「しかも戦い方も違うんだもんね」

「……そうだな。……その通りだ!芦戸!」

「おお!?」

 

 芦戸の言葉に刃羅は目を見開いて固まる。それに切島や梅雨、緑谷が同意するように頷いていると、刃羅が立ち上がり、芦戸の両手を握って礼を言う。

 それに芦戸は驚くも、刃羅はすでに自分の世界に入り込んでいた。

 

「そうだ。確かにいつも通りに2種類を出そうとしていた。それでは2つの性格がぶつかり合うに決まっている!だから、体が混乱していたのだ!!」

「……なるほどな。あの激痛は拒絶反応のようなものか」

「これで糸口が見えたで!!おおきにな!」

「何か分かんないけど、役に立ったなら良かったよ!」

「解決したなら、とっとと帰れ」

「「「「は、はい!!ありがとうございました!!」」」」

「乱刀はリカバリーガールの所に顔を出しておけよ」

「イエア!」

 

 思いがけない所からの助言で一気に解決策が見えた刃羅。

 

 こうして期末に向けて、更に準備を進めていくのであった。

 

 

__________________________

新!刃格!

 

レイピア:「である」が口癖。一人称は「吾輩」

短刀:侍風の口調。一人称は「拙者」

鎖鎌:「です」を語尾に付ける。一人称は「私」

ハルバード:偉そうな教授風の口調。一人称は「自分」

 

 


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