ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#19 期末試験その1

 期末まで後1週間。

 

「全く勉強してねーー!!体育祭や職場体験やらで全く勉強してねーー!!」

「確かに」

 

 上鳴が頭を抱えて、常闇が腕を組んで唸っている。

 それに砂籐や口田も頷く。

 

「まー、中間は入学したてで範囲狭いし、特に苦労なかったんだけどなー。行事が重なったのもあるけど、やっぱ中間と違って期末は……」

「演習試験もあるのが辛れえところだよな」

 

 峰田が席で足を組み、肘をついて余裕そうに語る。

 峰田は中間で9/20位だったそうだ。

 それに19/20位の芦戸や20/20位の上鳴は裏切られた気持ちになって、峰田を指差して理不尽さを訴える。

 

「あんたは同族だと思ってた!」

「お前みたいな奴はバカではじめて愛嬌が出るんだろが……!どこに需要があるんだよ……!!」

「世界かな」

 

 2人の抗議に峰田は余裕ぶる。

 

「まぁ、筆記が出来た所で演習で赤点になったら終わりであるがね」

「……」

 

 刃羅の言葉で峰田は黙り込んで震える。

 ちなみに刃羅は10/20位である。

 

「乱刀は大丈夫なのかよ!?」

「習ったところなら、もう覚えたのでね。普通科目はもう問題ないのだよ」 

「マジかよ!?」

 

 刃羅の言葉に目を見開く上鳴と芦戸。

 刃羅は中学校に通っていないだけで、決してバカではない。それどころかステインとドクトラの教えと自力の独学だけで中学卒業レベルの学力を修めているのだから、そこそこ頭は良い。

 

「皆さん。座学なら私お力添え出来るかもしれません」

「ヤオモモーー!!!」

 

 百が上鳴や芦戸達に声を掛ける。

 それに他のクラスメイト達も教えてほしいと声を掛けて、何やらテンションが上がる百。

 刃羅と轟はその様子に少し首を傾げるも、特に追及はしなかった。

 

 その後、食堂で食事を摂る刃羅達。

 

「普通科目は授業範囲内からで、まだなんとかなるけど……演習試験が内容不透明で怖いね……」

「突飛なことはしないと思うがなぁ」

「普通科目はまだなんとかなるんやな……」

「そないに焦るもんかいな?」

「人それぞれだと思うわ」

「刃羅ちゃんはなんでそんなに落ち着いてるの?」

「普段からしておけば問題ないでござろう?」

「……刃羅ちゃんってちゃんとしてたんだ……」

 

 麗日の言葉に刃羅は持っていた箸を落とす。

 そしてボロボロと涙を流し始める。

 

「……あたしって……ひっぐ……そんなに馬鹿に……ぐすっ……思われてたんだ……うぅ……うわぁ~ん!!」

「え!?ちゃ、ちゃう!?そんな意味で言ったんやなくて!?」

「お茶子ちゃん。今の言い方はそうにしか聞こえなかったわ」

「うぐ……!?」

 

 大泣きを始める刃羅を見て、慌てて弁解する麗日だが、梅雨に突っ込まれて胸を押さえる。

 それに緑谷や飯田は苦笑いしながら見つめ、轟は我関せずとそばを食べ続ける。

 

「乱刀さんは人格変化が良くも悪くも目立つから……」

「そうだな」

「ズズ……あんまフォローになってねぇぞ。緑谷」

「う……」

「ごめん!刃羅ちゃん~!」

「ぐずっ……ラーメン2杯……ひっぐ」

「……え?」

「ラーメン2杯ぃ……おごってぇ……うぅ~……」

「うぐ……わ、分かったよ……」

 

 ガクっ!と項垂れてラーメンを注文に行く麗日。

 その姿に憐みの目を向ける緑谷達。

 

「そういえば……」

「ん?何だい?轟君」

「……聞いたか?保須のこと」

「ステイン脱走のことかの?」

「「「!?」」」

 

 刃羅の言葉に目を見開く緑谷、飯田、梅雨。

 それに轟は頷く。

 

「そんな……!?どうやって……!?」

「監獄移送前日の夜に病院に襲撃があったそうだ。その際かどうかははっきりしてねぇらしいが、ベッドに拘束されていたはずのヒーロー殺しが瀕死の警察官と入れ替わってたらしい。親父が荒れてやがったからな。確かだと思う」

「……なんてことだ……!?」

「一体誰が……まさか……敵連合?」

「それはないと思うがな」

「刃羅ちゃん……」

「敵連合ならわざわざ入れ替える必要はねぇだろ。あの黒い靄の奴使やぁいいしな」

「確かに……」

 

 刃羅の言葉に考え込む緑谷達。

 飯田は両手を握り締め、思い詰めた顔をする。

 

「じゃあ、乱刀は誰だと思うんだ?」

「恐らくは敵連合にも属する気は無い連中。ステインの信念は良くも悪くも影響する。それに感化された奴らがいたんだろう」

「ケロォ……なんで公表しないのかしら?」

「敵連合との繋がりを疑ってるからでござろうな。ステインは敵連合の広告塔になっているでござる。それに感化された奴らが更に集まるのを防ぐためでござろう」

「ケロォ」

「じゃあ、あいつはまた飯田君や乱刀さんを狙うんじゃ?」

「それは~しばらくは~大丈夫だと思う~」

「なんでだ?」

「ステインならぁ間違いなくぅ敵連合の方にぃ怒りを向けるなぁ。広告塔扱いされてるのはぁ知ったはずだからぁ。同類扱いはぁされたくないはずぅ」

 

 不安そうに飯田を見る緑谷の言葉を否定する刃羅。

 それに轟が根拠を尋ね、はっきりと答える刃羅。

 その内容に少なからず納得するように頷く轟。

 

「飯田」

「なんだ?乱刀くん」

「焦るでない。奴がどのように動こうと、まずは拙者達が強くなることが最優先」

「……そうだな。もう、間違えてはいけないんだ」

「その通り!だから、今は期末に集中!」

「その通りだ!!」

 

 フシュー!と鼻息を吐き、気合を入れる飯田。

 それに安心した様に笑う緑谷達。

 そこに麗日がトボトボとラーメンを持ってきた。

 

「……はい。刃羅ちゃん」

「いやったーー!!ありがと!ズズー……ンマンマ……おいしー!」

「……はぁ~」

「ドンマイよ。お茶子ちゃん」

 

 その時、緑谷の頭に誰かの肘が当たる。

 

「あイタ!」

「ああ、ごめん。頭大きいから当たってしまった」

「B組の!……えっと……物間くん!よくも!」

 

 現れたのはB組の物間だった。

 

「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね」

「!」

「体育祭に続いて注目を浴びる要素ばかり増えていくよね。A組って。ただその注目って決して期待値とかじゃなくてトラブルを引き寄せる的なものだよね」

「!?」

「あー怖い!いつか君達が呼ぶトラブルに巻き込まれて僕らにまで被害が及うかもしれないなぁ!ああ怖かふっ!」

「シャレにならん。飯田と乱刀の件知らないの?」

 

 物間は一気に話す。

 言っていることは間違っていないため、緑谷達は大人しく聞いていたが、突如物間の首筋に手刀が叩きつけられて崩れ落ちる。

 現れたのは、B組の拳藤だった。

 ちなみに轟と刃羅は物間に目を向けることもなく、蕎麦とラーメンに集中していた。

 

「ごめんなA組。こいつちょっと心がアレなんだよ」

「拳藤くん!」

「ズズ~……ンマンマ……」

「ズズ……」

「そっちの2人は気にしてないようだね……」

「刃羅ちゃん達のことはほっといていいわ」

 

 拳藤は申し訳なさそうな顔をして謝罪する。そして刃羅達に目を向けるが、我関せずの食事に呆れる。

 それに梅雨が無視を勧める。

 

「あんたらさ、さっき演習試験が不透明とか言ってたね。入試ん時みたいな対ロボットの実践演習らしいよ?」

「え!?本当!?なんで知ってるの!?」

「私、先輩に知り合いいるからさ。聞いた」

 

 拳藤の言葉に目を見開いて尋ねる緑谷。

 その言葉に刃羅が反応する。

 

「ズズ~……ンマンマ……ロボットであるか。それは怪しいものである」

「「「「え?」」」」

 

 刃羅の言葉に轟以外が反応する。

 

「先輩からの情報だよ?」

「ズズ~……ンマンマ……されど、それは1年前の話。今年はすでに2回もロボットを使用したのだよ?この短期間に2回だ。USJ襲撃の事を考えれば……変更される可能性が高いだろうさ」

「……結局それじゃあどんな試験か分からないわ」

「ズズ~……ンマンマ……元々、それが試験じゃろうに。外に出れば知らされることの方が少ないのじゃ」

「それもそうだな」

「ズズ~……ンマンマ……何が来たってぇ全力で斬りかかればぁいいのさぁ」

「斬ったらだめよ。刃羅ちゃん」

「自信家だねぇ」

 

 拳藤が物間をぶら下げたまま苦笑いする。そして拳藤はそのまま物間を引きずって去っていった。

 

 

 

 その後、得た情報をクラスメイト達に伝える緑谷達。

 

「んだよロボならラクチンだぜ!!」

 

 それに上鳴や芦戸が気を抜いて笑う。

 そこに爆豪が苛立ったように声を上げて、緑谷に声を掛ける。

 

「『個性』の使い方……ちょっとわかってきたのか知らねぇけどよ。テメェはつくづく俺の神経を逆なでするな」

「あれか……!前のデク君、爆豪君みたいな動きになってた」

「あー、確かに……!」

「体育祭みてぇなハンパな結果はいらねぇ……!次の期末なら個人成績で否が応にも優劣が付く……!」

 

 緑谷を指差して睨む爆豪。

 

「完膚なきまでに差ぁつけて、てめぇぶち殺してやる!」

 

 そして爆豪は次に轟を睨む。

 

「轟ぃ……!テメェもなぁ!!」

 

 そして荒々しく教室を出ていく爆豪。

 

「……久々にガチなバクゴーだ」

「焦燥……?あるいは……憎悪か……」

「あそこまで敵視して疲れへんのやろか?」

「疲れて、もう壊れてるんじゃねぇの?」 

「峰田さん。それは言い過ぎですわ」

「なんか~自分で突っ込んで~勝手に追い込まれてる感じ~?」

「ケロ。それもありそうね」

 

 爆豪について話す刃羅達。

 

(保須事件に、前回の授業の動きを見たら仕方ないかもしれぬが……あそこまで行くと危う過ぎるな)

 

 爆豪は体育祭で1位になったが、決勝で轟が調子を崩しており納得出来ていない。さらにUSJでの緑谷の行動、保須事件に轟と緑谷がいたことも拍車を掛けているのだろう。

 爆豪は確かに才能もあり、実力もあるが、未だにそれを完全に発揮出来た場がないのだ。

 

「まぁ、俺っちには関係ねぇからいいか!帰ろ!」

「ねぇ、刃羅ちゃん。図書室で少し勉強して帰らない?」

「構いまへんえ」

「ありがとう」

「私もいい!?」

 

 梅雨の提案に頷く刃羅。それに葉隠も参加して3人で勉強して帰ることにするのであった。

 

 

 そして筆記試験。

 これは全員問題なく突破したようで、上鳴や芦戸は百と勉強したところが当たったようで飛び跳ねていた。

 

 

 問題の演習試験当日。

 コスチュームに着替えて、集合場所を目指す。

 

「あら?刃羅ちゃん。背中の鉄刀や脚のナイフはどうしたのかしら?」

「……没収されたぁ」

「なんで?」

「研ぎって鋭くしたからである」

「あぶな!?」

「当然じゃん!?」

 

 刃羅の言葉に芦戸と耳郎が目を見張る。

 『個性』で殺さないために用意された武器であるのに何故か殺傷力を高めた刃羅。

 没収は当然である。

 

「切れへん刃を見るとムズムズすんねん!」

「それでも駄目よ。刃羅ちゃん」

 

 腕を組んで顔を顰める刃羅に梅雨が突っ込む。

 ブスッと拗ねたように顔を顰める刃羅。

 そこで梅雨がもう1つの変化に気づく。

 

「刃羅ちゃん、コスチュームの靴もやめたの?」

「うむ。結局壊れるでのぅ」

 

 刃羅はサンダルを止めて、裸足になっていた。

 サンダルも服と同じ様に出来ないかと言ったが、サポート会社からは難しいとの返答があり、諦めたのだ。

 

「一気に身軽になったよね、刃羅」

「そうねぇん」

 

 肩を竦める刃羅。

 

 そして集合場所に到着すると、教師達が複数人待機していた。

 

「揃ったな?それじゃあ、演習試験を始めていく。この試験でももちろん赤点はある。林間合宿に行きたきゃみっともねぇヘマはするなよ」

「なんか……先生多いな……?」

「諸君なら事前に情報を仕入れて、何するか薄々分かってるとは思うが……」

「入試みてぇなロボ無双だろ!!」

「花火!!カレー!!肝試ー!!」

 

 相澤の言葉に上鳴と芦戸がテンションを上げる。

 すると、相澤の首元がモゾモゾと動き出して何かが飛び出してくる。

 

「残念!!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!!」

 

 飛び出てきたのは根津校長だった。

 校長の言葉に上鳴と芦戸が固まる。

 

「これからは対人戦闘・活動を見据えたより実践に近い教えを重視するのさ!」

「やっぱりじゃのぅ」 

「刃羅ちゃんの言う通りになったわね」

「というわけで……これから諸君らにはこれから二人一組で、ここにいる教師1人と戦闘を行ってもらう!」

「先……生方と……!?」

 

 麗日が顔を強張らせる。

 

「尚、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度……諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表していくぞ」

 

 轟・百ペアの相手は相澤。

 芦戸・上鳴の相手は校長。

 青山・麗日の相手は13号。

 耳郎・口田の相手はプレゼント・マイク。

 梅雨・常闇の相手はエクトプラズム。

 峰田・瀬呂の相手はミッドナイト。

 砂籐・切島の相手はセメントス。

 飯田・葉隠の相手はパワーローダー。

 

 そして刃羅は障子とペアとなり、相手はスナイプとなった。

 

「ま~、その中だと~スナイプ先生だよね~。障子君~よろしく~」

「ああ」

 

 最後のペアはなんと緑谷と爆豪が組んで、オールマイトとの試合。

 

(まさかのそこかぁ。いや……状況を考えたらぁ当然……かなぁ)

 

 刃羅は緑谷達の事を考える。

 確かにこの演習試験において、この組み合わせほど最適で最悪はないだろう。

 

「それぞれステージを用意してある。順番に1組ずつスタートだ。自分の順番が来るまではペアと話し合ったり、観戦するなり好きにしろ」

「制限時間は30分さ!君達の目的はハンドカフスを先生にかけるか、どちらか1人がステージから脱出!」

 

 教師をヴィランと見立てて、行動する。

 教師はハンデとして、体重の半分の重りを身に着けることになっている。

 

「ペアとステージを考察して倒すか逃げるか、ということか」

「だねぇ」

 

 障子と刃羅は控室に移動して、説明された内容を整理し直している。

 

「共に近接戦メインの戦い方じゃ。逃げるにしても、あの拳銃を奪わねば話にならぬの」

「ということは捕獲を狙うか?」

「ステージを見ないと何とも言えないのである」

「……そうだな。とりあえず俺が索敵、戦闘は乱刀でいいか?」

「もちろんよぉん」

 

 というか、戦闘しか刃羅は出来ない。

 

「面倒なのはあの命中率でござるな」

「気づかれる前に接近する必要があるな」

「しかもお前ではあの弾丸を防げない」

「そうだな。そういう乱刀はどうなんだ?」

「ずっと連射されなければ、躱すか斬るは出来ると思いますわ」

「……」

 

 なんでそれが出来るのかを確信しているように話せるのか、という疑問は口にしなかった障子。

 ステインのことを聞いていたので、そこに理由があるのだろうと察したのだ。

 

「障子坊っちゃんのその腕はどこまで複製出来はるん?」

「坊っちゃん……俺の複製腕は複製した腕からも複製出来る。だからかなりの距離までは伸ばせる」

「……うちらの勝敗は障子はんにかかっとる。スナイプはんの居場所を先に見つけることが重要や」

「分かった」

「頼んだぜぇ!」

「ああ!」

 

 ガシッ!と握手する刃羅と障子。

 

『砂籐・切島チーム。気絶によりリタイア』 

 

「いきなり負けんなやゴラァ!!」

「それだけ教師達も本気で挑んでくると言うことか」

 

 刃羅達の試合は8試合目。

 それまではお互い自由行動にした。

 

 今は梅雨達が試験を受けているはず。

 梅雨なら問題ないだろうと観戦には行かなかった。

 

「あ……乱刀さん」

「む?百殿」

 

 控室の椅子に座っていた百が刃羅に声を掛けてくる。

 妙に沈んでいる百に刃羅は首を傾げる。

 

「随分とここ最近は落ち込んでいることが多いではないか。八百万女史」

「……私では轟さんの足を引っ張ってしまいそうで……」

 

 随分と弱気な発言をする百。 

 それを訝しげに見る刃羅。

 

「それを轟には伝えたか?」

「……いえ、ご迷惑をおかけするわけには……」

「……そんな状態でぇ戦うなんてぇヒーローとしてはぁ駄目じゃないかなぁ」

「……それは」

 

 刃羅の言葉に百は顔を俯かせる。

 

(体育祭後から妙に調子を崩している様に見えたが、こういうことか)

 

 刃羅は百の弱気になった理由に気づいた。

 

「……完璧なヒーローなんているのだろうか?」

「……え?」

「一度も失敗せず、誰も被害者を出さなかったヒーローなんているのだろうか?」

「……それは……」

 

 いるわけがない。

 オールマイトだって、ここの教師だって、今も現場で戦っているヒーローにだって。

 

「何年……何十年と戦ってきた者達でさえ、失敗も敗北もある。それでも助けを求める人のために立ち上がり、何か出来ないかと模索するのがヒーローだ」

「……」

「たかが体育祭で上手く行かなかったくらいで、自分が負けたくらいで、心が折れるようでは人を救うなんて絵空事でしかない。お前は……それでいいのか?」

「……」

「ヒーローになれば、そうやって迷っている間に誰かに涙を流させることになるぞ。それでいいのか?」

「……嫌です」

「ならば迷う前に声を上げろ。動け。寡黙に人を助けるヒーローなど我は知らん」

 

 刃羅の言葉に両手を握り締める百。

 そして勢いよく立ち上がる。

 

「轟さんと話してきます!」

「良し!行くであります!」

「ありがとうございますわ。乱刀さん!」

「これで無様晒したら斬り刻むかんなぁ!!」

「えぇ!?」

 

 刃羅は物騒な言葉を吐いて、歩き去っていく。

 その後ろ姿を見て、百は胸の前で両手を組んで目尻に涙を浮かべる。

 

「……ありがとうございます……!」

 

 そして轟を探しに行く百。

 その顔から不安は消え去っていた。

 

 

 

 刃羅はモニタリングルームに顔を出した。

 中には緑谷、麗日、リカバリーガールがいた。

 

「あ。刃羅ちゃん!」

「乱刀さんも観戦に来たの?」

「暇だかんな」

 

 モニターには梅雨と常闇がエクトプラズムと戦っている様子が映されていた。

 

「なんや。まだ終わっとらんかったんか」

「うん。やっぱりエクトプラズム先生の分身を相手するのは一筋縄ではいかないみたいだ」

 

 常闇がダークシャドウを操ってエクトプラズムを倒して行く様子が見られる。

 梅雨はそれをサポートするように戦っている。

 

「梅雨嬢はともかく、常闇殿は少しばかりダークシャドウに頼り過ぎるきらいがありまするな。せっかく意思があるダークシャドウの主体性を活かし、自身の戦闘技術も磨けば、まさに敵無しとなろうに」

「リカバリーガールもさっき言ってたよ。間合いに入られると脆いのが課題だって」

「確かに強くはあるがのぅ。一度攻略されればあまりにも脆いからの。そこが課題とされたんじゃな」

 

 腕を組んで常闇の考察を語る刃羅。

 それに緑谷と麗日は頷く。

 

「そして梅雨はんは『個性』の特性故に弱点は少ない。よ~周りも見とる」

「それもリカバリーガールが言ってたよ」

「けんども、それは弱点にもなりうるもんだべ」

「「え?」」

「梅雨ちゃんの『個性』は常時発動型であります。それは言い換えれば常に一定の実力しか発揮できないということでもあるのであります。もちろん水場は別でありますが」

「あ!」

「だからよぉ、梅雨ちゃんは常に舌の使いどころを見極めねぇといけねぇ。舌を封じられた瞬間、梅雨ちゃんは強みが活かせなくなっちまう」

「そうだね。だから、それを踏まえながら常闇影踏のサポートが出来るかがあの子の課題だね」

 

 刃羅の言葉にリカバリーガールが頷きながら、試験の趣旨を語る。

 

「というか緑谷、麗日。お前達はこんな所にいていいのか?お前達のチームこそ、最も話し合いがいる気がするのだが……」

「あはは……そうなんだけどね。かっちゃんは僕が話しかけると、どうにも反発されちゃって」

「私も青山君に声を掛けても、きちんとした返事が返ってこなくて……」

「……前途多難やねぇ。コミュニケーションと連携も評価の対象や思いますよって。そのままやと厳しぃんやないのん?緑谷ぼっちゃんの相手はあのオールマイトやで?」

「そうなんだよなぁ……」

「相澤先生が2人を組ませたのも、そこが課題と思われたからだろうね。君達は互いが関わると途端に周りが見えなくなるようだ」

「……」

 

 刃羅の言葉に緑谷は顔を俯かせる。

 その直後、梅雨達はエクトプラズムにカフスを嵌めることに成功し、条件達成する。

 

 次は飯田と葉隠チーム。

 相手はパワーローダーで、荒野フィールドでの試験だった。

 

「飯田のエンジン対策がメインじゃの。透は裸になったとしても、地面を歩く以上パワーローダーには伝わるじゃろう。どう乗り越えるか」

 

 すると飯田の背中に葉隠が飛び乗る。

 

「まさか背負って走り抜ける気なんじゃ……!?」

「っていうかぁあれって下手したらぁセクハラじゃないのぉ?」

「飯田君なら触らんようにするんじゃないかなぁ?」

「しかし、流石に走り抜けれるものではないだろう?出口前に落とし穴でも仕掛けられていたら終わりだぞ」

 

 飯田は全速力で走る。

 地面が崩れる前に走り抜けているが、パワーローダーが先回りをして地面を崩す。

 飯田は崩れる瞬間に飛び上がり、走り幅跳びの要領で飛び越える。

 

「すごっ!?」

「このまま!」

「そこまで甘くはないわよねぇん」

 

 飯田はそのまま走ろうとしたが、地面が完全に崩れ落ちて、道が無くなる。

 更にパワーローダーが飛び出してきて、飯田に襲いかかる。

 飯田は方向転換して躱すが、ゴールからは遠のいてしまった。

 

「おっしいぃ!!」

「でも、このままじゃマズイよ」

「そうでも~ないかな~」

「「え?」」

 

『飯田・葉隠チーム。条件達成』

 

「ええ!?」

「手袋と靴は囮だったみたいだね!」

 

 よく見ると、飯田の肩にくっついた手袋が靡いている。

 つまり葉隠は飯田の背中に乗ったように見せかけて、全裸で他のルートから出口を出たようだ。

 

「というか、どうやって?」

「……瀬呂君からテープ借りたのかな?」

「ありなのか?それは」

「まぁ、あんまりよくはないけどね。準備も試験の一環と言われれば、一概にダメとは言えんさね」

 

 リカバリーガールが問題なしと判断したので、オッケーのようだ。

  

 続いては轟と百チームの試験。

 試験会場は住宅街。

 

「住宅街アルか~。轟の氷と炎対策アルね」

「しかも相手は相澤先生……。『個性』を消されたら、勝機はない」

 

 固唾を飲んで見守る緑谷達。

 

「勝敗を左右するのは百殿じゃの。『個性』で何を作るか……そこにかかっておるの。そして轟がその作戦に従うかどうか……」

「今の轟君なら大丈夫だと思うけど……」

「百がその作戦をちゃんと伝えれていればな。まぁ……もう大丈夫のようだ」

「え?」

 

 刃羅は百の様子を見て、頬笑みを浮かべる。

 それに麗日は首を傾げるが、刃羅はそれに答えなかった。

 

 

 

 

 轟達は開始直後に動きを見せた。

 百が大量に創造を始めたのである。

 

「轟さんは常に氷と炎を出して、相澤先生の接近に警戒してください」

「分かった」

 

 百の指示に素直に頷く轟。

 百はマントや紐状のものなど様々な道具を作っていく。

 

「……私も乱刀さんに怒られてしまいました」

「あ?」

「私、体育祭では良いとこ無しでした。騎馬戦はあなたの指示に付いただけ、本選では常闇さんになすすべもありませんでした。随分と差がついてしまったと、思ってしまいました」

「……」

「先ほど乱刀さんに言われてしまいました。『私自身の事で負けたくらいで、心が折れるなら人を助けるなんて絵空事。それでいいのか』と」

「……確かにな」

「はい。『そうやって悩んでいる間に、誰かが涙を流すことになる。それでいいのか』とも、言われました」

 

 轟に背中を向けながら話す百。

 その言葉は轟にも重く圧し掛かった。

 轟もエンデヴァーに固執していたからだ。今も振り切ってはいないが、緑谷達と関わって他にも目が行くようになった。

 

「本当に……みっともない。だから……下手に考える前に出来ることを試す。そう決めましたの」

「……そうだな」

「準備出来ましたわ!轟さん!さぁ、オペレーションを始めましょう!」

「ああ!」

 

 その様子と話を刃羅達はモニタールームで見聞きしていた。

 

「……それでよろしおす」

「おやまぁ。あの子の試験での課題をあんたが解決させちまったのかい」

「試験前にあんなに沈まれてたら、こっちの士気に影響すると思っただけでござる」

「そうかね」

 

 刃羅とリカバリーガールは互いに肩を竦める。

 

 そして、轟と百は見事なコンビネーションで相澤を完封して条件を達成したのであった。

 

 

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