ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#20 期末試験その2

 第5試合、麗日・青山チーム対13号。

 

 モニタールームには梅雨がやってきた。

 

「お疲れ!梅雨ちゃん!かっこよかった!」

「ありがとう刃羅ちゃん。お茶子ちゃん達はどうかしら?」

「あんな感じだな」

 

 チラッとモニターに目を向ける刃羅。

 梅雨もモニターに目を向けると、出口直前の柵に捕まって13号に吸い込まれかけている麗日達がいた。

 

「惜しい所までは行ったんやけどな。捕まってしもたな」

「ケロ。お茶子ちゃん……頑張って」

「あの状況からは厳しいじゃろうなぁ」

 

 青山が膝からレーザーを放つが、見事に吸い込まれる。

 

「一度、あの吸引に捕らわれるとどんな攻撃も効かんからな」

「……どうすればいいんだろう?」

「ああなっちまう前に封じるか足止めする必要があったべな。13号がどこまで一度に吸い込めっか分かんねぇ以上、2人一緒に行動したのが裏目に出た感じだべ」

 

 刃羅も悩まし気に顔を顰めながら考察する。

 それに緑谷と梅雨も顔を曇らせる。

 その時、青山が何か麗日に呟くと、不意に麗日が柵から手を放す。

 

「何してん」

「麗日さん!?」

 

 13号も焦って『個性』を解除する。

 その隙に麗日は体術で13号を抑え込んでハンドカフスを取り付ける。

 

「やった!条件達成だ!」

「……リカバリーガール。あれは偶然だと思うのだが……」

「私もそう見えたけどね。まぁ、条件達成は確かだからね。後は13号の採点次第さね」

 

 リカバリーガールも悩まし気に顔を顰めながら話す。

 梅雨も首を傾げていた。

 そこに飯田と百が現れた。

 

「飯田君!やったね!」

「ありがとう緑谷くん!」

「八百万さんも凄かったよ!あの相澤先生を完封だなんて!」

「轟さんの力があったからですわ。それに……乱刀さんのおかげもあります」

 

 百は緑谷の言葉に首を振り、刃羅に体を向けて頭を下げる。

 それに刃羅は腕を組んで顔を背ける。

 

「ふん」

「ケロケロ」

「ふふ」

 

 刃羅の頬が少し赤らんでいるように見え、梅雨と百は照れているのだと理解して微笑む。

 

 続いては芦戸・上鳴対校長。

 フィールドは工場地帯。

 

「校長先生が戦うのって想像出来ないな」

「そうだな」

 

 上鳴と芦戸は余裕そうに笑いながら走っていたが、突如建物が崩れ始めて2人の行く先を塞ぐ。

 2人は慌てふためくが、さらに建物が崩れ始めて2人は逃げるのに手一杯になる。

 その時、校長はハンマーが付いたクレーン車に乗っており、それを操作していた。

 

「あんな所からどうやって!?」

「……恐らく予測ですわ」

「予測?」

「どの建物を壊せば、どう連鎖していくかを瞬時に計算しているでござるな」

「そんなことが……!」

「しかも邪魔をするついでにゴールまでの道も塞いでいるのである。……これはあの2人には厳しいであるな」

 

 モニターでは校長が紅茶を飲みながら高笑いをしている。

 それに少し引き気味の緑谷達。

 

「根津は昔、人間に色々弄ばれてるからね。こういう時は素が出るね」

「あれが素なのねぇん」

 

 そのまま芦戸と上鳴は何も出来ずにタイムアップとなった。

 

 続いては耳郎・口田チーム対プレゼントマイク。

 

「さて、わっちも行きますよって」

「頑張ってね刃羅ちゃん」

「頑張ってくださいまし!」

「君達なら行けるぞ!」

「頑張ってね!」

 

 刃羅は梅雨達の応援にピラピラと右手を振るだけで答える。

 刃羅は歩きながら、これまでの試験を見ての傾向を考える。

 

(間違いなく生徒にとって天敵となる教師を当ててきている。それを連携でどうやって躱すかが評価の基準とされるか)

 

 刃羅の相手はスナイプ。

 間違いなく狙撃による攻撃。

 そうなると会場は死角が多いはずと考える。

 

 障子と合流して、試験会場に向かう。

 先ほど話した役割を確かめ合う。

 

「どんな会場だと思う?」

「そうだね~……死角は~多いとは思うけど~」

「向こうにも有利な場所ではあるか」

「だろうな」

 

 会場の入り口で待機していると、

 

『耳郎・口田チーム。条件達成!』

 

 どうやら突破したようだ。

 すると、入り口が開いていく。

 中に入ると、そこは地下空間を思わせる石の柱が乱立した場所だった。

 

「暗がりも多い。高さも制限されている密閉空間。音も反響しやすい。狙撃に適している環境ばかりだな」

「ああ。やはり先に見つけないと厳しいか」

「ん~……」

 

 刃羅は柱を調べて、上を見上げる。

 それに障子は首を傾げる。

 

「どうした?」

「いや、そう簡単に崩れそうにはないなと確かめておった」

「なるほどな」

 

『障子・乱刀チーム。演習試験スタート!』

 

 開始の合図が響く。

 

「まずは試してみるか」

「分かった」

 

 障子が腕を複製して両脇に伸ばしていく。

 ある程度伸ばすと、複製腕の先を耳に変える。

 今度は刃羅が腕をロングソードに変える。

 

「行くぞ」

「ああ」

 

 刃羅はロングソードをぶつけ合わせる。

 

キイイィィィン!!

 

 甲高い金属音が会場に響く。

 腕を戻して左側の柱の陰に隠れる刃羅。

 少しして障子も腕を戻して、刃羅の元に静かに駆け寄る。

 

「どうや?」

「駄目だな。向こうも柱の陰に隠れているようだ」

「やはりか。仕方がない」

 

 反響で居場所が分かれば御の字と思ったが、そう上手くはいかなかった。

 刃羅達もこれが上手く行くわけはないと思っていたので、落胆はしなかった。

 その後、障子の腕を地面に這わせて一本一本先の柱周辺を探って進んでいく。

 2/3ほどまで進んだ所で一度歩みを止める。

 

「ゴールは見えてきたが……」

「流石にこれ以上はどう移動しても見つかるじゃろうな」

「どうする?」

「……まずは位置を探りたいであるな。ここにいて欲しいのである」

「分かった」

 

 刃羅は障子を残して、2本分ほど戻る。

 そして足の裏から刃を生やして、反対側を目指して一気に滑り出す。

 反対側に滑り込むと、

 

「ゴール右手前の柱にいる!」

 

 障子の声が響いた。

 その瞬間、スナイプが刃羅の前に飛び出して発砲する。

 刃羅は慌てて、右奥の柱の陰に飛び込む。

 

「ちぃ!あっぶねぇなぁ!あの瞬間で2発も撃つのかよ!?」

 

 刃羅の踵のすぐ後ろに2発の弾丸が着弾した。

 それに冷や汗を流し、対応を考える。

 

(今飛び出しても狙われるか?スナイプが拳銃を2つ持っていたらきついな)

 

 すると、発砲音が響く。

 どうやら障子が狙われたようだ。

 

(仕方がないね!) 

 

 刃羅は背中を預けている柱を見上げた。

 

 

 

 モニタールームでは梅雨達が心配そうに観戦していた。

 

「やはりあの射撃は厳しいですわね」

「刃羅ちゃんにはまさに天敵だわ」

「障子くんも索敵は素晴らしいが、戦闘は接近タイプだ。あの拳銃を無力化しなければ……」

「あれ?刃羅ちゃんは?」

 

 刃羅の姿が柱の陰から消えた。

 他のモニター画面を見るが、刃羅の姿は見つけられなかった。

 首を傾げた梅雨達だったが、その直後の光景に目を見開いた。

 

 

 

 スナイプは左右の警戒を怠ることなく、構えている。

 

「撃たれる危険を犯しても、俺の居場所を把握しに来たか。そして二手に分かれて、俺の隙を作るつもりだな?」

 

 スナイプは二丁の拳銃を構えている。

 

「障子目蔵は索敵能力は高いが、逆に場所が割れると戦闘においては一歩劣る。対して乱刀刃羅は戦闘能力は高いが、遠距離持ち相手にはほぼ無力。さぁ、どうする?」

「こうするんだよ!!」

「!!」

 

 聞こえた声に銃を構えるが、そこに刃羅の姿はなかった。

 

「?…っ!上か!?」

 

 上を見上げると、刃羅が天井を走っていた。

 

「天井を!?忍者かあいつは!だが、それじゃあな!」

「YEAHHHHHHHHHH!!」

「なんだと!?」

 

 銃を刃羅に向けたスナイプ。

 その瞬間、刃羅は体を捻って天井を蹴り出して、両手を突き出しドリルのように高速回転をしながらスナイプに迫る。

 それに驚愕したスナイプだが、すぐさま発砲する。

 しかし、その弾丸はキィキィン!と弾かれてしまった。

 

「っ!?馬鹿な!」

「ジ・スパイラーール!!」

 

 スナイプが隠れていた柱を砕きながら、刃羅はスナイプの目の前に突き刺さる。

 スナイプは距離を取ろうとするが、刃羅は脚を開いて回転蹴りを放つ。

 

「ぐぅ!」

「こうなれば、こっちに分があるぞ!」

「舐めるなよぉ!」

 

 スナイプは左手を背中に回して、銃口を刃羅に向けて発砲する。

 刃羅は腕を交差して顔を守る。刃羅の右腕と右脇腹に弾丸が突き刺さる。

 

 

 

 モニタールームでは悲鳴が上がる。

 

「乱刀さん!?」

「刃羅ちゃん!」

「乱刀くん!!」

「スナイプ……それはやり過ぎないじゃかね?」

 

 流石のリカバリーガールも顔を顰めさせる。

 

 

 

 

 スナイプも撃った瞬間に仮面の下で顔を顰めた。

 

(しまった!?) 

 

キキィン!

 

 しかし、刃羅から響いたのは金属音だった。

 

「なに!?」

「我の《刃体》が何時、手足だけだと言った?」

「!?」

「わたくしの刃は全身ですわ!」

 

 左腕をコルセルカに変えて、左手の拳銃を弾く。

 スナイプは動揺を抑えきれずに挙動が遅れる。

 

「くぅ!?」

「逃がさないのです!」

 

 すぐさま両手を鎖鎌に変えて、スナイプの体に巻き付けていく刃羅。

 スナイプは逃げきれずに両腕を拘束される。

 

「く、鎖鎌まで!」

「です!」

「ごぉ!」

 

 刃羅はスナイプの顎に右脚を蹴り上げて叩き込み、後ろに仰け反ったスナイプをそのまま右足で胸元を踏みながら押し倒す。

 そこに障子も駆けつける。

 

「カフスなのです!」

「おう!」

 

 すぐさま障子がスナイプの左腕にハンドカフスを掛ける。

 

『障子・乱刀チーム。条件達成!』

 

「やったのです!」

「ああ!」

「……参った。完敗だ」

 

 鎖鎌から解放されたスナイプは、座り込んだまま改めて両手を上げて降参する。

 

「乱刀。本当に腹は大丈夫か?」

「問題ねぇよ。武器は作れねぇが、刃で埋め尽くす位は出来っかんな」

 

 刃羅はスナイプの質問に頷きながら、手の甲に刃を細かく生やして、刃の鱗のようにする。

 それにスナイプは納得した様に頷き、障子は目を見開く。

 

「それにしても……まさか天井を走ってくるとはな。恐れ入った」

「ギリギリであるがね。もう少し遠ければ、完璧に対処されていただろう」

 

 刃羅は肩を竦める。

 

 控え会場に戻った刃羅はモニタールームに顔を出した。

 

「刃羅ちゃん。凄かったわ!」

「本当に!それにしても、お腹や腕は大丈夫ですの?」

「ちゃんと防いだ。棒で突かれたようなものだ」

「なら、よかったですわ」

「それにしても忍者みたいだったよ!刃羅ちゃん」

「天井を走ることまで出来るとは……驚いたぞ!」

「あんなもん荒業だ。完全に張り付いてるわけじゃねぇしな」

 

 首をコキコキと鳴らしながら、飯田達と並ぶ。

 リカバリーガールが声を掛けてきた。

 

「無茶したもんだね。本当に問題ないのかい?」

「痣になったくらいだべ。おいらの刃は武器を作るだけじゃないべさ」

 

 スナイプにも見せたように手の甲に刃の鱗を生やす。

 それに飯田達は目を見開いて、リカバリーガールは納得した様に頷く。

 

「器用な子だねぇ。お前さんは」

「元々こっちが本家だ。武器の方が応用というか裏技だ」

「なるほどね」

 

 手を戻して、腕を組む刃羅。

 モニターには最後の組の緑谷と爆豪がスタートした所が映されていた。

 

「それにしても……相澤先生は的確で荒っぽい組み合わせを選んだものであるな。この2人とオールマイトを戦わせるとは」

「そうね。緑谷ちゃん、大丈夫かしら」

「大丈夫なわけないじゃろ」

 

 刃羅の断言に全員が心配そうにモニターを見つめる。

 するとさっそく言い合いが始まっていた。

 

「2人の唯一の共通点はオールマイトを絶対視しとることやな。ただし、爆豪は超える壁として、緑谷は辿り着く極致としてやけどな」

 

 その言葉に頷く飯田達。

 

「だからこそ2人の意見は平行線でござろうな。特に爆豪氏にとっては、今の状況は何よりも受け入れがたいはずでござる。……追いかけている者と追いかけられている者に挟まれているでござるのだから」

 

 すると、オールマイトが拳を振るうだけで街が吹き飛んでいく。

 その光景に目を見開く刃羅達。

 モニター越しでもオールマイトの威圧感が届いてきそうだった。

 

「……あれがNo.1に立つ男。……バケモンやねぇ。スナイプはんよりも絶望してまいますわ。わっちでは傷つけるのも無理でっしゃろなぁ」

 

 あのパワーでは刃なんて通らないだろうし、通る前に砕かれそうだ。

 爆豪は単身でオールマイトに攻撃を仕掛けるが、もちろん圧倒される。

 緑谷は完全に逃げ腰で周りが見えておらず、爆豪と接触してしまう。

 

「このままでは勝ち目なんてないぞ……!緑谷くん……!」

「しかし……今のお2人ではとても連携なんて……」

「ケロォ」

「デクくん……」

 

 飯田達も絶望的な差を感じている。

 

「爆豪……焦り過ぎじゃのぅ」

「そうだね。素晴らしい才能を持っているのは間違いないのにねぇ」

「……憧れるが故に曲げられないか。自分が決めたことを」

 

 それは尊いものだろう。大切にすべきことだろう。誰も間違っているなんて言えないだろう。

 しかし、間違っているのだ。どうしようもなく。

 

「『No.1』を目指すのならば、それでもいいでしょう。しかし……『No.1ヒーロー』を目指すならば、それではダメですわよ」

 

 緑谷がガードレールで体を封じ込まれ、爆豪は腹を殴られて嘔吐しながら悶絶する。

 爆豪はそれでも立ち上がる。

 

『あのクソの力ぁ借りるくらいなら……負けた方がまだ……マシだ』

 

 その言葉に刃羅は爆豪への期待を捨てる。

 

(あれだけ勝ちに拘りながら、己の好き嫌い如きで敗北を『マシ』とほざくか。……信念と固執を取り違えている)

 

 その時、なんと緑谷が爆豪を殴り飛ばす。

 

『負けた方がマシなんて……君が言うなよ!!』

 

 そして爆豪を担ぎ上げて、路地裏に入り込む。

 

「デクくん……!」

「なんとかオールマイトから離れられたが……!」

「すでに2人ともボロボロですわ。しかも仲違いしたまま」

 

(でも~あの緑谷君の言葉を~爆豪君は~無視できるかな~?)

 

 意識している男からの言葉は、爆豪の意識を変える可能性がある。

 特に緑谷から言われれば効果は抜群だろう。

 

 少しするとゴールに戻ろうとするオールマイトの後ろに爆豪が現れる。

 オールマイトが対応しようと振り向いた直後、緑谷が路地裏からオールマイトの背後に現れる。

 緑谷の腕には爆豪の籠手が嵌められていた。

 そして迷わずピンを引き、爆破を放ちオールマイトを吹き飛ばす。

 

「やった!」

 

 飯田達が盛り上がる。

 刃羅も声には出さなかったが、その顔には笑みが浮かんでいた。

 

 緑谷と爆豪はすぐさまゴールに向けて走り出す。

 

「……爆破もオールマイトが破壊した街に重ねてるアル」

「これで被害は最小限ね」

「問題はここからよねぇん」

「ですわね」

 

 緑谷と爆豪はゴールを目掛けて走っていく。

 するとオールマイトが一瞬で2人の間に現れる。

 爆豪が籠手を向けるが、すぐさまオールマイトに砕かれる。

 今度は緑谷の籠手が破壊されて、緑谷は腕を掴まれ持ち上げられ、爆豪は倒されて腰を踏みつけられる。

 

「緑谷くん!爆豪くん!くそぉ!」

「速すぎる……!」

「あれで重り付けとんのかいな……」

「No.1ヒーローは伊達ではないってことね」

 

 すると爆豪が寝ころんだまま、オールマイトに向けて巨大な爆発を放つ。

 オールマイトが再び吹き飛ばされ、その間に爆豪が緑谷を担ぎ上げて、爆破しながらぶん投げる。

 浮いていればオールマイトでも追えないと考えたようだ。

 しかし、オールマイトは拳を振り抜いて、衝撃波で無理矢理方向を変えて緑谷の腰に突撃する。

 緑谷は地面に叩きつけられる。

 

「今の腰イッたね!」

「デクくん……!」

 

 爆豪は連続で最大火力で爆発を放つ。

 緑谷はまだ立ち上がれない。

 それでも爆豪は最大火力で放ち、オールマイトを足止めする。

 

「あんな連続で使えんのか?あれって」

「流石に無茶じゃないかしら?」

「緑谷くーーん!!立つんだーー!!」

「デクくん!!」

 

 飯田がギコギコとロボットのように腕を振り回しながら叫び、麗日も両手を握り込んでいる。

 

 緑谷が立ち上がって走り出す。

 オールマイトが迫るが、そこに爆豪が飛び掛かる。しかし、オールマイトはそれを読んでいたようで爆豪の頭を抑え込んで地面に叩きつける。

 それでも爆豪はオールマイトの腕を掴んで爆発を放つ。

 オールマイトは緑谷を追おうとする。

 そこに、

 

「え!?デクくん!?」

「……!!」

 

 緑谷が反転してオールマイトの顔に拳を振るう。

 オールマイトがよろけた隙に、緑谷は爆豪を抱えてゴールに向かう。

 爆豪はすでに気絶しているようだった。

 オールマイトは顎にでも入ったのか、まだ立ち上がれないようだった。

 

「……オールマイトのような2人であるな」

「刃羅ちゃん?」

 

 刃羅の呟きを梅雨だけが捉えた。

 刃羅はモニターを見つめたまま、独り言のように続ける。

 

「真逆の2人じゃがの。あの2人が揃うと、まるでオールマイトのような動きになると思うてな。実力はともかくの」

「……ケロ」

「本人達は認めんだろうがな」

「ケロ」

「さて、これで終わりやな」

「そうだな!皆、よく頑張っていたぞ!」

 

 こうして期末試験は終了した。

 

 様々な思いを胸に、林間合宿に向けて準備を始めていくことになる刃羅達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ドクトラの拠点にて。

 

「さて……ステイン様も旅立たれましたし。しばらくは普段通りの活動に戻りましょうか」

「ドクトラ」

 

 ステインを囲んでいた部屋の撤収を始めていたドクトラ。

 そこに真っ黒のメイド服を着た女性が声を掛ける。

 

「どうしました?」

「敵連合に動きがありそうです。裏のブローカーの者が接触する予定です。ステイン様の思想に心酔した者達を連れて」

「……動き出しましたか。ステイン様の脱走については、まだ広まっていないようですね」

「はい。警察と一部のヒーローだけで留まっています。ドクトラのご指示通り、噂を潰しているのもあるとは思いますが」

「それは重畳。しかし……そうですねぇ。『アーマー』をそのブローカーと接触させてください。スパイにでもなってもらいましょう」

「分かりました」

 

 ドクトラの指示にメイドは礼をして、姿を消す。

 それを見送ったドクトラは片づけを再開しながら、刃羅の事を考える。

 

「刃羅さんにも伝えた方がいいですかねぇ。恐らく敵連合は雄英を狙うでしょうし」

 

 オールマイトと関わっているし、USJとステイン騒動に係わった刃羅やそのクラスが狙われる可能性は高いと考える。

 

「……いいですかね。大丈夫でしょう」

 

 しかしドクトラは問題ないだろうと判断する。

 理由は別に雄英が襲われたところでドクトラには影響がないからである。

 

 この判断が後日、活動に大きく影響を与えることになるとは、もちろん思いもしなかったドクトラであった。

 

 


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