死柄木遭遇の翌日。
HRでも事情説明が行われた。
「……とまぁ、そんなことがあってヴィランの動きを警戒し、例年使わせて頂いている合宿先を急遽キャンセル。行き先は当日まで明かさない運びとなった」
『えー!』
相澤の言葉にクラスメイトの何人かが声を上げる。
「もう親に言っちゃってるよ」
「故にですわね……。話が誰にどう伝わっているのか、学校が把握できませんもの」
「合宿自体をキャンセルしねぇの英断過ぎるだろ!」
すると爆豪が声を上げる。
「てめぇ、骨折してでも殺しとけよ」
「!!」
「それは無茶じゃない?爆豪。緑谷もギリギリだったんだし、あんなところで『個性』なんて使えないでしょ」
「知るか。とりあえず骨が折れろ」
「奴と戦っておれば緑谷は崩れ去って、更に何十人が死んだじゃろうがのぉ」
「刃羅ちゃん……!?」
「あ?」
爆豪を耳郎が咎めるが、爆豪は更に捲し立てる。
そこに刃羅が口を挟む。
「まぁ、我も奴を見逃したからなぁ。骨を折るなら我もだな」
「そうかよ。じゃあ、折れろや」
「
「あぁ?」
「ふっ!」
『!?』
刃羅は右手首を左手で押さえ、右前腕に膝蹴りを叩き込んだ。
ボギィ!と鈍い音が響き渡り、それに全員が目を見開く。
「じ、刃羅ちゃん!?」
「マジかよ!?」
「これでええか?」
「……頭イカれてんのか?」
「おやおや。自分でやれと言っておきながら、実際にやったらビビるのかね?随分と小物臭いことだね」
刃羅は爆豪を鼻で笑う。
爆豪は盛大に顔を顰めて、刃羅を睨む。
「自分でも出来ないことを強がって言うのは、基本的に怖がり者が威嚇する時である。おや?そうなると爆豪は怖がり者と言うことになってしまうであるな?」
「っ!?てんめぇ!!」
「そこまでにしとけ。馬鹿共が」
相澤が髪を逆立てて、刃羅達を睨む。
それに刃羅は肩を竦める。
爆豪は歯軋りをして刃羅を睨む。
「全く……乱刀はすぐに保健室に行け。他の奴らは終業式に行け。爆豪は後日反省文提出だ」
「ああ!?なんで俺が……!?」
「お前の言動が問題だったからだ。いい加減ヒーローを目指す者としての言動を自覚しろ。乱刀も反省文ものだが、その骨折で相殺だ」
「くっそがぁ!!!」
「ほな、行ってきますわぁ」
爆豪は怒りが抑えられず、椅子を蹴り飛ばす。
刃羅は涼しい顔で教室を出て、保健室に向かう。
その姿を梅雨が無表情で見つめていることには気づかなかった。
保健室にて。
「あんたねぇ……自分で折るなんて馬鹿なことしてくるんじゃないよ」
「だってムカついたんだもん!」
「まぁ綺麗に折れてるから、すぐに治るだろうよ」
「は~い」
「ところで後ろの子は付き添いかい?」
「後ろぉ?」
リカバリーガールの言葉に後ろを振り返る刃羅。
そこには無表情で舌をブラブラと揺らしながら立っている梅雨がいた。
それを見た刃羅は、死柄木と向き合った時よりも冷や汗がドバァ!と流れる。
そしてプルプルと震え始める。
「つ……梅雨ちゃん……」
刃羅の呼びかけに一切答えず、ジぃ~~っと見つめ続ける梅雨。
「ほい。これで終わりだよ。あんま無茶すんじゃないよ」
「りょ、了解であります。ほぶぅ!?」
「……」
リカバリーガールが包帯を巻いて終わりを告げた瞬間、刃羅の口元から上半身にかけて舌が巻き付く。
そして、そのまま梅雨は無言で踵を返して、歩き始める。
刃羅は抵抗も出来ずに引きずられる。
行きついた先は教室だった。
「あ。帰ってきた」
「も、もごもふもはは」
「ごめん。何言ってんのか分かんないや」
すでに終業式は終わったようで、帰り支度をした者達がいた。
芦戸達女子陣は梅雨と刃羅を待っていたようで、特にその光景に驚くことなく刃羅達に目をやる。
その後ろには緑谷や飯田、切島などもいた。
「とりあえず、正座して!刃羅ちゃん!」
葉隠の言葉にシュバ!と正座する刃羅。
ちなみに刃羅の顔はすでに血の気が引いて真っ青になり、涙目になっていた。
その間も梅雨は無言でジぃ~~っと刃羅を見つめている。
刃羅の周囲を葉隠や百も怒りのオーラを纏って仁王立ちする。
芦戸達はそこまでではないが、刃羅の状況は当然だと思っているようだ。
緑谷はアワアワしており、飯田も腕を組んで仁王立ちしている。
「言うことは分かっていますわね?乱刀さん」
「くだらないことをして申し訳ありませんなのです!!」
舌から解放されて、百から声を掛けられると、刃羅はズガン!と額を床に打ち付けて土下座する。
それでも梅雨達は怒りのオーラを消さずに見下ろしている。
「み、みみみ、み、皆……そ、それくらいで……いいんじゃない……かなぁって、思うんですけどぉ」
「緑谷は黙ってて」
「ごめんなさい!!」
「緑谷……今は口出したら危険だぜ」
「で、でも……僕のせいで乱刀さんはあんなことしたんだし……」
緑谷は責任を感じてしまっており、どうにか穏便に終わらせたかった。
「デクくん」
「う、麗日さん」
「多分……梅雨ちゃん達が怒っとるんはそれだけやないと思うよ?」
「え?」
「その通りですわ」
麗日が緑谷に声を掛ける。
麗日の言葉に首を傾げる緑谷だが、それを百が肯定する。
「確かに腕を折ったのも怒ってるけど!」
「それ以上に昨日の行動にまだ納得いってないんだよね。うちら」
「昨日って……死柄木の?」
「そうですわ。警察やヒーローに連絡するように指示しておきながら、1人で飛び掛かったことですわ」
「う!そ、それは……」
「先ほど爆豪さんに言っていた通り、緑谷さんと買い物客の方々を死なせてしまう危険がありました。なのに、乱刀さんは1人で飛び出して行きました。結果、誰も被害はありませんでしたけど、十分に危険はありましたわ」
「は、反省しとります」
プルプルと震えながら土下座を続ける刃羅。
未だに梅雨が言葉を発さないのが怖すぎる刃羅だった。
「……昨日の事を見て、私達はあることを思ったのよ」
「あること?」
「刃羅ちゃんが私達の前からいなくなるつもりでいるように見えたの」
『!!』
「……」
ようやく口を開いた梅雨の言葉に緑谷達男子陣は目を見開く。
刃羅は黙り込んで、顔を上げる。
「USJの時も、昨日も、まるで自分が傷ついても死んでも悲しむ人はいないって思っているように見えたわ」
「……そうかも~?ばぅ!?」
思い起こすように首を傾げて呟いた刃羅に、高速で梅雨の口から何かが飛び出してドバン!!と刃羅の頬を叩く。
もちろん舌である。
「い、今のは効いたべ」
「何でそんな風に思うようになったのかしら?」
「……なんでじゃろうなぁ?……ステインかのぅ?」
梅雨の質問に正座したまま腕を組んで眉を顰める刃羅。
刃羅自身、深く考えたことはないので、はっきりとした理由が思いつかない。
「なら刃羅ちゃん」
「なんだ?」
「今日からは私達がいるってことを憶えといてちょうだい」
梅雨の言葉に百達も頷く。
それに顔を顰めた刃羅は、
「……善処すルバウ!?」
再び梅雨の高速舌ビンタを叩き込まれる。
それに百達はため息を吐く。
「なんでそこで分かったと言ってくれないのですか……」
「守れる自信がないでありまぶごぉ!?ぽぺぇ!?」
「2連撃……!?」
「まぁ、今のはぶっちゃけすぎだよな」
刃羅はぶっちゃけた瞬間、更に高速で舌往復ビンタされる。
それに緑谷が慄き、切島は刃羅の言動に百達同様呆れている。
刃羅は崩れ落ちそうになるが、すぐさま梅雨が舌を巻きつけて正座を保たせる。
「ちゃんと座ってちょうだい」
「ひゃ……ひゃい……」
少し頬が腫れ始めている涙目の刃羅。
「なんで自信がないのかしら?」
「……今まで考えたことないものを、急に考えろなんて器用な真似が自分に出来ると思っているのかね!?」
「性格と戦い方から考えれば出来ると思いますわ」
「……」
「速攻で反論されてんじゃねーか」
「……びぃえ~ん!びぇご!?」
刃羅は泣いて誤魔化そうとしたが、直後に梅雨の舌に体を締め付けられる。
ギリギリと締められ続ける刃羅。
「ぢょ…ぢょっど……ぐ…ぐる゛じい゛……!?」
「だめよ」
「う……うで……腕はゆるじで……!」
「そこまでにしとけ。お前ら」
相澤が現れて梅雨を制止する。
「相澤先生……!」
相澤の登場と言葉に梅雨は大人しく舌を外す。
解放された刃羅はドサッと床に倒れる。
「どうしたんですか?」
「乱刀の様子を見に来た。今まさに悪化したようだがな」
「……センキュー……ティーチャー……」
「しかし、話を少し聞いてたがあんまり反省は出来てない様だな」
「ふぇ?」
「反省文5枚提出しろ」
「なんでやねん!?」
ガバ!っと起き上がり、抗議する刃羅。
「冗談だ。今回は流石に爆豪の言葉が問題だったからな」
「焦りましたわ~」
「ただ蛙吹達の言っていることも大切なことだ。そこは林間合宿でも課題とさせてもらう」
「……え~」
「ちなみに骨折の事は流女将さんにも伝えてあるからな」
「え゛」
「きっちり絞られとけ」
その言葉で百達も怒りを引っ込める。
梅雨はまだ納得出来ていない様子だったが、百達が声を掛けると何やら納得したようで怒りを鎮めた。
それに首を傾げる刃羅だったが、その後は特に怒られることはなかった。
帰ってから流女将から再び正座で説教されて泣きじゃくることになる刃羅だった。
その夜。
マンションの屋上。
「いきなり電話とは驚かせてくれるな。お師匠。結婚してくれるのか?」
「……ハァ……ヴィラン連合の死柄木とやらに、また遭遇したらしいな」
「その話かよ……。会ったぜ。正直、別人に見えたけどな」
「別人だと?」
「雄英を襲った時とは雰囲気が違ったのである。お師匠にも通じるものがあったのである」
「……あの子供が?」
「お師匠が脳無から助けた少年が何やらきっかけのようじゃの」
ステインは考え込むように黙る。
「活動は再開したのかね?」
刃羅は話題を変える。
それにステインも顔を上げる。
「……忌々しいが、今下手に動いても敵連合の手柄になるだけだからな。ヴィランを中心に粛清をしている」
「なるほど。負けたツケはでかかったアルか」
「誰のせいだ」
「負けた奴のせいなのです」
「……ハァ……」
黙ったステインに、刃羅は内心で「勝った!」とガッツポーズをする。
「俺が抜け出したことは、まだ広まってない様だな」
「そうですわね。敵連合が勢い付くのを防ぎたいのでしょう。敵連合にも知られるのも時間の問題ですわね」
「……ちっ」
「大金叩いて助け出したのだ。下手な手は打たんでくれ。流石にそろそろ私の嘘もバレる」
「……確かにな」
「次、やらかしやがったら雄英飛び出してやっかんな!」
「……ハァ……やはり馴染めんか」
「馴染めるわけないべ。まぁ、確かに面白い奴もいるけんども。変にまどろっこしいべ」
「だろうな。だからこそ……被害者も、贋物も、屑も減らん」
刃羅の言葉にステインはため息を吐き、項垂れる。
刃羅は肩を竦めて、目を鋭くしてステインを睨む。
「いい加減飽きてきたのも事実。師匠がどう思おうが、我の判断で雄英を去らせてもらう」
「……いいだろう。好きにしろ。ただし……」
「なんや?」
「そいつらを殺す覚悟を持てるようにしておっ!?」
ステインは忠告しようとすると、背筋に怖気が走り、刀とナイフを抜きながら飛び下がる。
直後、ステインのいる場所に刃羅が両腕を広げて立っていた。
ステインは貯水タンクの上に下り立つ。
右頬と左首筋に赤い筋が走る。
「……」
「舐めないで。あの程度の連中に情が湧いたとでも?……殺すわよ?」
「……ならばいい……ハァ……」
まさに刃のように冷え切った鋭い瞳でステインを見据える刃羅。
その言葉と様子にステインは刀とナイフを納める。
そして刃羅に背を向ける。
「死柄木もそうだが、他にも敵連合に有象無象が合流しようとする動きがあるようだ。お前の前に現れたら、お前の信念の元に粛清しろ」
「……分かった」
そのまま姿を消すステイン。
その背中を見送った刃羅は、フゥーと息を吐く。
「……なんかぁイライラするぅ」
苛立った表情で腕を組む刃羅。
「殺せるさ。たかが数か月過ごしただけの連中」
右手を見つめて言い聞かせるように呟く刃羅。
部屋に戻ろうと階段への扉に体を向けた時、
「……どないな顔……しはるんやろぉなぁ……」
こんな自分の事で泣いて、怒ってビンタをして、一緒に居て笑ってくれる蛙の少女の顔を、何故か思い浮かべたのだった。
夏休みに入って数日。
刃羅は、
「んあ~……あっつ~……」
ベッドの上でダラけていた。
修行も続けてはいるが、基本的には部屋で寝転んでいた。
ピンポーン。
「んあ~?」
ピンポーン。
「誰ぇ?この暑い中ぁ」
うんざりした顔でドアを開ける。
その瞬間、刃羅は全身を縛り付けられる。
さらに口元にも何かが巻き付く。
「おお!?むご!?」
「はい!オッケー!」
現れたのは耳郎と梅雨だった。
「むお!?もむ!?」
「じゃあ、行くわよ。刃羅ちゃん」
「???」
梅雨の言葉に首を傾げて、頭の上に?を浮かべる刃羅。
引きずられて下に下りると、そこには百が待っていた。
その横には豪華な車が待機していた。
「連れてきたよ」
「お疲れ様ですわ。荷物は預かっています」
「じゃあ、行きましょう」
「むごーー!!」
「大人しくしてちょうだい。刃羅ちゃん」
刃羅を車に押し込み、百達も乗り込んで走り始める。
そしてようやく口元を解放される。
「ぶっはぁ!!どこ行くねん?うち、なんも持ってきてへんで?」
「流女将からお預かりしてます。衣服やお財布なども」
「なんでですの!?」
「昨日の内に連絡しておいたのよ」
そう言えば昨日、流女将がいきなり部屋にやってきて衣服を『洗濯しときますね』と持って行ったのを思い出した刃羅。
まさか財布や鞄すらも持って行っていたとは、全く疑問にも持たず、気づきもしなかった。
「なんで財布持ってかれてんのに気づかないのさ……」
「財布なんか滅多に使わねぇんだよ。ってゆうか、いい加減目的地話せやゴラァ!」
耳郎が刃羅の鈍さに呆れる。
それに刃羅は答えながら、腕を組んで怒鳴る。
「学校よ」
「……学校ぅ?今夏休みじゃないのぉ?」
梅雨の言葉に首を傾げる。
それに百や耳郎は呆れたように、刃羅を見る。
「はぁ……やはり忘れてましたのね?」
「刃羅らしいけどね」
「だから何のだ……」
「プールよ」
「……プール」
刃羅は盛大に顔を顰める。
ショッピングモールでの会話を思い出したからだ。
その様子に耳郎と百は吹き出して笑い始める。
「他の皆も来るわ」
「お、泳ぎ方教えてあげるよ?」
「ふん!」
刃羅は腕を組んで顔を背ける。
それを梅雨達はニコニコ、ニヤニヤと見つめるのだった。
更衣室。
スクール水着に着替える刃羅達。
「流石にビキニとかはアウトだよね~」
「でもさ!プール使えるだけありがたいよね!」
「そうだね」
「……やっぱり~着心地よくない~」
「仕方ないわよ。刃羅ちゃん」
「……やっぱり身体つき凄いな。刃羅」
プールに出て、準備運動を始める。
そこに何故か飯田を始めとする男子陣も現れ始めた。
「あれ?飯田達もプール?」
「芦戸くん達じゃないか!ああ!緑谷くんから連絡があってね!体力強化だそうだ!」
「おお~!さすがだねぇ!」
飯田の言葉に頷く女性陣。
「わっちらは何て申請してはるのん?」
「日光浴ですわ」
「……そんなので通るのであるか」
「夏休みの遠出を控えさせたことによるものと相澤先生に伝えましたので」
百の言葉に納得の表情を浮かべる刃羅や梅雨達。
そして、男子もほぼ全員揃って泳ぎ始める。
百達も簡単に泳ぎ始めたのだが、刃羅は未だにプールサイドに蹲って水面を睨んでいた。
「むむむ……!」
「どうしたん?刃羅ちゃん」
「……もしかして泳ぐ以前に水が苦手?」
麗日と耳郎が刃羅の様子に首を傾げる。
「……こんなデカイ水に入ったことも泳いだこともねぇんだよ。わりぃか」
刃羅は水面を睨んだまま呟く。
それに女性陣達は刃羅の境遇を思い出し、どう声を掛けたものかと戸惑う。
最近の小学校ではプールの授業を行わない。『個性』による人体機能などの問題であったり、それによるイジメなどの発生例が昔多く上げられたからである。
さらに刃羅は中学校に通ってはいない。
「じゃあ、まずは水に慣れることから始めましょ。大丈夫よ。私が一緒にいるわ」
「……むぅ」
そこに梅雨が声を掛けて、手を差し出す。
刃羅は顔を顰めながらも、梅雨の手を握る。
「ケロォ」
それに梅雨は笑みを浮かべる。
刃羅は水に浸かることから始めた。
そして1時間もすると、
トビウオのようにバタフライやクロールで泳ぐ刃羅の姿があった。
「ぷっはぁ!」
「上手くなり過ぎでしょ!?」
「私より速いじゃん!?」
「人魚みたい!」
「流石の身体能力ですわね……」
「どうやら、初めてで不安だっただけみたいね。教えたらすぐに出来ちゃったわ」
「水に慣れたらあっという間やったね」
「体の動かし方と息の止め方が分かれば、なんてことないでござるな!」
飛び込みやターンも1発で覚えた。
泳げば泳ぐほどにフォームもスピードも良くなっていった。
25m潜水も出来るようにもなっていた。
「まぁ『個性』に関しては使い辛いがね」
「それは仕方ないよ」
「うちらだって使い様ないしね」
「ていうか刃羅も十分使えてるじゃん。何あのスクリューと足ヒレみたいなの?」
葉隠、耳郎が肩を竦め、芦戸がジト目で刃羅を見る。
刃羅は両脚をスパイラル・カッターに変えて、スクリューのように回転させて泳いだり、足先をイルカの尾びれのような刃に変えて泳いだりしていた。
「あれだけしか使えぬがのぅ」
「使えるだけいいじゃん!」
プールサイドに上がって、駄弁る刃羅達。
刃羅は髪紐を解いていており、水を滴らせている姿が妙に色っぽい。
「ヤオモモも体つきはエロイのになぁ。刃羅ってやっぱり妙にエロさが前に出るよね?」
「うんうん!女でもドキッとする時あるよね!」
「やかましいわい」
刃羅は腰に右手を当てて、ジト目で耳郎と葉隠を見る。
その時、ねちっこい視線を感じ、刃羅は視線の元へと目を向ける。
「グへへへ……」
「やっぱエロいよなぁ~」
反対側のプールサイドにて峰田と上鳴が鼻を伸ばして、刃羅達をガン見していた。
どうやら向こうは休憩中のようだった。
刃羅はため息を吐く。
「もう少し隠す努力をして欲しいものだ、な!!」
「「ひぃいいいいい!?」」
刃羅は右腕を鎖鎌に変えて伸ばし、上鳴と峰田の目の前に突き刺す。
峰田と上鳴は飛んできた鎖鎌に驚き、悲鳴を上げて飛び退さる。
刃羅は腕を戻して、フン!と吐き捨てる。
「あ、あぶねぇだろ!?」
「刺さなかっただけありがたく思うのです」
「はい、刃羅ちゃん。お水よ」
「どうもなのである」
梅雨からペットボトルを受け取る刃羅。
「まぁ、さっきも言ったけど刃羅確かにエロイもん。仕方ないんじゃない?」
「そうそう」
「なら貴様ら脱げ」
「「すいませんでした!!」」
耳郎と芦戸の上鳴達を庇う様な発言に、刃羅がギロリと睨んで呟く。
2人はすぐさま頭を下げて謝る。
それに百達は苦笑する。
「けど~プールって~体鍛えられるの~?」
「そうね。全身の筋肉を鍛えられるわ」
「水の抵抗もあって、エネルギーも使いますしね」
「ならぁ私も頑張ってぇ泳ごぉ」
「筋トレ好きやね」
「『個性』で筋肉使うからね!」
そう言って、プールに飛び込む刃羅。
見事なバタフライで高速で泳いでいく。綺麗なターンを決めて、次はクロール、平泳ぎ、背泳ぎ、潜水と続けて泳いでいく。
「すげぇ泳げてんな」
「本当に今日が初めてなのか?」
「それは間違いないわ。顔を水につけるときに、顔色悪かったもの。それにバタ足だってまともに出来てなかったわ」
「「うんうん」」
砂藤が腕を組んで感心しており、障子が本当に泳げなかったのか梅雨達に質問する。
それに教えた梅雨が頷き、麗日や葉隠も頷く。
「刃羅ってダンスも踊れるし、格闘技とかも出来るからね~。体の動かし方はA組で一番上手いんじゃない?」
芦戸は耳郎とボールで遊びながら話す。
ドバアァァン!!
刃羅の泳いでいたレーンから水柱が立ち、そこから刃羅が飛び出してくる。
新体操のように体を捻りながら梅雨達の近くに降り立つ。
直後、雨のように水が降ってくる。
「ふぅ」
「ふぅ、じゃないよ!?凄くなり過ぎ!!」
「水中から思いきり飛び上がると、体に良い負荷がかかるのだよ」
葉隠の苦情に、刃羅は髪を掻き上げながら涼し気に語る。
「ふむ。重りでも付けて泳ぐか?」
「それは止めてほしいわ」
刃羅は思いついたように口にするが、それに梅雨がストップを掛ける。
それに刃羅は肩を竦める。
「残念や。ほな、コースレーンでバランス練習でもしよか」
「いや、無理でしょ」
「そうでもないじゃろ。ふっ!」
耳郎が突っ込むが、刃羅は飛び出してコースレーンに飛び乗る。
コースレーンが沈む瞬間に、さらに飛び上がり隣のコースレーンに乗る。
交互にコースレーンを飛び移りながら、反対側に移動する。
「おお!?忍者!?」
「マジでか!?」
芦戸と切島が驚きの声を上げる。
他の者達も目を見開いている。
「やっぱ、飛び移るだけなら楽勝だべなぁ。同じコースレーンで移動してぇべな」
刃羅はクルリと反転して、再びコースレーンに飛び乗る。
今度はそのまま前方に走る。
出来る限り、脚をスライドさせるように出して、真下に体重と力をかけないように意識する。
「おお!?さらに忍者!?」
「凄すぎんだろ!?」
ブツブツ…体重や力を前後に移動させるように……どうやって?……かなりの筋力がいるんじゃ…ブツブツ
「怖えぇからやめろ、緑谷」
再び芦戸と切島が驚愕し、緑谷がブツブツと観察し、その緑谷に轟が突っ込む。
後、数mで反対側に着くというところで、ズルッと前に出した足を滑らせた。
「あ!?」
「ふ!!」
葉隠が声を上げると、刃羅はコースレーンに両手をついて無理矢理逆立ちする。
そこからはバク転、側転と新体操のように柔らかくも高速で回り、最後に一気に飛び上がってプールサイドに下り立つ。
「惜しかった!」
「十分だろ」
「すごいよ!乱刀さん!」
頬を膨らませて不満を示す刃羅に、上鳴が突っ込み、緑谷が両手を握り締めて興奮する。
「緑谷やぁ飯田ならぁ出来るんじゃないぃ?」
「僕にはとてもまだ……!」
「俺は重過ぎるし、体が乱刀くんほど柔らかくはないからな。難しいと言わざるを得ないな」
緑谷は顔をブンブン!と横に振り、飯田は腕を組んで唸る。
刃羅は梅雨からタオルとペットボトルを受け取る。
「しっかし、すげぇ動きするよなぁ。乱刀は」
「拙者は動けなかったら『個性』が活かせんのだ。当然であろう」
「それでもかなりのものですわ。……私も格闘術を覚えるべきでしょうか……?」
切島が感心するように話す。
それに刃羅は水を飲みながら応え、その言葉に百が悩まし気に首を傾げる。
「ヤオモモも結局は武器の扱いに長けないといけないもんね」
「そうですわね。帰ったらお母様に頼んでみましょう!」
百は両手を握ってプリプリと気合を入れる。
それを耳郎がホンワカと見つめている。
その後は男子陣で水泳競争(『個性』あり)が始まり、刃羅は梅雨と並んで座りながら眺めていた。
決勝戦が始まった瞬間、相澤が時間を告げに来て、刃羅の初めてのプールは終了した。
その後、梅雨と刃羅は2人で帰路についていた。
刃羅はTシャツにダメージジーンズ、サンダルにリュックという服装だった。
「今日は~弟君達は~いいの~?」
「弟達も学校の友達の家に泊まりに行ってるから大丈夫よ。ねぇ、刃羅ちゃん」
「ん?」
「ちょっと寄り道してもいいかしら?」
梅雨の言葉に首を傾げる刃羅。
梅雨は刃羅の手を握って、先導し始める。
向かった先は、海岸だった。
夕陽が沈んでいく水平線を眺めながら、梅雨と刃羅は波打ち際に歩み寄る。
「風が心地ええどすなぁ」
「そうね。気持ちいいわ」
心地よい海風に目を細める2人。
「刃羅ちゃんは楽しい?」
「む?」
「学校の皆と過ごして、楽しいと思えてるかしら?」
梅雨は海を眺めながら、刃羅に質問する。
刃羅は梅雨の顔を横目で見つめながら、質問の意図を考える。
「楽しいで?初めての事ばっかやからな」
「……」
「でも、同じくらい不安もある」
「不安?」
「うむ。この程度でヒーローになれるのか、とのぅ」
今度は梅雨が刃羅の顔を見る。
「ステインの思想は知っているでありますな?そして、それに小官は少なからず賛同しているとも」
「聞いたわ」
「そのせいでもあるのだろうがね……自分のヒーロー像はその思想に基づいているのだよ。見返りを求めず、名誉を求めず、ただ助けを呼ぶ声に応えるという思想に」
「それは素晴らしいことだと思うわ」
「だからこそ、闇の面も引きずっているのです。誰かを助けるためには、殺す事もやむを得ないという考え方も……」
「ケロ……」
刃羅は目を伏せながら話す。
梅雨は心配そうに刃羅を見つめる。
「……だから俺っちは、いつヴィランになってもおかしくねぇと思ってる」
「そんなことはないわ!刃羅ちゃんは立派なヒーローになれるわ!」
刃羅の言葉を梅雨は強く否定する。
それに刃羅は苦笑する。
「もちろん易々と傾く気はない。その時は自分でケリをつける」
「……刃羅ちゃん」
「それでも駄目じゃった時は……梅雨嬢、お主が止めとくれ」
刃羅は梅雨としっかりと目を合わせて、語りかける。
その言葉に梅雨は何故か上手く言葉が出なかった。
「ケロォ……」
「冗談だよぉん。帰りましょうかぁん」
「……ええ」
梅雨は少し不安そうな顔をしていたが、刃羅は気づかないふりをして歩き始める。
その後2人は別れて家路に着いたが、梅雨はどうにもこの時の刃羅の表情と言葉が忘れられなかった。
それを後悔することになる日は、そう遠くはなかった。