食堂にも山盛りの料理が並べられていた。
空腹の面々はゴクリと唾を飲み、急いで席に座る。
「美味そー!」
「もう我慢できねぇ!いただきます!」
「「「「いただきます!!!」」」」
座ってすぐさま、両手を合わせて食べ始める切島。
それに釣られて他の者達も食べ始める。
「へぇ、女子部屋は普通の広さなんだな」
「男子は大部屋なん?」
「ハグング……ンマンマ……麺モノねぇか?中華ばっかなのに」
「見たい!ねぇねぇ、見に行ってもいい?後で!」
「おお。来い来い」
「ハグング……ンマンマ……麺モノは出ないのであるか?中華ばかりであるのに」
「魚も肉も野菜も……贅沢だぜぇ!」
「ハグング……ンマンマ……麺モノなんででぇへんの!?麺も中華やん!?」
「おかわり!」
「ハグング……ンマンマ……麺モノ食べたい!中華は麺!」
「乱刀さん、この人数で麺類は無理ですわ。我慢してください」
「…………びゃあ~ん!!私のカップラーメン~!」
「どしたん?刃羅ちゃん」
「刃羅ちゃん、カップ麺持ってこようとして流女将さんに没収されたみたいなの」
「「「あぁ~……」」」
ワイワイと食べるA組と、いつの間にかいるB組。
1人端っこで泣きながら食べている者がいるが、いつものことと周囲の者達からは相手にされなかった。
「色々世話焼くのは今日だけだし。食べれるだけ食べな」
『はーい!』
ピクシーボブの言葉に笑顔で答える生徒達。
刃羅達のテーブルの空皿を回収して、追加を持ってきたピクシーボブが泣いている刃羅に気づく。
「はい、追加だよって何で泣いてんだい?この子」
「麺類が異常に好きでして……カップ麺持ってこようとしたんですけど、没収されたみたいで」
「なるほどね」
「ぐずっ……麺……うぐっ……猫おばちゃぶぎゅ!?」
「お、ね、え、さ、ん!!心は18!!」
刃羅が泣きながらピクシーボブの裾を掴むが、「おばちゃん」呼びした瞬間に猫の手グローブで顔を掴まれる。
ピクシーボブは凄みながら強調するが、刃羅は逆に裾を強く握り返す。
「め゛ん゛!!め゛ん゛!!め゛ん゛!!」
「ちょ、ちょっと!?」
「刃羅ちゃん!どうどう!」
「なんという執念……」
「乱刀くん!!迷惑を掛けるのは止めるんだ!」
「め゛ん゛~~!!」
掴まれた顔を逆に押し返しながら叫ぶ刃羅。
流石にピクシーボブも慌てて離そうとするが、逆に腰を掴まれる。
それに反対側にいた麗日が制止し、刃羅の隣にいた百が呆れる。
麗日の隣にいた飯田が注意するが、刃羅はさらに腰を強く掴む。
騒動に気づいた相澤がユラリと近づく。
「乱刀……実は流女将からカップ麺を預かっているんだが……」
「麺!!」
相澤が呟いた瞬間、刃羅はピクシーボブから腕を話して相澤の前に跪く。
大きく開いた目に、妙にキラキラとした瞳が見えて、相澤達は刃羅の尻に大きく振られた尻尾が見えた。
その姿に相澤はため息を吐き、刃羅の頭を右手で掴む。
「ぬ?」
「……ただし……迷惑を掛けるなら俺達で食べてくれて構わないとのことだ」
「ノォーーーウ!!!」
「なら、大人しくしてろ」
「了解であります!!」
ビシィ!と敬礼して席に戻る刃羅。
再びため息を吐き、自分の席に戻る相澤にマンダレイが声を掛けてくる。
「お疲れさん。大変だねぇ」
「……マンダレイ」
「なんだい?」
「車、貸してもらえませんか?」
「はぁ?どうして?」
相澤の要望にマンダレイは首を傾げる。
生徒を放り出してまでどこに行くなど相澤の性格からしては考えられない。
相澤は盛大に顔を顰めて、
「カップ麺……買いに行かないといけないんで……」
「……私らが行くよ」
「流女将にも連絡しないといけないんで」
「それも私がやるよ。あの人とは私らもお世話になってるから、電話越しだけど挨拶とあの子の事聞いときたいし」
「……すいません」
相澤はマンダレイに頭を下げる。
それにマンダレイは苦笑して、ポンポンと肩を叩き、配膳に戻る。
食事を再開した相澤に、反対側に座っていたB組担任のブラドキングが労し気に声を掛ける。
「大変だな」
「はぁ……奴は暴れさせると何が飛び出るか分からん」
「『個性』抜きにしても体術、格闘術はプロ並みのようだからな」
「ああ」
うんざりとした顔で食事を続ける相澤。
その後、流女将から電話があり『……本当にごめんなさい』と謝られて、愚痴とばかりにバスの中でのことや森の事も報告し、今後の方針を話し合うことになるのだった。
その後、入浴となり風呂場に向かう刃羅達。
「凄いねー!ここ!温泉まであるなんて!」
「最高だねぇ!」
笑顔で服を脱ぎ始める女子達。
服を脱いで洗い場に向かおうとすると、芦戸や耳郎が百と刃羅を交互に見て、自分の体を見下ろす。
その様子に麗日や梅雨が首を傾げる。
「どうしたん?」
「いや……やっぱりヤオモモと刃羅の身体つきエロイなって」
「……まだ言うとるんかい」
「改めて裸で並ばられるとさ」
「妙に対照的な感じだしね。比べちゃうんだよ」
銀の髪に、筋肉質ながらも胸も大きく女性のしなやかさも維持している女豹を思わせる刃羅。
対して黒の髪に、柔らかそうな肌に大きな胸とスタイルをしている百。
雰囲気も生き方もほぼ真逆の2人が裸で並ぶと、互いに際立たせて存在感が物凄かった。
背も高いこともあり、発育の理不尽さを感じるのであった。
その後、体を洗い泥などをしっかりと落として、湯船に浸かる。
「はぁ~……生き返る~」
「気持ちいいねぇ」
「んあ~……」
「寝ちゃ駄目よ、刃羅ちゃん。それに髪がお湯に着いちゃうわ」
「うい~……」
「今日は良く寝れそうやねぇ」
「あれだけ森の中を歩きましたものね」
気持ち良さそうに目を閉じて、体を蕩けさせる刃羅達。
刃羅は髪を結わずに湯船に浸かり、梅雨が刃羅の後ろに回り髪を結いてあげている。
「刃羅の髪って本当に硬そうだね」
「硬そうじゃなくて硬いわ。刃羅ちゃん、トリートメントしたの?」
「なにそれぇ?」
胡坐を組んで猫背になっている刃羅の背中越しに梅雨が問いかけるが、それに刃羅は首を傾げる。
その答えに衝撃を受けた梅雨達はザバァ!と刃羅を総出で抱え上げて洗い場に連れて行く。
「おおおお!?」
「駄目だよ!刃羅ちゃん!この髪を雑に扱っちゃあ!」
「体育祭の時はデクくんにめっちゃ怒っとったやん!」
「えぇ~……別に~いいよ~」
「じっとしててちょうだい」
「……分かったのです」
「私のを使いますか?」
「ヤオモモの高そうだから止めてあげて」
「……そうですか」
「ケロケロ。今回は百ちゃんの使いましょ。明日は私のを使うわ」
「はい!」
「明日もあんのん!?」
百が持参した明らかに高級感溢れるボトルを受け取り、刃羅の髪に使用する梅雨。
刃羅はブスッと不貞腐れたように大人しく座って、されるがままになる。
その様子に梅雨達はクスクスと笑う。
そしてトリートメントを使用した結果、刃羅の髪はツヤッツヤのキラッキラになった。硬さも幾分かマシになり、簡単に纏められるようになった。
「おぉ……柔らかい!」
「綺麗ですわ!」
「いつもどうやって手入れしてたの?」
「水」
「それは駄目よ。刃羅ちゃん」
再び湯船に戻り、のんびりする一同。
その時、
『峰田くん止めたまえ!!君のしていることは己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!!』
男風呂の方から声が響いた。
「飯田の声?」
「峰田って言ってたよね?」
「ということは……」
「覗く気なのね」
「任せるのです!」
「鎖鎌!?」
呆れたように顔を見合わせる梅雨達。
刃羅は右腕を鎖鎌に変えて、頭の上で振り回す。
『壁とは超えるためにあるんだよぉ!!Plus Ultra!!!』
峰田の声が響く。
刃羅が鎌を投げようとした時、梅雨が舌を伸ばして刃羅の顔を覆って妨害する。
「むぼぉ!?」
「ケロ。流石に駄目よ」
刃羅は腕を戻して、湯船に倒れ込む。
すると、壁の上に帽子を被った少年、洸汰が現れる。
「あの子って……」
洸汰は男風呂側に向かって手を振り、何かを叩く。
「ヒーロー以前に人のあれこれから学び直せ」
『くそぉガキイイィィ!!?』
どうやら女の敵は撃退されたようだ。
「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」
「ありがと!洸汰くーん!」
芦戸が洸汰に礼を言うと、洸汰は振り返り女風呂を見る。
「わっ……!あ……」
洸汰は顔を真っ赤にして仰け反り、後ろに倒れていく。
「え!?わっ!?洸汰くん!!」
「ぬぅ!」
「刃羅ちゃん!?」
芦戸が慌てるが、その横を刃羅が飛び出し、壁に飛び掛かる。
両腕を鎖鎌に変え、男風呂側に頭から落ちかけた洸汰に鎖を絡みつける。
そして足先を刃に変えて壁に突き刺し、体を固定する。
「セーフ!…なのです?」
「乱刀さん!うん!大丈夫!」
緑谷の声が下から聞こえて、覗き込む刃羅。
下では緑谷が洸汰の頭の下に腕を伸ばして待ち構えており、洸汰はその手のすぐ上でぶら下がっていた。
緑谷は顔を覗き込んだ刃羅を見た瞬間、顔を真っ赤にして顔を背ける。
「おぉ!間一髪なのです!」
「ら、らら、乱刀さん!?ちょ、ちょっとその姿勢は……!?」
「??」
緑谷の言葉に不思議そうに首を傾げる刃羅。
刃羅は完全に男風呂側に両腕を投げ出している。胸は洸汰が潜んでいた隙間に隠れて見えていないが、明らかに裸だと予想出来る刃羅の姿に、緑谷を始め男性陣は顔を真っ赤にしてガン見するか、目を背けるかに反応が分かれる。
「鎖を解くのです。ちゃんと掴むのです」
「は、ははは、はいぃ!!」
「放せ飯田あああ!!!タオルを除けろおおお!!乱刀の裸ああああああ!!!」
「だ、駄目に決まってるだろう!!大人しくしないか!み、緑谷くん!早く従甥くんを!!」
「う、うん!」
素っ裸で暴れる峰田の顔にタオルを押し付けて抑え込み、顔を真っ赤にして目を閉じたまま緑谷に声を掛ける飯田。
それに緑谷も大急ぎで洸汰の体を支える。
それを見た刃羅は両腕を元に戻す。
「後は任せっぞ?」
「は、はい!!」
「は、早く戻り給え!乱刀くん!!」
「ほいほい」
「ま、ままま待て待て!?乱刀!!そのままだと見える!胸が見えそう!!」
飯田の言葉に頷いて戻ろうと体を起こそうとした刃羅に、切島が顔を背けながら叫ぶ。
「見なければよいだけじゃろうに。まぁ、数名凝視しとるがの」
切島の言葉や刃羅をガン見している上鳴、瀬呂などの姿に呆れる刃羅。
その時、刃羅の背中にタオルが掛けられ、その上から梅雨の舌が巻き付き、刃羅の胸元を隠して思いっきり引っ張られる。
「ワーーーオゥ!?」
刃羅は悲鳴を上げながら湯船に落ちる。
姿が見えなくなった刃羅に男子陣は緊張を解いてため息を吐く。
「はぁ~……ヤバかったぁ……ん?あれ?これって俺らが乱刀に覗かれてねぇか?」
「は!!な、なんと言うことだ!乱刀くん!!覗きは駄目だぞ!!」
「いい加減離せぇ!!あいつが覗いたんだから、俺も覗き返すのが礼儀ってもんじゃねぇか!!行かせろおおお!!」
「……」
「どうしたのだ?障子」
「……少し見えたかもしれん」
「「「なにぃ!?」」」
障子の言葉にガバァ!!と障子に振り向く男子陣。
障子は身長が高く、立っていたため、刃羅が覗き込んだ時に一瞬ピンク色の何かが見えた気がしたのだ。
黙り込んて湯船に浸かる障子に、峰田が血涙を流しながらゾンビのように近寄っていく。
「その記憶を……寄越せぇ~……」
「無茶を言うな。それに気のせいの可能性もある」
「うるっせええええ!!見えたかもしれんだけでも許せるかああああ!!」
「落ち着けって峰田」
「てめぇらは乱刀の素肌見てんだろうがあああ!!俺は見てねぇんだよおおお!!」
あまりの峰田の叫びに若干気の毒な気がしないでもない男子陣。
そのせいか目撃した男子陣の頭に、先ほどの刃羅の姿を思い出して顔を赤くする。
「プールとかでも濡れた姿見てんのにな。湯気のせいか?妙にエロかったよな」
「それな!」
「……煩悩滅却」
「それにしても乱刀は全く恥ずかしがらなかったな」
「それな」
「俺達って魅力ねぇのかな?」
その後も悶々と語る男子陣だった。
一方、湯船に落とされた刃羅は梅雨の舌が首に巻きつけられたまま湯船に浸かっていた。
「……そろそろ外して頂けませんの?」
「駄目よ」
「まぁまぁ梅雨ちゃん。洸汰くんを助けるためだったんだしさ」
芦戸が梅雨を宥める。
それに梅雨は悩まし気に眉を顰めて、舌を外す。
「それにしても、思いっきり男風呂覗いたよね。刃羅」
耳郎の言葉に刃羅以外の全員が頷く。
刃羅は腕を組んで、顔を顰める。
「男の裸を見た程度で騒ぎ過ぎなんだよ」
「「「いやいやいや!!」」」
耳郎、葉隠、芦戸が顔の前で手を振る。
百と麗日は顔を真っ赤にして、俯いている。
「そろそろぉ出よぉ。次はぁB組でしょぉ?」
「そ、そうですわね!行きましょう!」
ここぞとばかりに百が立ち上がり、脱衣所に向かう。
それにゾロゾロと続いていく刃羅達。
体を拭きながら、芦戸が刃羅に声を掛ける。
「ねぇ刃羅」
「なんや?」
「……見た?男子の……」
「何をじゃ?」
「な、何って……!?」
キョトンと首を傾げる刃羅に芦戸が顔を赤くしてウジウジする。
刃羅以外の女子は芦戸が何を聞きたいのか気づき、顔を赤くする。
それに遅れて漸く刃羅も気づく。
「あぁ……チン『わーわーわー!!』もぐ!」
耳郎が顔を真っ赤にして叫びながら、刃羅の口を押さえる。
すぐに放されたが。
「別に気にしてなかったのでね。誰が湯船にいたとかも覚えてないのだよ」
「そ、そうだよね!」
「た、助けるので一杯一杯だったよね!」
顔を真っ赤にして刃羅の言葉に相槌を打つ芦戸達。
着替え終えて、外に出ると丁度男子達も脱衣所から出てきた。
ちなみにジャージではなく、各々の身軽な私服である。
『……』
何故か黙り込む一同。
そこに遅れて刃羅と梅雨も脱衣所から出てきた。
「どしたアルか?」
「何かあったの?」
「な、なにもないよ!」
「お、おお!何もないぜ!」
首を傾げる刃羅と梅雨。
それに芦戸と切島が引きつかせた笑みで否定し、他のクラスメイト達も頷く。
そこに上鳴がスッと手を上げる。
「あ、あのさぁ乱刀……」
「あんだよ?」
「だ、誰かのさぁ……見た?」
「「「「!?」」」」
上鳴の言葉に男女関係なく緊張が走る。
それに刃羅は呆れた顔をして、
「見たかもしれんが……興味もない奴の裸など覚えてるわけないだろうが」
『ぐべら!?』
刃羅の言葉に胸を押さえて崩れ去る上鳴を始めとする男子数名。
それを見下ろす刃羅は、
「どうでもええ男の裸程度で恥ずかしがるわけありまへんよって」
『もうやめてえぇ!?俺達が悪かったですうぅ!!』
「哀れ……」
更に止めを刺したのであった。
常闇が腕を組んで無念そうに呟き、口田が頷く。
自分達も同じ様に盛り上がっていたこともあり、崩れ去った男子達に同情する芦戸達。
そこに障子が前に出る。
「どうしたでござるか?」
「……いや、確信があるわけではないが、もしかしたらお前の胸を見たかもしれない。すまん」
複製した口で話し、頭を下げる障子。
それに刃羅は首を傾げる。
「別にぃ謝ることじゃぁないよぉ?偶々ぁ見たくらいでぇ」
「それでもな」
「では、これで許すのである」
「感謝する」
刃羅はポンポンと障子の腕を叩く。
障子はそれに軽く頭を下げて、去っていく。
「吾輩達も部屋に戻るのである」
「そうね」
「どんまい上鳴」
「「どんまい!」」
刃羅はもはや崩れ去る男子に見向きもしなかった。
それを梅雨、麗日、百が憐れむように見つめながら付いて行き、芦戸、葉隠、耳郎が上鳴の背中をポンと叩いて去っていく。
「ちくしょーー!!」
上鳴の叫びは合宿所に悲しく響き渡るのであった。
部屋に戻った女性陣は布団を決めて、体を投げ出すのであった。
「ふわ~!布団サイコー!」
「皆と一緒に寝れるなんて楽しいよね」
「トランプ持ってきたよ!」
「流石!」
葉隠がトランプを取り出して、盛り上がる芦戸達。
刃羅は窓側の布団を陣取り、今は窓を開けて窓辺で涼んでいる。
コンコン!
そこにノックが響く。
「はーい!」
『マンダレイだけど、入っていいかしら?』
「は、はい!どうぞ!」
突然のプロヒーローの来訪に驚く芦戸達。
麗日が扉を開けて、入ってきたマンダレイはヘッドセットを外していた。
「悪いね、突然」
「いえいえ!」
「それで、どのような……」
「刃羅ちゃんだっけ?洸汰を助けてくれたお礼とコレ」
首を傾げて用事を尋ねる百。
マンダレイは刃羅に顔を向けて、理由を話しながら手に持っているものを掲げる。
それを見た瞬間、刃羅は目を見開いて、マンダレイの目の前に飛び出す。
「ラーメン!!」
マンダレイが持っていたのはカップ麺だった。
刃羅はキラキラと目を輝かせながら、マンダレイを見上げる。
それにマンダレイは苦笑しながらカップ麺を渡す。
「お湯!お湯!」
刃羅は部屋に備え付けられたポットに駆け寄る。
しかし、顔に梅雨の舌が巻き付けられて後ろに倒れる。
「へぶ!?」
「まだマンダレイさんのお話が終わってないわよ。刃羅ちゃん」
「あぁ、いいよ」
「洸汰くんは大丈夫なんですか?」
「うん。落下の恐怖で失神しただけ。すぐに目を覚ますよ」
「よかった~」
「悪いね。心配かけちゃって」
「いえ!?元はと言えば峰田さんが悪いので!むしろ、こちらが謝りませんと!」
『うんうん』
芦戸が心配そうに洸汰の事を尋ね、マンダレイの説明にホッとする。
苦笑してマンダレイが謝罪するが、それに百が慌てて否定し、麗日達が同意して頷く。
その間、刃羅はカップ麺の包装を外し、お湯を入れる準備をしていた。
「それじゃあね。明日も早いから、早く寝なよ」
『ありがとうございます!』
「お湯~!」
マンダレイが去っていき、刃羅以外の女子は頭を下げる。
刃羅はお湯を注ぎ、割り箸を割って、出来上がりを待っている。
その様子に百達は呆れたようにため息を吐く。
「マイペースにも程がありますわね」
「プロヒーローの前でよくあんな態度取れるなぁ」
「爆豪よりも大物になりそうだよね」
刃羅はカップラーメンを持って、先ほどまでいた窓際に戻る。
そしてしゃがんだ姿勢でカップ麺を食べ始める。
「ふ~、ふ~……ズズズ……ンマンマ……んふ~♪」
カップ麺を幸せそうに食べる刃羅の姿に、梅雨達は顔を見合わせて笑う。
その後はトランプをして盛り上がる梅雨達。
刃羅はカップ麺を食べながら、その様子を眺めていた。
21時を過ぎて、明日は5時過ぎに起床・集合であることや疲れから眠気が襲ってきたため、早めに就寝することにした。
そして電気を消し、布団に潜り込む一同。
1時間もせぬ間に全員が寝息を立て始める。
刃羅唯一人を除いて。
施設全体が寝静まった深夜。
「ん……ケロォ……」
梅雨はふと目を開ける。目を擦りながら、起き上がる。
どうやらトイレのようだ。
梅雨は暗闇に目が慣れてきたので周囲を見渡すと、
「ケロ?刃羅ちゃん?」
自分の向かい側に寝ていた刃羅の姿が布団になかった。
キョロキョロと部屋の中を見渡す。
すると、部屋の角に掛け布団が盛り上がっているのが見えた。
掛け布団に近づいて中を覗くと、その中には刃羅がいた。
足を抱えている状態で座っており、その上から掛け布団を被って体を隠すように寝ていた。
「……ケロォ……」
その姿に梅雨はバスの中での話を思い出した。
刃羅の前に座り込んでしまい、ポロポロと涙が流し始める梅雨。
先ほど布団で横になっていたのは、梅雨達を心配させないようにするためだった。
だから皆が寝るまで我慢していたのだ。恐らく、それまでは気が気でなかっただろうと梅雨は思う。
「……私は刃羅ちゃんに何をしてあげられる?どうすれば刃羅ちゃんを助けてあげられる?」
寝ることすら、寝ている時でさえ気を抜けない刃羅。
安心して寝れるにはどうすればいい?自分には何が出来る?
考える梅雨だが、何も解決策は浮かばない。
「ケロォ……ごめんなさい……ごめんなさい……」
無力な自分が情けなく、無意識に謝罪の言葉が出る梅雨。
その後も泣き続け、泣き疲れたのかいつの間にか寝てしまっていた。
しかも布団に戻った記憶がないのに、なぜか布団で横になっていた。
それに首を傾げるが、百達に聞いても誰も知らなかった。
ということは刃羅しかいないのだが、梅雨は聞くことが出来なかった。
梅雨は色々と悶々と抱えたまま、2日目を迎えるのであった。