ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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尾白ファンの皆様、申し訳ありません


#3 入学

 入学当日。

 

「じゃ!行ってくる!」

「行ってらっしゃい。頑張ってね」

「うん!」

 

 ニパッ!と笑顔を見せて流女将に挨拶する刃羅。

 それに流女将も笑顔で手を振って見送る。

 手を振りながら走り出す刃羅。

 

「いっよいよだぁ♪いっよいよだぁ♪どっんな子達がいっるのっかなぁ♪」

 

 変な歌を歌いながらスキップしているかのように小走りで学校に向かう刃羅。

 ブレザーの制服、スカートの腰にはたくさんの武器バッジを付けているがブレザーで見えにくい。

 

 学園に到着した刃羅は【1-A】を目指す。

 そして巨大な扉の前で足を止めて扉を一気に開ける。

 

「おっはよう!」

 

 中にはすでに半数近いクラスメイトが席に座っていた。

 元気よく入ってきた刃羅に微妙な視線を送ってくる。

 

「ん~?なんか暗いねぇ?学校ってこんなところだったっけぇ?」

 

 刃羅はクラスメイト達の反応に首を傾げる。

 それにクラスメイトの数人は訝し気な目を向ける。

 

「……なんか変な奴だなぁ」

「うぜぇ」

「騒がしそうな奴だ」

 

 肘が妙な形をしている黒髪の男、試験の時に見ていた逆立ったベージュ髪に目つきの悪い男、そしてカラスみたいな鳥頭の男が呟く。

 刃羅にもそれは届いていたが、その前に見知った顔を見つけた。

 

「あ!蛙の子!」

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「梅雨ちゃんだね!あたし、乱刀刃羅!刃羅でいいよ!」

「よろしく刃羅ちゃん。いきなりだけど質問いいかしら?」

「なに!?」

「試験の時と随分印象が違うのだけど、それがあなたの『個性』なの?」

「う~んとねぇ……そうでもあるけど違うかな!試験の時って、俺っちのことかぁ?あぁん!」

『!?』

「それよ」

 

 いきなり話し方や雰囲気が変わった刃羅に教室にいた全員が目を見開く。

 梅雨も少し驚きながらもなんとか普通に返す。

 

「不思議な子なのね。刃羅ちゃんは」

「うっせぇな!『個性』溢れる今の世の中で不思議もくそもあるかってんだ!あぁん!」

「それもそうね」

 

 今にも殴りかかりそうな雰囲気を醸し出す刃羅に、梅雨は特にビビることもなく答える。

 そこに眼鏡をかけた男が近づいてくる。

 

「君!なんだその粗暴な態度は!ヒーロー科志望の者がそんな態度ではいけないぞ!」

 

 刃羅は眼鏡の男に向く。優雅な笑みを浮かべながら。

 

「それは申し訳ありませんでしたわ。ご不快な思いをさせてしまったようで申し訳ありません」

「……はい?」

 

 腰の前で手を重ねて、90度に頭を下げて謝罪する刃羅。

 言葉遣いや所作に優雅さが溢れており、注意した眼鏡男や周囲の者達はまたポカンとする。

 刃羅は頭を上げる。

 

「わたくし、ナイフになるとどうも粗忽者になってしまいまして……」

「……ナイフになる、だと?」

 

 刃羅の言葉に腕を組んで訝しむ眼鏡男。

 それに刃羅は答えず、優雅に微笑んでいるだけだった。

 眼鏡男はさらに言葉を続けようとしたが、その時にドアが開いて誰かが入ってくる。

 あのモジャ毛の少年だった。

 

「君は!」

「デク……!」

 

 眼鏡男はモジャ毛少年に向かって歩いていく。

 刃羅も話しかけたかったが、時間も近づいていたので席に着くことにする。

 同じクラスであることが分かったのだ。いつでも時間はある。

 

「では、梅雨様。また後で」

「梅雨ちゃんでいいわよ」

 

 刃羅は優雅に梅雨に頭を下げて、自分の席に向かう。

 刃羅は窓側の最後列だった。

 席に座った刃羅は目の前の女子に声を掛ける。

 

「おはようございますわ。わたくし、乱刀刃羅と申しますわ」

「おはようございます。私は八百万百と申しますわ」

 

 ペコリとお互いに頭を下げ合う巨乳淑女の2人。

 モジャ毛少年の方に目を向けると、茶髪の少女も加わっており楽しそうだった。

 そしてチャイムが鳴る。

 すると、寝袋に入った男が現れた。

 

「ハイ。静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね」

 

 寝袋を脱いだ男は黒髪に髭を生やした草臥れた男だった。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 自己紹介をした相澤は寝袋から何かを取り出す。

 

「早速だが、体操服に着替えてグラウンドに出ろ」

 

 それにクラスメイト達は混乱するが、言われた通りに体操服を受け取り、着替えに行く。

 刃羅も服を受け取って、更衣室に向かう。

 

「……『イレイザー・ヘッド』とは。これは厄介なことだな」

 

 ポツリと刃羅は呟く。

 ステインから聞いていた情報と一致していた。

 

「さてさて、何人残るのやら」

 

 刃羅は楽しそうに笑う。

 

 

 

 刃羅はズボンの腰回りにバッジが付いたベルトを着けて、グラウンドに出る。

 

「個性把握テストォ……!?」

 

 相澤の言葉にクラスメイト達は唖然とする。

 入学式やらを無視してのいきなりテストだ。

 

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。これを『個性』ありで行ってもらう。爆豪」

 

 相澤はベージュ髪の男、爆豪を呼んだ。

 

「『個性』使って思いっきり投げてみろ。早よ」

 

 爆豪にボールを渡し、円の中に立たせる。

 

「んじゃまぁ」

 

 爆豪は思いっきり腕を振り上げて、投げる。

 

「死ねえ!!!」

 

 思いっきり物騒な言葉を吐きながら、爆音を響かせて投げる。

 ボールはかなりの距離を飛ぶ。

 それを相澤の手元にある機械が計測して爆豪に見せる。

 700mを超えていた。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 それにクラスメイト達は楽しそうに盛り上がる。

 それを刃羅は笑顔を浮かべてはいるが、内心では冷めた目で見ていた。

 

(自分の限界を知るのに「面白そう」ってかぁ?のんびりしてんなぁ。卵様は)

 

 ふとモジャ毛の少年に目をやると、何やら冷や汗を掻いていた。

 それを訝しげに見ていると、相澤の雰囲気が変わった。

 

「面白そう……か。ヒーローになるための3年間。そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

 相澤の言葉に一瞬で押し黙るクラスメイト達。

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分にしよう」

『はああああああ!?』

「生徒の如何は先生の自由。ようこそ。これが……雄英高校ヒーロー科だ」

 

 相澤の言葉にクラスメイト達様々な反応を見せる。

 

「これから3年間雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。Plus Ultraさ。全力で乗り越えてこい」

 

 そしてテストが始まった。

 

 50m走。

 

「『個性』ありならよぉ!全力で行くぞゴラァ!」

「また荒くなった……。どういう方ですの?」

 

 刃羅は大声で叫びながら靴を脱いで裸足になる。

 そしてスタートした瞬間、足の裏に刃を生み出して、スケートの如く滑る。

 

「おらおらおらおらぁ!!」

 

 どんどんスピードを上げてゴールする。

 タイムは4秒33。

 

「まぁ、こんなもんか」

 

 続いて握力。

 記録は72Kg。

 もちろんこれには『個性』は使っていない。

 

「高いのか?これは」

「『個性』使ってないのでしょ?なら、高いわ刃羅ちゃん」

「そうか」

「……(あいつか。ヒーロー殺しに攫われてたって奴は)」

 

 中学に通っていない刃羅は成長具合が分からなかった。

 なので梅雨に聞いたりしていた。それを相澤が見ているのには気づいたが、特に問題はないだろうと無視した。

 

 立ち幅跳び。

 飛ぶ瞬間に足から剣を伸ばして、距離を伸ばす。

 記録は23m。

 

 反復横跳び。

 これは『個性』使わず。

 記録は81点。

 

 ソフトボール投げ。

 記録は『個性』なしで、78m。

 

「……良いのか悪いのかさっぱり分からない!」

「かなり良いかと思いますわ」

「そうね。ケロ」

 

 プゥ!と頬膨らませる刃羅に百と梅雨は凄いと教える。

 それに首を傾げる刃羅。逆に何故分からないのか首を傾げる2人。

 その時、刃羅は指を押さえて痛みに耐えているモジャ毛の少年が目に入った。

 

「ねぇ!梅雨ちゃん!」

「なにかしら?」

「あの子名前なんだっけ?」

「あの子?あぁ。緑谷出久君だったかしら」

「ふ~ん……」

「どうしたの?」

「いやぁ、痛そうだなぁって!」

 

 随分と体を酷使する『個性』のようだ。

 正直、何故ヒーロー科に来たのか分からない。

 その後もテストは続く。

 

 上体起こし。

 記録は58回。

 

 長座体前屈。

 記録は57cm。

 

 持久走。

 『個性』ありで記録2分10秒。

 

 これで全種目終了した。

 

「ふむぅ。あまりパッとせんのぅ」

「十分だと思うわ。刃羅ちゃん」

「そうじゃろうか?」

「それよりもお前の話し方の変わり方が気になって仕方ねぇよ」

「そうそう!」

 

 梅雨と話していると、赤髪を逆立てて歯が鋭い男とピンクの肌に触角を生やした女が声を掛けてきた。

 

「こればっかりはのぅ。儂には直す気がない」

「ないんかい!まぁ、いいけどよ。って、俺は切島鋭児郎だ!」

「私は芦戸三奈!よろしくねー!」

「乱刀刃羅じゃ」

 

 切島と芦戸は人懐っこい笑みを浮かべる。

 刃羅も自己紹介をして、4人で駄弁る。

 そこに相澤が声を掛ける。

 

「んじゃ、パパっと結果発表」

 

 それに一部のクラスメイト達で緊張感が高まる。

 

「ちなみに除籍は嘘な」

『……!?』

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

 乾いた目で笑う相澤。

 

「はぁーーーー!?」

 

 それに一部の者が叫び声を上げる。

 

「あんなの嘘に決まってるじゃない……。ちょっと考えれば分かりますわ……」

 

 叫んだ者達に百が呆れた顔で突っ込んでいる。

 

「よかった~!」

「全く驚かせんなよなぁ」

「それはどうかのぅ」

 

 芦戸と切島もホッと息を吐く。

 そこに刃羅がボソッと呟く。

 聞こえた梅雨達3人は刃羅に目を向ける。

 

()()()()嘘になっただけじゃろうな。恐らく緑谷はソフトボールで腕を壊しておったら、除籍されたじゃろうなぁ」

「マジで!?」

「儂ならそうするの。使うたびに骨折する個性なぞヒーローとして何が出来るというんじゃ?むしろ、ここで除籍にした方があ奴は長生きするじゃろうな」

「……そういう考え方も出来んのか」

「『合理的』。担任はその言葉が好きなようじゃな。つまり、ヒーローとしての合理から外れれば容赦はせんじゃろうな」

「「……」」

 

 切島と芦戸はゴクリと唾を飲む。

 梅雨も納得した様に頷いている。

 

「ヒーローは夢だけで追えるものではない、ということじゃな」

 

 そう言うと刃羅は結果を確認する。

 

「ふむぅ。4位か。まだまだ精進せねばの」

「十分だろ」

「十分だよ」

「十分だわ」

 

 刃羅の呟きに突っ込む3人。

 それは刃羅の耳に届くことはなかった。

 

 

 

 カリキュラムなどを確認した刃羅は自宅に向かって歩いていた。

 ふと、足を止めて路地裏に入る。

 しばらく中に進むと、

 

「お久!お師匠!」

「……ハァ……静かにしゃべれ」

 

 路地裏のごみ箱の上にステインがいた。

 ステインの反応に刃羅は腕を組んで拗ねたように唇を尖らせる。

 

「冷たいではないか。久しぶりに会ったというのに。結婚してください」

「ふん。……無事に入学出来たようだな」

「当たり前だ。あの程度、簡単に入学できる。それに周りもまさしく『偽物』の卵ばかり」

「……やはり変わらんか」

「ただ……」

「ん?」

「今年から教師にオールマイトがいるらしい」

「!!」

 

 刃羅の言葉にステインは目を見開く。

 流石にそこまで情報は入っていないらしい。

 

「それに担任にはイレイザー・ヘッドだ。他のクラスはともかく、私のクラスは当たりかもしれんな」

「……そうか。オールマイトが教師に……」

「ああ。だからこそ、お師匠。今の内に外の掃除を済ませてしまえ。中は私が見る。そして結婚しよう」

 

 最後の言葉を華麗に無視するステイン。

 1人で少し考え込むと、刃羅に背を向ける。

 

「……帰るのか?」

「ああ。お前の言う通り、今の内に粛正を進めようと思ってな。しばらくは会えんだろう。達者でな」

 

 一方的に別れを告げて、去っていくステイン。

 その背中を見送る刃羅はため息を吐く。

 

「……少しくらい反応せいや」

 

 いじけながら路地裏から出る刃羅。

 

 帰ってからしばらくは不機嫌で何を聞かれても答えない刃羅に、流女将は首を傾げながら晩御飯の準備をするのだった。

 

 


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