緑谷達は神野区に到着した。
百の提案で変装して、発信地点を目指す。
その途中で相澤達の謝罪会見を見たが、ただ責め立てるマスコミや周囲の雰囲気に異様さを感じた。
そして廃倉庫がアジトだと突き止めることに成功する。
「電気も点いてねーし、中に人がいる感じもしねぇな」
「木を隠すなら森の中。廃倉庫を装っているわけだな」
工場入り口には人が出入りしている気配はなかった。
「他に出口があるのかな?」
「あの靄の奴だろ?」
「あっ、そっか」
黒霧の存在を思い出して、納得する緑谷達。
黒霧の力があれば、中に直接ワープすればいいだけだった。
その後、倉庫の裏手に回り、隣の建物と塀の隙間に入り込んで、入り口や中の様子を窺える場所を探す。
倉庫の窓が塀の近くにあり、飯田と轟が足場になって、切島と緑谷が中を暗視鏡で窺う。
中を覗き込んだ2人は倉庫の奥に無造作に安置されている脳無達を発見し、慄いてしまう。
「あんな無造作に……管理出来るなんて……あの化け物は……敵連合にとっては使い捨ての兵器なのか……?」
「ここに爆豪がいてもよ、あれ動かされたら戦闘は避けれねぇぞ……!」
「くそ……!」
「分かっただろう!俺達では無理なんだ!」
「ここは一度離れましょう」
「っ!?ちょっと待て。なんか表が騒がしいぜ?」
飯田と百が作戦中止を提案するが、その時切島が倉庫の表が騒がしくなってきていることに気づく。
それに緑谷達も何だ?と確認しようとすると、倉庫の表が突如爆発した様に崩れる。
「「うおおおおお!?」」
あまりの衝撃に身を屈める緑谷達。
そして衝撃が収まったことを確認して顔を上げる。
「ど……どうなっているんだ!?」
「いててててて……!」
切島と百が塀をよじ登り、中を確認する。
「Mt.レディにギャングオルカ……ジーニストまで……!?」
「トップヒーローが2人も……!それに警察の機動隊ですわ……!」
倉庫の中ではジーニスト、ギャングオルカ、Mt.レディが脳無を引っ張り出して確保していた。
「うえええ!気持ち悪い!これ本当に生きてんのぉ?こんな楽な仕事でいんですかね?ジーニストさん。オールマイトの方に行くべきだったんじゃないですか?」
「難易度と重要性は切り離して考えろ。新人。それに見てみろ」
「え?」
ジーニストの言葉にレディは脳無が入っていた箱に目を向ける。
そこには黒い靄が渦巻いていた。
「何です?あれ」
「あれが例の《ワープゲート》だろう。向こうの奴がこいつらを向こうに呼び出そうとしていたわけだ」
「うわっ!ギリギリぃ」
「機動隊!メイデンを!まだいるかもしれない。ありったけ頼みます!」
「今の所、脳無しか確認出来ぬな」
ジーニストは機動隊に指示を出して、脳無の拘束を始める。
その間もギャングオルカが油断なく周囲を確認する。
その様子を緑谷達は目を見開いて眺めていた。
「ヒーローは俺達よりもずっと早く動いていたんだ……!」
「すんげぇ……!」
「さぁ!すぐに去ろう!俺達にもうすべきことはない!」
「『オールマイトの方』……かっちゃんはそっちにいるのか……」
飯田は何事もなく終わりそうでホッとする。
それに緑谷がジーニスト達の会話を思い出して、爆豪の事を考える。
「オールマイトがいるなら尚更安心です!さぁ、早く……!」
直後。
ドン!!!!
緑谷達の真後ろで一瞬爆発した。
しかし、その一瞬で倉庫半分は跡形もなく吹き飛び、近くのビルも崩壊した。
何より、あまりにも濃厚な死の気配が緑谷達に降り注ぎ、ただ必死に息を潜めることしか出来なかった。
「せっかく弔が自分で考え、自身で導き始めたんだ。出来れば邪魔はよして欲しかったな」
緑谷達は必死に震えと吐き気を抑えることしか出来なかった。
本能で理解してしまった。
『見つかれば殺される』と。
そして緑谷は理解する。
(冗談だろ……オールマイト……あれが……オール・フォー・ワン……!)
オールマイトが話していた、いずれ戦うことになる巨悪。
オールマイトですら倒しきれなかった悪の根源にして、《ワン・フォー・オール》のオリジンが生まれた理由。
それがいきなり後ろに現れた衝撃は大きかった。
すると、突如オール・フォー・ワンが拍手をする。
本来なら街の雑音に掻き消される程度の音。それが今は耳元で叩かれているかのように聞こえた緑谷達。
「流石No.4!!ベストジーニスト!!僕は全員を消し飛ばしたつもりだったんだ!!」
明るい口調だが、内容は物凄く恐ろしかった。
「皆の衣服を操り、瞬時に端に寄せた!判断力、技術……並の神経じゃない!」
オール・フォー・ワンはすぐ目の前に倒れているジーニストを称賛する。
ジーニストは息も絶え絶えで、オール・フォー・ワンを睨みつける。
「……こいつ……」
確かに敵連合にはブレーンがいるとは聞いていた。オールマイトに匹敵する強さとも聞いていた。
しかし、己の安全が保障されない限り表には姿を見せないのではなかったか!?
話が違う。
しかし、出てきた以上、接敵した以上、やることは変わらない。
そうジーニストは覚悟を決める。
そして攻撃しようとした瞬間、胸に衝撃が走る。
「相当な練習量と実務経験故の強さだ。君のは……いらないな。弔とは性に合わない『個性』だ」
一瞬でトップヒーローを倒したオール・フォー・ワン。
それに緑谷達は冷や汗と吐き気と恐怖で全く体が動かなかった。
バッシャア
「げっほ!!くっせぇぇ……」
水が撒かれたような音がした直後、緑谷達の耳に探し求めていた声が聞こえた。
「んっじゃあこりゃあ!!」
「悪いねぇ。爆豪君」
「あ!!?」
爆豪はオール・フォー・ワンを睨みつける。
すると、爆豪の後ろに死柄木達が爆豪同様突然現れる。
「また失敗したね。弔」
オール・フォー・ワンが死柄木に優しく声を掛ける。
「でも、決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。こうして仲間も取り戻した。この子もね……君が大切な駒だと考え判断したからだ。いくらでもやり直せ。そのために僕がいるんだよ」
まるで大切な教え子、もしくは息子のように死柄木に声を掛けるオール・フォー・ワン。
「全ては君のためにある」
優しい声、優しい口調。
しかし、その内容はどうしようもなく異質だった。
緑谷は爆豪がそこにいることのみを考えて、どう助けるかを模索する。
そして動こうとした時、飯田が緑谷に掴みかかる。切島は百が掴んで引き留める。
それに冷静になる緑谷だった。
「……やはり……来てるな」
『!!』
オール・フォー・ワンの言葉に飯田達は一瞬呼吸が止まる。
そこに現れたのは、オールマイトだった。
オールマイトは上空から一気にオール・フォー・ワンに掴みかかる。
「全てを返してもらうぞ!!オール・フォー・ワン!!」
「また僕を殺すか。オールマイト。それにしても、ずいぶん遅かったじゃないか」
パァン!!
2人がぶつかり合った事で巨大な衝撃波が周囲に放たれる。
それに爆豪や死柄木達は吹き飛ばされる。
「うおおおお!?」
緑谷達も互いにしがみついて衝撃波に耐える。
「バーからここまで5kmあまり……僕が脳無を送り、優に30秒は経過しての到着……衰えたね。オールマイト」
「貴様こそ。なんだその工業地帯のようなマスクは!?だいぶ無理してるんじゃあないか!?」
2人は軽口を言い合う。
オールマイトは体の調子を確認して、ステップを踏み、そして殴りかかる。
「5年前と同じ過ちは犯さん。オール・フォー・ワン。爆豪少年を取り返す!そして貴様を今度こそ刑務所に叩き込む!貴様が操る敵連合もろとも!!」
「それはそれは。やることが多くて大変だな。お互いに」
オール・フォー・ワンが左腕を掲げた瞬間、腕が膨れ上がる。
左腕から空気の塊のようなものを放ち、オールマイトに直撃する。
腕から発射されたとは思えないほどの爆風を起こしながら、オールマイトは数棟のビルを貫き、薙ぎ倒しながら吹き飛ばされる。
「『空気を押し出す』+『筋骨発条化』『瞬発力』×4『膂力増強』×3。この組み合わせは楽しいな……増強系をもう少し足すか」
オール・フォー・ワンはなんでもないことのように話す。
「さて、ここは逃げろ。弔。その子を連れて」
次にオール・フォー・ワンは右手指から赤い爪のようなものを伸ばして、気絶して倒れている黒霧の体に突き刺す。
「黒霧。皆を逃がすんだ」
「ちょ!あなた!彼、やられて気絶してんのよ!?よく分かんないけど、ワープを使えるならあんたが逃がしてちょうだいよ!」
「僕のはまだ出来たてでね。マグネ。転送距離は酷く短いうえに……彼の座標移動と違い、僕の元に持ってくるか、僕の元から送り出すしか出来ない。それに送り先は人。なじみ深い人物でないと機能しない」
すると、黒霧の頭部と両手の靄が巨大化する。
「さぁ、行け」
「……先生は……!」
死柄木がオール・フォー・ワンに声を掛けた瞬間、遠くで何かが飛び上がる。
そしてオール・フォー・ワンのすぐ横にオールマイトが降りてくる。
「逃がさん!」
「常に考えろ。弔。君はまだまだ成長できるんだ」
死柄木に飛び掛かるオールマイトに、オール・フォー・ワンが割り込む。
「行こう死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトを食い止めてくれている内に!」
コンプレスが同じく倒れている荼毘に触れて圧縮する。
そして爆豪に顔を向ける。
「駒持ってよ」
「めんっ……ドクセー」
それに爆豪は不敵に笑うが、冷や汗が流れる。
コンプレスやトゥワイス達が爆豪を捕らえようとした時、
上空から敵連合に向けて『風』が襲い掛かる。
「「「「!!」」」」
「はーはっはっはっ!!!ド派手だな!!だな!!」
「いやいや……これは流石にヤバイでしょ……」
飛び下がって風を避けたコンプレス達や爆豪は、上空から響く声の方向に視線を向ける。
「なんだぁ!?」
「誰よ!?あいつら!」
現れた2つの人影に爆豪は顔を顰めて、マグネは目を見開く。
爆豪とコンプレス達の間に下り立ったのは、白い髪を靡かせる濃緑の軍服女性に灰色のコートとハットを被った男だった。
新しく現れた2人にオールマイトやオール・フォー・ワンも戦いを止め、そして緑谷達も意識を向ける。
「……何者だ……?」
「……あの2人は。それに……まさか……君が現れるとは……」
ザリ。ザリ。とオール・フォー・ワンとオールマイトに近づく人影。
その姿にオールマイトも死柄木達も目を見開く。
「……なんで……お前が……!?」
「……ハ……ハァ……決まっているだろ」
現れたのは目元を覆う白い包帯に首元には赤いマフラー。そして全身に大量の刃物を装備した男。
「粛清だぁ……!正しき社会を作るために……!」
その声と言葉に緑谷、飯田、轟も恐怖を忘れて目を見開く。
「やはり……ハァ……歪んだ信念で生み出されるのは、無作為な破壊だけだ」
今回の事件のきっかけになった男が、遂に血を舐めに来た。
「お前も粛清対象だが……今回は後回しだ」
男は背中の刀を抜いて、オール・フォー・ワンに切っ先を向ける。
「お前を粛清する……!オール・フォー・ワン!!」
ヒーロー殺し『ステイン』。
敵連合の象徴とも言われた男が、敵連合に刀を向けたのだった。
これにより戦場は更なる混乱に包まれる。
緑谷達はステインが現れたことは驚愕だったが、今の状況こそチャンスではないかと考える。
「どうする……?」
「馬鹿を言うな……!確かに混乱しているが、奴らが僕達を襲わない確証はないんだぞ!?」
「襲う気はないわよ」
『!!』
突如、響いた声に心臓が飛び出たのではないかと錯覚したほど驚いた緑谷達5人。
見上げると、緑谷達を隠していた壁の上に、赤い布で頭を覆い、顔に赤い髑髏の仮面を被っている女性と思われる人がいた。ステインと似た黒のノースリーブの服と赤いパラッツォパンツに黒のブーツを身に着けている。右手には刀を持っており、背中にももう1本の刀を携えて、腰にもナイフが2本が差さっている。
「こっち見ない。それに声も出すんじゃないわよ」
女性は右手に刀を握ったまま、死柄木達がいる戦場に目を向けている。
「あんた達の事は知ってるわ。何でここにいるのかもね。ステインも私達も、狙いは敵連合」
ごくりと唾を飲んで言葉を聞く緑谷達。
「私達があの子供と敵連合を離す。あんた達は上を目指して準備なさい」
「……上?」
「早くなさいよ」
「あ……!」
女性は左手で背中の刀を抜いて、飛び出していく。
それを唖然と見送った緑谷達は言われたことを必死に考える。
「ど、どうするんだ……!?」
「なんだか分かんねぇが……今は爆豪だ……!」
「このままじゃオールマイトが全力で戦えない!助けるんだ!僕達で!」
「だが、どうやって……!?」
「この乱戦の中を戦わずにですよ!?」
緑谷は必死に考える。
『上を目指して準備なさい』
その言葉にハッとする緑谷。
(オールマイト、そしてステイン達はどうやってここに来た?)
そして答えに辿り着く。
「皆……!見つけた!戦闘にならず、同時に僕らも逃げれる!」
「聞かせろ」
轟の言葉に緑谷は作戦を説明する。
それに飯田達は顔を顰めるが、確かに一番可能性が高い。
「飯田さん……!」
「博打ではあるが……この状況では一番リスクが少ない。上手く行けば全てが好転する!……やろう!!」
飯田の言葉に全員が顔を引き締める。
戦場では完全に混戦状態だった。
「くっそがぁ!なんなんだよ!!てめぇらはぁ!!」
「我らは『ステイン親衛隊』である!ある!!小僧!!邪魔だ!!邪魔だ!!」
「はいはい……子供は後ろに居てね」
「あぁん!?」
カンパネロとマガクモは爆豪を無視して、敵連合に攻撃を開始する。
「ちょ!?急になんだよ!こいつら!?ゆっくりだな!」
「ステ様ぁ~!!殺させてぇ~!って、きゃあ!?」
「ちぃ!こいつら!?」
「なんなのよぉん!」
「……」
「ヒーロー殺しぃ?なんであいつがっ!?」
敵連合は完全に混乱している。トガはステインの出現に興奮してカンパネロの風に吹き飛ばされ、鎧関はずっと黙り込んでおり、鎧を纏って防御はしても攻撃はしなかった。
死柄木は首を掻きむしりながらステインを睨んでいたが、後ろから迫る殺気に気づいて飛び下がる。
「あら。感が良いのね」
「てめぇ……!なんなんだよ……!」
「『エスパデス』。敵連合が集めたかったステイン信者っよ!!」
エスパデスは死柄木に刀を振り、死柄木が手を動かした瞬間、距離を取る。
「カンパネロ!!」
「いいだろう!!だろう!!」
エスパデスが叫ぶと、カンパネロが死柄木に向かって《鎌鼬》を放つ。
死柄木はそれを転がって躱す。
「くっそがぁ……!」
目を血走らせてエスパデス達を睨みつける。
エスパデスはトゥワイス達を牽制しながら、爆豪に近づく。
「準備なさい」
「あぁ?」
「すぐにあんたのお仲間が上に現れるわ。いつでも行けるようにしときなさい」
「仲間だぁ?……なにもんだテメェ……?」
「どうでもいいでしょ?『No.1になる男』くん?」
エスパデスは近づいて来たマグネに刀を振る。
爆豪はエスパデスの戦う姿に既視感を感じた。
エスパデスはそのまま前に出て、トゥワイス達に斬りかかる。
「全然近づけねぇぞ!!行けるよ!」
「荼毘がいねぇのがきつい!!」
近接メインばかりで爆豪に近づけなかった。
頼みのオール・フォー・ワンはオールマイトとステインに押され気味である。
「ステイン!!乱刀少女はどこだ!?」
「知らんな」
「ちょっとこれはマズイね……」
オールマイトもステインといがみ合ってはいるが、攻撃までは仕掛けない。ステインはパワーはないが、右手の刀と左手のナイフ、そして恐ろしいほどの身のこなし。
衝撃波を放とうにも死柄木達を巻き込みかねないし、どちらか一方は確実に躱す。
殺せないが圧倒的なパワーを持つオールマイト。圧倒する力はないが殺しに来るステイン。その2人を相手にしながら、血を流さないように気を張り続けながら、死柄木達のサポートもしなければならない。
「脳無を呼び戻すかな?っとぉ!」
「させぬわぁ!!」
「増えたところで粛清することには変わらん」
オールマイトの拳を右腕で防ぎ、左腕を骨で覆ってステインの刀を防ぐ。
その時、突如近くの壁の一部が吹き飛び、巨大な氷が出現する。
その音と氷に全員が目を向ける。
氷の上を高速で移動する数人の人影。
緑谷、飯田、切島だった。
「カンパネロ!!マガクモ!!」
「承知している!!いる!!」
「やれやれ……若者って凄いねぇ」
エスパデスの声にカンパネロが鎌鼬を、マガクモが糸を放って敵連合に攻撃を仕掛ける。
オール・フォー・ワンが緑谷達に右手を伸ばそうとしたが、ステインとオールマイトが迫り防御に専念せざるを得なくなる。
そして戦場の真上に緑谷達が達した時、切島が下に手を伸ばして叫ぶ。
「来い!!!」
『すぐにあんたのお仲間が上に現れるわ』
エスパデスの声が頭に反芻する爆豪。
「仲間なんかじゃ……ねぇえ!!」
ボボオォン!!
最大出力で爆発させて、空へと舞い上がる爆豪。
そして手を伸ばして、切島の手をしっかりと握り締める。
「……バカかよ」
それに敵連合達は慌てふためく。
「どこにでも……っ……現れやがる……!」
「あんたが自分から突っ込んだんでしょ?」
「!!」
呻くように叫ぶ死柄木にエスパデスが斬りかかる。
「あんたが殺してやろう、邪魔してやろうって突っ込んでおいて、何驚いてるのよ?オールマイトに似てる男だって知ってるでしょ?そりゃ来るわよ」
「……っ!」
「さて、これで邪魔はもういない」
エスパデスが死柄木に右手の刀を突き付ける。
「あんたは私が粛清する」
「……ふざけるなぁ!!」
我を忘れて叫ぶ死柄木。
エスパデスは死柄木に斬りかかり、死柄木は触れようと両手を伸ばす。付かず離れずを繰り返す2人。
コンプレス達は何とか爆豪を追いかけようとするが、カンパネロ達が妨害する。
オールマイトはオール・フォー・ワンを殴り飛ばしながら、緑谷達を見上げる。
「マジかよ……全く!」
緑谷達は戦場外れの崩れたビルに着地する。
それを見届けたオールマイトにエスパデス達。
「……これでクラスメイトとしての義理は果たしたわよ」
エスパデスは小さく呟いて、死柄木を見据える。
そこに入れ替わる様に戦場に現れる黄色い弾丸。高速で飛び、トゥワイス達を気絶させていく。鎧関は全くダメージは無く、倒れているトゥアイス達を庇う様にカンパネロ達の前に立つ。
現れたのはグラントリノだった。
「遅いですよ!」
「お前が速すぎんだ。それにしても随分と厄介な状況じゃねぇか」
「ステインの狙いはオール・フォー・ワンと敵連合です!悔しいですが、今は敵連合を!!」
「わぁったよ!」
グラントリノは死柄木とトガ、鎧関に目を向ける。
「それにしても緑谷!!!っとに益々お前に似てきとる!!!悪い方向に!!」
グラントリノがオールマイトを指差しながら怒鳴る。
「本当に情けないことに……これで心置きなくお前を!!倒せる!!」
オールマイトがオール・フォー・ワンに歩み寄る。
「やられたな。綺麗に形勢逆転だ」
オール・フォー・ワンが動こうとするとステインが斬りかかる。
「本当に厄介だな!」
「死ね」
「断るよ!」
ドン!と上空に向けて衝撃波を放ち、オールマイトとステインに距離を取らせるオール・フォー・ワン。その隙をついて爪を伸ばして、倒れているマグネに突き刺す。そして『個性』を強制的に発動する。
するとトガに向かって死柄木達が引っ張られていく。
「「!?」」
「え?やー!そんな急に来られてもぉ!ぐぇ!?」
トガは飛んできたトゥワイスやコンプレスとぶつかって黒霧の靄に吸い込まれる。
死柄木や鎧関も靄に向かって飛んでいく。
「鎧関。マグネを頼むよ」
ステインが爪を斬り落とそうと迫っているのを見て、鎧関にマグネを放り投げる。直後にステインに爪を斬り落とされる。
鎧関はマグネを掴み、靄に吸い込まれる。
「待て……駄目だ!先生!」
「逃がさん!!逃がさん!」
「おいおい……無茶するねぇ」
「死になさい!」
カンパネロとマガクモが鎌鼬と糸を放ち、エスパデスとグラントリノが飛び掛かる。
「邪魔をしないでくれよ」
再び衝撃波を放つオール・フォー・ワン。死柄木の目の前に着弾して弾け、死柄木を靄へ吹き飛ばし、エスパデス達も後ろへ吹き飛ばされる。
そして靄が消えていく。
「君は戦い続けろ。弔」
オールマイトがオール・フォー・ワンに殴りかかる。ステインは衝撃を避けるために少し後ろに下がる。
「僕は弔を助けに来ただけだが。戦うと言うなら受けて立つよ」
オール・フォー・ワンはオールマイトの拳を弾く。
オール・フォー・ワンの背後からステインが迫る。それに爪を伸ばして牽制する。
そこにさらにエスパデス、カンパネロ、マガクモ、グラントリノも飛び掛かるが、縦横無尽に右手の爪を振るい、左腕で衝撃波を放って近づかせないオール・フォー・ワン。
マガクモは衝撃波で吹き飛ばされてビルに叩きつける。
「マガクモ!」
「ところでオールマイト。もう1人の生徒は救わなくていいのか?
「!!?」
オール・フォー・ワンの言葉にオールマイトは目を見開く。
それにエスパデスが慌てたように飛び掛かる。
「生徒に戦わせたままでいいのか?」
「黙りなさい!」
「ふははは!随分と乱れたねぇ。エスパデス……乱刀刃羅」
バン!と小さい衝撃波で弾き飛ばされるエスパデス。地面を数回バウンドして、体を起こす。
「乱刀少女……なのか?」
「そんなわけないでしょ」
「自分を偽るのは良くないよ」
オールマイトの言葉を即座に否定するエスパデス。
それをオール・フォー・ワンがあざ笑うかのように言葉を紡ぐ。
「泣ける話じゃないか。爆豪君を助けるために偽りの日常を捨てたんだろ?二度と雄英に戻らない覚悟でここに来たんだろ?」
「……乱刀少女」
「……」
「それに比べて情けないなぁ。オールマイト。守るべき生徒と助けるべき生徒に助けられて」
オール・フォー・ワンの言葉に両手を握り締めるオールマイト。
「それにしても君には驚かされたよ。乱刀くん。まさかヒーロー殺しの元に行くなんてね。
「……は?」
オール・フォー・ワンの言葉に動きを止めるエスパデス。
カンパネロやオールマイトも訝しむ。
「ヴィランとヒーローの間に生まれた君にはとても興味があってねぇ。こっちに来てくれないかと色々と手配したんだよ」
「手配……ですって……?」
「そうさ。君のお母さん、スライシスが君の『個性』で悩み、苦しんでいるのは知っていた。だから『いなくなっても仕方がないこと』とか『危険を事前に食い止めることは悪ではない』ってアドバイスしてあげたのさ。ヴィラン時の知り合いとは縁が切れなかったみたいだからねぇ。お金を渡せば簡単に靡いたよ。薄情な友達だったね」
オール・フォー・ワンの言葉に目を見開くオールマイト。
「そして飛び出した夜にも、その友達の元に行ってたのさ。そこで『個性』をブーストさせる薬を飲ませて、暴走させてみたんだ、もちろんヒーローが駆けつける。そこにわざわざ僕が出向いて、そのヒーローの『個性』を強制発動させて殺させたのさ!」
「貴様ぁーーーー!!!」
オール・フォー・ワンは両腕を広げて、自慢げに語る。
そこにオールマイトが怒りに叫びながら飛び出して、殴りかかる。それを受け止めるオール・フォー・ワン。
エスパデスは、刃羅は目を見開いて、ただ固まっている。
「言っておくけど。お父さんには僕は何もしてないよ?まぁ、ただ……」
オールマイトと押し合いながら、楽し気に話し続けるオール・フォー・ワン。
「僕の仲間が暴走したのは……本当に申し訳ないと思ってるよ」
それを聞いた瞬間、
「うああああああああああ!!!!」
「刃羅!!」
「……ハァ……」
刃羅は叫びながら、オール・フォー・ワンに斬りかかる。飛び出した刃羅にカンパネロも続いて飛び出し、ステインも顔を顰めてオール・フォー・ワンに向かって飛び出す。
オールマイトを弾き飛ばして、刃羅に顔を向けるオール・フォー・ワン。
刃羅は仮面の下の目を血走らせて、殺意全開で刀を振るう。
オール・フォー・ワンは両腕に骨を纏って刀を砕く。刃羅は右脚を太刀に変えて蹴り上げるが、それも腕で防がれる。脚をすぐさま戻して、両腕をクレイモアに変える。
その時、オール・フォー・ワンの左腕が僅かに膨らみ、刃羅に左手に向ける。
クレイモアを振り上げていた刃羅は、それでも腕を振り下ろそうとする。そこにカンパネロが横から肩で突進して、刃羅を押し飛ばして場所を入れ替わる。
「未熟者!!」
「そう言ってやるなよ」
「がぁ!?」
顔を顰めてオール・フォー・ワンに右手を突き出して鎌鼬を放とうとしたカンパネロ。それより先にオール・フォー・ワンから衝撃波が放たれて、カンパネロはくの字に吹き飛ばされる。
オール・フォー・ワンの後ろからステインが、正面からオールマイトが殴りかかる。
それをオール・フォー・ワンは全身から衝撃波を放って、全員を吹き飛ばした。
「ぬううう!!」
「ぐ……ちぃ……!」
「ああああ!?」
「うおお!?」
オールマイトは踏ん張って大きく吹き飛ばされるのを防ぎ、ステインも刀を地面に刺して滑りながら耐える。
グラントリノは空中で体勢を立て直し、刃羅は踏ん張れずに端まで吹き飛ばされる。
「貴様はどこまで!!踏みにじれば気が済むのだ!!」
「お前だって、そうじゃないか」
オールマイトが叫びながら左拳を振るう。
するとオール・フォー・ワンの目の前にグラントリノが出現する。それにオールマイトは目を見開くが、もはや腕は止められなかった。
グラントリノの顔に拳が当たった瞬間、オールマイトの腕が跳ね返されたように弾かれる。
「すみません!」
「僕はお前が憎い。かつてその拳で僕の仲間を次々と潰し回り、お前は平和の象徴と謳われた」
ステインが斬りかかるが爪を伸ばして牽制する。
「僕らの犠牲の上に立つその景色」
オール・フォー・ワンの左腕が膨れ上がる。
それを見た瞬間、オールマイトは左手でグラントリノを引き寄せて、右腕を構える。
「さぞや良い眺めだろう?」
「DETROIT SMASH!!!!!!!」
ドン!!!
衝撃波を放つと同時に拳を叩きつけて無理矢理相殺するオールマイト。
「ヒーローは多いよなぁ。守るものが」
「黙れ」
「!!」
オールマイトがオール・フォー・ワンの左腕を掴む。
「貴様はそうやって人を弄ぶ!壊し!奪い!つけ入り支配する!日々暮らす人々を!幸せを望む人々を!理不尽が嘲り嗤う!!私はそれが!!」
右手のグラントリノを放り投げて拳を握る。
「許せない!!!」
オール・フォー・ワンのマスクを砕きながら地面に叩きつける。
刃羅はその姿を、亀裂が走る髑髏の下で歪む瞳に、確かに焼き付けたのだった。
オールマイトと緑谷。
オール・フォー・ワンと死柄木。
ステインと刃羅。
それぞれの師と弟子が集まりました。
緑谷、死柄木はすぐさま退場しましたが(-_-;)
次回はいよいよです。頑張ってステイン達を輝かせたいと思います!