爆豪を見事に救出した緑谷達は戦闘域から脱出し、一般人の避難に紛れていた。
「轟君!大丈夫!?」
『ああ。奴の背面方向に逃げてる。それにプロの避難誘導に従ってる』
「良かった!僕達は駅前にいるよ!奪還は成功したよ!」
轟達の無事にホッとする緑谷。
その横で爆豪は顔を顰めて立っていた。
「いいか。俺ぁ助けられたわけじゃねぇ!一番良い脱出経路だっただけだ!」
「ナイス判断!」
爆豪の言葉に切島が親指を立てる。
「しかし……まさかヒーロー殺しとその仲間に助けられるとは……」
「乱刀さんも近くにいるのかもしれない……!」
飯田の言葉に切島が頷き、緑谷が刃羅の名前を上げる。
緑谷の言葉に爆豪が顔を歪める。
「おい……あのイカレ女がどうしたって?」
その言葉に緑谷達は悔し気に顔を歪める。
「病院を退院した後に行方不明になったんだ。今も見つかってなくて、ヒーロー殺しに攫われた可能性があるって話してたんだ」
その言葉に爆豪は先ほど自分に声を掛けてきた髑髏面の女を思い出す。
「あの髑髏女……」
「え?」
「あの髑髏女がイカレ女じゃねぇのかって言ってんだよ」
「「「!?」」」
爆豪の言葉に緑谷達は目を見開いて固まる。
その事実は受け入れがたいものだった。
「そ、そんなわけあるかよ!?」
「そうだ!!彼女はステインから逃げ出してきたんだぞ!?それがなぜ一緒に行動しているんだ!!」
「逃げ出したっつうのが嘘だっただけかもしれねぇだろが」
「それは……」
「嘘だったら何で雄英に入ったんだよ?」
「スパイとかでも何でも考えられるだろうが」
反論が上手く思い浮かばない飯田達。
特に緑谷は保須でのステインに向けていた刃羅の表情を思い出していた。
それに刃羅はステインの思想に少なからず賛同しているとも言っていた。そして刃羅の両親の事もある。
緑谷達が答えを出せずに考え続けていると、空を数台のヘリコプターが飛んでいった。
すると駅前の巨大モニターに戦場が映し出された。
『悪夢のような光景!突如として神野区が半壊滅状態となってしまいました!!現在オールマイト氏が元凶と思われるヴィランと戦闘中です!!え?ちょ、ちょっと待ってください!?オールマイト達のすぐ傍にいるの、ヒーロー殺し!?』
キャスターの言葉にニュースを見ていた全員が驚きに目を見開く。
『ほ、本物なのでしょうか!ここから見える限りでは本人と特徴が一致しているように思われます!もし本物であるのならば、オールマイトの殺害を狙っているのでしょうか!?』
遂にステインの存在が公に晒される。
ボロボロのオールマイトの姿に多くの者が不安に包まれる。
特にA組の面々は本当にステインが脱走していることで、緑谷達の推測の信憑性が増してしまった。
しかし、その後の映像でそれらは砕かれていくことになる。
オール・フォー・ワンはオールマイトを吹き飛ばして立ち上がっていた。
「弔がせっせと崩してきたヒーローへの信頼。決定打を僕が打って良いものか……」
オールマイトは膝を着いて荒く息を吐いている。
それを見て刃羅は嫌な予感がした。
(オールマイトの攻撃に耐えるなんて……!?それにオールマイト。あの姿……戦闘時間に制限がある!?しかもあれだけのダメージ!限界なのね!?)
刃羅は2本のナイフを抜いて駆け出す。
それを見てステインも飛び出し、オール・フォー・ワンに迫る。
「そろそろ邪魔だな」
「ぬかせぇ!」
「しぃ!」
ステインと刃羅は同時にナイフを投擲する。
それをオール・フォー・ワンは体を逸らして躱す。ステインと刃羅は外れたナイフを掴む。初めからナイフを交換することが目的だったように。
そして一気に距離を詰めて、同時に斬りかかる。
刃羅が右手のナイフを逆手に持ち替えて、オール・フォー・ワンの顔面目掛けて斬りかかる。その反対からステインが刀で突きを放つ。それを顔を逸らして躱すオール・フォー・ワン。するとステインと刃羅はナイフと刀を手放す。刃羅が刀を、ステインがナイフを掴む。そして、そのまま斬りかかる。
オール・フォー・ワンは後ろに飛んで躱す。それにステインがナイフを投擲し、刃羅がステインに刀を投げながら、オール・フォー・ワンの左脚に左下段蹴りを放つ。もちろん足先には刃を生やしている。
オール・フォー・ワンは空中に浮いてナイフと蹴りを躱すが、そこにステインが飛び掛かり刀とナイフを振るう。その隙に刃羅はオール・フォー・ワンの背中側に回り、オール・フォー・ワンの背中に向かってナイフで突きを放つ。
「中々の連携だねぇ!」
オール・フォー・ワンは2人の連携を素直に称賛するも、右手の爪を伸ばして刃羅を攻撃し、左腕で衝撃波をステインに向けて放つ。
ステインは空中にいたため回避出来ずに吹き飛ばされ、刃羅も顔を逸らすが仮面の左半分と頭に巻く布が引き裂かれ、さらに腹部に2本の爪が突き刺さり、後ろに弾かれる。
引き裂かれた布の下からは銀色に輝く髪が現れる。
「まっず……!」
後ろに吹き飛ばされたのを利用して、左手で顔を隠しながら崩れたビルに向かって走って姿を隠した。
しかしオールマイトにははっきりとその顔が見えていた。
「やはり……乱刀少女……!」
そして他にも刃羅に気づく者達がいた。
『ど、どういうことなのでしょうか!ヒーロー殺しはオールマイトではなく、黒いヴィランに攻撃を仕掛けました。仲間割れでしょうか!?そしてヒーロー殺しの仲間と思われる者も黒いヴィランに攻撃を仕掛けますが、吹き飛ばされてしまいました!』
「今の髪って……!?」
「本当に……乱刀くんなのか……!?」
緑谷達は目を見開いて、隠れたと思われるビルの映像を見つめる。
すぐに映像はオールマイトに戻されるが、緑谷達は刃羅の事で頭が一杯だった。
そしてそれはそれぞれの家でテレビを見ていたA組クラスメイトや相澤も見逃さなかった。
「刃羅ちゃん!?」
「マジで……!?」
「乱刀……!」
「あいつ……!」
梅雨はずっと握っていた携帯を床に落とし、思わずテレビに手を伸ばしていた。
「……刃羅ちゃん……?」
見間違うわけはない。
あの綺麗な銀色の髪は刃羅だ。ずっと傍で、そして林間合宿でトリートメントするときに手で触って間近で見ていたのだから。
なんでそこにいるのかは分からない。なんでステインといるのかは分からない。
今、梅雨の胸に沸き上がる思いは唯一つ。
「無事で……よかったわ……」
状況はともかく、無事でいる。
それが分かっただけでも嬉しかった。
「お願い……無茶はしないで……帰って来て……」
テレビから目を離さず、ただただ祈る。
床に落ちた携帯に麗日を始めとするクラスメイト達から大量の着信とメールに気づくのは1時間後のことだった。
崩れたビルに飛び込んだ刃羅は荒く息を吐く。
「はぁ……はぁ……バレたやろか?」
「ギリギリってところね」
「……ストレディ」
刃羅の目の前にストレディが携帯でテレビを見ながら現れる。
「顔は写ってないわ。多分、今すぐバレることはないでしょ。はい。仮面と布に武器よ」
左手からポコポコと物を取り出すストレディ。
それに刃羅はため息を吐きながら受け取る。
「マガクモ達は?」
「マガクモはすでに回収済み。カンパネロは「まだやる!」って言ってるわ。怒ってたわよ~」
「……じゃろうな」
頭に布を巻き直す刃羅。ストレディも手伝い、きつめに縛る。そして新しい髑髏の仮面を顔に着ける。背中の鞘を放り出して、新しい刀とナイフを装着する。さらに薙刀を担ぐ。
その時、
ドォン!!!
「「!!」」
轟音が鳴り響き、バッ!と戦場を確認する刃羅達。
オール・フォー・ワンが左腕を突き出しており、その先には骸骨のように萎んだオールマイトが左拳を突き出して立っている光景だった。オールマイトが立っている場所からV字に地面が抉れており、そこからオールマイトがオール・フォー・ワンの衝撃波を防いだと推測する刃羅。
「は?誰あれ?」
「あれがオールマイトの本当の姿だべ」
「はぁ!?」
「騙し騙しやっとったんやろ。出るわ。オールマイトも限界や。それにステインもどう反応するか分からん!」
刃羅はビルから飛び出す。
オールマイトの様子を見ると、オールマイトの後ろに人がいるのが見えた。
「……避けれねぇよなぁ。狙ってやりやがったな。あのクソ野郎!」
戦場に下り立ち、走ろうとする刃羅。
その時、視界の端に赤いものが入る。
「!?……ステイン」
立っていたのはステインだった。
ステインはオールマイトを見て、固まっている。
「……オール……マイトぉ……?」
ステインはオールマイトの姿を受け入れられなかった。
本物の英雄と認めたオールマイトが、骸骨のように萎んでいる。自分が唯一殺してされていいと認めた男が、骸骨のように萎んでいる。
血塗れで、今にも倒れそうになっている。
絶対のヒーローの姿にステインは絶望を感じていた。
自分の足元が崩れ去るような感覚に襲われるステイン。
その時、
「死ね」
刃羅が薙刀を振り上げて、オール・フォー・ワンの背後から斬りかかる。
オール・フォー・ワンは振り返りながら躱し、右手の爪を刃羅に伸ばす。刃羅は薙刀を振り回しながら爪を全て弾き、踊る様にオール・フォー・ワンに迫る。
「オールマイト!!戦えないなら、後ろの女を連れて下がりなさい!!」
「……乱刀……少女……」
「そんな死んだ顔のヒーローなんて……誰も望んでないのよ!!」
叫びながら薙刀を振り、蹴りを繰り出す刃羅。
「ステイン!!あんたもやる気無くなったなら帰れ!!」
「元気だねぇ。乱刀刃羅。そんなに僕を殺したいかい?」
オール・フォー・ワンは左腕を膨らませる。
それを見た瞬間、刃羅は後ろに下がりながらナイフを投擲する。
「殺したいに決まってるじゃない!」
「それはそれは。欲望に正直なことだ。君も雄英生でヒーローを目指してるのになぁ!」
「ちぃ!」
衝撃波を横に飛んで躱そうとする刃羅。しかし、僅かに右足に掠ってしまう。
「っ!」
痛みを耐えながら両足と左手を地面に着いて滑る。
「それにそれはヒーロー殺しの思想に反するんじゃないのかな?」
「でしょうね。だから何よ?」
「ほう?」
しゃがんだ姿勢のまま刃羅はオール・フォー・ワンを睨む。
「私は私。ステインの人形じゃないわ。私はあんたを殺す」
「それはそれは!ヴィランへようこそ。エスパデス」
「それくらいじゃないと私はオールマイトを救えない」
「……なに?」
刃羅の言葉に両腕を広げていたオール・フォー・ワンは動きを止める。
「私にはヒーローと違って守りたいものなんてほとんどない。だから、ヒーローみたいには戦えないわ」
「……」
「そしてあんたみたいな化け物を殺さずに抑え込む力もない。殺すことで精一杯」
刃羅は薙刀を両手で握り締める。
「本物の英雄を取り戻すには誰かが血に染まらねばならない。そうよね?ステイン」
「……刃羅」
「私は……
「っ!?……乱刀少女!」
「贋物だけの社会にしないために。徒に力を振りまく犯罪者を減らすために。私は体を血に染める。だから死ね。社会のガン!!」
「言ってくれるじゃないか」
オール・フォー・ワンに飛び掛かる刃羅。
薙刀を横振りして斬りかかるが、オール・フォー・ワンが左腕を肥大化して振り払う。刃羅は後ろに滑りながらも、薙刀を体を捻りながら全力で投擲する。
体を反らして躱すオール・フォー・ワン。
その姿をオールマイトは見つめて続けていた。
「……本当に……情けない……」
両手を握り締めて、刃を食いしばる。
その時、
「負けないで……」
背後で瓦礫に挟まれた女性が泣きながら声を上げる。
「オールマイト……お願い……救けて」
その言葉が耳に、心に響いたオールマイト。
(救けなければならない……!彼女を……乱刀少女を……!ここで……こんなところで折れるわけにはいかんのだ!!!)
「もちろんさ」
オール・フォー・ワン、刃羅はオールマイトから噴き上がった気迫に戦いを止めて目を向ける。
「ああ……!多いよ……!ヒーローは……守るものが多いんだよ!オール・フォー・ワン!!そして、君も守りたいんだ!!乱刀少女!!」
右手を握り締めると右腕だけがズム!と太くなるオールマイト。
「だから……負けないんだよ」
不敵に笑うオールマイト。
その姿に刃羅は改めてステインが心酔し、緑谷と爆豪が目標とする理由も理解した。
オール・フォー・ワンはオールマイトに意識を向ける。
「渾身。それが最後の一振りだね。オールマイト」
フワッと上空に浮かび上がるオール・フォー・ワン。
「手負いのヒーローが最も恐ろしい。腸をまき散らし迫ってくる君の顔。今でも夢に見る。2・3振りは見といた方がいいな」
右腕を膨らませるオール・フォー・ワン。
その時、薙刀を振り上げたステインがオール・フォー・ワンの後ろに現れる。
「社会を乱す巨悪。死ね」
ステインは薙刀を振り下ろし、膨らました腕を振って衝撃波で払うオール・フォー・ワン。
ステインは後ろに吹き飛ばされるが、
「遅いわよ」
「ハァ……うるさい」
「なら、さっさと行きなさいよ」
刃羅がステインの背後に飛び上がり、受け止める。それにステインは薙刀を放り投げると、すぐさま両足で刃羅の太ももを踏みつけて、再びオール・フォー・ワンに飛び掛かる。
刀とナイフを抜き、オール・フォー・ワンを攻めるステイン。一度地面に下りた刃羅も薙刀を拾って、オール・フォー・ワンに飛び掛かる。
「あんなオールマイトがヒーローでいいのか?ヒーロー殺し」
「己を顧みず、他を助けようとする。朽ち衰えた姿で尚戦おうとするあの姿こそヒーローそのもの!!貴様などに奪わせるものかぁ!!」
ステインは力強く叫び、武器を振るう。オール・フォー・ワンは躱しながら、衝撃波を放とうと左腕を伸ばした瞬間、刃羅が薙刀で腕を斬りつける。
「ぐぅ!?」
「斬った!!」
「させない!!」
左腕を肥大化させて薙刀を押し返したオール・フォー・ワン。
「化け物過ぎるわよ!?」
「お前が未熟なだけだ!」
「ここで貶さないでよね!」
顔を顰めながら地面に下りる刃羅とステイン。
再び飛び上がろうとすると、オール・フォー・ワンに炎が襲い掛かる。
「「「!!」」」
オール・フォー・ワンが腕を振るい、衝撃波で炎を吹き飛ばす。
「その姿は何だぁ!!オールマイトぉ!!」
現れたのはエンデヴァーとエッジショットだった。
「あの脳無達をもう制圧したか。流石No.2ヒーロー」
オール・フォー・ワンがエンデヴァーに賛辞を贈る。
そこに再びステインと刃羅が斬りかかる。
エッジショットはオールマイトに近づき、その横を通り過ぎて背後の女性の元に向かう。
「彼女は任せてくれ。ジーニスト達はシンリンカムイが救けている。ここだけじゃない。周りにもヒーロー達が駆けつけている!オールマイトの負担を少しでも減らす!」
エッジショットが体を細くして女性を引っ張り上げる。
「皆がオールマイトの勝利を信じている。願っている。この程度しか手助け出来ないが……勝ってくれ!オールマイト!」
エッジショットの言葉にオールマイトは周囲に目を向ける。
エンデヴァーが炎を放ち、ステインと刃羅が絶えず飛び上がって斬りかかり、さらにカンパネロも飛んできて鎌鼬を放つ。
その全員が時折オールマイトに目を向ける。
『そろそろ力は溜まったか?』と。
そして多くの人の声が聞こえた気がしたオールマイト。
事実、日本中がオールマイトに応援の声を上げている。
「いい加減、煩わしい」
「「「「!!」」」」
その声を掻き消すかのようにオール・フォー・ワンが真下に向けて衝撃波を放ち、周囲に爆散させる。
エンデヴァーやカンパネロ、ステイン達は耐えきれずに吹き飛ばされる。
オールマイトにも爆風が襲いかかる。
全力で耐えようとした時、目の前に人影が現れる。
「ううううあああああ!!!」
「……乱刀少女!」
刃羅は両腕を広げて背中で爆風を受けて、オールマイトを庇う。両足に刃を生やして地面に突き刺して固定する。
爆風が収まると刃羅はダランと両腕を垂らす。その背中は服が破けてボロボロになっていた。
「精神の話はよして、現実の話をしよう」
オール・フォー・ワンが静かに声を上げる。
「『筋骨発条化』『瞬発力』×4『膂力増強』×3『増殖』『肥大化』『鋲』『エアウォーク』『槍骨』今までのような衝撃波では体力を削るだけで確実性がない」
ゴキゴキ!と音を立てて、右腕が膨れ上がって変形していく。
「確実に殺すために。今の僕が組み合わせられる最高・最適の『個性』達で……君を殴る」
巨大な上に所々棘や岩のようなものが生えている異形の腕。
刃羅は目を見開いてすぐさま動こうとするが、足が動かなかった。そこにオールマイトが刃羅の腕を掴み、後ろに放り投げる。
オール・フォー・ワンはすでに腕を振り被りながらオールマイトに迫っていた。
オールマイトも腕を振り被り、左足を上げる。
そして思いっきり踏み込んで拳を突き合わせる。
その瞬間、衝撃が走り2人の周囲の地面が吹き飛ぶ。刃羅も頭を抱えて吹き飛び、瓦礫に叩き込まれる。
僅かにオールマイトが押し負ける。
その瞬間、オールマイトの右腕が細くなり、左腕が太くなる。そして上半身を捻りオール・フォー・ワンの右腕を紙一重で躱しながら、左フックをオール・フォー・ワンの顔面に叩き込んだ。
「っ……!!」
「らしくない小細工だ。誰の影響かな?」
しかしオール・フォー・ワンは倒れず、左腕を掲げて膨らませる。
「浅い」
「全ては……正しき社会のために……!!」
ステインが刀とナイフを振り、膨れ上がったオール・フォー・ワンの左腕を斬り裂く。
オール・フォー・ワンの左腕は血を噴き上げて、腕が萎む。
その攻撃で刀とナイフが砕ける。
「オーーールマイトオオオオオ!!!!」
ステインの叫びに応えてか、オールマイトは再び右腕に力を流し込んで太くする。
「!!」
「そりゃあ!!腰が!!入ってなかったからなああ!!!」
オールマイトは歯軋りをして、全身を捻じって右腕を振る。
「オオオオオオオオオ!!!!!」
そしてオールマイトの拳が、オール・フォー・ワンの顔に突き刺さる。
「UNITED STATE OF SMASH!!!!」
腕を振り抜いて、地面にクレーターが出来る程の威力でオール・フォー・ワンを地面に叩きつける。
巻き上がる衝撃波にステインは吹き飛ばされていく。
土煙で視界が悪く、結果を息を飲んで見守る刃羅やエンデヴァー、日本中の人々。
そして土煙が晴れて眼に映ったのは、倒れ伏すオール・フォー・ワンとよろめきながらも立っているオールマイトの姿だった。
オールマイトはゆっくりと左腕を上げて、全身を膨れ上がらせて拳を突き上げる。
間違いなく、勝利の立ち姿だった。
その姿に日本中が沸き上がる。
オールマイトの姿に、刃羅は少しだけ寂しく感じていた。
「……終わったかぁ」
刃羅は痛む体に活を入れて立ち上がる。
倒れ伏すオール・フォー・ワンの姿に、刃羅はもはや殺意は沸き上がらなかった。憎しみはある。なのに、殺す気になれなかった。
「……終わったか~」
刃羅は再び同じ言葉を呟きながら歩く。
同じ言葉ではあるが、込められた意味は全く違うものだった。
オールマイトは腕を下ろして、体も元に戻る。
そして両手を見下ろし、自分の中から力が消えていくのを感じていた。
そこにグラントリノが近づいて来た。
「やったな。俊典」
「……はい」
静かに頷くオールマイト。
その顔には喜びは一切なかった。
「オールマイトォ……」
「「!!」」
聞こえた声に顔を向けるオールマイトとグラントリノ。
クレーターの外にステインが立っていた。その横には刃羅とカンパネロも立っていた。
「ステイン……乱刀少女……!」
「そういやぁ……お前さん達が残ってたなぁ」
グラントリノが顔を顰めて構える。
その光景はテレビにも写されていた。
『ヒーロー殺し、ステインとその仲間がオールマイトに近づいて行きます!!ど、どうなるのでしょうか!?』
その光景に緑谷達も息を飲む。
「乱刀さん……!」
「まさか……ここでオールマイトを!?」
「いや……ヴィランを殺す気かもしんねぇ!?」
しかし、次の光景に目を見開いて固まる。
ステインがオールマイトに向けて、片膝を着き頭を下げた。
刃羅やカンパネロもそれに倣う。
その姿にオールマイトとグラントリノ、そして周りにいたエンデヴァー達も目を見開く。
「偉大なる英雄に敬意を……ハァ……やはりオールマイトこそ真の英雄だ」
「……」
「……しかし、いつまでも英雄がいるわけではない。それはオールマイトも例外ではない」
「……投降をしてくれないか?」
「それは出来ん。貴方がいなくなるからこそ、贋物も犯罪者も見逃すわけにはいかない!!これからも粛清は続けていく!!」
オールマイトの言葉に首を振って立ち上がるステイン。
刃羅達も立ち上がり、オールマイトに背中を向ける。
「待つんだ!乱刀少女!」
オールマイトの呼びかけを無視して歩き続ける刃羅。
オールマイトは追いかけようとするがよろけてしまい、足が止まってしまう。
それにエンデヴァーとグラントリノ、エッジショットがステイン達に迫る。
「今度こそ監獄に叩き込んでやる!!ヒーロー殺しぃ!!」
「逃がさん!!」
エンデヴァーが炎を放とうとした時、オールマイトとステイン達の間にカン!カン!と何かが投げ込まれる。
直後、閃光と白煙が戦場を包み込む。
「ぐぅ!?」
「しまった!?」
視界を潰されてしまうエンデヴァー達。
閃光弾で僅かにふらついたヘリコプターの風が白煙を吹き飛ばしていく。そして視力が回復したオールマイト達の眼に映ったのは、誰もいなくなった戦場だった。
「おのれぇ!!」
「まだ仲間がいたのか……!」
「……行ってしまった」
エンデヴァーとエッジショットは悔しがるが、オールマイトは掴み損ねた絶望感に襲われる。
再び刃羅はオールマイトと緑谷達の前から、姿を消した。
実際にあの場にステインがいたら、どういう反応をするんでしょうね?(-_-;)
片膝を着くまではしないかなぁと思いましたが、構成中にイメージがはっきりと浮かんでしまって頭から離れなくなりましたので(-_-;)