ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#33 絶対に諦めない

 力強く宣言した刃羅は地面を強く蹴り出し、緑谷に斬りかかる。

 

「乱刀さん……!?」

「ちぃ!」

 

 緑谷はまだ顔に困惑を浮かべており、反応が遅れる。

 それを見た相澤が援護しようと飛び出す。

 

 しかし、それこそが刃羅の狙いだった。

 刃羅は突如体の向きを変えて、左手から迫ってくる相澤に向けて右手の刀を投擲する。

 

「!!」

「あんたは庇わないといけないものね」

 

 刀は相澤の腹部目掛けて飛んでくる。

 相澤は無理矢理体を捻りながら横に移動して刀を躱すが、僅かに左脇腹に掠って斬られる。そこに刃羅が一瞬で距離を詰めてくる。左手の刀で突きを放つが、虎が殴りかかってきて中断させられて、後ろに飛び下がる。

 

「そこまでだ!我らはお前を救けに来たのだ!」

「誰が頼んだのよ!!私は求めてないわ!」

「ぐぅ!」

 

 虎は刃羅を呼び止めるが、刃羅は鋭く刀を振るい拒絶する。虎は《軟体》で体を捩りながら、高速で振るわれる刀を躱す。

 そこにエクレーヌやエクトプラズム達も参加する。

 刃羅は下がるどころか逆にエクレーヌ達に飛び掛かる。

 

「「!!」」

 

 エクレーヌ達は目を見開くが、刃羅が右腕を刀に変えたのを見て狙いに気づく。

 

「イレイザー封じ……!」

「お主らなら一緒に封じられてしまうからのぉ。イレイザーも『個性』を止めずにはおれんよなぁ!!」

 

 相澤の『個性』《抹消》は視界に入った者全ての『個性』を封じる。それは仲間の『個性』も含まれてしまう。そのため1対多ならば最も発揮するが、多対1では最も使い辛くなる。

 それを刃羅は狙った。

 

「参ったね!」

「ヌゥ!」

 

 エクトプラズムが斬られて消滅し、エクレーヌは急いで距離を取ろうとするが、それを確認した瞬間刃羅は近くにいた切島と砂藤に飛び掛かる。

 

「っ!?しまった!」

「砂藤下がれ!!俺が出る!!」

「切島!?」

「駄目だ!!避けろ切島!!今のお前では斬られる!」

 

 切島が体を硬化して砂藤の前に出る。それに相澤が走り出しながら叫ぶ。『個性』を消そうにも切島も視界に入っており、消したところで左手の刀は消せない。

 エクレーヌも同じく直線状に切島がいるため、光弾を放って躱されると切島に当たるため、攻撃が出来なかった。

 そこに水の蛇と氷結が刃羅に迫り、刃羅は舌打ちをして攻撃を中断して切島から距離を取る。刃羅と切島の間を氷結と水の蛇が通り過ぎる。

 

「くっ!」

「この人数だ。いくらお前でも勝ち目はねぇだろ」

「それが分からないあなたではないでしょう」

 

 轟が右手に炎を、流女将が体の周囲に水の蛇を待機させて刃羅に声を掛ける。

 刃羅はその言葉を無視して、エクレーヌに向かって飛び出す。エクレーヌは両手を突き出して光弾を放とうとした瞬間、刃羅は右腕を蛇腹剣に変えて振るう。エクレーヌは攻撃を中断して回避するが、その隙に距離を詰める刃羅。左手の刀で突きを放ち、それも紙一重で躱されるが、左前腕から鎌を生やして追撃する。

 

「!!」

「くっ!」

 

 エクレーヌに避ける余裕はないと判断した相澤は『個性』を発動して、刃羅の『個性』を解除する。『個性』が解除された刃羅は刀で斬り返そうとするが、今度は青山のレーザーと瀬呂のテープが飛んでくる。刃羅は身をしゃがませて地面を転がることで回避し、その隙にエクレーヌが刃羅から距離を取る。起き上がろうとする刃羅に飯田が迫り、蹴りを放つ。

 両腕を交えて蹴りを防いだ刃羅は後ろに飛ばされる。数回地面でバウンドしながら転がり、飛び上がって体勢を立て直す刃羅。そこに今度は黒影と緑谷が両腕を広げて飛び掛かってくる。

 刃羅は両足を揃え身を捻りながらスパイラルカッターで高速回転する。刀を両手で持ち、腕を伸ばして回転しているので竹トンボのように空中を移動して躱す。

 それでも黒影は無理矢理掴もうとするが、スパイラルカッターを解除した刃羅に思いっ切り顔を蹴られて弾かれてしまう。

 

「ちっくしょ~。突っ込むタイミングがねぇ!」

「こっちは逆に人が多くて、攻められる数が限られちまう……!」

「それにしても、あれだけの攻撃をあそこまで躱せるのかよ」

「もはや修羅……だな」

 

 切島と砂藤が顔を顰めて唸る。瀬呂と常闇は刃羅の動きに冷や汗が出る。

 

「イレイザーヘッド。助かったよ」

「ああ……しかしあいつ……」

「緑谷くん……!」

「うん……今、()()()2()()()()()()()()()……!」

 

 緑谷の言葉に飯田と相澤が頷き、他の者達は目を見開く。

 刃羅は奥の壁際まで下がり、少しだけ息を荒げてながら緑谷達を睨みつける。

 

「はぁ……はぁ……やっぱりこの数は……厳しいわね……。イレイザーが本当に厄介だわ」

「乱刀さん!!もうやめてください!」

「そうだよ!もうやめよう!一緒に帰ろう!」

 

 百と麗日が刃羅に叫ぶ。

 しかし刃羅は答えずに刀を右手に持ち替えて構える。

 相澤、エクレーヌ、虎が緑谷達の前に出る。

 

「ここまでだ。乱刀」

「……」

「もう刀を下ろしてくれ。ラグドールの恩人とこれ以上戦いたくはない」

「……」

 

 相澤と虎の言葉に刃羅は全く答えない。黙って刀を構え、相澤達を睨みつけている。  

 それに緑谷達が再度声を上げようとした時、

 

ボボオオォォォン!!!

 

 刃羅の真後ろの壁が()()()()、刃羅を吹き飛ばす。

 

「うあ!?」

『!?』

 

 刃羅は地面に転がる。

 相澤達は爆風に耐え、飛んできた瓦礫を打ち払う。

 

「何トロトロしてやがんだぁ!!このクソ共が!!」

「え!?ば、ば!」

「爆豪!?」

「かっちゃん!?」

 

 爆発した穴から現れたのは、ここにいるはずがない爆豪だった。

 いつも通り不機嫌全開に顔を顰めながら、緑谷達と刃羅を睨みつける。

 突然の爆豪の登場に全員が目を見開いて固まる。刃羅は驚きもあるが、爆豪と相澤達に挟まれて身動きが取れなくなってしまった。

 

「かっちゃん!なんでここに!?」

「君は外に出てはいけないと警察に言われていただろう!?」

「ああ!?うるっせぇクソデクにメガネ!!んなもん、抜け出してきたに決まってんだろが!!分かれや死ね!!」

 

 緑谷と飯田の言葉にいつも通り口悪く怒鳴り返す。

 

「けど爆豪!!おめぇが抜け出してまで来てくれっとはよ!やっぱ仲間だぜ!!」

「はぁ!?ふざけたこと言ってんなや。切島ぁ。俺ぁイカレ女がどうなろうとどうでもいいんだよ!」

「はぁ!?じゃあ、なんで……」

 

 爆豪の言葉に切島や上鳴が首を傾げる。

 爆豪は両手で小さな爆発を起こしながら、しゃがんで相澤達や爆豪を警戒している刃羅を見下ろす。

 

「俺はただこのイカレ女に()()()()されんのが我慢出来ねぇだけだ!!」

「かっちゃん……!」

「……」

「それとイカレ女ぁ!!てめぇ、あの言葉を撤回しろや!!」

 

 爆豪の撤回と言う言葉に刃羅は訝しむように顔を顰める。

 それに爆豪は目を血走らせながら、睨みつける。

 

「俺はただのNo.1になる男じゃねぇ!!No.1()()()()になる男だぁ!!そこぉ間違えんじゃねぇぞ!!」

 

 叫んだ瞬間、右手を後ろに向けて爆発を起こして勢いよく刃羅に突撃する爆豪。

 

「!!」

「死ねやぁ!!」

 

 刃羅は目を見開いて、飛び上がる。爆豪は右手を叩きつけるように振り下ろし、爆発を起こす。

 爆豪はすぐさま爆発させながら飛び上がって刃羅に迫る。刃羅は左腕を鎖鎌に変えて、天井の鉄骨部分に巻き付けてグン!と腕を引いて体を持ち上げて爆豪の攻撃を躱す。腕をすぐに戻して、壁を蹴って爆豪に斬りかかろうとするが、真下からエクレーヌの光弾が飛んできて直撃する。

 

「ぐぅ!?」

「ケェロォ!!」

 

 そこに梅雨の舌が伸びてくるが、それを左手で払い退ける刃羅。そこに黒影が回り込むようにして刃羅の背中から近づき、両腕で刃羅の体を掴む。その弾みで刀を手放してしまう刃羅。

 

「っ!」

「やった!」

「よくやった!黒影!」

「ドンナモンヨ!」

 

 緑谷達が喜びの声を上げ、黒影が胸を張った瞬間、刃羅から閃光が弾ける。

 油断していた全員が閃光に視力を奪われ、黒影は光に悲鳴を上げながら腕を放してしまう。

 

「眼が!!眼がああああ!!」

「まずい……!」

「全員!!離れろ!」

「イレイザー!お前だ!!」

『!?』

 

 峰田が目を押さえて地面をのたうち回り、相澤が声を上げるがエクレーヌの言葉で迫り寄る殺気に気づく。

 相澤は殺気に向けて捕縛武器を放つが、斬り裂かれた感触が返ってくる。

 それに「斬られる」と考えた直後、誰かに腕を引っ張られる。体ごと引っ張られ、その直後に左半身に鋭い痛みが走る。

 

「ぐぅ!?」

「ちっ……!!」

「イレイザー!」

「相澤先生!!?」

 

 相澤を引っ張ったのはエクレーヌだ。サングラスをしていたので閃光弾のダメージが最小限だったため、刃羅が相澤を狙うのが見えたのだ。

 相澤を右腕で引っ張りながら、左手で光弾を放つエクレーヌ。しかし、なんと光弾は全て刃羅の体に弾かれてしまう。

 刃羅は舌打ちをして、そのまま走り抜ける。

 

「ぐ……!」

「無事かい」

「すまない。助かった……」

「相澤先生!!」

「大丈夫だ。致命傷じゃない」

 

 視力が回復した緑谷達は相澤を見る。相澤は左手足と脇腹から血を流して跪いていた。芦戸達が近づくが、相澤が右手を上げて制止する。

 そして刃羅に目を向ける緑谷達。

 

『!?』

「……外したか。運のいい奴だ」

 

 刃羅の姿を見た全員が目を見開いて固まる。

 

ガシャ!ガシャ!

 

 倉庫に鉄が鳴り響く音がする。音の発生源は刃羅だ。

 

「……なんだよ。それ……」

 

 切島が冷や汗を流しながら刃羅に尋ねる。

 

 刃羅の手足は鱗のように刃が覆っており、両前腕から鎌が生え、左手はロングソードになっている。鱗のような刃は首まで覆っている。

 

「【荒刃刃鬼(あらはばき)】。これが余の本気の姿だ。いつまでも1種だけで良しとするとでも思っていたか?2種出せるだけで良しとするとでも思っていたか?」

 

 ギャリギャリ!と鉄同士が擦れる音を響かせる刃羅。

 その姿にゴクリと唾を飲む緑谷達。

 武器2種同時展開だけでなく、同時に全身を刃で覆うほどの成長。切島と緑谷は「『個性』が使えていたら殺していた」と言われたことを思い出す。あれは決して冗談ではなかったのだ。

 しかし、フッ!と刃羅の姿が元に戻る。

 

「!!」

「……本当に厄介じゃのぅ。その眼は。イレイザーヘッド」

「相澤先生……!」

「……これ以上、お前に被害を出させるわけにはいかん。反省文や謹慎ではすまなくなるんでな」

「……まだ言うか~」

「刃羅ちゃん」

 

 梅雨が刃羅の正面に立つ。

 それを刃羅は無表情で見つめる。

 

「……色々と言いたいことがあるの。……でも、上手く言葉が纏められないわ。だから、一番思っていることを言うわ」

「……」

「……なんで黙っていなくなったのかしら?凄く心配したわ」

 

 梅雨はまっすぐ刃羅の目を見て話す。

 

「……話したところでぇ意味あったのぉ?お師匠のぉところに戻るってぇ言ったらぁ行かせてくれたのぉ?」

「……行かせないわ」

「だったら言うだけ無駄なのです」

「なんでヒーロー殺しのところに戻らなければいけなかったの?」

「お師匠が死柄木弔のところに攻め入るって聞かされただよ。で、おいらも狙われたことを仕返ししたかったべな。参加することにしただけだべ。まぁ、オールマイトに先越されたけんど」

「……じゃあ、帰って来なかったのは何故?あれが刃羅ちゃんだって気づいたのはここにいる人達くらいだわ」

「のこのこと帰って来てたらどうしてただろうなぁ?えぇ?相澤先生よぉ?いつも通りで終わらせっか?ヒーロー殺しと繋がっている俺っちを」

 

 刃羅は相澤やエクトプラズム達に目を向ける。

 梅雨達も相澤に目を向ける。

 その視線に相澤達は顔を顰める。

 

「……職員会議して、警察に連絡するってとこだろうな。乱刀が協力的なら監視の元雄英に通い、拒否するなら……拘束されることになるだろう。そう長いことは留置されることはないだろうが……恐らく雄英には戻れん」

「ソウダナ」

 

 相澤の言葉にエクトプラズムやハウンドドッグも同意して頷く。

 その答えを予測していたのか緑谷達は悔し気に顔を歪める。もちろん刃羅も予想していたので肩を竦める。

 

「そういうことだ。お前達が気づいた時点で、もう手遅れだったのさ。今、見逃されてるのはオールマイトが私の親の話をしたからだろう?」

「……親?」

「違うかね?オールマイト」

 

 梅雨達は訝しみ、刃羅はオールマイトに顔を向ける。

 後ろにいたオールマイトは俯いており、左手を強く握り込んでいる。

 

「……そうだ。乱刀少女には申し訳なかったが……そうでもしないと、本当に君を雄英に戻すことが出来なくなってしまうと思っていたからね」

「……一体どういうことですか?乱刀さんの御両親の話は体育祭の時に……」

 

 オールマイトの言葉に百が訝しむ。百の言葉に他のA組の面々も頷く。

 それにオールマイトや相澤達は話すべきかどうか悩み、顔を顰める。

 

「別に隠すことではないでござる。某の両親の死にオール・フォー・ワンが絡んでいた。それだけのことでござる」

「オール・フォー・ワンが……!?」

「しかしお師匠を選んで、お師匠の元に転がり込んだのは我の意思だ。オール・フォー・ワンは関係ない。それにオール・フォー・ワンがいなくても、結局母は我を殺そうとしていたさ。追い込まれていたのは変わらないのだから」

「でも、お父さんは生きていたかもしれない」

「いや、死んでおったじゃろう。儂に殺されてな」

 

 刃羅の言葉に凍り付く緑谷達。

 刃羅は無表情のまま首を傾げる。

 

「私は一度でも『父は立派な人だ』などと言いましたか?『父は私を愛してくれた』などと言いましたか?言ったことはないと思いますわ」

「……まさか」

「そうであります。小官は父からも虐待を受けていたであります」

「……そんな」

「首を絞めた母を止めた時も『ヒーローの妻が子供を殺したなど醜聞以下だ!俺の邪魔ばかりするな!』と言っていたよ。本当に……なんで結婚して、私を生んだのだろうな?だから……父と母が死んだときは、()()()()()()()()

 

 刃羅はニヤァと笑う。

 その笑みにゾッとする緑谷達。

 

「さて、改めて聞くわ。私を雄英に戻したい?ヒーローを目指させるべきかしら?」

「嘘だわ」 

 

 両腕を広げて、質問する刃羅。

 すると梅雨がはっきりとした声で、力強い瞳で刃羅を見つめながら声を上げる。

 それに刃羅は一瞬で無表情に戻る。

 

「……はぁ?」

「刃羅ちゃん。はっきりと根拠は言えないけど……今の御両親の話は嘘だわ。今までの嘘とは違うもの。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……」

「確かに私達は刃羅ちゃんとは出会って数か月よ。刃羅ちゃんは演じてただけかもしれない。でも、この数か月で刃羅ちゃんが私達に掛けてくれた言葉は、絶対に嘘じゃないわ」

「そうです……そうですわ!乱刀さんは期末試験で言ってくれましたわ!!『失敗も敗北もある。それでも立ち上がり、出来ることを模索するのがヒーロー』だと!『迷う前に声を上げろ』と!!」

「それに乱刀くん!!君は僕達に期待してると言ってくれた!!その言葉は嘘だったのか!まだ僕は……君に何の答えを見せれていないんだ!!」

 

 梅雨の言葉に百と飯田も叫ぶ。

 

「……本当に俺達と袂を別つ気だったなら、なんであの時、俺達に声を掛けて爆豪を助ける手助けをしたんだ?林間合宿の時も、保須でのヒーロー殺しの時も、USJでも、お前はいつも誰かを助けるために先頭で動いてた。体育祭でも話さなくてもいい親の話をして、俺に何のために雄英に来たのか気づかせてくれたじゃねぇか。もし演じてただけなら、どれもしなくてもいい事ばかりだ」

「そうだよ……!洸汰君のことだって、林間合宿の組み手の時だって、乱刀さんはいつも真剣に僕達と向き合ってくれたんだ……!あれは決して演技じゃなかった!」

「林間合宿の魔獣の森でもわざわざ探しに来てくれて、猪食わせてくれて、走り方とか教えてくれたしな!」

「俺の時だって、己が狙われているのに攫われる危険を冒してまで、俺を助けてくれた」

「借り逃げはさせねぇ!!」

 

 轟、緑谷、切島、常闇、爆豪も続く。それに他のクラスメイト達も頷く。

 刃羅の言動はA組メンバーにとって、ヒーローとしての在り方を考えさせてくれた。それによって救われたこともある。

 それだけは刃羅にだって否定させない。

 

 刃羅は僅かに顔を歪める。

 

「……くだらぬ。もはや我はステインと同じ道を歩むと決めた。もはや貴様らと交わることはない」

「待ってくれないか」

 

 オールマイトが緑谷達の横に並ぶ。

 

「やっぱり言いたくなってしまったよ。乱刀少女」

「ヒーローを信じろってかぁ?」

「違うさ。ヒーローになる友達を信じてあげて欲しい」

「……」

「それに君だってまだヒーローになれる。いや……君のような人だからこそヒーローになってほしいと私は思う。君だって象徴になりえると私は思うんだ」

「……それは無理よ。平和の象徴だった人。私はすでに血に濡れているのだから。私はあなた達が言うヒーローにはなれないわ」

 

 刃羅の言葉にオールマイトや相澤、流女将は目を見開く。

 

「ホンマにステインの元におった3年間で誰も殺さへんかったと思てたんか?屑の2,3人は殺しとる。もう、うちの《刃》は【命の味】を知っとんねん」

 

 はっきりと「人を殺した」という言葉に梅雨達も衝撃を受ける。

 

「そんなわっちが……ヒーローに、象徴になれる?それは……馬鹿にし過ぎやよって。オールマイト」

 

 つぅ。と一筋の涙を流して微笑みながら語る刃羅。

 オールマイトは己の失言を悟ってしまい、虚無感に襲われる。

 

 刃羅は袖からスイッチのようなものを取り出し、ポチッと押す。

 相澤達が構えた直後、倉庫の明かりが消える。

 

「っ!?逃がすかクソがぁ!!」

 

 爆豪が刃羅の元に飛び込もうとした瞬間、再び強力な閃光が弾ける。

 再び目をやられて、蹲る緑谷達。

 エクレーヌも暗闇からの閃光だったので、流石にダメージが大きかった。

 

「くっそがぁ!!」

「……学ばないねぇ。私達」

「ラグドール!!乱刀さんは!?」

「目ぇイッタイ!海!だと思う!」

 

 まだ完全に回復してないが、走って外に出る緑谷達。

 周囲を見渡すも暗闇で海の様子も全く分からなかった。

 

「くそっ……!」

「何か手は……!?」

「ラグドール。本当に海の方?」

「うん!でも、また凄いスピードで離れてる!!」

「ボートか!」

「岸に向かってるのか?」

「う~ん。そんな感じじゃなさそう!」

「岸デハナイ?……離島カ!」

 

 悔しがりながらも刃羅の行き先を考える一同。

 

「でもよぉ……帰ってくるかな?乱刀」

 

 上鳴の言葉に緑谷達が顔を俯かせる。

 両親の事、命を奪ったことがある事。何よりも本人に戻る意志がない事。

 このまま追いかけても、どうすればいいのか分からない。それではダメではないのかと考えてしまう。

 

「それでも私は連れ戻したいわ」

 

 梅雨は刃羅が去ったと思われる方向を見つめながら、携帯を握り締める。

 

「何が正しいかなんて、まだわからないけど。それでも声が届くなら、顔が見えるなら、いつか届くかもしれないわ」

「……梅雨ちゃん」

「でも、このままだと声も届かないし、顔も見えないわ。それだけは納得出来ないの。だから私は絶対に諦めない。また刃羅ちゃんと笑いたいんだもの!」

「でも……どうやって……」

「だから、お願い……!力を貸してほしいの!」

 

 梅雨は携帯に目を向ける。その画面は『通話』を示していた。

 そしてこの場面で最も信頼できる人に助けを求める。

 

 

「助けて……!船長!シリウスさん!」

 

 

 




荒刃刃鬼、『余』の刃羅さんは落ち着いたら紹介を載せます

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