ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#37 必殺技を編め

 入寮して翌日。

 1階の洗面所に歯磨きをしに集まる緑谷達。

 そこに女子も集まってくる。

 

「おはよー!」

「おはよう!」

 

 シャコシャコと歯磨きを始める一同。

 そこに梅雨と百が現れる。後ろには刃羅が眠たげに立っていた。

 

「おはよう。皆」

「おはようございますわ」

「うい~……」

「おはよう」

「おはよう!乱刀くん!しっかりしないか!」

「ああ……飯田さん。許してあげてください。私達のせいなんです」

 

 飯田が腕をブンブン!と動かして、刃羅を叱咤する。

 それを百が眉尻を下げて制止する。

 飯田達が首を傾げる。

 

「どういうことなんだ?」

「……その……最初はそれぞれの部屋で寝ようとしたのですが……」

「ベッドに入った途端、刃羅ちゃんがまたいなくなりそうで怖くなったの。だから……」

「乱刀さんの部屋に顔を出そうとしたら、蛙吹さんとお会いしまして……」

「百ちゃんと2人で部屋を訪れたの」

「そして、そのまま……3人で……」

 

 百と梅雨が申し訳なさそうに顔を俯かせる。

 梅雨と百は刃羅がいなくならないかと不安で、なんと刃羅の部屋のベッドで3人で寝たのだ。

 

「あの部屋のベッドって……3人で寝れる大きさだったかな?」

「いいえ。だから……」

「乱刀さんに……抱き着いて……」

 

 緑谷の疑問に顔を赤くして俯く百。

 それを聞いて刃羅が何故眠そうなのかを理解する一同。

 

「ただでさえ人が近づいたら攻撃する寝方してたのに……」

「2人に抱き着かれたら、そりゃあ寝れねぇよな」

「反省してるわ……」

「反省してます……」

 

 緑谷と轟に言葉に肩を落とす百と梅雨。

 気持ちも分かるので責めるのもどうかと思った飯田達。

 そこに芦戸が思いついたように声を上げる。

 

「あ!だったらさ!ヤオモモのベッドで寝れば?ヤオモモのベッドって大きかったよね?」

「それだ!」

「余計なことを言うでないわ」

 

 芦戸と切島の言葉に顔を顰めて刃羅が抗議する。

 

「嫌なん?刃羅ちゃん」

「我はまず横になって寝ること自体耐えられんのだ。林間合宿だってギリギリだったのに、抱き着かれて寝れるものか」

「え?林間合宿の時、刃羅って布団で寝てなかった?」

 

 麗日が首を傾げると、刃羅は顔を顰めたまま吐き捨てるように話す。

 それに芦戸がさらに首を傾げる。

 

「三奈ちゃん。あれは演技よ。刃羅ちゃんはあの後、部屋の隅でしゃがんだ状態で寝てたわ」

「ええ!?本当ですか!?」

「夜中に目が覚めた時に見たの。でも、あの時も刃羅ちゃん起きてたのよね?私を布団に戻してくれたの、刃羅ちゃんなんでしょ?」

「ふわぁ~……そだよぉ……人が動いたぁ気配がするとぉ目が覚めちゃうからねぇ」

 

 刃羅と梅雨の言葉に目を見開く百達。

 刃羅は女子全員が寝静まった後に布団を出て、女子の誰かが起きる直前に布団の上に戻っていたのだ。

 それでも2時間は寝れていたので、まだ寝た気がしていたが、今回はずっと誰かに触られているので全く寝付けなかったのだ。

 むしろ耐えていたことを褒めて欲しいくらいだった。

 

「梅雨ちゃんくん達の気持ちも分かるが、流石に活動に支障をきたすのは問題だぞ!」

「申し訳ありませんわ……」

「反省するわ」

 

 飯田の言葉に項垂れる2人。

 その後、歯磨きをして配膳されたランチラッシュの朝食を食べる刃羅達。

 

「毎食ランチラッシュのご飯って贅沢だよな」

「しかも選択出来るんだもんな」

「んゆ~……」

「刃羅ちゃん。食事は目を開けて頂戴」

 

 その後、着替えて学校に向かう一同。

 今までと違い、歩いて数分の距離なので余裕をもって登校する。

 

「新鮮だな!皆で登校するの」

「だな。ってゆーか、今日から何するんだろうな?」

「仮免に向けてって言ってもなぁ」

 

 瀬呂、切島、砂藤が首を捻りながら教室に入る。

 刃羅達も教室に入り、席に座る。

 そして時間になると相澤が入ってきた。

 

「全員揃ってるな。さて、以前話した通り、まずは仮免取得が当面の目標だ」

「はい!」

「ヒーロー免許って言うのは人命に直接係わる責任重大な資格だ。当然取得のための試験はとても厳しい。仮免と言えどその合格率は例年5割を切る」

「仮免でそんなきついのかよ……!?」

 

 相澤の言葉に峰田が慄く。

 他の者達もゴクリと唾を飲む。

 

「そこで今日から君らには1人最低でも2つ……」

 

 その時、ガラリと教室のドアが開く。

 そこにミッドナイト、エクトプラズム、セメントスが立っていた。

 

「必殺技を作ってもらう!!」

『学校っぽくて、それでいてヒーローっぽいの来たああああ!!!』

 

 ミッドナイト達が前に並ぶ。

 

「必殺!コレ スナワチ必勝ノ型・技ノコトナリ!」

「その身に染みつかせた技・型は他の追随を許さない。戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるか!」

「技は己を象徴する!今日日、必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」

「詳しい話は実演を交えて合理的に行いたい。コスチュームに着替えて体育館γに集合だ!」

『はい!』

 

 更衣室に向かい、コスチュームに着替える梅雨達。

 

「あら、刃羅ちゃん。コスチュームは結局ノースリーブにホットパンツになったのね」

「なんも言ってねぇ。開ける度に変わるってなんだよ……」

 

 刃羅のコスチュームはノースリーブの青の和服に赤い帯、黒のホットパンツになっていた。両足の裸足は変わらなかった。赤のネックウォーマーを身に着け、白の包帯で髪を縛る。

 

「まぁ、ええか」

「いいの!?」

「事実、本気になったら破れるしな」

 

 スパイラルカッターを発動すると、結局ホットパンツになるし半袖になる。

 

「何かしら武器でも頼むべか」

「身軽になったよね」

「鞭とかだったら没収されないのである」

 

 着替えを終えて体育館に向かう女性陣。

 

「それにしても必殺技かぁ!」

「どんなのがいいかな?」

「葉隠って必殺技なんてどうするの?」

「う~ん……裸!」

「すでにね」

 

 芦戸達は必殺技で盛り上がる。

 その後ろを刃羅、梅雨、百が歩いている。

 

「刃羅ちゃんはどうなの?必殺技」

「どうもこうも我は武器がすでに必殺技だ。貴様らに見せた【荒刃刃鬼】とて必殺技と呼べるだろうさ」

「確かに……」

「轟の炎や氷、瀬呂のテープだって、それそのもんが必殺技と言えんべ。ようは困ったときに頼れる使い方ってことだべさ」

 

 刃羅の言葉に納得するように頷く百。

 あーだこーだと話をしながら、体育館γに集まるA組一同。

 

「さて、ここが体育館γ。通称トレーニングの台所ランド。略してTDL」

『それはだめじゃね?』

「ここは俺考案の施設。生徒一人一人に合わせて地形や物を用意出来る。台所って言うのはそういうことだよ」

「なーる」

「ピクシーボブの《土流》と似たようなものでござるな」

 

 セメントスの言葉と刃羅の例に頷く一同。

 

「質問をお許しください!」

 

 飯田がシュバ!と右手を上げて発言する。

 

「何故仮免取得に必殺技が必要なのか、意図をお聞かせ願います!!」

「落ち着け。順を追って話すよ」

 

 相澤が飯田を宥めて話を続ける。

 

「ヒーローとは事件・事故・天災・人災……あらゆるトラブルから人を救うのが仕事だ。取得試験では当然その適性を見られることになる。情報力、判断力、戦闘力、機動力、コミュニケーション能力、魅力、統率力など多くの適性を毎年違う試験内容で試される」

「その中でも戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重視される項目となります。備えあれば憂いなし!技の有無は合否に大きく影響する」

 

 相澤とミッドナイトの言葉に納得したように頷く飯田達。

 

「状況に左右されることなく安定行動を取れれば、それは高い戦闘力を有していることになるんだよ」

「技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハ無イ。例エバ飯田君ノレシプロ・バースト」

「!」

「一時的ナ超速移動、ソレ自体ガ脅威デアル為、必殺技ト呼ブニ値スル。ソシテ乱刀サンガ豊巣ノ倉庫デ見セタ姿。アレモマサニ必殺技ダ」

「アレ必殺技でいいのか……!」

「なるほど……自分の中に「これさえあれば有利・勝てる」って型を作ろうって話か」

 

 セメントス、エクトプラズムの説明と例に飯田が感動し、砂藤が訓練の意味を理解する。

 

「合宿での『個性』伸ばし訓練は、この必殺技を作り上げるためのプロセスだった」

「!!」

「つまりこれから後期始業までの残り十日余りの夏休みは、『個性』を伸ばしながら必殺技を生み出す圧縮訓練となる!!」

 

 相澤の言葉と同時にセメントスが地面を盛り上げ、エクトプラズムが分身を生み出す。

 それに飯田達が気合を入れる。

 

「尚、『個性』の伸びや技の性質に合わせて、コスチュームの改良も並行して考えていくように。Plus Ultraの精神で乗り越えろ。行けるな?」

『はい!!』

 

 そして訓練が開始した。

 生徒1人にエクトプラズム1人が指導役として付く。

 刃羅は腕を組んで、他の者達の訓練を眺めていた。

 

「わっちは『個性』伸ばしに専念しますよって。指導はいりまへん」

「アレダケデイイノカ?」

「他にもあるのです。でも、今やることと言えば【荒刃刃鬼】の刃鱗の硬度を上げるのと武器同時展開の数を増やすくらいなのです」

 

 刃羅は既に必殺技と呼べるものは完成している。後はそれをさらに高めていくだけ。

 『個性』の性質や使い方を熟知している刃羅は、今更指導される必要性を感じていなかった。

 

「とりあえず、全身展開しますので攻撃してくださいな。わたくしはそれに耐えて硬度を高めますわ」

「……イイダロウ」

 

 ギャリン!と【荒刃刃鬼】を発動する刃羅。

 そこにエクトプラズムが蹴りを放ち、刃羅はそれを踏ん張って受け止める。数回蹴りを浴びると、エクトプラズムが消滅する。

 

「……なるほど。義足が砕けるだけでも分身は消えるということか。これでは訓練にならんな。壁をサンドバックにするとしよう」

 

 ガン!ギャン!ズガン!と壁を殴る蹴るを続ける刃羅。抉られるように壁が削れていき、崩れる前にセメントスが補強するを繰り返す。

 その様子を相澤達は見上げていた。

 

「流石に自身の鍛え方は理解しているわね」

「こういう訓練になると指導するにも限界がありますね。心構えを教えるわけにもいかない」

「体術に関してもすでにプロ並みだものねぇ。やっぱり合宿同様、誰かの組み手や指導させて交流を深めることを重視すべきかしら?」

「そうですね……」

 

 相澤達は悩んだ結果、刃羅に林間合宿同様他の者にアドバイスや組み手をさせることにした。

 刃羅はうんざりという顔をしながら緑谷に近づいて行く。

 緑谷は筋トレをしていた。

 

「あ……乱刀さん」

「『アドバイスして回れ』だそうだ。だから蹴りでも見てやる」

「ありがとう!助かるよ!」

 

 刃羅は緑谷に蹴りを指導することにした。

 

「それでぇ蹴りはあまりぃ使ってこなかったんだよねぇ」

「うん。オールマイトが腕を使っているイメージが強すぎて……」

「まぁのぅ」

 

 あの部屋から緑谷のオールマイトへの憧れは異常であると理解はしている。後継者的な扱いもされていることも知っているので、仕方がないと刃羅は思う。

 

「で、貴様に蹴りを教える前に、そこの意識改革せねばならんな」

「え?」

「オールマイトとは違い、お前は速さもパワーも足りん。オールマイトへの憧れがお前への足枷になっている」

「!!」

 

 刃羅の言葉に緑谷は顔を俯かせる。

 

「職場体験で指導してくれたヒーローからも同じこと言われたよ」

「やろうな。特にお前は攻撃=必殺技のイメージがデカいわ。あれはオールマイトやからこそ出来ることや。今のお前ではそこまでに達してへん」

「……うん」

「さらに君の場合は防御が優れているわけではないのだよ。だからこそ、下手な大振りの攻撃は一気に形勢が傾く場合があるのだよ」

「……確かに」

「後ぉ腕はぁ使えないわけじゃないよねぇ?」

「うん。無理をしなければ」

 

 刃羅の言葉に頷く緑谷。

 

「ならばお主がするべきなのは蹴りの必殺技と、それに繋げるコンビネーション攻撃を考えることだな」

「コンビネーション……」

「例えばボクシングのジャブでござる。相手の体勢を崩して、必殺技を当てやすくする動きでござるな」

「……なるほど」

「ユーのアームパワーを牽制にユーズし、フィニッシュにキックをユーズするということデース!」

 

 刃羅の言葉に緑谷はイメージを固めていく。

 そして、刃羅が蹴りの手本を見せ、緑谷は一挙動ずつ確かめていく。

 

「蹴りが拳と最も違うポイントは、攻撃時に軸足のみで体を支えるということですわ。つまり下手な攻撃は相手に逆転の機会を与えてしまうということ。拳と違い、細かな動作は出来ませんから」

「……確かに」

「そして力の乗せ方も重要なのである。腰、股関節、膝の力を掛けるタイミングを間違うと、負荷が恐ろしくかかるのである」

 

 刃羅の説明に頷きながら、蹴りを振るう緑谷。

 その後も素振りを続けていく。

 

「だから軸足からだって言ってんだろゴラァ!!」

「は、はい!?」

「膝はインパクトの直前!!伸ばし切ると痛めるよ!!タイミング!!」

「くっ……!」

「振り回されるでない!!腹筋と背筋を使わぬか!!肩や腕も使え!!」

「はい!」

 

 刃羅の怒号が体育館に響く。

 それに他のクラスメイトも注目する。

 

「スパルタだな~。乱刀」

「でも、実際あいつの動きスゲェしな」

「いいな~。私も教えてほしい~」

「けっ!」

 

 切島、瀬呂が休憩がてら眺め、芦戸も羨まし気に声を上げる。

 爆豪は緑谷達を見て、吐き捨てるようにエクトプラズムに向かい合う。

 緑谷は左右交互に蹴りの素振りを続ける。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

「ここからが本番なのです。力めなくなってきたときに、どう力を伝えるかが重要なのです。それを覚えるのです」

 

 疲れてきた緑谷に刃羅が声を掛ける。

 そこにオールマイトが顔を出した。

 

「蹴りに切り替えたんだね」

「あ!オールマイト!」

「足止めんなゴラァ!!髪の毛刈っぞぉ!!」

「ごめんなさい!?」

「……スパルタのようだね」

「武術の心得がないのだから当然であります。あと数日で必殺技に仕上げたいなら『死あるのみ』の精神であります!」

「そこまではいかなくていいかな!?」

 

 刃羅の言葉にオールマイトも慄く。

 しかし刃羅からすれば実用的にまで高めるならば、そのくらいの気持ちでないと厳しいと思っている。

 その後も素振りを続ける緑谷。

 オールマイトは他の生徒へアドバイスすると離れていった。

 

「ハァ!……ハァ!……ハァ!……」

 

 汗だくで素振りを続ける緑谷。

 最低限の形にはなってきたように思えた刃羅。

 

「一回休憩や」

「ハァ!」

 

 ドサッと尻餅をついて座り込む緑谷。

 刃羅はタオルと水を緑谷に放り投げる。

 

「ありがとう……!ハァ……ハァ……」

「まぁ、形にはなりつつあるが、まだまだじゃの」

「うん……!」

「でも~とてもじゃないけど~必殺技にするには~まだ荒いかな~。その防御性がないコスチュームも~考えるべきだと思うよ~」

「やっぱりそうだよね……」

「少なくとも脚を庇う何かが欲しいわね。出来れば全ての蹴りをカバー出来るタイプ」

「全ての蹴りを?」

 

 緑谷の言葉に頷く刃羅。

 

「今、やらせてんのはミドルキックだべ。けんど蹴りにはローキック、ハイキック、後ろ回し蹴りに押し蹴り、かかと落としの類もあるべ」

「そっか……」

 

 そりゃそうだと思う緑谷。まだまだ身に着ける技は控えているのだ。

 教わったことを反芻することに頭が一杯だったので、抜け落ちていた。

 緑谷のコスチュームは手足を防護する類が少ないと思っている刃羅は、ここを加えるだけでも十分武器になると思っていた。

 

「とりあえず、そこらへんをメインに改良でもして来い」

「そうだね。ありがとう!ごめんね。乱刀さんの時間を使わせちゃって」

「かまいまへんえ。わっちはある程度技は完成しとりますよって」

「あの鎧武者見たいな感じの奴だよね?他にもあるの?」

 

 緑谷の言葉にジト目を向ける刃羅。

 

「離島でぇん見せたでしょん」

「え?」

 

 目を見開く緑谷。

 それにため息を吐いて、前に出る刃羅。

 そして両腕をロングソードに変え、体を捻るとその場で独楽のように高速で回転する。

 

「!!」

 

 緑谷は更に目を見開き、他のクラスメイトや相澤達も目を見開く。

 刃羅は傾いたかと思うと、ギャリギャリ!と地面を削りながらスピードを上げて近くの壁に突撃する。

 壁を削りながら、壁に沿って進み、再び緑谷の前まで移動して止まる。

 そして少し飛び上がって体を開いて回転を止めて下り立つ。

 

「今のがもう一つの妾の技。【嵐の刃(テンペスタ・ラーマ)】ぞ。スパイラルカッターにて回転し、斬り刻むのじゃ」

「……凄い」

 

 今の刃羅の技に相澤達も唸り声を上げる。

 

「あの時は竜巻であまり注意していなかったが……」

「中々対処が難しいわね。特に近接系の『個性』や戦闘スタイルでは手も足も出ないわよ?」

「遠距離ならば、もう一つの方を使えばいい…か。A組であれを止められるのがはたして何人いるか……」

「確かにね」

 

 軸を狙おうにもスパイラルカッターだから下手な攻撃は斬られるだけ。

 大質量の遠距離攻撃しか止める手段が中々思いつかない。

 

「すっげぇ……!」

「本当に仕上げてんなぁ」

「けっ!」

 

 上鳴と砂藤が感心していると、爆豪がまた吐き捨てる。

 

 その後、緑谷は1人で素振りを続け、刃羅は百の元に行った。

 

「武器の扱いアルか?」

「はい。それに合わせた体術も教えてほしいのです」

「なんの武器かによる!」

「今考えているのは剣と槍ですわ」

 

 百の言葉に頷いた刃羅は、剣を作らせて構えさせる。

 それを見た瞬間、刃羅は目を鋭くして、構える。

 

「俺っちをヴィランと思ってかかってこいや」

「え!?で、ですが……!」

「こっちから行くでぇ!!」

「っ!」

 

 飛び掛かってくる刃羅に、百は顔を強張らせながらも剣を突き出す。

 狙いは刃羅の左腕だというのが丸わかりだった。

 刃羅は左脚で剣を握る手を蹴り上げる。百は剣を手放してしまう。

 

「あ!?」

 

 百は剣に目を向けてしまう。

 その隙に刃羅は百に掴みかかり、押し倒す。さらに落ちてきた剣を掴み取り、百の首元に添える。

 

「!?」

「斬りつけちまうのを怖がってんのが、バレバレだべ。はっきり言っておめぇらよりヴィランの方が、この手の武器の扱けぇは上の可能性が高けぇべ。そげな奴相手に怖がってたら、奪ってくれって言ってるようなもんだべさ」

「っ!!」

 

 刃羅の言葉に目を見開いて固まる百。

 刃羅が上から退き、立ち上がる百に対して、刃羅は剣を大道芸のように振り回す。

 

「武器は目で見るものではない。そして()()()()()()()()()()()()()()、斬りつけることを怖がるならば本末転倒だ」

「……はい」

「武器の扱いを学ぶ際に重要なのは、殺さぬ方法ではないのじゃ。どうなったら命を奪うのかを知る事じゃ。それが分かれば、自ずと殺さぬ振るい方が分かるでのぅ」

「……」

「これだったらぁまだ棍棒とかの方がぁいいと思うよぉ?」

「分かりましたわ」

「じゃ~棍棒での体術に~絞ろうか~。せっかくだから~戦いながら~棍棒を作るところから~始めよ~」

「はい!」

 

 刃羅が飛び掛かると、百は飛び下がりながら右腕から棍棒を創造する。

 しかし構えた瞬間、刃羅に棍棒を蹴り飛ばされる。殴りかかれた百は盾を生み出してガードする。そして、後ろに下がりながら再び創造しようとするが、刃羅がすぐに距離を詰めて来て、ガードに専念せざるを得なくなる。

 

「くっ!」

「創造が遅い!必殺技はどうした!?」

「こういう時に!」

「そう!こういう時に輝くのが必殺技なのだよ!」

 

 刃羅が叫んだ瞬間、百の二の腕からマトリョーシカが飛び出て地面に落ちていく。

 訝しげにそれを見つめる刃羅。

 コン!と地面に落ちた瞬間、マトリョーシカの中から筒が現れる。

 

「!?」

 

 カッ!と閃光が弾ける。

 

「あっしの十八番かよい!?」

「やぁ!」

「っ!?ぐぅ!」

 

 目をつぶされた刃羅は顔を顰めるが、百の声にとっさに頭を両腕で庇う。腕の上に衝撃が走り、刃羅は地面を蹴って飛び下がる。

 ゆっくりと目を開けると、ぼやける視界に棍棒を構える百の姿が見えた。

 

「厄介ねぇん。その何でも作れる体ぁん」

 

 百の恐ろしいところは両腕を塞いでも、腹や脚からも物を作り出せることにある。

 刃羅は再び飛び掛かる。

 百が棍棒で突いてくる。それを横に躱し、詰め寄ろうとする刃羅。

 

「くっ!」

「ここで横に薙ぐのです!」

「はい!」

 

 言われたとおりに棍棒を横に薙いで、刃羅に叩きつけようとする百。

 脇腹で受け止めた刃羅は、更に前に出ようとする。

 

「そこで横に動け!棍棒を背中に回すように!」

 

 百は棍棒で抑えつけたまま横に動く。棍棒は刃羅の体を滑る様に背中に回っていく。

 

「ここでさらに横に薙ぐんや!」

「はい!」

「そうすると相手は前に押されてバランスを崩すわ!そこで棍棒を引き寄せながら持ち替えて、叩く!」

 

 百は握っていた部分が穂先に来るように持ち帰る。そうすると自然と振り上げる形になり、言われるがままにそれを振り下ろして刃羅の背中を叩く。

 刃羅は背中に刃鱗を展開してガードする。

 そしてクルリと百に向き直る。

 

「今のを素早くやるだけで、チャンスは増えるじゃろうな」

「はい!」

「今のように創造と棍棒を組み合わせる戦い方を組み上げていくのがいいのである」

「なるほど」

「少しずつ動きを増やしていくのだよ。今は創造速度を速めることに集中すべきと愚考するのだよ」

「はい!」

 

 百はしっかりと頷く。

 その後は『個性』伸ばしに集中し、創造速度を速めることに力を入れる。

 刃羅は再び緑谷のところに戻り、蹴りの指導に戻る。

 

 そうして時間が過ぎ、初日の訓練は終了となった。

 

 寮に戻って、のんびりしようと思った刃羅。

 

「悪い。少しいいか?」

「あん?」

 

 そこに轟が声を掛けてきた。

 

「なんじゃ?」

「今の俺とならお前はどう戦う?」

「……」

「体育祭では炎を使わなかった。くだらねぇことに拘って。それ以降、お前とは戦ってねぇ。だから、聞きてぇ」

 

 轟は真剣な目で刃羅を見つめる。

 その目を見て、刃羅は相澤に声を掛ける。

 

「轟君と試合したい!」

「……やりすぎんなよ」

「センキュー!」

「……乱刀」

「かかってくるがいい。轟」

「……分かった」

 

 セメントスに地面を戻してもらって、向き合う刃羅と轟。

 その試合を見ようと全員が残っていた。

 

「体育祭ではお互い不完全燃焼だったもんな」

「少なくとも轟君の氷は攻略されてる……!」

「ケロ。あの炎を刃羅ちゃんがどうやって攻略するかね」

 

 見ている緑谷達の方が緊張で息を飲む。

 

 ミッドナイトが体育祭と同様、審判役を担う。

 

「いい?派手にやり過ぎないこと」

「分かってんよ」

「ああ」

「じゃあ……始め!」

 

 ミッドナイトの合図と共に刃羅が轟に向かって走り出す。

 轟はさっそくとばかりに炎を放つ。

 

「いきなりかよ!?」

「どうする……!」

「刃羅ちゃん……!」

 

 刃羅に炎が当たる直前、

 

「テンペスタ・ラーマ」

 

 ギュン!と両腕を広げながら高速回転する刃羅。

 炎に飲み込まれたと思った直後、炎を巻き上げながら轟に迫る独楽の姿があった。

 

「!!」

 

 轟や緑谷達は目を見開く。

 

「なにあれ!?」

「炎が効いてねぇのか!?」

「……高速回転で風を生み出して炎を振り払ってる?」

「確かにあれだけの回転です!簡単に燃え上がることはありませんわ!」

「炎も攻略かよ!?」

「ナンテ力技ヲ……!」

 

 緑谷と百の推測に慄く一同。

 

「どうされるのです?妾はこの程度では止まりませぬよ」

「くっ!」

 

 炎を止めて、氷結を放つ轟。

 その瞬間、回転を止めて飛び上がる刃羅。その体は刃の鱗で覆われていた。

 

「荒刃刃鬼!余の進軍を止めるには貧弱な氷であるぞ!!下民!!」

 

 氷を殴り砕き、斬り砕きながら迫る刃羅に、轟は焦りの表情を浮かべる。

 左腕をロングソード、両前腕から鎌を生やして両腕を振るい、両脚も刃鱗で覆われているため氷を踏み、蹴り砕いて歩みを進めてくる。

 

「くっそ……!」

「どうした!?この程度かぁ!」

 

 轟は下がりながら氷結を放つが、全く脚を止められなかった。

 

「あの轟くんの攻撃が……!」

「まさしく鬼神の如し……!」

「……っ!」

 

 飯田、常闇が刃羅の猛攻に慄き、爆豪は歯軋りをして刃羅を睨む。

 

 そして、荒刃刃鬼を解除した刃羅は飛び上がり、氷の柱に脚を掛けて上半身を捻る。直後、両手を合わせて突き出し、回転しながら飛び出す。合わせた両手をクレイモアに変え、両脚にスパイラルカッターを生やす。

 

「【螺旋の投槍(エリセ・ランサ)】」

「!!」

 

 回転しながら、氷を砕き貫いて飛んできた刃羅を、轟はしゃがんで躱す。

 躱された刃羅は両手足を戻して、体を開きながら回転を止めて着地する。

 

「まだやるかえ?」

「……いや。ここまででいい」

「ふぅ……疲れたのぅ」

 

 互いに構えを解いた2人を見て、はぁ~と息を吐き出して緊張を解く緑谷達。

 

「……完敗だな」

「まだステインに言われた部分が直ってないからだ」

「……大雑把…か」

「それに範囲は変わっても温度と堅さは変わらねぇ。だから怖くねぇんだ」

「温度と堅さ……」

「もっと圧縮出来へんの?氷の密度や炎の温度も上がるんちゃうか?」

「……そうだな。すまねぇ。参考になった」

「構わないわよぉん」

 

 轟と刃羅はクラスメイトの元に戻る。

 

「凄かったわ。刃羅ちゃん」

「熱かった~」

「まさか、あんな突破をするなんて……」

「だから必殺技って言えるのだよ」

「なるほどな!」

 

 刃羅の言葉に飯田達は改めて必殺技の重要性を理解する。

 飯田達は改めて必殺技の構想に力を入れようと考える。

 

「じゃ、今日はここまでだ。開発工房に用がない奴はさっさと帰れ」

『はい!ありがとうございました!』

 

 こうして、新たな目標に向けてA組は走り始めたのであった。

 

_________________________

新・刃格!

 

荒刃刃鬼(あらはばき)】:全身に刃の鱗を展開し、両前腕から鎌、両腕または両手をロングソードやナイフに変える同時展開型。一人称は「余」。現在は2種展開が限界で、両腕での変化しか出来ない。

 

嵐の刃(テンペスタ・ラーマ)】:両脚にスパイラルカッターを展開して独楽のように高速回転し、両腕をロングソードなどに変えて斬りかかる。一人称は「妾」。回転中の移動に集中するため、全身に刃の鱗の展開まで出来ない。ちなみに逆立ちしても可能。これの応用が【螺旋の投槍(エリセ・ランサ)】である。パイルバンカーをイメージして頂ければ。

 

 


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