ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#38 ごめんなさい!

 訓練を終えた刃羅は、ふと武器が欲しかったことを思い出す。

 

「あ。忘れとった」

「刃羅ちゃん?」

「開発工房行くのです。武器を依頼するのです」

「そういえば言ってましたわね」

「私達も一緒に行くわ。聞きたいこと出来るかもしれないし」

「イエア!」

 

 百と梅雨の3人で工房に向かう刃羅。

 すると、飯田と麗日が歩いているのが見えた。

 

「飯田さん!麗日さん!」

「あ!百ちゃん!2人も!」

「飯田ちゃん達も工房かしら?」

「うむ!コスチューム改良を依頼したいのでな!」

 

 右腕でヘルメットを持っているので、カクカク!と左腕を振りながら頷く飯田。

 飯田は『個性』のデメリットを軽減したいとのことでラジエーターの改良を、麗日は酔いの軽減を目的とのことだ。

 蹴りについて飯田が刃羅に相談し、それにめんどくさげに答える刃羅。

 その横で麗日達が談笑する。

 

 校舎1階の開発工房に近づくと、扉の前に緑谷がいた。

 

「あれ!?デク君だ!」

「廊下を走るな!」

 

 緑谷に気づいた麗日がツッテケテーと走り出す。それに飯田が注意を上げるが、無視される。

 緑谷麗日達に気づく。

 

「デク君もコス改良!?」

「あ、麗日さ……!?」

 

 緑谷が少し扉を開けた瞬間、

 

ドッガアアアァァン!!

 

 扉が吹っ飛び、緑谷は笑顔で爆発に飲み込まれていった。

 それを刃羅達は唖然と見つめるしか出来なかった。

 

「クレイジーなファクトリーなのデースか?」

「そうみたいね」

「み、緑谷さん!?」

「デク君!?」

 

 百、麗日が駆け寄り、飯田が早歩きで進む。

 刃羅と梅雨はその後ろを歩いてついて行く。

 

「フフフ。いてて……」

「ゲホッゲホッ!お前なァア……思いついたもの何でもかんでも組むんじゃないよ……!」

 

 煙の中で声が聞こえ、工房の中から咳込みながらパワーローダーが出てくる。

 パワーローダーは煙に向けて話しかける。

 

「フフフフ。失敗は発明の母ですよ。パワーローダー先生。かのトーマス・エジソンがおっしゃってます。作ったものが計画通りに機能しないからと言って、それが無駄とは限らな……」

「今、そういう話じゃないんだよオォ!一度でいいから話を聞きなさい……!」

 

 煙の中で動く影。

 近くにいた麗日、百は目を見開いて慄く。

 

 倒れている緑谷の上に、押し倒すように1人の女子が圧し掛かっていた。

 

「発目!!」

「あれ!?あなたはいつぞやの!」

 

 発目と呼ばれた女性は緑谷を見ながら、胸を緑谷に押し付けている。

 それに気づいた緑谷は顔を真っ赤にして震えている。

 麗日も何故か目を見開いて衝撃を受けていた。

 

「とりあえず、緑谷さんの上から退いてください!」

「はい!ごめんなさい!」

 

 百の言葉にサッ!と離れて立ち上がる発目。

 緑谷は顔を真っ赤にしたまま、胸を押さえて動悸に耐えながら起き上がる。

 どうやら怪我などはないようだ。

 

「突然の爆発、失礼しました!!お久しぶりですね!ヒーロー科の……えーっと……全員お名前忘れました!!」

「全く反省しとらんのぅ」

「不思議な子みたいね」

「まぁ、体育祭でも自分本位のようでしたが……」

 

 発目の言葉に呆れた目を向ける刃羅、梅雨、百。

 緑谷は顔を真っ赤にしたまま発目から目を背け、どもりながら名乗ろうとしていた。そんな緑谷を麗日は絶望の表情で見つめ、飯田が手をブンブンと手を振りながら鼻息荒く発目に詰め寄る。

 

「飯田天哉だ!体育祭トーナメントにて、君が広告塔に利用した男だ!!」

「そやったっけ?」

「私も覚えてないわ」

「飯田さんと発目さんの試合の時、お2人は上鳴さんとの試合の事で話してましたから……」

「あの時か」

「ケロ」

 

 飯田の言葉に全く心当たりがない刃羅と梅雨。

 首を傾げている2人に百が苦笑しながら説明する。その内容に納得した刃羅達は、改めて発目を見る。

 

「なるほど!!では私はベイビーの開発で忙しいので!」

 

 発目はギュルン!と反転して、工房に戻っていく。

 緑谷は慌てて発目に声を掛ける。

 

「あ、あの!コスチューム改良の件でパワーローダー先生に相談があるんだけど……!」

「コスチューム改良!?興味あります!!」

 

 緑谷の言葉に再びギュルン!と反転し、シュン!と緑谷に詰め寄る発目。

 詰め寄ってきた発目に、緑谷は無理矢理目を逸らす。

 刃羅は「なんで、そこで声を掛けたんや?」とジト目で緑谷を見つめる。

 

 そこにパワ-ローダーが顔を出して、緑谷達を中に入れる。

 中は様々な器具やコンピューターが設置されている。

 

「わぁ……!秘密基地みたいだ!」

 

 緑谷、麗日、飯田、百は工房を見渡す。

 刃羅と梅雨は一度訪れているので、特に感動はない。

 

「じゃあ、コスチュームの説明書見せて。ケースに同封されてたものがあるでしょ。俺、ライセンス持ってるから、それを見ていじれるとこはいじるよ」

 

 小さい改良ならば、改良の後にデザイン事務所に変更点を報告すれば手続きをしてくれる。

 大きい改良ならば、申請書を作成してデザイン事務所に依頼する形となると説明を受ける。改良したコスチュームは国に審査を受けて、許可を得る必要があり、雄英と提携している事務所だと約3日で戻ってくるとのこと。

 

「おいらはコスチュームでなくて、武器をお願いしたいべ」

「……乱刀さんは以前違法改造の前科があったよね?」

「だから鞭とか刃物じゃない武器を所望するのだよ」

「なるほどね」

 

 刃羅の言葉にパワーローダーが頷く。

 するとそこに発目が顔を寄せてきた。

 

「それならば、これはどうでしょう!?」

「ほえ?」

「暇つぶしのベイビー!『ウィップ・ワイヤー』!」

「暇つぶしかえ!?」

 

 発目が不穏な言葉と共に取り出したのは、赤い腕輪のような機械。

 発目は問答無用で刃羅の手首に装着する。

 

「手首の動きで太めのワイヤーを発射して、鞭のように振るうことが出来るハイテクっ子です!第41子です!」

「……うん」

「いい感じではないでしょうか?」

「ケロ」

 

 思ったより普通だったので、リアクションに困る刃羅。

 百と梅雨も問題なさそうに見えた。

 

 手首を動かすとバシュッ!と3mmほどの太さのワイヤーが飛び出す。途中で止まり、ワイヤーを掴むことで鞭のように振るうことができる。

 

「マガクモみてぇだな」

「マガクモって……」

「あの糸出してた奴じゃの」

「ああ……」

「フフフフ!それだけではないのですよ!!ここのスイッチを押すとですねぇ!」

 

 発目が笑顔で腕輪の横についているボタンを示し、それを刃羅が押すと、

 

「ビババババババババ!?」

「ケロ!?」

「きゃあ!?」

 

 突如電流が全身に走り、刃羅が悲鳴を上げながら痺れる。

 真横にいた梅雨と百は慌てて離れて、驚きに声を上げる。

 刃羅は10秒ほど痺れて、電流が止まって、バタン!と前に倒れる。慌てて梅雨と百が近寄り、腕輪を外す。

 

「大丈夫ですか!?」

「……な、なんでぇ?」

「どうやら電導域のセッティングにミスがあったようです!ごめんなさい!」

「今のって上鳴君なら使いこなせそうだな」

「充電も出来るし、相手も痺れさせるしね」

 

 発目は腕輪を回収しながら、笑顔で謝る。

 緑谷は顎に手を当てて考察しており、それに麗日も頷いている。

 続いて発目が刃羅に手渡したのは、警棒のようなもの。

 

「……これは?」

「第28子!!『ウィップ・スティック』です!振ったときにボタンを押すと、鞭のように伸びるのです!」

 

 言われたとおりに振りながらボタンを押す刃羅。

 

ボオォン!!

 

「「うわああああ!?」」

「ぴぎゃああああ!?」

「刃羅ちゃん!?」

 

 突然の爆発に緑谷と麗日が驚き、手元で爆発したことで痛みに叫ぶ刃羅。

 梅雨が慌てて刃羅の手を確認すると、出血まではしていなかった。

 

「もうこの人やだー!!びぇ~ん!!」

「でしょうね」

「いい加減にしなよ!発目!」

「ごめんなさい!」

 

 パワーローダーの鶴の一声で、刃羅の武器はデザイン会社へ申請することで片が付いた。

 続いて緑谷が腕のサポーターと足の装備を依頼する。

 

「腕の靭帯への軽減だね。つまり腕もある程度使うことは考えてるんだね?」

「はい。でも、不安が大きいので脚を主体に切り替えていこうと思って…って……」

 

 緑谷が説明していると、突如発目が緑谷の体をヒタヒタと触り始める。

 それに緑谷は顔を真っ赤にして体を硬直させる。

 

「はいはい。なるほど」

「は……発目さん?何を?」

「フフフ。体に触れてるんですよ」

 

 麗日が何やら顔を青くしながら発目に尋ねる。

 発目は意に介さずに体に障り続ける。

 刃羅、梅雨、百は壁際に下がって黙って見守っている。不用意に危険には近づかない。これ大事。

 

「はいはい、見た目よりがっしりしてますねぇ。フフフ、いいでしょう。そんなあなたには……」

 

 シュバ!っと緑谷の体に何かを装着させる発目。

 それは全身を覆う機械のスーツだった。

 

「とっておきのベイビー!!『パワード・スーツ』!」

「あの……」

「筋肉の収縮を感知して動きを補助するハイテクっ子です!!第49子です!!フフフフフ!!」

「爆発かな!?電流かな!?」

「どっちもありそうですわね」

「あの規模での爆発は怖いわ」

 

 刃羅達が後ろで物騒な予想をしている。

 そしてスイッチが入れられる。

 

「あ、凄い……勝手に動く……!」

 

 緑谷が発目に顔を向ける動作に反応して、腰が回り始める。

 

「あれ……待って……止まんない……まっ…いだ!」

 

 しかしドンドンと腰が回り続けて行くスーツ。緑谷が止めようとするが、全く止まらない。

 

「いだだだだ腰がいだだだだ!!!」

「デクくーん!?」

「緑谷さーん!?」

「まさかのねじりじゃと!?」

「STOP!どうやら可動域のプログラミングをミスったようです!ごめんなさい!」

 

 全く反省していない笑顔で謝る発目。

 スーツを脱いで崩れ去る緑谷。

 

「まさか手足のサポート頼んだのに、まさか胴をねじ切られそうになるとは……」

「これはこれで捕獲アイテムとして使えそうですね!」

「前向きでござるな」

 

 相手の心配よりも、使い道を考える発目に呆れる刃羅。

 その隙に飯田がパワーローダーにコソッと声を掛ける。

 

「その……脚部の冷却機を強化してほしいのですが……」

「フム……」

「そういうことなら!」

 

 ヌゥっと飯田の背中に這い寄る発目。

 そして飯田が逃げる隙も与えずに、腕にアイテムを装着させる。

 

「このベイビー!!発熱を極限にまで抑えたスーパークーラー電動ブースターです!第36子です!どっ可愛いでしょう!?」

「いや、ブースターはいらないんだ!発目くん!しかも何故腕に……!」

「ブースターオン」

「オイ!?」

 

 飯田の抗議をやはり無視してアイテムを起動する発目。

 それを「外部がスイッチ入れるのであるか!?」と内心ツッコむ刃羅。

 直後、ブースターを下に向けていた飯田は真上に飛び上がり、天井に激突する。声も上げずにただ真顔で耐える飯田を、刃羅達は憐れみの目で見上げる。

 

「まぁ……凄くはあるのだが……」

「勧めるものが悉くズレてるわね」

「そして悉く被害を出してますね」

 

 ブースターが止められて床に降り立つ飯田は、ブースターを脱ぎ捨てて崩れ去る。

 緑谷と麗日が駆け寄り、声を掛ける。

 

「俺の『個性』は脚なのだが!!」

「フフフ。知ってます。でもですねぇ。私、思うんですよ。脚を冷やしたいなら、腕で走ればいいじゃないですか!」

「何を言っとるんだ!君はもう!」

「何でだろうねぇ?あそこまでぇ堂々とぉ言われるとぉ間違ってない気がするぅ」

「本当ね」

 

 もはや壁にもたれて座っている刃羅と梅雨。

 百はハラハラして飯田に駆け寄って行っていた。

 

 パワーローダーが発目をようやく注意して、自分の作業に戻る発目。

 その後ろ姿を見て、刃羅は「ああいう奴が将来さり気なく何かしら名前を残すんだろうなぁ」と思っていた。

 しかし、まずは……

 

「下民共。貴様らの目的は何一つ果たせておらんぞ?」

「あ!?」

「その通りだ!」

「麗日さんはどこを改良したいのですか?」

「私は酔いを抑えたくて……」

「それならこれなどどうでしょう!?」

「「「ええ!?」」」

 

 麗日の言葉に発目がタンクのようなものを抱えて、近寄ってくる。

 それに麗日達は嫌な予感しかなく、慌てて距離を取る。

 4人が逃げた先には刃羅と梅雨がいた。

 

「ケロ!?」

「ちょ、ちょっと!?こっち来ないでよ!?」

「そんなこと言われたって!?」

「は、発目さん!何なん、それ!?」

「フフフ。これはですねぇ。こうすると……」

「煙が出てますわ!?」

「発目さん!?」

「ま、待ちたまえ!?」

 

 タンクのようなもののスイッチを入れた途端、黒い煙が噴き出す。

 それに慌てる刃羅達だが、発目はにじり寄ってくる。

 そして案の定爆発する。

 

ボオォン!!

 

『ぴぎゃああああ!?』

 

 再び爆発に巻き込まれる刃羅達。

 学内なので『個性』を使ってもいいのだが、頭から抜け落ちている刃羅と百は防御もせずに爆発を浴びる。

 

「ごめんなさい!」

「……君の謝罪は信じられないのだよ」

「ごめんなさい!」

「こういう子なのね」

 

 ボロボロになった刃羅、梅雨、百は緑谷達を生贄に捧げて、そそくさと工房から逃げ出す。

 その後、シャワーを浴びて煤を落とし、寮に戻る。

 

「酷い目にあったであります」

「悪い子じゃないのでしょうけど」

「失敗を前向けに受け入れ過ぎですわね」

 

 寮に入ると、芦戸達がソファでダラけていた。

 

「あ。おかえり~」

「コスチューム?」

「武器を頼んでたのです」

「私達は付き添いよ」

「随分長かったね?」

「緑谷さん達もいましたので。それにサポート科の発目さんの騒動にも巻き込まれまして」

「発目?」

 

 百と梅雨は起こったことを説明する。

 話を聞いた芦戸達は、顔を引きつかせる。

 

「そんな子いるんだ……」

「うちもコスチューム改良したかったんだけどなぁ……」

「才能はあると思うわよ」

「ただ失敗したときが悲惨というだけじゃ」

「パワーローダー先生を通せば、大丈夫だと思いますわ」

 

 全く安心は出来そうにない言葉に苦笑するしかない芦戸達。

 刃羅達は私服に着替えて、1階に降りる。

 百が紅茶を用意して、全員に配る。

 

「おいしいわ。百ちゃん」

「良かったですわ!」

「砂藤のお菓子ないの?」

「砂藤君は部屋だよ」

 

 訓練の話や他愛無い話で盛り上がっていると、緑谷達が疲れた顔で戻ってきた。

 

「おかえり~」

「ただいま……」

「無事に終わったの?」

「あはは……なんとか……」

「お紅茶をご用意しますわ。テーブルにどうぞ」

「ありがとう!八百万くん!それにしても乱刀くん!やはり君の服装は刺激的すぎるぞ!」

 

 刃羅はショート丈のタンクトップにホットパンツ姿だった。へそ出しで、もはや下着姿と言っても過言ではない。

 刃羅は顔を顰めて、飯田を見る。

 

「裸じゃねぇんだ。文句言うなよ」

「しかしだな!」

「まぁまぁ、飯田。女子ってこういうもんだよ。紅茶を飲んで、落ち着きなよ」

 

 芦戸が飯田を宥めて、紅茶を勧める。

 それに飯田は顔を顰めながらも、言われた通り紅茶を飲んで一息つく。

 その後、夕食を食べて、風呂に入る一同。

 

 刃羅は梅雨と百と風呂に入り、また2人にトリートメントをされる。

 妙に嬉しそうな梅雨と百に、刃羅は顔を顰めながらも大人しくしていた。

 そんなことをしながら風呂を出て、また共有スペースでのんびりする。

 刃羅は部屋から持ってきたカップ麺を開けて、お湯を注ぐ。

 

「さっそくね。刃羅ちゃん」

「まぁ、らしいと言えばらしいですが」

 

 梅雨と百はニコニコと刃羅の様子を見守る。

 そしてソファに戻ってきて、出来上がりを待つ。

 そこに同じく風呂上がりの障子、轟、砂藤、緑谷、飯田が顔を出す。

 

「ズズズ~……ンマンマ……んふ~♪」

「……乱刀ってそんな顔するんだな」

「あら。知らなかったの?砂藤ちゃん。刃羅ちゃんは麵類食べると、こういう顔をよくしてるわよ」

 

 幸せそうに目を細めて味わっている刃羅の表情に、砂藤、障子は僅かに目を見開く。

 それに梅雨が答え、緑谷達は昼食で一緒だったので、意外性はなかった。

 

「しかし乱刀くん!!夜食は生活の乱れに繋がるぞ!」

「ズズズ~……ンマンマ……何言っとんねん。ヒーローになったら規則正しい生活の方が珍しなんで?」

「……確かにな」

「むぅ……!しかしだな……!」

 

 飯田の注意に刃羅はジト目で返し、それに轟が頷く。

 飯田は腕を組んで唸るが、さらに刃羅は続ける。

 

「ズズズ~……ンマンマ……儂にとってカップ麺を食べるのは、心を落ち着かせるルーティンみたいなものじゃ。そういうものは大事じゃぞ?」

「……確かにな」

「むぅ……!確かに平常心を保つことは重要なことか……!」

「……間違ってはいませんが……」

「カップ麺が食べられないときはどうするのかしら?」

「ズズズ~……ンマンマ……座禅だな」

 

 再び轟が頷き、飯田が言い包められる。

 百と梅雨が理論の穴を突くが、刃羅は何ともないように正攻法を言う。

 それに砂藤と障子も頷き、自分達は何がいいのかと考える。

 

「そう言われると俺は何がいいんだ?」

「確かに戦闘中や日常生活の中で落ち着ける手段を考えるのも、必殺技と同じくらい重要だな」

「そうだね……」

「ケロ……私は何かしら?」

「そうですねぇ……」

 

 緑谷達はそれぞれ考える。

 その間にカップ麺を食べ終える刃羅。食堂に行き、空容器をゴミ箱に捨ててソファに戻ると、轟が顔を向けてくる。

 

「座禅ってどういう気持ちでやるんだ?」

「……おめぇは常にやってる気がするべ」

「そうか?」

 

 普段から刃羅以上に何を考えているのか分からない轟。

 刃羅の言葉に障子達も内心で同意していた。最近では実は天然だということが分かってきたが。

 

「まぁ、ええか。別に単純やで。要は五感で感じたことを思えばええだけや。他はなぁんにも考えへん」

「……ムズィなぁ」

「そうね」

「あまり考えないということが稀ですものね」

「僕も考えちゃうしなぁ……」

「そうだな……」

 

 砂藤が腕を組んで悩まし気に顔を顰め、梅雨や百も考え込み、緑谷と飯田も顔を顰めて、それに轟、障子も頷く。

 ソファに座って刃羅は手本とばかりに、脚を組む。

 

「ここなら中庭がベストなんだろうがな。最初は慣れた空間でやればいい。五感が大事だから、目は半目で最初に深呼吸。後は自然に任せる」

 

 スゥー、フゥーと2,3回深呼吸して、そこからは静かに呼吸する。

 背筋が伸び、ピタリと動きが止まった刃羅。突如、刃羅の気配が本当に空気のように希薄になり、緑谷達は目を見開く。

 すぐ刃羅はフゥーと深く息を吐いて、目を開く。

 

「まぁ、これくらいになれば最適であるな」

「無理だろ」

「そこはぁ練習あるのみかなぁ。でもぉ上手くなればぁ戦闘中でもぉ出来るよぉ」

「結局そこも練習なのね」

「山とかだったら、すぐに出来るのです。でも、ここだと中庭くらいなのです」

「なるほどな」

 

 刃羅の言葉に頷く障子。

 今度は立ち上がって、深呼吸する刃羅。再び気配が希薄になった刃羅を「まるで菩薩」と思った一同。

 すぐさまいつも通りに戻り、伸びをする刃羅。

 

「て~感じかな~。一番大事なのは~呼吸かな~」

「呼吸……」

「そやねぇ。人間追い込まれてまうと呼吸が速ぉなってまう。そこで一呼吸置けるかどうかゆぅんは、戦況左右しはることもありますよって」

 

 刃羅の説明に納得する緑谷達。

 その後、緑谷に復習とばかりに蹴りをさせて、飯田と共に指導する刃羅。

 それに百や砂藤も真似をするように体を動かし、百の動きを刃羅が修正する。

 しかし、

 

「痛い!?ら、乱刀さん!?痛い!イタタタタですわ!?」

「てめぇ、体ちょっと硬ぇんだよ。ほれ!もっと脚開けやゴラァ!」

「痛い~!!」

 

 脚を無理矢理開脚して前屈させられる百。座ってる百の後ろに刃羅が座って背中を押し、両脚で百の両脚を無理矢理広げさせる。

 そこに他の女子や男子達も風呂から出てきて、共有スペースに現れる。

 そして百と刃羅の姿を見て、首を傾げる。

 

「なにしてんの?」

「蹴りの指導をしてもらってたのだけど、百ちゃんの体が硬いって刃羅ちゃんが言い出したの」

「すっげぇエロイんだけど。見た目が」

「峰田が風呂で良かったな」

 

 芦戸の疑問に梅雨が答え、上鳴と瀬呂が2人の様子に鼻の下を伸ばす。

 脚を開放して立ち上がる刃羅に、百は息を荒げて座り込む。

 

「お主はもう少し柔軟性を上げねばいかんでござる」

「わ、分かりました」

「貴官もであります!緑谷!靭帯や関節の負担は柔軟性も大事であります!」

「は、はい!」

「スパルタだよね~」

「仮免までに仕上げたいみたいだしな」

 

 そして芦戸、麗日にも軽く指導する刃羅。

 葉隠も指導しようとしたが、ホットパンツだったため脚が透明で動きが見えなかったので無理と判断された。

 芦戸はダンスをやっていたこともあり、体も柔らかく身体能力も高いので、すぐに様になっていく。麗日も職場体験での経験で、そこそこ様になっている。

 

「麗日君は自分を浮かせることに集中するのだったかね?」

「うん」

「では、浮いた状態で見た方がいいじゃろ。無重力だと振り回されてしまうからの」

「そうだよね」

「じゃ、ここまで!寝よ!」

「そうだな!皆!明日も訓練だぞ!」

『う~い』

 

 飯田の号令で就寝の準備を始める一同。

 歯磨きをして、部屋に戻る刃羅達。

 

「……今日はぁん各々の部屋でぇん寝るのよぉん」

「……分かったわ」

「……そうですね」

 

 悲しそうな顔をする梅雨と百だが、昨晩はそれで刃羅に負担を掛けたので大人しく引き下がる。

 しかし、梅雨と百は訓練で疲れているはずなのに、刃羅が気になってしまい、全く寝付けなかった。

 

 翌朝には眠たそうに大欠伸をする梅雨と百、そんな2人に呆れている刃羅が目撃されたのであった。

 

 


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