訓練開始から3日。
それぞれ方向性が定まり始めて、訓練が活気付いてきている。
刃羅は自分の訓練をしながら、人にアドバイスをするということを繰り返していた。
「今日は午後からB組がここを使う。集中しろ」
相澤の言葉に頷いて、各訓練に集中する一同。
今は刃羅も自身の訓練を行っていた。
切島同様に【荒刃刃鬼】状態で、壁を攻撃し続けることで刃鱗の硬度を高めていく。
緑谷はエクトプラズムから蹴りを教わっていた。
そして、終了時間がもうすぐというところで、刃羅に近づく影があった。
「おい……!」
「ほえ?爆豪君?」
声を掛けてきたのは爆豪だった。
それに刃羅は訝しみ、相澤や他のクラスメイト達も注目する。
今までこの2人はいがみ合っているようで、直接ぶつかり合ったことはない。
体育祭や戦闘訓練でも一度も戦ってはいない。
「俺と戦え!」
「……」
爆豪の宣戦布告に、刃羅が顔を鋭くする。
周囲は突然の宣戦布告に目を見開く。
爆豪は不敵に笑いながら、両手を広げて小さな爆発を起こす。
「半分野郎と戦って、俺とは戦わねぇなんて言わねぇよなぁ……!」
「……理由を聞かせい」
刃羅はまっすぐ爆豪を見つめて、理由を尋ねる。
爆豪もまっすぐ刃羅を睨み返す。
「決まってんだろ。どっちが強えぇか決めてぇからだよ!」
「……」
「半分野郎とも決着は付ける!けど、まずは半分野郎に勝ったテメェに勝ちゃあ俺がNo.1ってことだぁ!」
「……相変わらずというか……」
「俺がぁ!!オールマイトの次に上に立つんだよぉ!!」
一瞬呆れた刃羅だが、その後の爆豪の言葉に出かけていた言葉を飲み込んで目を細める。
そして、こっちを伺っていた相澤に目を向ける。
相澤は刃羅の視線に気づいて、顔を顰める。
「セメントス講師。地面を戻してくださいますかしら?」
「……相澤先生?」
刃羅の言葉にセメントスは相澤を見る。
相澤は顔を顰めたままだが、セメントスの視線に頷く。
セメントスは地面をに手を置き、地面の盛り上がりを戻す。
轟の時同様、クラスメイト達は脇に下がって観戦する。
「しっかし、いきなりどうしたんだ?爆豪の奴」
「さぁ?やっぱこの前の轟との試合なんじゃね?」
「けど、確かにある意味これがA組最強決定戦だぜ!」
「どっちもセンスの塊だもんなぁ」
上鳴、瀬呂、切島、砂藤が座って前のめり気味に爆豪達を見る。
その横で轟、飯田、障子、常闇達も腕を組んで、どっちが勝つかを考えている。
「轟の炎と氷を破ったあの技を、爆豪がどう破るか……?」
「爆豪の戦い方はヒット&アウェイ。どっちにしろ接近戦は必須だからな。あの回転技とかは、あいつにも厳しいはずだ」
「あの籠手の爆破なら可能性はあるだろうが……」
「それは乱刀くんも分かっているだろう。これは荒れそうだな……」
梅雨や百、麗日達女性陣は心配そうに刃羅を見ている。
刃羅と爆豪は向かい合って、不敵に笑い合う。
「手加減なんざすんじゃねぇぞ?」
「あぁん?それはあれか?爆発頭。俺っちより弱えぇから気を付けてくださいってぇことかぁ?」
「……ぶっ殺す!!」
「やってみろやぁ!斬り殺す!!」
「殺すなよ。やりすぎだと思ったら止めるぞ」
「「分かってんよぉ!!」」
「……本当に分かってんのか?」
今回は相澤が審判役をするようだ。
この2人の危険性を考えてのことだ。
「じゃあ……始め!」
開始の合図と同時に駆け出す爆豪と刃羅。
爆豪が両手を後ろに回して爆破で速度を上げる。刃羅は両腕を蛇腹剣に変えて、腕を振るう。
「なめんなぁ!」
爆豪が爆破で軌道を変えて、蛇腹剣を避ける。そして蛇腹剣を爆破しようと腕を向ける。
「てめぇの武器はやられたら、てめぇの腕も吹っ飛ぶんだよなぁ!?」
「そうねぇん。だからぁん……そう来ることなど予想していないとでも思うたか!?下民!!」
「!?」
爆豪の横から【荒刃刃鬼】を発動した刃羅が飛び掛かって来ていた。
蛇腹剣は避けるにしても、打ち払うにしても、一瞬刃羅から目を逸らす。その一瞬があれば刃羅には十分だ。
両腕を戻しながら蹴りを放つ刃羅。爆豪は蛇腹剣を狙っていた手で、そのまま爆破して回避する。
しかし、刃羅も右腕をコルセルカに変えて突きを放つ。
「ちぃ!」
「貴様のその爆破移動は見事だが、直線的な動きであることは変わらん!!手を差し出した方向で見極める些事、余には容易い!!」
爆豪がさらに爆破で移動しようとした先に、刃羅は左腕を薙刀に変えて進行方向を塞ぐ。
コルセルカと薙刀を振り回して、時には棒高跳びのように地面に突き刺して爆豪に飛び迫る。近づけば蹴りで、離れようとすれば武器で牽制する刃羅に、爆豪は行動を制限されて顔を顰める。
「くっそがぁ!」
そして爆豪が後ろに飛び下がった瞬間、
「ふぅ!!」
「!?」
刃羅は右腕も薙刀に変えて、刃鱗を解除ながら高速で回転し、独楽のように爆豪に迫る。
「それを待ってたぁ!!」
「!!」
爆豪は真下に向けて爆破し、上空に飛び上がる。
そして刃羅の真上に来た瞬間、右腕の籠手のピンに指を掛ける。
「死ねやぁ!!!」
ピンを引き抜き、籠手から巨大な爆発が発射される。その爆発は真下にいた刃羅に降り注ぐ。
「刃羅ちゃん!!」
「直撃だ!!」
「そうか!!上からなら
「爆破の衝撃をモロに受ける……!」
梅雨と飯田が叫び、緑谷と切島が爆豪の狙いに気づいて目を見開く。
相澤が動こうとしたが、
「この程度で妾の命は奪えませぬよ」
『!!』
「妾がいつ腕は広げていないといけないなどと言いましたか?」
刃羅は未だに回転を続けていた。ただし、先ほどまでとは違い、縦長で錐のようになっている。
刃羅は回転を止めて、地面に立ち、空中の爆豪を見上げる。両腕はロングソードになっている。
「両腕を広げていたのは、刃の傾きで移動を行うためだ。移動を捨てれば、これくらいは出来る。轟の戦いでも見せたはずだが、飛んでたから忘れてたか?」
「ちぃ!」
「まぁ、狙いは良かったぞ?しかし、どうした?随分と消極的ではないか。テンペスタ・ラーマを使うまで耐えるなど」
「あぁん!?」
刃羅の言葉に声を荒げる爆豪。
しかし、刃羅の言葉を相澤や緑谷、切島も内心同意していた。
「なぁ、緑谷。爆豪、なんか調子悪いよな?」
「うん……いつもの勢いがない……。正直、いつものかっちゃんの攻めなら、乱刀さんはもっと攻め辛いはずなのに」
「そうなのか?」
「乱刀さんは全身に刃を展開出来るけど、切島君みたいに硬化してるわけじゃない。刃の鎧を身に着けてるだけ。だから爆破は多少防げても完全じゃないし、爆破の衝撃は防げないはずなんだ」
緑谷の言葉に盲点だとばかりに目を見開く切島達。
「わざわざあの回転技を待つ必要はないはずなんだ。むしろ、あの技を使わせないように速攻で行くべきだった。それをなんで……」
緑谷は爆豪の意図が分からずに、心配そうに爆豪を見つめる。
しかし、その爆豪は不敵に笑みを浮かべていた。
それに刃羅は目を細めて、警戒心を高める。
だからこそ、攻勢に出る。
刃羅は爆豪に駆け出し、両腕のロングソードを振るう。爆豪が飛び下がった瞬間に【荒刃刃鬼】を発動し、さらに速度を上げる。
「っ!!まだっ上がんのか!」
「足の刃鱗はスパイク代わりにもなる!摩擦を極限まで減らしている!」
「くっそがぁ!」
爆豪も腕を振るって、爆破を起こしながら牽制する。刃羅はロングソードを戻して、両腕を狙った爆破を躱す。体にも爆破を浴びるが、刃羅は踏ん張って耐え、拳を振るって爆豪の左腕の籠手を後ろに弾く。
「あああ!!」
それでも爆豪は右腕を刃羅に伸ばす。刃羅は荒刃刃鬼を解除して、左膝を着いて左脚を後ろに下げる。
直後に爆破が放たれる。再び梅雨達が叫びそうになったが、刃羅が爆煙から片膝を着いた状態で、後ろに高速で下がる姿を見て、驚きの声を上げる。
それに相澤や爆豪も目を見開く。
「YEAHHHHHHHH!!」
「なんだありゃ!?」
「ケロ!?」
「どうやって……!?」
刃羅は滑りながら、立ち上がる。膝を着いていた左脚先だけがスパイラルカッターになっていた。
「まさか……!?スパイラルカッターをローラー代わりに!?」
「そんなことまで!?」
「裏技デース!!」
ちなみに右足は足裏に刃を生やしてスケートにしていた。
改めて向かい合う爆豪と刃羅。
「ちっ!とっとと死ねや!イカレ女!!」
「まだまだじゃよ。爆発坊主」
「けど、やっぱだぁ……!見切ったぜ!てめぇの弱点をなぁ!!」
『!!!』
爆豪の言葉に目を見開く一同。
刃羅は顔を顰めて、爆豪を見つめる。
「乱刀さんの弱点……!?」
「なんかあったかな?」
「ケロ?」
百と緑谷は顎に手を当てて、考え込む。それに梅雨も指を顎に当てて首を傾げる。
他の者達も考え込むように腕を組む。
「よぉ……イカレ女。てめぇ、今何でしゃがみながら腕で武器を作らなかった?」
「……」
「それだけじゃねぇ。あの鎧みてぇな姿の時も、なんで足で武器を作らねぇ?あのコマみてぇな技の時も、両腕で同じ武器しか作らねぇよなぁ」
「……」
「そして何より……てめぇ、『余』と『妾』って言い分けてんよなぁ?つまりぃ!てめぇはまだ自在に複数の武器を組み合わせることが出来ねぇってことだ!!」
爆豪の言葉に緑谷達は目を見開く。
それに刃羅は肩を竦める。
「見事だな。さっきまでの行動はそれを見極めるためか」
「『余』って奴が両腕だけで、『妾』はスパイラルカッターとの組み合わせだよな?」
「そこまで見抜かれたんかい」
刃羅は顔を顰める。
それに緑谷達も考え込んでいる。
「そうか……乱刀さんは武器で性格が変わるから……」
「2種類にしても性格を定めるために、一定の条件が必要となるのですね」
「それを必殺技という形にして目隠しにしたということね」
刃羅は手を腰に当てて、ため息を吐く。
「まぁ、そういうことであるな。2種類以上で作るときは、何かしらの特徴がいるのである」
「それで汎用性を考えたら、あの2つになったわけか」
相澤の言葉に頷く刃羅。
しかし、再び構える。
「まぁ、それが弱点かと言われれば、否と答えるがな」
「あぁ?」
「確かに自在に武器を出せるわけではないわよ?けど、それを見抜いた程度で勝った気になるのはねぇ」
「そうかよ。じゃあ、試してやるよぉ!!」
再び飛び出す爆豪。刃羅も合わせて走り出す。
爆豪が爆破でスピードを上げて、右腕を振るう。刃羅は新体操のように両脚を開いてしゃがみ、両腕をトゥ・ハンド・ソードに変えて、振り上げる。爆豪は爆破で軌道を変えて躱す。背後から攻めかかろうとした爆豪だが、刃羅は両腕を戻して体をねじりながら逆立ちする。
両脚を大鎌に変え、両腕をスパイラルカッターにして独楽のように回転する刃羅。
「逆立ちでもいいのかよ!」
爆破を放つが、普通の爆破ではやはり効果はなかった。その爆破を利用して、後ろに下がりながら左腕の籠手のピンを指で引っ掛ける。
「吹き飛べやぁ!!」
爆豪が叫びながらピンを抜いた瞬間、籠手そのものが爆発を起こし、逆に爆豪を吹き飛ばす。
「づああ!?なぁ!?」
左腕を押さえて下がる爆豪。その顔は何が起こったのか分からず、混乱している。
相澤達も何が起こったのか分からず、首を傾げる。
刃羅が回転を止めて立ち上がると、ニイィ!と笑って爆豪を見つめる。
「あかんでぇ?装備は常に確認せんとなぁ。いつ壊れるか分からんで?」
笑いながら右拳に鈎爪を一瞬だけ生み出す。
それに爆豪達は目を見開く。
先ほど籠手を殴られた時に鈎爪で穴を開けていたのだ。
「まぁ~汗が抜ければいいかな~って~くらいだったけど~」
「くそが……!」
爆豪が顔を顰めていると、突如刃羅が両脚をハルバードに変えて飛び出す。
すぐさま両脚を戻し、右腕を鎖鎌に変えて爆豪に向けて投げる。
「っ!」
爆豪は横に飛び避け、鎖鎌が地面に刺さる。
「なのです!」
その瞬間両足裏に刃を生やして、腕を戻すのを利用して一気に爆豪の近くまで滑る。
腕を戻すとブレイクダンスの動きで爆豪に飛び掛かって、右脚をパルチザンに変えながら蹴りを放つ。爆豪はパルチザンの横から右腕を叩きつけるように爆破を放つ。それに刃羅は右脚を戻しながら、爆破の勢いのまま回転して裏拳の要領で右腕を振りながら、右腕をマムベリに変える。
「グルァ!」
爆豪は右腕でガードしようとするが、湾刀の形に気づいて右腕を振るう。湾刀の切っ先を籠手に突き刺させて、顔への攻撃を防いだ。
刃羅はマムベリを解除する勢いで、爆豪の右腕を引っ張り、爆豪の右横に移動する。右腕を押さえられた爆豪は、顔を顰めながら痛む左腕を刃羅の腹に向ける。
「A・P・ショットォ!!」
「ぐおぇ!?」
圧縮された爆撃が刃羅の腹部に突き刺さる。
手の平の1点に集中して爆破を放つ爆豪の新技だ。
刃羅はくの字に後ろに吹き飛ばされる。
「づぅ……!?」
爆豪は左腕を右手で押さえて顔を顰める。流石に発射の衝撃で激痛が走り、動きが止まってしまった。
右腕の籠手も一部が割れている。
「いったぁい!!びゃ~ん!!」
刃羅は数回地面を転がり、すぐに泣きながら起き上がった。コスチュームの腹部に穴が開いていたが、そこから鉄の板のようなものが見えた。刃鱗だ。
泣きながらも爆豪に走り出す刃羅。爆豪も右腕を構えて、待ち構える。
その時、2人の間に壁が出現した。
「「!!」」
「そこまでだ。これ以上は大怪我を負う危険があると判断する」
相澤が髪を逆立てて、2人を睨む。
『個性』が発動しないことを確認して、顔を顰める2人。
「まだ決着がついてねぇ!!」
「気持ちは分かるが、これ以上は訓練に支障が出る。それは認められん」
「くっそがぁ!!!」
「乱刀もいいな?」
「まぁ、わっちは構いまへんえ」
相澤の言葉に壁を殴りつける爆豪。
それに対し、刃羅は肩を竦めて素直に頷く。元々爆豪に挑まれた側なので、文句はない。
刃羅は相澤の横を通る時に小声で声を掛ける。
「あ奴。何か迷っておるぞ?焦っている……という言葉もあるかもしれんがの」
「……みてぇだな」
「考えられるのは緑谷……もしくはオールマイトの引退。またはその両方」
「……」
「ああいう奴が悩み続けっと、俺っちみてぇになっぞ?しっかり見てやれや」
「……分かった」
刃羅は梅雨達に近づく。
「ケロ。怪我はない?」
「大丈夫!」
「よかったわ」
「けど~また色々考えないとな~。もうバレちゃった~」
「十分だろ」
切島が呆れたように刃羅を見る。
爆豪と轟相手にあれだけ戦えれば十分だと思う切島達だった。
「そうもいかん。実際、カンパネロやマガクモには破られたし、お師匠にも鼻で笑われて終わりだろう」
刃羅の言葉に顔を顰める梅雨達。
刃羅がボロボロになっていたのは記憶に鮮明に残っている。というか、あそこまで追い込まれたのは初めて見た。林間合宿での戦いでも、あそこまでは傷ついてはいなかった。
「体術ではお師匠には敵わぬ。『個性』ではカンパネロとマガクモ相手では相性が悪いしの。まぁ、あの2人だけではないが。遠距離型や切島のような『個性』相手にはごり押しか後手に回るしかないでの。それでは戦い抜くことは難しいのじゃ」
刃羅は腕を組んで、目を鋭くする。
近づけない、または近づけても攻撃が効かない相手には滅法弱くなる刃羅。それはもちろん刃羅だけではないが、前回のことを考えると一人でも戦い抜ける力が必要だと考える刃羅だった。
「そういう時はちゃんと私達に頼るのよ。刃羅ちゃん」
梅雨の言葉に百達も頷く。
それに刃羅は肩を竦める。
「やったら、もっと強くなってもらわんとなぁ。うちは弱い奴に頼る気はないでな」
「……そうね。私達ももっと強くなるわ」
「もちろんですわ!」
梅雨と百は力強く頷く。もちろん周りにいた緑谷や麗日達も頷く。
それに刃羅はまた肩を竦めるだけだった。
その様子を爆豪は顔を顰めながら見つめ、両手を握り締める。
相澤達も刃羅達や爆豪の様子を見て、まだまだ課題は山積みであると気合を入れる。
各々の目標のために、訓練に気合を入れ直すA組一同なのであった。